○ 第六十八章 「女たちよ、強くあれ」 ○ 

216年1月勢力分布図
216年勢力図

建安二十一年(西暦216年)。

1年近く続いた金旋と曹操の洛陽を巡る攻防も、
パワーバランスは金旋軍に大きく傾いてきていた。
すでに洛陽の命運は、金旋軍がいつ全軍を投入するかに
かかっていた。

  曹操曹操   諸葛亮諸葛亮

曹 操「各地からの兵は滞りなく来ているか?」
諸葛亮「は……。しかし閣下。
    洛陽ばかりに兵力を集中させますと、
    他の地域にしわ寄せが参ります」
曹 操「それは重々承知している。
    だが、洛陽を渡すわけにはいかんのだ……。
    周囲の都市の将たちに伝えよ。
    出来る限り徴兵し、こちらに回せとな」
諸葛亮「(これで良いのだろうか……。
    洛陽に固執し、あまりにも兵力を損耗しすぎている。
    もし、これこそが敵軍の策だとしたら……)」
曹 操「どうしたか、諸葛亮?」
諸葛亮「い、いえ……。
    (だが洛陽を手放すわけにもいかないのも事実。
    ならば、攻め手の兵を減らす策を使うべきか)
    閣下。ここはひとつ、金旋軍の後背を突く計を
    実行してみては如何でしょうか」
曹 操「後背を突く? しかし、洛陽守備以外で
    動かせるような大兵力はないぞ」
諸葛亮「我が軍が攻める必要はないのです。
    知恵を絞るだけで、数万の軍が動いてくれます」
曹 操「ほう、我が軍以外で……。
    ……なるほど、奴らを使うのか」
諸葛亮「はっ。敵の注意を散らし、
    我が軍も一息つくことができましょう」
曹 操「よかろう。その計、やってみせよ」
諸葛亮「ははっ」

中原の曹操軍。
金旋軍の有利が見えてはいたが、
曹操とてみすみす洛陽を手放す気はなかった。
各地で徴兵された兵を、次々に洛陽へと送りこんでいた。
また、諸葛亮が何やら計略を用いて
金旋軍の矛先を逸らそうとしていた……。

    ☆☆☆

  孫権孫権   庖統庖統

孫 権「……戦況は一進一退だな」
庖 統「汝南の兵はかなり減っておりますが、
    一気に落とし切るだけの勢いはありませんな。
    もう少し兵力を回したいところですな」
孫 権「しかし、そうは言うがな……。
    南の山越の兵力も増えてきておる。
    撃退できる程度の守備兵は残しておきたい」
庖 統「山越でござりますか。
    しかし、虎穴に入らずんば虎子を得ず。
    ギリギリまで投入しなければ……」
孫 権「わかっている。
    しかし、まずこの江南の地を守るのが、
    兄上に託された使命なのだ」
庖 統「左様でござるか……。
    ならば、金旋軍の侵攻と同調して攻めましょう。
    幸い、金旋軍の洛陽侵攻で曹操軍の兵力は
    あちらに回っておりまする」
孫 権「分かった。任せよう」
庖 統「はっ……しかし殿。
    金旋軍をいつまでもあてにしてはなりませんぞ」
孫 権「……それはどういうことだ?」
庖 統「金旋は洛陽を目指しております。
    その洛陽を取った後、手の平を返して
    曹操と和する可能性も有り得ますぞ」
孫 権「……そんなことはあるまい。
    曹操と金旋は相容れぬ仲だ」
庖 統「確かに手を結ぶ可能性は低いでしょう。
    しかし、我が軍と金旋軍との和平が、
    ずっと続いていくとも言い切れませんぞ」
孫 権「むむ……。
    利用はしても依存はするなということか」
庖 統「は、左様で……」

呉の孫権。
対曹操では汝南への侵攻を繰り返してはいたが、
あまり兵力は投入されず、現在の領土を守ることを
主体にしているようであった。
南に位置する山越の兵力が増えていることもあったが、
一度失敗した北伐に二の足を踏んでいるのであろうか。

    ☆☆☆

  馬騰馬騰   楊阜楊阜

馬 騰「楊阜よ……。
    漢中が落ちてしまったぞ……」
楊 阜「は……。
    劉璋軍の波状攻撃に耐えられなかったようです」
馬 騰「以前にも増して物資も兵力もジリ貧だ。
    これからどうすればよいのだ?」
楊 阜「そう落胆なさいますな。
    漢中の地は取られてしまいましたが、
    旧張魯軍の人材はほぼ難を逃れております。
    彼らがいてくれれば、内政にて
    国力を富ませていくこともできましょう」

西涼の馬騰は、漢中を失った。
劉璋軍の度重なる侵攻に耐えきれなかったのだ。
雍涼2州の国力も他と比べれば見劣りし、
しばらくは捲土重来を図るために
国力の充実に力を注がねばならない状態だった。

    ☆☆☆

  劉璋劉璋   法正法正

劉 璋「ほーっほっほ!
    漢中はいただいたでおじゃるよ!」
法 正「……あのー、殿」
劉 璋「漢中が落ちたと知った時の馬騰の顔、
    見てみたかったのう! いい気味じゃわい!」   
法 正「殿!」
劉 璋「な、何じゃ、でかい声だしおって」
法 正「……江州、成都を饗援に奪われたのですぞ。
    現実から目を逸らさないでくだされ」
劉 璋「そんなの知らん!」
法 正「知らんではありません……。
    これも兵力を北に回し過ぎたツケです」
劉 璋「ああ、うるさいのう!
    その北の兵力を南に回し、奪い返せば良かろう!
    饗援軍も人材は少ないんじゃ、すぐ取り返すのじゃ!」
法 正「漢中奪取のためにかなりの兵を失いました。
    取り返すのはかなり難しい状況です」
劉 璋「なんじゃと! ええい、この無能め!
    どうにかせい、どうにか!」
法 正「どうにかと言われても……」

益州の劉璋軍は、漢中を占領。
馬騰に対して一歩優位に立つ一方で、
饗援に江州・成都を立て続けに奪われた。
かなりの労力を注ぎ込み漢中を得た割には、
勢力はむしろ衰退する方向になっていたのである。
暗愚な主、劉璋はこの状況をどうすることもできず、
饗援の侵攻に震える日々を送らねばならなかった。

    ☆☆☆

各勢力比較表
勢力名官 職 軍 師 信望兵力領地武将
曹 操大司馬賈駆 60030万 15 95
金 旋大司馬 金玉昼 62050万 11 85
孫 権大将軍庖統 55030万  6 72
馬 騰中郎将 楊 阜 43015万  5 28
饗 援中郎将 櫂 貌 35015万  5 21
劉 璋州 牧 法 正 13010万  3 36
(※1 信望・兵力は概算です)
(※2 年初めに曹操が大司馬、孫権が大将軍、
  饗援が中郎将となっています)

  劉髭劉髭   杏

劉 髭「ここで登場! 劉髭と!」
 杏 「杏です。二人合わせて」

二 人幽霊解説コンビ〜

劉 髭「今回は各勢力について出張解説じゃ」
 杏 「各勢力の信望について、ご説明いたしますね」
劉 髭「その前に信望そのものについて解説じゃ。
    信望は、探索で民のためになる事をしたり、
    巡察を行うなどすると上がるのじゃがな。
    その他にも、都市を陥落させると上がるのじゃよ」
 杏 「勢力内の民の絶対数が増えますので、
    それにしたがって信望も増えるんですね」
劉 髭「そういうわけで、勢力が広がると信望は上がる。
    しかし、逆に都市を失うと信望は下がってしまう。
    そうなると、どうなるか……わかるかの?」
 杏 「強い君主が都市を増やし勢力を伸ばすと、
    信望も一人勝ち状態になりますね」
劉 髭「うむ、その通りなのじゃ。
    そして信望が上がれば官爵も上がり、
    ますます強者と弱者の差が広がっていくのじゃ」
 杏 「しかし、これはリプレイというものですので、
    ある程度相手も強くなくては盛り上がりませんね」
劉 髭「そう、そこが頭の痛いところじゃ。
    そこで、今回の措置なのじゃよ。
    金旋以外の勢力の信望じゃが、今回、
    少しばかり下駄をはかせて増やしておる」
 杏 「正確な数字は出しませんけれど、
    おおむね100程度の下駄は履いてます」
劉 髭「ドーピングするのはどうかとも思ったがの。
    この方が燃える展開になると考えた末の結論じゃ。
    なので、不自然な信望の上昇は見逃してくれい」
 杏 「お見逃し下さいませ〜」

 杏 「では、この後は番外編をお楽しみください」

    ☆☆☆

 ○益州攻防〜才媛と凡愚〜

蜀

215年、夏。
益州中部の都市である江州。
その城郭にて、でっぷりと太った男が、
惜し気もなくその醜い裸体を晒し、寝そべっていた。

  劉璋劉璋   孟達孟達

劉 璋「ふう、夏は日光浴に限るでおじゃるな」
孟 達「殿、何をのん気なことを……」
劉 璋「良いではないか、こうして平和なのじゃ。
    上の者が率先して平和を満喫する……。
    素晴らしいことでおじゃろう」
孟 達「平和なのはあくまでこの都市であって、
    成都は饗援軍に攻められ防戦しとるのですぞ!
    少しは緊張感を持ってくだされ!」
劉 璋「全くうるさいのう……。わしが緊張したとて、
    どうにかなるものでもないじゃろう」
孟 達「はあ……このような役目押しつけおって。
    恨むぞ、法正……」

孟達の友であり、劉璋軍の軍師でもある法正は、
漢中侵攻の支援をするために梓潼へと赴いていた。
孟達は法正に『江州で劉璋様のお側に仕え、
いろいろ助けてやってくれ!(キラリーン)』と
言われ、彼もその気でやってきたのだったが……。

孟 達「これでは、体の良いお守ではないか」
劉 璋「ん、何か言ったでおじゃるか?」
孟 達「いえ、何も……む?」

孟達は、遠方に見える不審な土煙を見つけた。
だんだん城へ近づいてくるその土煙の中に、
彼は黄色の旗を発見した。

孟 達「黄色の旗……饗援軍だと!?
    そんな、奴らは成都を攻めているはず!」

   饗援饗援

饗 援「馬鹿め、一都市しか攻められない
    我が軍だとでも思っていたか!
    饗嶺! 鴻冥! やれ!」

  饗嶺饗嶺   鴻冥鴻冥

饗 嶺「はいっ!」
鴻 冥「参ります」

雲南を本拠とする成都侵攻部隊とは別に、
建寧から出撃してきた饗援自ら指揮する部隊が、
劉璋のいる江州に襲い掛かった。

孟 達「こ、これは一大事!
    殿、ここは……おや、姿が見えない?
    むっ、書き置きが……」

『梓潼に行くので後は任せたでおじゃる』

孟 達「逃げ足早っ!」

劉璋は饗援軍が攻めてくるやいなや、
すぐに梓潼へと逃げていった。

残された孟達、他守備の将兵はよく戦ったが、
いかんせん兵を成都へ多数送っていたために
絶対的な兵力が足りず、江州は陥落。
こうして、江州の主は饗援に変わった。

蜀

  琥昆琥昆   琥胡尚琥胡尚

琥 昆「江州奪取、おめでとうございます」
琥胡尚「おめでとうございますです」

戦後の処理も終えて一息ついていた饗援を、
琥昆・琥胡尚の母娘が労った。

饗 援「江州を落とした程度では満足せぬ。
    成都、そして益州全土を奪い取らねばならん。
    それまで、まだまだ働いてもらうぞ」
琥 昆「はい、そうおっしゃると思いました。
    ますます頑張らないといけませんね。
    まだまだ人材も少ないことですし、ね」
饗 援「痛いところを……。
    だが、劉璋配下の将を取り込むことができれば、
    人材不足も解消できよう」
琥 昆「さて、それはいつになるのでしょうね」
饗 援「むむむ……」
琥胡尚「饗援様、心配はご無用でございますです!」
饗 援「ん? どうしてだ?」
琥胡尚「人材ならば、近くの沼にありましたです!」
饗 援「……は?」
琥 昆「沼に……?」
琥胡尚「今日の晩御飯のおかずにするですよ!
    人材不足も美味しく解消できますです!」
饗 援「美味しく解消……?」
琥 昆「ああ、なるほど。……胡尚。
    それは人材ではなく、じゅん菜です」
琥胡尚「あ、そうとも言うですね」
饗 援「……ぁぅ」
琥胡尚「あれ、饗援様はじゅん菜は嫌いなのですか?」
饗 援「い、いや、そんなことはない。
    そ、そうだな、今晩はじゅん菜を使った料理に
    してもらうとするか……」
琥胡尚「はい。じゃ、私が採って参るですよ。
    そうめんー♪ サラダー♪ お吸い物ー♪
    楽しみでありますですー」

琥胡尚が出ていったのを確認すると、
饗援は大きな溜息をついた。

饗 援「はあ……。琥昆。
    もう少し教育をしっかりしてくれ」
琥 昆「申し訳ありません。
    あの娘たち、勉学はさっぱりで……。
    でも、じゅん菜を知ってるだけでも、
    なかなかだと思いませんか?」
饗 援「……じゅん菜を知っていても、
    政治・軍事にはほとんど意味はない」
琥 昆「そう言われると、そうですけれど……」
饗 援「いずれは饗嶺らと共に人の上に立たねばならぬ。
    このままでは困るぞ」
琥 昆「そうですね……わかりました。
    では早速、正しい知識を教えておきましょう」
饗 援「うむ、しっかりな」
琥 昆「はい。お任せください。
    じゅん菜を美味しく食べるには三倍酢が一番。
    このことを、しっかりと教え込みますね」
饗 援じゅん菜から離れろ!

江州を落とした饗援軍はその後、
成都への攻勢を強め、何度も侵攻を繰り返した。
そして……。

    ☆☆☆

215年12月、成都近郊。
饗援軍の部隊が、城を包囲していた。

   櫂貌櫂貌

櫂 貌「いよいよだな。成都は、まもなく落ちる」

部隊の参謀役を務める櫂貌は、
度重なる攻撃でボロボロになった成都城を見た。
1年以上の時を掛け、ようやくここまで来たのだ。

櫂 貌「まだ落としたわけではないからな。
    気を引き締めていかねば……。
    ……ん、黄忠将軍?」

   黄忠黄忠

黄 忠「ふぉふぉふぉ、そろそろ日も暮れる。
    この時期は冷えるからのう、気をつけなされ」
櫂 貌「そうですね、気をつけます」

黄忠。元は韓玄軍であったが、
滅亡後に饗援軍へスカウトされ、今日に至る。
すでに齢は68を数えるが、将としての能力は近頃
ますます冴え渡ってきていた。

黄 忠「ところで周さんや、飯はまだかいのう」
櫂 貌「い、いや、私は周さんではないし、
    食事当番でもないのですが」
黄 忠「やっぱり冬は鍋がええのう。
    でもここらへんの鍋は辛くてダメじゃ。
    辛味のない、さっぱりしたのにしてくだされ」

……日常では、少しばかりボケてきていたが。

櫂 貌「……人の話聞いてねえなこのジジイ」 
黄 忠誰がジジイじゃコンチクショウ!
櫂 貌「わわっ、急に聞こえるようになるな!」

   琥胡選琥胡選

琥胡選「何を大声で叫んでるでござるか?」
櫂 貌「琥胡選か、丁度良かった。
    黄忠どのに食事を与えてくれぬか」
琥胡選「拙者もそのつもりで来たでござるよ。
    さ、おじいちゃん、ご飯でござるよー」
黄 忠「おやおや、いつもすまないねえ」
琥胡選「おじいちゃん、それは言わない約束でござるよ」

櫂 貌「……あんな老体に頼らねばならんとはな。
    もっと人材を確保したいが、さてこればかりは……」

そうボヤく櫂貌であったが、その後、
黄忠を大将とした部隊は成都を陥落させる。
(ちなみに捕らえた将は二人だけであった)

蜀

こうして、成都・江州といった都市を得た饗援軍は、
益州の南半分を手にした。
雲南の牝虎は、このまま蜀の地を飲み込むのか。

饗 援「劉璋など恐るるに足らず。
    このまま一気に巴蜀を平らげるぞ!」

黄 忠「ホエホエ、夜食があるのかの」
櫂 貌「夜食じゃなくて巴蜀です、黄忠将軍」
琥胡尚「我が軍が巴蜀を平らげたら、
    人材も食べ放題になるですね」
琥胡選「あ、姉上は人肉を食らうでござるか!?」
琥 昆「胡尚? 人材とじゅん菜は違うのよ?」

饗 援「はあ……。もっと人材が欲しい……。
    もっと、もっとまともな奴らが……」

果たして饗援軍の未来は……?
今後の動向に注目が集まる!

(番外終了。次章は普通に金旋軍の話になります)

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