○ 第五十九章 「英雄vs英雄」 ○ 
214年10月

10月末。
季節は冬の真っ只中。
許昌への攻撃を続けてきた金旋軍だったが、
曹操自らが許昌に入ったことで、また新たな局面を迎えた。

曹操が許昌に入った翌朝。
金旋軍が許昌を包囲し攻撃を始める前に、
金旋は城内の曹操に呼び掛ける。

   金旋金旋

金 旋「曹操! いるか! 顔を見せろ!」

   曹操曹操

曹 操「おお金旋か! だいぶ老けたな!」
金 旋「人のこと言えるか! 同い年だろうが!」
曹 操「はっはっは、御互い様か」

  金玉昼金玉昼  下町娘下町娘

金玉昼「……どう見ても顔じゃあっちの方が若いにゃ」
下町娘「あれが曹操……。
    初めて見たけど、結構シブカッコイイ……」
金 旋はいはいはい、そこ静かに!
金玉昼「はーい」
下町娘「す、すいませーん」

金 旋「そ、それでは、気を取り直して……」
曹 操「お主も大変だな」
金 旋「わ、判ってくれるか?」
曹 操「うむ、俺も夏侯惇が口うるさいし、
    息子たちはよく喧嘩するし……」
金 旋「そうか……お前も大変なんだな。
    ウチの臣下もかなりのクセモノ揃いでな、
    まとめるのにひと苦労で……」
曹 操「こちらもかなりバラバラでなぁ……」

  魏延魏延   夏侯淵夏侯淵

魏 延「ゴホンゴホン!」
夏侯淵「ウオッホン!」

金 旋「……真面目に続けるぞ」
曹 操「お、おう」
金 旋「では、コホン。
    ……お主に武陵太守を命じられてから十年余。
    見ろ! 俺はここへ帰ってきたぞ!」
曹 操「ふっ、これは可笑しい。
    許昌に来た程度で帰ってきたなど言えるか!
    その台詞は洛陽を落としてから言え!」
金 旋「いずれはそのつもりだ!
    要はお前にヘコヘコしていた以前の俺ではない、
    ということを言いたかったのだ!」
曹 操「そうかそうか!
    しかし知力は相変わらず22のようだが!?」
金 旋「ほ、ほっとけ!
    人の能力はそう簡単には変わらんわっ」
曹 操「まあよい、ならばお主に問いたい!」
金 旋「何をだ!?」
曹 操「天下の大流……
    欲しているのは曹操か金旋か!?」
金 旋「なに……!?
    もう少し判りやすい言葉で言え!
曹 操「……ええい、全く!
    天下が望んでいるであろう英雄、それは、
    曹操なのか金旋なのかと聞いている!」
金 旋「どちらでもあり、どちらでもない!」
曹 操「ほう、その実は!?」
金 旋「天下の万民は、とにかくこの戦乱を治め、
    平和な時代を作る者を欲しているのみだ!
    最終的に平和になりさえすれば、
    どちらが統一しようが関係ないのだ!」
曹 操「なるほどな、お主の考え方はわかった。
    しかし、その甘い考えで統一などは無理!
    確固たる意志なくば天は掴めん!」
金 旋「無理なのかどうなのか、その目で確かめろ!
    我が軍の勢い、とくと見るがいい!」
曹 操「来い! 俺を失望させるなよ!」

金 旋「全軍、かかれぇ!」

金旋の号令で、全部隊が城へと押し寄せていく。
二人の英雄の直接対決が始まったのである。
だが……。

金 旋「よーし、行け! やれ!」
金玉昼「ちちうえ邪魔!」

 どんっ

金 旋「あいでっ……」

 むぎゅ

金 旋「いでえ! 誰だ背中踏んづけてるのは!」

  費偉費偉

費 偉「ああっ申し訳ありません!
    急ぎますので失礼します!」

 ずどどどど

金 旋「のわーっ!?」
兵 A「なんか今踏まなかったか?」
兵 B「気のせいだろ、とっとと行くぞ!」

あまり大事にされてない金旋であった。

下町娘「あらあら、ぼく、大丈夫?
    一体どうしたのかなあ〜?」
金 旋「うっ、うっ……。みんなが、いぢめる……。
    みんなが無視するんだ……」
下町娘「あらあら……。大丈夫、みんな忙しいだけなのよ。
    ほら、お姉さんと一緒に後ろで応援しよう?」
金 旋「うん、おねーさんありがと……。
    ……って何言わせるか!」
下町娘「わ。途中まで乗ってたじゃないですか」
金 旋「ええい、俺は総大将様だぞ!
    それを踏みつけにするとは何事だー!」
下町娘「総大将ならこんな前にいないで、
    後ろでどかっと腰を下ろしてましょうよー。
    その方が威厳がありますよー」
金 旋「む、そんなものか?」
下町娘「そんなもんです。
    じゃ、後ろに下がってましょう」
金 旋「ふむ、わかった。
    総大将様は後ろで戦況を見つめるとしよう」
下町娘「それがいいです」
金 旋「……なんか、いい様に言いくるめられてる
    ような気もするがな……」
下町娘「あははー気のせいですよー」
金 旋「そうか、ならいいが」
下町娘「(……『後ろで大人しくさせとけ』って
    玉ちゃんに言われたなんて言えないなあ)」
金 旋「ん? なんか言ったか?」
下町娘「いえっなんにもっ」

数こそ一番多い金旋隊であったが、
この戦いではあまり役には立っていなかった。
実際に攻撃の中心となっているのは、
井闌を使って矢の雨を降らす魏延隊、
そして連弩などを駆使し攻撃する甘寧隊。

(※なお、甘寧隊は朱桓の三千の援軍を受け、
 兵力を幾分回復させていた)

……さらに、もう一部隊。

   韓遂韓遂    楽進楽進

韓 遂「韓遂参上!」
楽 進「楽進参上!」
二 人二人合わせてカンカンガクガク!
劉 曄「何かやかましそうなコンビ名ですね……」

韓遂率いる2万5千の井闌隊が参戦。
(韓遂と楽進の他に劉曄・呂曠・田疇が付随)

新たな部隊を加え、金旋軍は容赦ない攻撃を
許昌城に加えていくのであった。

    ☆☆☆

  甘寧甘寧

甘 寧「そろそろ頃合だな……。
    陳応! あれをやるか!」
陳 応「はっ、承知!」

甘寧、陳応の合体必殺技ドレンシャーEX。
次々に敵兵を討ち倒していく。

  荀域荀域   曹洪曹洪

荀 域「くっ……なんと激しい攻撃か!」
曹 洪「下がれ荀域どの! 標的にされるぞ!」
甘 寧「遅いわ! てえーい!」

ヒュン…ザクッ

荀 域「ぐっ……」
曹 洪「荀域どの!」
陳 応「それ、今度はこっちだ!」

ヒュッ…ドスッ

曹 洪「ぐあっ……腕がっ!?」
陳 応「敵将、討ち取ったりー!」
曹 洪「討ち取られてないわい!」

甘寧・陳応の狙撃で、荀域・曹洪に怪我を負わせる。
また魏延隊の秦綜も、毛介を狙撃。
曹操軍の将に負傷者が相次いだ。

曹 操「荀域の具合は? 大事ないか?」
夏侯淵「は。少々深い傷ではありますが、命には別状なし」
曹 操「他の二人の傷は軽いと聞いたが」

   郭淮郭淮

郭 淮「はい、軽傷にて引き続き陣頭に出ております」
曹 操「そうか……。しかし敵もやるな。
    特に甘寧と申したか、あ奴はなかなかの猛者だな」
夏侯淵「は、過去にも関羽や李通が痛い目に遭っているようで。
    先の戦いでは今一歩のところまで追い詰めましたが、
    仕留められませんでした」
曹 操「そうであろうな。勇気、采配、武勇……。
    どれを取っても超一流だ。
    あれほどの男、そういるものではない」
夏侯淵「(……また始まったか)」
郭 淮「……閣下? どうなされ……」

曹操の顔を窺おうとした郭淮を、夏侯淵が手で止めた。
放っておけ、と目で合図する。

曹 操「欲しい……欲しいぞ。
    あれほどの勇者、金旋などには勿体無い。
    なんとか我が軍に招き入れる策はないものか」
夏侯淵「……ああなると、他のことは頭に入らなくなるんだ。
    しばらく放っておくしかない。
    下手に話しかけると『甘寧を捕らえてまいれ』とか
    言い出すだろうから、素人にはお奨めしない」
郭 淮「は、はあ。では、この戦はどうなるのですか」
夏侯淵「ま、早く元に戻ってくれるのを待つことだな。
    逃げる用意はしておいた方がいいぞ」
郭 淮「左様ですか……」

曹 操「甘寧の好物を落とし穴の上に置き、
    嵌まったところを捕らえるというのは……。
    いやしかし、あれほどの者だ。
    穴から這い上がってくるかもしれん。
    となると、穴には油を塗り……いやダメだ、
    それでは今度はこちらが捕らえられぬ」

郭 淮「病気か……。困ったものだな……」

    ☆☆☆

11月に入り、いよいよ許昌城陥落の時は迫ってきていた。

金 旋「……もう少し苦戦するかと思ったがなあ」
金玉昼「曹操は今、病気らしいとの間者からの報告にゃ。
    そのせいで精彩を欠いているのではないのかにゃ」
金 旋「病気?」
金玉昼「人材欲しい欲しい病にゃ。
    甘寧さんの働きを見て、欲しくなったようにゃ。
    お陰で、守備隊の動きも悪いそうだにゃ」
金 旋「ほう……。
    曹操の人材収集癖は聞いてきたがそれほどか。
    よし、ならば甘寧にセクシーな衣装を着させ、
    もっと曹操を悩殺するように指示せよ」
金玉昼「ちちうえ、何か勘違いをしてるような……」
金 旋「いいからやる!」
金玉昼「はーい」

翌日より、甘寧は派手なセクシー衣装を来て陣頭に立った。

甘 寧「全く……なんでこんなものを着て
    戦わねばならんのだ」
陳 応「しかし、殿の指示ですし……」
甘 寧「ええいやけくそだ! 全軍進撃!」

曹 操「……お、おお! 甘寧、甘寧がおるぞ!
    ううむ、わしを狂わせる魔性の者よ……。
    捕らえよ、誰ぞ捕らえてまいれ!」
夏侯淵「お、落ち着きなされ」
郭 淮「……ダメだこりゃ」

兵 A「曹操軍の動き、鈍い模様です」
金 旋「ははは、これが兵法というものよ」
金玉昼「うそにゃ〜。こんなの嘘にゃ〜」

そのとき、後方から現れた一部隊が
許昌城へ向かって攻めかかっていった。

ずどどどど……

金 旋「……おや? あの隊はどこの隊だ?
    敵ではないようだが」
金玉昼「えーと、旗は……。『鞏』の旗……。えっ?」
金 旋「……なに、鞏恋が来たのか? 俺は聞いてないぞ」
金玉昼「私も聞いてないにゃ」

潁川城塞より、鞏恋の隊、総勢2万が到着したようである。
金旋・金玉昼に指示を受けたわけではなく、
鞏恋が自ら出撃してきたのだった。

  蛮望蛮望   凌統凌統

蛮 望「あんたねえ……。
    後で金旋様に怒られても知らないからね」
凌 統「この戦いで失態を見せれば、
    兵を貸してくれた朱桓どのも罰を受けるかもしれんぞ」

  鞏恋鞏恋

鞏 恋「文句言うなら付いてこないでいいのに……」
蛮 望「無鉄砲な小娘、一人で行かせられるわけないでしょ」
凌 統「……本音は?」
蛮 望「城塞で待機してるのは暇だったから……。
    って何言わせんのよ!」
凌 統「はっはっは……。
    まあ、無鉄砲なら俺も負けてはいないからな。
    このくらいなら付き合ってやる」
鞏 恋「……どうも」

付き従う蛮望、凌統に文句を言われながら、
鞏恋は許昌城へ攻撃をかける。
矢の雨が、守備兵の頭上に降らされた。

  李通李通   髭髯鳳髭髯鳳

李通娘「……くっ、無理はするな!
    まず身を守り、それから反撃せよ!」
髭髯鳳「李通どの、もう少し下がられい!」
李通娘「ダメです!
    兵を何とか守ってやらないと……」

鞏 恋「借りは返す……」

鞏恋は、その瞳に敵将の姿を捕らえた。
養由基の弓に矢をつがえ、ギリギリと弦を引き絞る。
そして狙いを定め……。

鞏 恋「えっ……?」

放つ寸前、その将が食事を与えてくれた恩人の姿とダブった。
慌てて方向をそらし、狙いをはずす。
そしてその矢は……。

髭髯鳳「ぬおっ……! あ、足に矢がっ!」
李通娘「大丈夫ですか!?」
髭髯鳳「だ、大丈夫だ……」

李通は髭髯鳳をかばいながら、城の外を窺う。
そのとき、鞏恋と目が合った。
鞏恋は李通に狙いを定め、矢をつがえている。
そして、矢を放った……。

李通娘「えっ……」

その矢は全くあさっての方向に飛んでいく。
明らかに外したということは李通にもわかった。

鞏 恋「ふん……」

馬を返し、鞏恋はそこから去っていった。

……許昌城が陥落したのは、
それから数日の後のことである。

曹操は逃がしたものの、
夏侯淵、曹洪、于禁、張哈、李通(父)、郭淮、
秦朗、髭髯龍、髭髯鳳、髭髯豹、荀域、司馬懿など、
そうそうたる将を捕らえることに成功した。

許昌を手に入れた金旋は、
いよいよ漢の首都、洛陽を目指す。

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