214年9月
潁川の城塞建設地へ迫った夏侯淵隊。
後から到着した韓遂隊がそれを押し返した後も、
両軍の激しい戦いは続いていた。
夏侯淵隊は韓遂、魏延、甘寧の3隊に半包囲されるが、
標的を甘寧隊にしぼり、激しく攻め立てた。
夏侯淵
李通
夏侯淵「甘寧隊が一番損耗している!
奴らをまず殲滅するのだ!」
李 通「おおう! この李通の槍、受けてみよ!」
甘寧隊は鞏恋の突破、凌統の突進などで反撃するが、
またも何者かに撹乱され、指揮系統が混乱してしまう。
甘寧
魏光
甘 寧「ダメだ! 前に進んじゃダメだ!
光だ!人の渦が溶けていく……。
あぁ、あれは憎しみの光だー!」
魏 光「お、落ちついてください甘寧さん!」
甘 寧「そ、空が落ちる! 空を落とす奴は敵だ!」
魏 光「空なんて落ちませんってばー!」
凌統
金玉昼
凌 統「またか。ではこれをぶっ掛けて目を覚まさせ……」
金玉昼「ちょっと凌統さん!
その桶の中身は肥やし用のアレだにゃー!」
凌 統「これだけ臭ければ嫌でも目を覚ますだろう」
金玉昼「さすがにそれはやりすぎにゃ!」
凌 統「チッ」
金玉昼「……チッ?」
凌 統「いや、なんでもない(※)」
(※ 凌統は昔以下略。前章参照)
鞏恋
鞏 恋「大混乱だね……。
ところで大混乱と大根ランドって似てるよね」
魏 光「同意を求めないでください!
なんですか大根ランドって!?」
鞏 恋「大根の国」
魏 光「そんなことはどうでもいいですから、
まずは甘寧さんをどうにかしないと!」
鞏 恋「はいはい、ちょっと待って。
……こういうことになった時の起こし方って、
昔から決まってるからね」
鞏恋は、錯乱してる甘寧の襟首をぐいっと掴んだ。
甘 寧「あははー暑っ苦しいなあここ。
出してくださいよお。いるんでしょー?」
鞏 恋「はいはい、今目覚めさせるからね」
魏 光「えっ……も、もしや、昔から決まってる方法って!?
だ、ダメですっ! 鞏恋さん!」
鞏 恋「いっせーの……」
魏 光「せ、せせせせっぷんで起こすなんて、
そんなうらやまし……」
スパァーン スパァーン!
鞏 恋「……何が羨ましいって?」
魏 光「い、いえ、裏に山師がいたもので」
……さて一方、大混乱の甘寧隊を救うべく、
魏延が中心となって夏侯淵隊へ突進をかける。
魏延
魏 延「奴に貸しを作るチャンス、逃してなるものか!
いけえ、全軍突進だ!」
だが、これは于禁に見破られてしまう。
彼は魏延隊の進行路を瞬時に判断し、
隊の被害を最小限に抑えた。
于禁
于 禁「はっはっは、こんなものか。
荊州の田舎侍は馬の扱いが不慣れだな。
このような突進で我らを倒すつもりか!」
魏 延「な、なんだと!」
于 禁「フッ、魏延とか言ったな。
お主のようなヒヨッコが筆頭武官では、
金旋も苦労しているだろうな」
魏 延「お、おのれー、言わせておけば!」
楽進
楽 進「落ち付け魏延!
奴はお主の冷静さを奪おうとしているのだ!」
魏 延「むっ……そ、そうか」
于 禁「ほう、楽進。久しぶりだな」
楽 進「お主も元気そうで何よりだ」
于禁と楽進。今は敵味方だが、
曹操軍の初期の頃から共に戦った戦友同士である。
今では二人とも齢は50半ばを過ぎ、老将の域に入っていた。
楽 進「どうだ于禁、久しぶりに会ったついでだ。
矛を交えつつ昔話でもしないか」
于 禁「それは出来ない相談だ。
俺の腕はお前には及ばんよ」
楽 進「いや、それが聞いてくれい。
歳のせいか、最近はめっきり衰えてな」
于 禁「ふん、下手な嘘はやめておけ。
なんとか俺をここに釘付けにしようという魂胆、
わからんとでも思うのか?」
楽 進「……ふむ、流石に気付くか」
于 禁「戦というものは冷静にやるもの。
それくらい分からんようでは、将として失格だ。
ではさらばだ、楽進! 命があったら、また会おう!」
楽 進「……五大将筆頭、于禁。
まだまだ、衰えてはいないようだな」
曹操麾下の将はいずれも名将揃いだが、
中でも于禁、張遼、楽進、張哈、徐晃の5人は
魏の五大将として賞賛されていた。
曹仁や夏侯淵などの親族将軍の次に位置する、
軍の中核となる将たちであった。
中でも于禁は、その厳格な統率ぶり、
冷静な判断力、完璧な任務遂行力などから、
五大将の中でも筆頭格として称えられていたのだ。
金旋軍にとっては厄介な敵のはずだが、
以前と変わらぬ戦友の活躍に、楽進は嬉しさを覚えていた。
魏 延「……楽進どの、どうした?」
楽 進「いや。それよりも攻撃を続けるぞ」
魏 延「あ、うむ、承知した……って大将は私だ!
命令するな!」
楽 進「おや、それは失敬。
それでは大将どの、攻撃を続けましょうぞ」
魏 延「よし、全軍突っ込め!
夏侯淵隊を圧倒してやれ!」
楽 進「やれやれ……まだまだ若いな」
すでに40歳に達した魏延であったが、
于禁や楽進らにとってはまだまだ若さが残るように
見えたのかもしれない。
魏延隊、韓遂隊、甘寧隊は苦戦しながらも、
なんとか数の差で圧倒し、夏侯淵隊を殲滅。
夏侯淵、于禁らは許昌に向かって逃げていった。
なお、このときの甘寧について、
『両頬を真っ赤に腫らしながら指揮していた』
と後の記録に残っている。
☆☆☆
さて、夏侯淵隊との戦闘には参加していなかった朱桓の隊。
彼らは、新たに参戦してきた張哈隊に遭遇し、
これを迎撃していたのだった。
朱桓・金目鯛が奮闘し、敵兵を多数討ち倒したが、
金目鯛が敵の大将である張哈に一騎討ちを挑まれる。
張哈
金目鯛
張 哈「そこの敵将! この張儁乂と勝負!」
金目鯛「おいおい、お前さん大将だろう。
一騎討ちなんかしていいのか?」
張 哈「私が勝てば何の問題もないっ!」
金目鯛「ほー、大した自信だな。
じゃあ、その鼻っ柱をヘシ折ってやるとするか。
俺の名は金目鯛だ、しっかり覚えておけ」
張 哈「ほう、金旋の子か!
相手に不足なしだ、いくぞ!」
金目鯛:武力90 VS 張哈:武力90
金目鯛と張哈、両者とも激しく打ち合う。
両者の腕、気迫、共に互角であった。
金目鯛「なるほど、大口叩くだけのことはあるっ」
張 哈「そちらもなかなかやるな!」
力の金目鯛、技の張哈。
なかなか甲乙つけがたい勝負であったが、
最後は僅かな差で金目鯛が勝利する。
だが、勝った金目鯛もかなりの体力を消耗していた。
金目鯛「なかなかの勝負だったぜ……。
紙一重の差だった」
張 哈「く、よもや負けるとはな……ぐふっ」
張哈はそのまま倒れこんだ。
傷は負っていたたが致命傷ではなく、
どうやら気を失っただけのようである。
金目鯛は、張哈を放って、自部隊と合流しようとする。
だがそこへ一騎の将が馬を駆り、彼の前に立ちはだかった。
曹洪
曹 洪「待て金目鯛! 次はこの曹洪が相手する!」
金目鯛「な、なにぃー!? ちょ、ちょっと待て!
連戦しなくちゃならんなんて聞いてないぞ!」
曹 洪「大将が敗れたことで隊の士気はがた落ちだ!
だがここでお前を倒せば、それも幾分戻るだろう!」
金目鯛「だから、俺はもうヘロヘロなんだっつーの!」
曹 洪「ならば好都合!
労せず士気回復を図れるというもの!
ここで見逃すなど、勿体なさすぎてできぬわ!」
金目鯛「うわ、確信犯かよ!」
曹 洪「問答無用! キエーーーーーッ!」
金目鯛「おわーーーーーっ!?」
ズバッ
金目鯛は曹洪に切りつけられ、勝負に負けた。
何とか逃げ出し、金目鯛は味方に助けられた。
しかし、切られたケツには大きな裂傷が残り、
その痛みで馬に乗ることどころか、歩くことさえも
満足にできない状態になってしまった。
朱桓
朱 桓「お気をしっかりされよ、金目鯛どの!」
金目鯛「い、いてえ……痛ぇよー」
???「ふぉっふぉっふぉ、難儀してるようじゃの」
朱 桓「だ、誰だ!?」
華佗
ババーン
華 佗「やれやれ、怪我したのはお主か」
金目鯛「か、華佗先生……?」
朱 桓「華佗……も、もしや!?
スーパードクターKada!?
あの伝説の名医!?」
華 佗「まあ、そう呼ぶ者もいるかの」
スーパードクターKada。本名は華佗という。
天才医師と呼ばれ、その名声は並ぶ者がいない。
数々の難病奇病、絶望的な負傷を治してきた彼は、
現在は勢力間の対立の枠を超え、中華全土を旅しながら、
その医術の腕をふるっていた。
金目鯛「先生、なんでここに……?」
華 佗「金旋軍の将がなんぞ怪我したと聞いてのう。
金旋どのには世話になっとるし、
ちょいと診てやろうかと来てやったのじゃが」
朱 桓「それはありがたい。
何しろ、このようにかなりの傷だ。
専門の医者に見てもらうのが一番だろう」
金目鯛「た、頼む先生、なんとか治してくれ……」
華 佗「承知した。ちと見せてみい。
……ふむ、ちと化膿してきておるのう。
悪くなってるところを切除し、縫合せんとダメじゃ。
どれ、麻酔をかけるぞい」
金目鯛「ま、麻酔って……あ、あひゃおげれぴょー」
朱 桓「せ、先生!?
金目鯛どのがいきなりトチ狂いましたぞ!?」
華 佗「大丈夫じゃ、麻酔とは元来こういうもの……。
あ、しもうた、濃度がちと濃かったか」
金目鯛「おひょうだらぱー!」
朱 桓「だ、大丈夫ですかっ!?」
華 佗「若いから多分大丈夫じゃ。うりゃ!」
ガンッ
金目鯛「キュウ……」
華 佗「ほれ、静かになった」
朱 桓「そ、そりゃそんなことすれば、
誰だって静かになるだろう!」
華 佗「男は細かいこと気にするな。
さて、オペを開始するぞ。準備はよいな」
朱 桓「は、はい……って私が助手ですか!?」
華 佗「他に誰がいるんじゃ。ほれ、メス」
朱 桓「はいはい、承知しました。やればいいんでしょ。
はい、メス」
華 佗「汗」
朱 桓「はいはい……って顔は全然汗かいてないですが」
華 佗「いや、脇の下が汗ばんでおる」
朱 桓「そんなの誰が拭くか!」
華 佗「ケチじゃのう。それじゃあ、食事」
朱 桓「は?」
華 佗「食事させろと言うとるんじゃ、ほれ、あーん」
朱 桓「あーんじゃない! 飯なんて食ってる場合か!
真面目にオペに集中しろ!」
華 佗「わかったわかった、うるさいのう。
じゃ、次は針と糸。あと布」
朱 桓「全くもう……はい」
華 佗「チクチクチク……。
はい、あっという間に雑巾の出来あがりじゃ」
朱 桓「おお、見事な縫い目ですな。
将来はよい嫁になれ……ってちょっと待て!
針と糸って傷の縫合に使うんじゃないのか!?」
華 佗「縫合? そんなもんとっくに済んでおるが」
朱 桓「……は?」
華 佗「汗とか言い出した時点で、すでに縫合は終わっとる。
ほれ、針と糸は自分のを使ったんじゃ」
指差した場所を見ると、すでに処置は済んでおり、
華佗の言った通り、確かに傷は縫合されていた。
朱 桓「おお、なんと早い……。
そばにいても、終わったことに全く気付かなかった。
伝説の名医と呼ばれるのも頷けるな」
華 佗「ふぉふぉふぉ、まあこの程度は軽いもんじゃ」
朱 桓「あれ……? じゃ、さっきのやりとりは?
飯とか針と糸とか」
華 佗「あ、そりゃお主をからかっただけじゃ」
朱 桓「あ、あんですとー!?」
華 佗「ふぉっふぉっふぉ」
華佗のお陰で、金目鯛は全快。すぐに戦線に復帰した。
一方、華佗におちょくられた朱桓は、
その怒りを張哈隊にぶつけることで発散。
やつあたりを食らった格好の張哈隊は、
大将である張哈の負傷も影響し、
思うように戦うことができなかった。
そして、夏侯淵隊を撃破し士気上がる三隊が参戦。
韓遂隊の楽淋、甘寧隊の鞏恋・魏光に突破され、
最後は復活した甘寧の奮迅にて張哈隊は全滅。
これで金旋軍は、許昌から出撃した夏侯淵軍を
全て駆逐したことになる。
ほぼ同じ頃、潁川城塞も完成。
夏侯淵軍を殲滅した金旋軍は、そのすぐ後、
李厳隊も含めて全部隊が城塞へと入城した。
魏延
韓遂
魏光
魏 延「ほお、これが潁川城塞か……。
急ごしらえにしては、なかなかサマになってるな」
韓 遂「いい仕事しておるな。
流石は李厳だ、手抜きがない」
魏 光「かなりしっかり作られてますねぇ」
李厳
李 厳「お褒めいただいて光栄ですな」
魏 光「あ、お疲れ様です」
韓 遂「よくこれだけの城塞を作ったな」
李 厳「いや、皆が守ってくれていたからこそです。
それに建設に関わった将、兵たち。
全ての者が、必死に建設に取り組みました。
それが結集されてできた結果です」
金玉昼
金玉昼「あ、李厳さん。お疲れにゃー」
李 厳「これは軍師、お疲れ様です」
金玉昼「例のは作ってあるのかにゃ?」
李 厳「あ、それなら、奥の通路を右に行くとあります」
金玉昼「ん、ありがとにゃ。
じゃ恋ちゃん、早速行きまひる」
鞏恋
鞏 恋「じゃ、行ってくる」
魏 光「あ、はい〜」
二人は奥の方へと、ルンルンステップで歩いていった。
魏 延「行ってくる、とは? 何か秘密のものでも?」
李 厳「いえ、ただのお風呂です。軍師の要望でして。
あり合わせでいいので作っておいてくれ、と。
やっぱり女の子ですな」
魏 光「ふ、風呂ですか……(もやんもやん)」
韓 遂「ほう、露天風呂か?」
李 厳「そうですね、屋根をつけてる暇がなかったので」
韓 遂「どれ、それでは見えるところを探しに……」
魏 光「ちょ、ちょっと韓遂さん! 覗きはダメです!」
韓 遂「堅いこと言うな、少年。
そういうお前だって見たいんだろうに」
魏 光「そ、そりゃ、見たいですが」
韓 遂「じゃ、一緒に行くぞ。ついて来い」
魏 光「え、い、いいんですか」
魏 延「待て待て待て! 人の息子を共犯者にするな!」
李 厳「それ以前に覗きなんてもってのほかですな」
韓 遂「ちっ、ケチじゃな」
魏 延「ケチとかそういう問題じゃないだろう……」
魏 光「あれ、鞏恋さん?」
すたすたと戻ってくる鞏恋。
韓 遂「どうした、忘れ物か?」
鞏 恋「ん。ひとつ言い忘れてた」
魏 光「な、何をですか?」
鞏 恋「覗いたら撃ち殺す」
彼女はそれだけ言うと、また奥へ入っていった。
魏 光「……アレは本気だ、本気の目だった」
韓 遂「ふ、ふむ、そうだな。
まあ、覗くのは次回に回すとするか」
魏 延「いずれはやる気かっ!」
戦いが終わり、束の間の休息を取る将たちであった。
潁川に城塞を築いたことで、これで金旋軍は
許昌を攻めるための橋頭堡を手に入れた格好となった。
上洛作戦は、次の段階にステップしていく……。
次の標的は、許昌の本城である。
☆☆☆
許昌から東に位置する、徐州の都市、下[丕β](カヒ)。
212年初頭に孫権が曹操より奪ってから、約2年半。
その領有者が、今また変わろうとしていた。
214年の秋、北海を出た曹操軍の部隊が下ヒを攻撃。
2ヵ月に渡る激しい戦いの末、陥落の時を迎える。
兵 A「御大将! 下[丕β]の兵はもはやほとんどおらず、
もはや陥落は目前にございます!」
???「そうか。敵の大将は蒋欽って言ったよな。
全く、てこずらせてくれたぜ」
身の丈は八尺。
豹のような顔で虎のごとき髭をたくわえたその将は、
持ち前の大きな声でそう答えた。
そして手にした蛇矛を握り直すと、
それを使って城を指し示し、号令を出す。
張飛
張 飛「さあ、とっとと落としちまえ!
孫権軍など、徐州から追い出してやれ!」
張飛、字は翼徳。
劉備の義弟である彼は、劉備勢力の滅亡後、
関羽ともども曹操軍にスカウトされた。
以来、関羽ほどではないものの重く用いられ、
幾多の戦いに参加しその武を振るっていた。
張飛隊の攻撃を浴び、下ヒ城は陥落した。
張飛の隊は、そのまま城へ入る。
張 飛「……ほう、敵将を捕まえたか」
兵 A「太守を務めていた蒋欽にございます。
逃げようとしていたところを捕縛いたしました」
張 飛「よく戦ったが、相手が悪かったな。
俺を敵に回したのが運のツキだ」
蒋欽
蒋 欽「……早く殺せ」
張 飛「あん?」
蒋 欽「虜囚の辱めを受けたくはない。
早く死なせてくれ」
張飛は蒋欽の顔を見た。
全てを諦め、死を覚悟した顔。
その表情を見て、張飛は何ともいたたまれなくなった。
張 飛「そう死ぬ死ぬ言うな。
どんなに屈辱を重ねようと、生きてれば次がある」
蒋 欽「そのような言葉で篭絡しようとしても無駄だ。
負けた者の心情をわかってくれ」
張 飛「……分かってるからこその言葉だ。
お前は知らんだろうが、もともと俺は曹操軍じゃねえ。
曹操との戦いに敗れ、主人を失った敗軍の将よ」
蒋 欽「なんと……?」
張 飛「だが、俺は屈辱を受け入れることを選んだ。
負けんのが大っ嫌いで、死ぬことも恐れてはいない。
それでも、生きなきゃならなかった」
蒋 欽「……」
張 飛「まあ、俺の話はどうでもいい。
それより、お前も生きろ。死んだらここまでだ。
そうだな、曹操軍が嫌なんだったら、
後でそ知らぬ顔でどっかに行けばいい。
この場だけ受け入れたふりすればいいだけだ」
蒋 欽「……貴殿はおかしな方だな。
寝返りを奨める軍の大将など、聞いたことがない」
張 飛「まあな、よく言われるぞ」
蒋 欽「だが……何か気が楽になった。
生きていればこそ、次に何かが待っているはず。
この場は恥を忍び、降伏することにいたそう」
張 飛「おう、それがいい」
蒋 欽「……ひとつ、お聞きしていいか」
張 飛「なんだ?」
蒋 欽「貴殿が生きなければならない理由、とは?」
張 飛「そうだな……。ひとことで言うなら……」
張 飛「どっかで生きてる長兄に、
『おめえ弱過ぎるんだよ!』
って文句を言うためかな」
9月、曹操軍の張飛の部隊が下[丕β]を落とす。
これで、曹操が孫権に奪われた都市は、
小沛と寿春、2つだけとなった。
なお、この時に曹操軍に捕まった孫権軍大将、蒋欽。
彼はこの後、曹操軍の将となった。
別に曹操に忠誠を誓ったわけではなかったが、
張飛の言葉に感化されたのだろうか。
彼は後に、金旋軍の前に立ちはだかることとなる……。
次回へ続く。
|