○ 第五十二章 「つぎはぁー 錦糸町ー錦糸町ー」 ○ 
214年3月

襄陽守備

宛から武関へ甘寧隊を派遣したのと同じ頃。
襄陽には、金玉昼や黄祖らが到着した。
また、すぐに江陵からの救援の兵も着き、
劉璋軍を迎え撃つための準備を急がせた。

   金玉昼金玉昼   黄祖黄祖

金玉昼「というわけで黄祖さん、大将よろしくにゃ」
黄 祖「うほっ、ワシが大将をやってよいのか!」
金玉昼「この際、贅沢は言ってられないにゃ」
黄 祖「うしし、よーし任せよ!
    このワシの指揮ぶりを見せ付けてやろうぞ!」
劉 曄「……大丈夫ですか、この方で」
金玉昼「……霍峻さんの方が良かったかにゃー。
    でも隆中は兵も少なく、絶対守らなきゃならないから、
    どうしても霍峻さんはそっちに回したかったし……うー」
黄 祖「はっはっは! 劉璋軍め、
    この黄祖がすべて蹴散らしてくれん!」

黄祖隊1万5千は襄陽を出撃。
隆中付近にまで迫った劉璋軍の迎撃に向かう。
対する劉璋軍の兵は1万ずつの部隊が3部隊。
合計3万、黄祖隊の2倍である。
黄祖隊の役割は、なんとか劉璋軍の前進を阻み、
魏延らの軍が隆中に到着するまで踏ん張ることであった。

隆中迎撃

黄 祖おーれはこうそー♪ 総大将ー♪
    天下無敵の男だぜー♪
    魏延・甘寧は目じゃないよ♪
    野戦城攻め ドンと来いー♪
    見た目も渋いぜ まかしとけ♪
    『何だよ、何だよ
    俺はご利益も何もない神様だって!?
    そりゃないよ禰衡!』


劉 曄「……あんな歌唄ってますが」
金玉昼「能力はそれなりのものを持ってる人にゃ。
    心配はいらない……と思いまひる」
劉 曄「しかし、敵は総勢3万の兵がおります。
    この部隊は兵は1万5千、武力の高い者も最高で68。
    いくら相手が攻城兵器の部隊ばかりとはいえ、
    これでは踏ん張りきれませんぞ」
金玉昼「ま、普通に戦えばそうなりまひる。
    ……そこで、これの出番にゃ」
劉 曄「これは……鋤?(※)

 (※ すき。スコップみたいなもの)

金玉昼「これを使えば、互角以上に戦えるはず。
    まあ、見てるがいいにゃ。
    ゲリラ屋の戦い方を見せてやりまひる!
劉 曄「(いつからゲリラ屋になったのだろう……)」

さて、対する劉璋軍。
その先頭を行くは、卞参(ベンサン)の井闌隊。
卞参は元永安の君主だった卞霊(ベンレイ)の三男で、
劉璋軍に降った後も永安に残っていた。
なお、この部隊には父である卞霊、
兄弟の8番目である卞鉢(ベンポウ)もいた。

   卞参卞参    卞霊卞霊

卞 参「……父上。困ります、持ち場を離れられては」
卞 霊「そういうな、参。行軍中は暇なのでな。
    どうだ、敵部隊は出てきそうにないか?」
卞 参「はい、姿は見えません。
    そろそろ迎撃の部隊が現れても良い頃ですが……。
    金旋軍といえばなかなか打つ手が早いと聞きます。
    この攻城戦部隊を相手に、城に立てこもるだけだとは、
    少々考えにくいのですが」
卞 霊「しかし襄陽の兵は少ないのであろう?
    出したくても出せないのではないか?」
卞 参「確かに出撃前の情報ではそうでしたが……。
    永安を出て、時がかなり経っております。
    それなりの手はこうじると思うのですが」
卞 参「はっはっは、お主は兄弟の中でも一番の知恵者だが、
    少々心配性すぎるな! まあ安心せい!
    敵は兵が調達できずに城に閉じこもっているのだ!」
卞 参「……父上のその自信はどこからくるのでしょうな」

卞参は、自信満々のその父の顔を見て、
呆れと微笑みの入り混じった表情を見せた。
その時、隊の先頭の方より悲鳴や怒号が聞こえて来る。

卞 参「どうした、何が起きた!」
卞 霊「参、見よ! 井闌が!」

卞霊の指差した方向には、卞参も初めてみる光景があった。
その井闌は前に傾き、みるみるうちにその角度は増していき、
最後には崩れるように倒れた。
前方を進んでいたほかの井闌も、同じように倒れていく。
そして、兵士たちの『落ちた』『嵌まった』という叫び声。

卞 参やられた! 落とし穴だ!

その声に反応したかのように鬨の声があがり、
『黄』の旗が前方にはためく。
未だ混乱の解けぬ卞参隊に、黄祖隊が襲いかかった。

黄 祖「おーれーはこうそー! そうだいしょー!」
敵兵A「うわあ、なんだあのヒゲじじいはぁぁぁ!?」
黄 祖「ぬう、この黄祖を知らぬとはモグリめ!
    死ねい、弩連射! ていてい!」
敵兵A「ぎゃああああ!」
敵兵B「あ、あのじじい強いぞ!?」

劉 曄「総大将というより、切込隊長になってますが」
金玉昼「これも予測の範囲内にゃ」

卞参隊の出鼻を挫いた黄祖隊。
やがて、隆中に魏延の隊が到着し、
魏延隊・霍峻隊が敵の董允隊・張松隊に襲いかかった。

魏延隊は、刑道栄の突撃などで活躍し、董允隊を殲滅。
霍峻隊が卞参隊の残兵を討ち果たすと、
残っていた張松隊を金玉昼が再度穴罠に嵌め、
その隙をついて黄祖が連射にて締めくくった。

こうして金玉昼らは敵を打ち破り、襄陽・隆中を守り切った。
敵将を捕らえることはできなかったが、味方に大した損害はなく、
また、大量の兵を捕らえ、自軍に組み込むことができたのである。

劉 曄「敵の負傷兵を吸収して、
    兵の数は戦う前よりもむしろ増えていますな。
    災い転じて福となったようです」
金玉昼「それはそれで結構だけど、ちょっと疲れたにゃ〜」
黄 祖「うむうむ、ご苦労さんじゃ!
    軍師の活躍なくしては、
    この戦いは勝てなかっただろうからな!」
金玉昼「はあ、どうもにゃ」
黄 祖「しかしワシの活躍もあったからこその勝利じゃ。
    そこらへんは忘れぬように」
金玉昼「はあ」
黄 祖「では、帰還するぞ!
    ……おーれーはこうそー! そうだいしょー!」

劉 曄「何か調子に乗ってますが……」
金玉昼「放っておいていいにゃ。
    ナントカにつける薬はないからにゃ」
劉 曄「それにしても、軍師の罠、見事なものでした」
金玉昼「あ、あははー。最近覚えたんだけどにゃ。(※)
    上手く決まって良かったにゃ」

(※ 初期状態では持っていなかったが、
 抜擢武将の教育の時に一緒に覚えた)

その後、黄祖隊は襄陽へ帰還。
魏延隊は隆中、湖陽経由で新野へと向かった。

対する永安の兵は2万にも満たなくなり、
しばらくは侵攻を受ける心配はなさそうだった。

だが、金玉昼は将来を見据え、
新たな防備の必要性を感じていた……。

    ☆☆☆

舞台はまた戻り、武関。
ここの守備を任されていた陳応は、
馬超隊の攻撃にさらされて大量の負傷兵を出しながらも、
なんとか踏ん張っていた。
攻め手側の馬超の顔にも、多少なりとも疲労の色が見える。

   馬超馬超    馬岱馬岱

馬 超「流石に堅牢だな、この関は」
馬 岱「はっ。秦の時代には南の要害であり、漢代になっても、
    都である長安を守る重要な関でありました」
馬 超「守る将は陳応と言ったか。
    2流の将と思ったが、なかなか頑張るものだな」
馬 岱「宛城から敵の隊がこちらに向かっておりますが。
    そろそろ、退却致しましょうか?」
馬 超「いや。この際だ、敵将の顔を見ておこう。
    常勝軍団の将たちを、是非とも拝んでおきたい」
馬 岱「しかし、軍師の言いつけに背いてしまうのでは?」
馬 超「あのようなこと、気にしなくていい。
    この戦い、兵を失うことは別に問題ではない。
    敵軍に我らの気概を見せ付けてさえやれば、
    今回の侵攻の目的は達せられる」

そう言われると、馬岱としても言うべき言葉はない。
彼とてまだまだ暴れていきたいところなのだ。
……しばらくして、甘寧隊が到着したことが知らされた。

馬 超「さて、楽しませてもらうとするか。行くぞ、馬岱」
馬 岱「はっ!」

すでに馬超隊の兵は5千を切り、甘寧隊の1/6にも満たない。
勝敗は戦う前から決していると言っていい。
だが、馬超は不敵な笑みを浮かべ、
目の前に迫った甘寧隊へ攻めかかるのだった。

   甘寧甘寧

甘 寧「涼州兵、噂通りの怖いもの知らずだな。
    ……かかれ! 殲滅せよ!」

大将の号令で、甘寧隊も馬超隊への攻撃を開始する。

まずは先鋒の鞏恋、左翼の魏光の隊が同時に突破を図った。
……鞏恋の突破の後ろから、魏光がついていった、
という表現の方が正しいかもしれないが。

馬 超「なんだ、その馬の扱いは! まだまだだな!」

だが馬超に機先を制され、その突破は失敗に終わった。
それでも数に勝る甘寧隊は、馬超隊を圧倒し兵を討ち倒していく。

馬 超「なるほど、なかなか手強いものだ。
    では、武勇はどうか……。
    やあやあ! 我こそは錦馬超!
    我が槍、受ける度胸のある者はおらぬか!」

槍を振り回し、自らの存在を誇示しながら駆け巡る馬超。
数名ほど功を成さんとする兵がそれに打ち掛かったが、
馬超は全て一突きの元に倒し、周りを囲む兵を震え上がらせた。
そこへ、一騎の女武将が駒を進ませる。

   鞏恋鞏恋

鞏 恋「そこの錦糸町とかいう人、勝負」
馬 超「……錦馬超だ」
鞏 恋「あ、ごめんね茅場町」
馬 超錦・馬・超、だ! 二度と間違えるな!
    浜松町でも有楽町でもない!」

   魏光魏光

魏 光「わざとあだ名を間違えて怒りを誘っている……。
    鞏恋さん、根っからの勝負師だ……」

頭に血の上った馬超は槍を構え、
今にも打ち掛かろうという体勢だ。
対して鞏恋は、ゆったりとした構えで待ち受ける。

馬 超「女、容赦はせんぞ……名を名乗れ!」
鞏 恋「名は鞏恋。勝負よ、永田町さん」
馬 超錦馬超だァーーーっ!

両者の一騎討ちが始まった。

鞏恋:武力94 VS 馬超:武力97

ギィン!
怒り狂った馬超の槍と、鞏恋の出した槍とがぶつかり、
耳障りな金属音を発した。
その後も馬超は、力任せに槍を叩きつけ、突き出し、
鞏恋に反撃の暇を与えない。
だが馬超の攻撃は単調であり、攻撃を防ぐこと自体は、
彼女にとっては決して難しいほどではなかった。

魏 光「守りに徹してはいるが、馬超の攻撃がかすりもしない。
    全て槍の刃や柄で受け止め、受け流している!」

やがて、馬超の動きが少しずつではあるが鈍ってきた。
力任せの攻撃をずっと続けているのだから、それも当然だろう。
鞏恋は攻撃を受け止めながら、反撃の機会をうかがう。
その時、馬超がフッと不敵な笑みを見せた。

馬 超「お前は、俺がこれほど力任せに攻撃してきたのを、
    ただの怒りによる感情的なものだと思っているだろう?」
鞏 恋「……?」
馬 超「だが、違うんだな、それは……。
    イヤァァァッ!

槍を大きく振り上げ、上段からの一撃。
鞏恋はまたもそれを槍の柄で受け止め……。

だが、馬超の槍は止まらなかった。
その一閃で、鞏恋の槍は真っ二つに斬られてしまったのだ。
馬超の槍の刃は、鞏恋の兜、胸当てを掠め、乗馬を叩き斬った。
その拍子に鞏恋は地面に投げ出され、
立ち上がる前に槍の切っ先を突きつけられる。

兜が割れ、額から血を流しながら、
鞏恋は呆然とした表情で馬上の将を見た。

馬 超「俺が槍の柄を狙い攻撃していたことに気付けなかった。
    それがお前の敗因だ」
鞏 恋「……くっ」
馬 超「女にしては武は申し分なし。
    だが、相手は選ぶべきであったな。
    さて……大人しく捕虜として……うっ!?
鞏 恋「……?」
馬 超「くっ、しまった……。まともに見……。
    いかん、血が……」

魏 光「今だっ!」

なぜか鼻を抑え、一瞬ひるんだ馬超。
その一瞬の隙を突き、魏光が矢を射掛けて鞏恋を救おうとする。
馬超は矢を避けながらくつわを返し、馬を走らせた。

馬 超「くっ……まあいい、戦は負けだが勝負には勝った。
    さらばだ、機会があればまた会おう!」

馬超はそう言い残し、走り去った。
もうすでに馬超隊は総崩れになっており、
戦もほとんど終わっていた。

魏 光「鞏恋さん、ご無事ですかっ!」
鞏 恋「ん、大丈夫」
魏 光「でも、血が額から流れて……。
    それに胸も……胸!?
    ブボァァァァッ!!

魏光は壮絶に血を噴き出した。鼻から。
その様子を見て、鞏恋はようやく、
自分がどういう格好になってるか気付いた。

……胸当てが壊れ、その下の下着も破れ、
肌が露わになっていたのだった。

鞏 恋「……あっ」
魏 光「は、早く……。か、隠してください……」

顔面を自らの鮮血で染めた魏光が、最後の力を振り絞り、
自分のひたたれを鞏恋に手渡す。
……そのひたたれを鞏恋が胸に巻き付けた頃には、
魏光は貧血で気を失っていた。

馬騰軍と金旋軍の初戦は、金旋軍が武関を守り切り、
結果、金旋軍が勝利を得たことになる。
だが戦いの内容では、寡兵で善戦した馬騰軍の方が
目立っていたのも事実である。

馬超の残した言葉通り、勝負では彼らの勝ちとも
言えるのではなかろうか。

    ☆☆☆

宛城。
甘寧隊はすでに引き揚げてきており、
金旋は、魏光から今回の戦いについての話を聞いていた。

   金旋金旋    魏光魏光

金 旋「鞏恋の怪我の方は? 額を切ったんだろう?」
魏 光「医者の見立てでは軽傷だそうです。
    傷痕も残らずすぐ治るだろうと」
金 旋「そうか、そりゃよかった。一応女の子だもんな。
    ……で、馬超はどうだった?」
魏 光「残念ながら、我が軍にもあれほどの者はおりません。
    采配も武勇も、天下一品でしょう」
金 旋「ほう、そこまで褒めるか」
魏 光「悔しいですが……。
    鞏恋さんの負けも、順当な結果だったと思います」
金 旋「そうか。韓遂も言った通り、油断ならん相手だな」
魏 光「馬騰軍は、今後も脅威となること間違いありません。
    何か、手を打たれた方がよいかと思います」

そう言った魏光に、金旋はニヤリと笑いを見せた。

金 旋「手はもう打ってある」
魏 光「え?」
金 旋「馬騰との講和を結ぶため、馬良を使者として派遣した」
魏 光「講和!?」
金 旋「金1万ほど贈ってな、仲良くしてくれーってな。
    多分、いい返事を持って帰ってくると思うぞ」
魏 光「そ、そんなあっさりと行くんでしょうか?」
金 旋「馬騰も、三方に敵を持つ愚かさには気付いてるはず。
    そこを馬良がしっかり説得してくれると思う」
魏 光「はあ……」

金旋の言う通り、しばらくして馬騰との講和が成立する。

金 旋「で、お前はどこをやられたんだ?
    なんかピンピンしてるようだが」
魏 光「はい? やられたって何がです?」
金 旋「ん? 甘寧の話では、
    大量に血を流して倒れてたらしいじゃないか。
    馬超と戦ってどっかやられたんじゃないのか?」
魏 光「あ、いえ、それはそのー、えーっと」
金 旋「敵わなかったとはいえ、その挑んだ勇気は天晴れだ。
    後で何かご馳走してやるから、話を聞かせてくれ。
    間近で見た者の話を、是非とも聞きたいんだ」
魏 光「い、いや、そー言われてもですねぇー」

214年5月。
馬騰軍と金旋軍と馬騰軍との間で講和条約が結ばれた。

曹操・劉璋という共通の敵がいる両勢力である。
馬騰にも、今は金旋と本気でやり合う気はさらさらなかった。
それに元々、馬騰軍の基盤は租税による収入が少なく、
常に貧乏な勢力だったのだ。
戦いをやめるだけで金が1万入るのだ、
この申し出を受けないわけがない。

この両者の打算的な和は、しばらく続いていくこととなる。

次回へと続く。



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