○ 第六十二章 「司馬懿の台頭、古参の意地」 ○ 
215年1月

大将軍となり、家臣の爵位を変更した金旋。
新たな武官筆頭に選んだ司馬懿を呼び、
この人事に不満を持つ者が少なからずいることを、
話して聞かせた。

   金旋金旋    司馬懿司馬懿

金 旋「……というわけでな。
    お主の働きを、皆に見せてもらいたい」
司馬懿「わかりました。
    この司馬懿、なんでも致しましょう」
金 旋「……な、何でもしてくれるのか?
    で、では、脱いでくれ」
司馬懿「分かりました。では……」

するする(←着物を脱ぎ始めた)

金 旋「わーっ!? ま、待て待て待て!
    なんで服を脱いじゃうかな!?」
司馬懿「これは異なことを。
    脱げとおっしゃられたのは閣下ではないですか」
金 旋「冗談を間に受ける奴がいるか〜!」
司馬懿「それは申し訳ありませんでした。
    あいにく、下品な冗談は理解できませんので」
金 旋「(分かっててやったな、これは……)
    わかったわかった……真面目に話そう」
司馬懿「はっ。
    では、私は何をいたせばよろしいのでしょう」
金 旋「うむ……まずはこの地図を見よ。
    許昌の東、中牟(チュウボウ)の地。
    ここは汝南と許昌、新野を結ぶ要衝だ」

中牟

司馬懿「はい。汝南には現在、曹操の子の曹彰がおり、
    許昌から上洛の兵を挙げる際には、
    少々厄介な存在になることでしょう」
金 旋「うむ、よくわかってるな。
    この地から許昌・新野に侵入できぬよう、
    石兵を建設してほしいのだ」
司馬懿「石兵……でございますか?」
金 旋「どういうものかは、張常が詳しい。彼を連れていけ。
    また、李厳、金閣寺、下町娘をつける。
    その者たちと兵3万5千を率い、早急に建設せよ」
司馬懿「はっ、承知いたしました」

かくして、司馬懿率いる石兵建設部隊は許昌を出、
中牟へと向かう。

  下町娘下町娘   金閣寺金閣寺

下町娘「はあ……。
    なんで私まで行かないとならないんだろう」
金閣寺「それは、お爺様が下町娘さんに、
    いろいろと経験してほしいと思ってるからです。
    城の中ばかりでは経験できないこともありますから」
下町娘「そんなものかなあ……」
金閣寺「そんなものですよ。
    お爺様も、下町娘さんを気に入ってますし。
    もっともっと役に立ってほしいと思うから、
    こうして外にも出すわけです」
下町娘「そう? それ、お世辞言ってるだけじゃない?」
金閣寺「いえ、本音ですよ」
下町娘「……ホントかなあ〜。
    お姉さん、嘘言う子は嫌いだぞぉ〜。
    くすぐっちゃうぞ〜」
金閣寺「ちょ、ちょっと待ってくださいー」

 ピシャーン!

下町娘「きゃっ!? な、なにごと?」
金閣寺「あ、司馬懿どの……?」

   司馬懿司馬懿

司馬懿「現在は行軍中である!
    敵がいないからとハメを外さぬように!」
金閣寺「は、はい、承知いたしました」
下町娘「はい……すいませんでしたぁ。
    で、あの……その手に持ってるムチは一体?」
司馬懿「ふ……。(にやぁ)
    これは厳しさをアピールするための小道具よ。
    なかなか威圧感があるでしょう?」
下町娘「あ、小道具ですかあ……。あ、あはは。
    本当にムチ打たれるのかと思っちゃいましたぁ」
司馬懿「また騒いだら、今度は打ちますよ」
下町娘「ほ、本気だぁ!?」

司馬懿の厳しい統率の下、部隊は中牟へ到着。
石兵が建造され始める。

石兵とは、敵兵の行軍を妨げる擬兵のことである。
壊そうとすると逆に被害を受ける代物で、
要は自動迎撃装置と思っていただきたい。

司馬懿「さあ、急ぎなさい! ぐずぐずしない!」

少し急かしすぎかとも思われたが、司馬懿の指揮の下、
石兵はどんどんと形になっていく。
その時、思わぬ知らせが届いた。

兵 A「申し上げます!
    汝南より、曹彰隊2万が迫っております」
司馬懿「分かった、下がってよい」
兵 A「はっ」

下町娘「ちょ、ちょっと!
    敵の部隊が向かってきてるって……」
司馬懿「ああ、耳に入りました?
    大丈夫ですよ、心配いりません」
下町娘「心配いらないって、この部隊は建設部隊であって、
    戦闘なんてできませんよ!」
司馬懿「確かに、この部隊で迎撃はできませんね」
下町娘「分かってるなら、金旋さまに救援を!」
司馬懿「それには及びませんよ」
下町娘「な、なんで!?」
司馬懿「ほら……もう出来ましたから」

中牟

司馬懿が指差すところには、完成した石兵があった。

下町娘「あれ? もう出来ちゃったの?」
司馬懿「汝南から敵部隊が来るのは予測していました。
    だからこそ、急がせたのです」
下町娘「むむ……。
    貴女、ただ胸がでかいだけじゃなさそうね」
司馬懿「ふふ……さあ、撤収しますよ」

こうして、司馬懿隊は許昌へと戻った。
なお、曹彰隊は見つけた石兵に攻撃を仕掛け、
手痛い被害を受けたのであった。

敵と交戦こそしなかったものの、
この司馬懿の手際の良さは諸将の中でも評判となった。

  甘寧甘寧   楽進楽進   韓遂韓遂

甘 寧「ただの頭の良い女ではない。
    一緒にいた李厳の話では、敵が来たと聞いても
    全く顔色を変えなかったそうだ」
楽 進「ほう。胆がすわっているようだな……。
    少しくらいは慌ててもいいと思うが」
韓 遂「うむ、なかなかの人物だな。
    けっこうボインちゃんのようだし」
楽 進「……胸は関係なかろう」
甘 寧「そして、見事短期間で石兵を作り上げた。
    その統率力も、見上げたものだ」
韓 遂「うむ、さすがはボインちゃんだ」
楽 進「だから、胸は……」
甘 寧「……まあ、我らの上に立つ資格はあると、
    そう認めても良いのではないか?
    なあ、魏延」

   魏延魏延

魏 延「……ふん、まだ実際に戦ったわけではないわ。
    戦いぶりを見てからでなければ認められん」
甘 寧「やれやれ、頑固なことで。
    そんなに筆頭格を奪われたのが気にいらんか」
魏 延「お主らはそれでいいのか?
    あのような新参者、しかも女に上に立たれて……」
楽 進「私は別に何とも、な。
    于禁などの冷静な将が上に立つべきだと思っている。
    別に新参でも女でも、能力があればよかろう」
甘 寧「俺も同感だな。新参か古参かなどは関係ないさ」
韓 遂「わしはボインちゃんなら別に女でも構わん。
    いや、むしろ大・歓・迎、だ」
魏 延「お主らに聞いたのが間違いだったか……」
甘 寧「あまり意固地になるのも格好悪いぞ?」
魏 延「ええい、うるさい!」

司馬懿の能力は証明された。がしかし、
これで他の者の不満が全て解消されたわけではなく、
今後も家臣間の軋轢の原因となる可能性は残っていた。

    ☆☆☆

石兵が完成し、許昌の側面を襲われる心配もなくなった。
金旋は爵位上位の将を集め、軍議を開く。

  金旋金旋   魏延魏延

金 旋「中牟の石兵も完成し、これでこの許昌へ
    ちょっかいを出されることもなくなった。
    いよいよ、洛陽へ向かうぞ」
魏 延「では、その先鋒は私にお任せください!
    電光石火の早さで攻め上り、急襲致しまする!」

   司馬懿司馬懿

司馬懿「お待ちを。洛陽はそのような攻め方で落ちるほど、
    ヤワな城ではありません」
魏 延「むっ……兵力比は完全に我が方に有利!
    ここは一気に攻めるべきだ!」
司馬懿「いえ、洛陽は多数の迎撃装置を備えています。
    数を頼みに短期で決着をつけようとすれば、
    必ずしっぺ返しを食らいます」
魏 延「むむむ……軍師はどう思われますか?」

   金玉昼金玉昼

金玉昼「え? えーっと……」
金 旋「玉に聞くまでもないな。
    洛陽は漢の王都、生半可な攻撃では落ちん」
金玉昼「…………」
金 旋「では、司馬懿。
    短期決着が無理ならば、どうするべきか」
司馬懿「はっ。まずは河南の地に城塞を築くべきです。
    潁川よりもさらに洛陽に近い地に城塞を作り、
    洛陽攻めの橋頭堡といたしましょう」

河南

魏 延「城塞だと? 潁川城塞で充分であろう!
    なにゆえ、わざわざもうひとつ城塞が必要なのだ?」
司馬懿「確実な勝利のためです。
    同じような戦いを、先に経験されてますでしょう?」
金 旋「……ふむ、そういうことか。
    許昌の時と同じ方針で行くということだな」
司馬懿「はい。先の戦いで許昌が落ちた大きな要因に、
    潁川城塞の存在があります。
    近くの基地から臨機応変に兵を出すことができ、
    状況に応じた戦いができたためです」
魏 延「むむむ……」
司馬懿「今回は最初から曹操が相手となります。
    手堅く進めるのが上策でしょう」
金 旋「うむ……よし、そのようにしよう。
    ならば司馬懿、河南城塞の建設、お前に任せる」
司馬懿「はっ、承知いたしました。
    できれば、護衛の部隊を付けてくださいますよう」
金 旋「そうか。では……魏延。
    護衛部隊を率い、建設部隊を守れ」
魏 延「……はっ」
金 旋「護衛部隊の将はそうだな……。
    鞏恋、金目鯛、魏光……」
司馬懿「曹操が何か計略を仕掛けるかもしれません。
    知略に富む者も入れた方がよろしいでしょう」
金 旋「ふむ……そうだな、玉も一緒に行け。
    お前が一緒に付いてくれれば安心だ」
金玉昼「……了解にゃ」
金 旋「他の者は、状況次第で出撃が有り得る。
    油断することなく、待機しているように」

  甘寧甘寧   郭淮郭淮

甘 寧「はっ」
郭 淮「承知いたしました」

軍議は終わり、各自退室していく。
魏延は先を歩いていた金玉昼を捕まえ、話しかけた。

魏 延「……軍師! あれでよいのか?」
金玉昼「良いのかって……何が?」
魏 延「司馬懿のことだ。
    正軍師を差し置いて軍略をベラベラと喋り、
    あまつさえ部隊編成にまで口を出す……。
    無礼とは思わんか!?」
金玉昼「……べ、別に。楽でいいんじゃないかにゃ。
    ちちうえも司馬懿さんの意見を聞きたかったようだし」
魏 延「殿も殿だ。軍師の言葉を聞かずに話し始めた。
    あれでは、軍師の立場がなかろうに……」
金玉昼「い、いいにゃ。結局、司馬懿さんと同じことしか
    言わなかっただろうし……」
魏 延「しかし……」
金玉昼「それよりほら、出撃の準備しなくちゃ!
    兄者や恋ちゃんたちにも知らせないと」
魏 延「……承知した。では、また後で」
金玉昼「はいにゃ〜」

笑って魏延と別れた金玉昼であったが、
内心はあまり穏やかではなかった。

金玉昼「軍師、かあ……」

単純な知力の比較ならば、司馬懿に軍配が上がる。
いつ正軍師を司馬懿に変えられてもおかしくはない。
金旋が、金玉昼を変わらず軍師にしているのは、
時機を測っているのか、彼女に遠慮しているのか、
理由は定かではない。
しかし、いつか変えられてしまうのでは……
という不安が、彼女の中にはあったのである。

    ☆☆☆

1月下旬、司馬懿・魏延らは潁川城塞に移動。
兵7万も同時に輸送させた。

2月に入り、本格的に河南城塞の建設を開始する。
建設を担当する司馬懿隊は3万5千の兵。
(副将は、金閣寺・張常・孔翊・厳峻)
その護衛には、魏延の部隊3万5千
(副将は、鞏恋・目鯛・金玉昼・魏光)がついた。

この報は、曹操のいる洛陽にも届いていた。

  曹操曹操   諸葛亮諸葛亮

曹 操「ふむ、やはり手堅く来たな。
    諸葛亮、どう見る」
諸葛亮「はっ……。この城塞、
    築かれてしまうとかなり厄介になります。
    どうにかして邪魔をせねばなりますまい」
曹 操「そうだな。敵兵は多いが、なんとかせねば。
    よし……張遼!」

   張遼張遼

張 遼「はっ!」
曹 操「兵2万5千を率い、敵部隊を急襲せよ。
    許猪、李典、夏侯徳、張緝を連れていけ」
張 遼「ははっ! お任せあれ!」

張遼率いる2万5千の部隊は、洛陽を出て南下。
河南へと向かった。

張 遼「金旋軍との交戦は初めてだな……。
    李典、油断するなよ」

   李典李典

李 典「誰にものを言っておられるか?
    この李典、常に冷静に戦況を見ていますぞ」
張 遼「まあ、一応な……。
    許猪殿は何度か戦っておるのであったな?」

   許猪許猪

許 猪「ん? ああ、なっかなか手強え相手だよぉ。
    特にあの女武将は、要注意だぁ」
張 遼「女武将……たしか鞏恋とか言ったか。
    弓の腕前は夏侯淵どの並と聞くぞ。
    見た目もよく、金旋軍のアイドル的存在とか……」
李 典「ほう……ならば、逆にその将を倒せば、
    敵の士気もガタ落ちだろうな。
    どうだろうか、この3人で次々に打ちかかるというのは?
    いくら強いといっても、3人相手では敵わぬであろう」
許 猪「それって、少しずるくねえかあ?」
張 遼「いや、それも兵法だろう。
    それでなくとも我が軍の方が劣勢なのだからな」
許 猪「そんなもんかあ……」
張 遼「なんとしても、勝たねばならんのだ。
    洛陽を明け渡すわけにはいかんのだからな……」

さて、張遼隊の出撃は金旋軍にも知るところとなる。
その報は、先行する魏延隊に届けられた。

兵 A「張遼の部隊、約2万5千!
    こちらへ向かって進軍中であります!」

  金目鯛金目鯛  鞏恋鞏恋

金目鯛「来たか……。よし、ひと暴れしてやろう」
鞏 恋「らじゃー」

  魏光魏光   魏延魏延

魏 光「父上、攻撃の命令を」
魏 延「うむ……。わかった。
    これが司馬懿を守るための戦い、
    というのが気に食わぬがな……」
魏 光「父上……!」
魏 延「冗談だ、本気にするな。
    軍師、敵が策を講じた時は任せるぞ」

   金玉昼金玉昼

金玉昼「了解にゃ」
魏 延「ふっ……」
金玉昼「ん? 何を笑ってまひる」
魏 延「いや……以前のことを思い出してな。
    荊南の統一や江陵、襄陽を攻めた戦い……。
    この面子でずっと戦ってきたのだったな」
金目鯛「おお、そういやそんな顔ぶれだな。
    親父も狙って編成したのか?」
金玉昼「多分、偶然にゃ」
魏 延「偶然にしても、面白いものだ……。
    よし、金旋軍古参の部隊の強さ、見せてやろうぞ!」

河南の地にて、両軍は激突する。
ここから、洛陽を巡る長い戦いが幕を開ける……。

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