○ 第五十〇章 「玉は瓦に、璧は石に」 ○ 
214年3月

金玉昼が襄陽に向かってすぐのこと。
人の少ない宛城に、慌しく駆け込んで来た者がいた。
その者は下町娘の姿を見つけると、跪いた。

   下町娘下町娘

急 使「失礼致す!
    武関守備大将、陳応どのの使いで参りました!」
下町娘「あ、ご苦労さまです。お茶でもお出ししますね」
急 使「あ、いえ、お構いなく……。
    ……と和んでる暇はありません!」
下町娘「……前にもこんなことありませんでした?」
急 使「いえ、私は初めてですが……。
    それより、武関が大変なのです!
    馬騰軍が潼関を陥落させたのですが、
    その後突如、我が軍に宣戦布告!
    長安より馬超隊1万が近付きつつあり!」

馬騰侵攻
馬騰侵攻

下町娘「ええーっ!?」
馬 良「なんとっ!?」
下町娘「あれ、馬良さんの声がした……?
    でも姿は見えない。どこにいるんですか?」
馬 良「ここですよ、ここ」
下町娘「ここって……え゛っ!?

下町娘が今まで座っていた椅子から、馬良の声がした。
……と思って見てみると、彼女が座っていたのは椅子ではなく、
椅子に扮していた馬良であったのだ!

   馬良馬良

馬 良「ふ、これぞ必殺人間椅子
下町娘「な、な、ななな……」
馬 良「ふむ、『なんで人間椅子なんてしてるんですか』
    そう言いたいのですね」
下町娘「うん、うん」
馬 良「いえ、理由は簡単なことです。
    『あなたのお尻の感触を確かめたかったから』
    ……そういうことです」
下町娘「な、なんですかその理由はーっ!?」
馬 良「いえ、普通に手で触ってはセクハラになりますから、
    どうにかセクハラでない方向であなたのお尻に
    触れられないものかと……」
下町娘「人間椅子状態で触ってもセクハラはセクハラです!」
馬 良「そうですか?
    しかし、私は積極的に触ったわけではありません。
    手も使っておりません。下町娘さんが私の人間椅子に座った、
    ただそれだけです」
下町娘「はぁ……もういいです。
    (まともな人だと思ってたけど、やっぱりこの人も変なんだ。
    頭いい人だから大丈夫だと思ってたのに……)」
馬 良「そうですか。ちなみに私のフトモモにはまだ、
    あなたのお尻のぬくもりが……(ばしっ)
    あいたっ! 痛いです!」
下町娘「このっこのっ! 老人だからって容赦しないですよ!」
馬 良「だ、だから私はあなたと同じ世代だと……。
    あいたっ! いたっ!」
急 使「あ、あのー」
下町娘なにっ!?
急 使「あ、いえ、その、武関への援軍なんですけど……」
下町娘我に余剰戦力なし! 戦って死ねと伝えよ!
急 使「え、ええーっ」
馬 良「い、いや、流石にそれはいかんでしょう。
    幸い、この宛には5千の兵が残ってます。
    下町娘さん、これを武関に送ってきていただけますか」
下町娘「えーっ、馬良さん行ってくださいよ」
馬 良「私は馬超の隊に偽情報を流し、武関への到着を遅らせます。
    これと5千の増援があればしばらくは持つでしょう。
    その間に鞏恋隊・甘寧隊に帰還を要請し、
    両隊が戻ってきてから反撃に移るのが上策だと思います」
下町娘「そうですかっ!
    さすが頭のいい人は考えることが違いますねっ!」
馬 良「何をふくれておられるんですか?」
下町娘「誰のせいで不機嫌だと思ってるんですかぁー!」

一悶着あったものの、馬超隊に偽情報を掴ませて行軍を遅らせ、
その間に武関の兵を補充し、しばらくの間は保つようにできた。
だが鞏恋・甘寧の隊が戻らないと、馬超隊の撃退は不可能である。
その両隊はどうなっているのであろうか……。

○洛陽、鞏恋隊の様子

   鞏恋鞏恋    秦綜秦綜

鞏 恋「秦綜、謝旋! ついて来てっ!」
秦 綜「……(コクリ)」
謝 旋「承知しました!」

鞏恋・秦綜・謝旋の3身合体必殺技『キヘイヒシャー(飛射)』が炸裂。
守備兵たちは矢を受け倒れていく。

   諸葛亮諸葛亮

諸葛亮「やりますね……ではこれはどうですか!?
    必殺の『ラクセキーン(落石)』!」

城壁より転がり落ちる岩石を巧みに避ける鞏恋。
だが他の兵たちには命中するものもあり、
犠牲者はそれなりに出てしまう。

両軍の攻防はしばらく続いており、どちらが優勢とも取れなかった。
だが、それは鞏恋隊の時間切れでの負けを意味する。

謝 旋「鞏恋さま! 宛よりの使者です!
    退却を開始せよとのこと!」
鞏 恋「ダメだったか。……引き揚げよう。
    速やかに退却せよ」

少々不機嫌そうに言うと、鞏恋は馬のくつわを返し、
すぐに退路へと向かった。

諸葛亮「……危ないところでしたね。
    このまま攻められ続ければ、やられていたかもしれません。
    ううっ……」
兵 A「太守? どうされ……うっ、血が!?」
諸葛亮「ははは、先ほどの飛射で狙撃されたようです……。
    医者を呼んでもらえますか?」
兵 A「は、はっ! すぐに呼んで参ります!」

諸葛亮「……金旋軍侮りがたし、か」

そう呟くと、諸葛亮は気を失った。

○許昌、甘寧隊の様子

甘寧隊は、手薄になった許昌を強襲。
甘寧、朱桓、魏光が弩を連射し、許昌の兵を次々に倒していく。
この際、甘寧が守将の毛介(モウカイ)を狙撃し重傷を追わせ、
兵たちの意気も上がり勢いづいた。

   甘寧甘寧    楽進楽進

甘 寧「よし、いい感じだ。
    上手くいけば、陥落させることも可能だぞ」
楽 進「ふむ、案外、殿の戦略眼も確かなのかもしれんな。
    急な作戦変更で半信半疑だったが……」
甘 寧「お、そういうこと言ってていいのかな」
楽 進「ははは、告げ口は勘弁してくれよ。
    しかしこれなら、軍師も殿に強く言えぬのではないか?」
甘 寧「ああ、そう言えば作戦が変更になったことを知って、
    かなり怒ったようだったな。
    いや、あの時は噛みつかれるかと思ったぞ」
楽 進「殿の名誉のために、許昌をもっと追い詰めねばな」

だが二人がそう話していると、
宛からの使者、そして密偵が同時にやってきた。

使 者「宛城からのご指示を申し上げます!
    『甘寧隊は速やかに退却し、宛に帰還せよ』とのことです!
    なお、馬騰軍が宣戦布告、武関に向け進軍中とのこと!」
密 偵「ご報告致します!
    汝南より出撃した2万の部隊がこちらに向かって進軍中!
    旗を見たところ、夏侯淵が大将と思われます!」

甘 寧「あれまあ」
楽 進「これはまた……」

二人は顔を見合わすと、すぐに号令を発した。

甘 寧「引き揚げるぞ! 速やかに退却の準備をせよ!」
楽 進「敵援軍が来る前に去るのだ! ぐずぐずするな!」

ベテラン2人の将に指揮された軍はすぐさま退却を開始。
夏侯淵の隊が許昌についた頃には、
すでに甘寧隊は宛城付近まで引き揚げていたという。
その引き際は、急行軍を得意とする夏侯淵も
目を丸くするほどの早さであった。

劉璋侵攻
鞏恋隊・甘寧隊、撤退

    ☆☆☆

鞏恋・甘寧隊が退却を始める少し前。
新野領内、湖陽港の近くにて、
金旋軍の魏延・李厳隊と李通軍との戦闘が始まった。

湖陽の戦い
湖陽の戦い

魏延隊・李厳隊の兵が計3万、李通隊・髯髭龍隊の兵が計2万5千。
数の上でなら、ほぼ互角と言える。
だが、かたや野戦特化型の金旋軍に対し、
李通軍は攻城兵器を揃えた城攻め型の軍。
戦う前から、結果はほぼ決まっていたといえよう。

李通隊は、正面からは李厳隊の攻撃を受け、
また側面からは、髭髯龍隊を殲滅した余勢を駆って
魏延隊が襲い掛かろうとしていた。

   李通李通    郭淮郭淮

郭 淮「御大将。
    髭髯龍隊は再三に渡る魏延隊の突進攻撃を受け、
    全滅した模様です」
李 通「くっ……あいつら、全く役に立たん!」
郭 淮「攻城部隊が騎馬部隊に敵うわけがありません。
    戦う前から、勝敗が決しているようなものです」
李 通「うるさい、そのような分析はどうでもいい!
    それより、何か手はないのか!?」
郭 淮「この決定的不利な状況を打開する策は、
    残念ながらありません。しかし……」
李 通「しかし、なんだ?」
郭 淮「奴らに一泡吹かせる程度の策ならありますが」
李 通「……言うだけ言ってみろ」
郭 淮「すぐ近くの湖陽港は兵少なく、
    上手くすれば我が隊だけでも落とせましょう」
李 通「しかし、そこを落としても魏延・李厳らの攻撃を受ける。
    結局は負けるだろう、一泡吹かすようなことにはならん」
郭 淮「湖陽港を守る将が、金旋自らだとしてもですか?」

郭淮のその言葉を聞いて、李通はピクリと眉を動かした。

李 通「……フフフ、確かに一泡は吹かせられそうだな。
    あわよくば、大逆転も有り得るぞ!」
郭 淮「では……」
李 通「方向転換だ! 湖陽港へ攻撃をかけるぞ!
    ははは! 金旋の蒼ざめた顔が見えるようだわ!」
郭 淮「ははっ!」

さて、そんなことを知らない金旋は。
湖陽港の物見櫓から、両軍の戦いを観察していた。

   金旋金旋

金 旋「ふむふむ、魏延隊は流石だな。
    髭の旗の一隊を、ものの見事に粉砕しやがった。
    中でも刑道栄、蛮望の動きがいいようだ。
    何度も突進を繰り返している。
    あれでは相手はたまらんな……おや?
    李通隊がこっちに近付いてきているような……」

よく見ようと身を乗り出したその時、下から見張りの兵が声を挙げた。

守備兵「殿! 李通隊、こっちに進路を向けて進軍してきます!」
金 旋「なんとっ!?」

金旋ぴんち
李通軍、吶喊

見間違いではなく、李通隊は本当にこちらに向かってきているのだ。
それが何故なのかは金旋にはわからなかった。
この戦いで、この港を取ること自体は、何ら意味がないからだ。
よもや自分がいるから狙われたなどとは夢にも思っていない。
だがひとつだけ言えることは……。

金 旋「や、やばいぞ!
    まだ襄陽からの兵が到着してないってのに!」

湖陽の兵は現在、5千。
兵を減らしたとはいえ、李通隊は井闌を中心とした
施設攻略向きの兵が1万以上いる。
まともに攻撃を受けては10日も持たないだろう。

金 旋「と、とにかく守りを固めろ!
    援軍が来るまで持ち堪えるのだ!」

この李通隊の動きを、魏延隊・李厳隊とも察知。
なんとか李通隊を止めようと攻撃をかける。

   韓遂韓遂    金目鯛金目鯛

韓 遂「騎馬よ、大地を踏みにじれ! 突撃ぃっ!」
金目鯛「おお、韓遂どのの突撃か。見事だ」
刑道栄「かっこええ……あんなふうに活躍したいなあ」

(金目鯛・刑道栄、突撃を習得)

だがその韓遂の突撃や蛮望の突進、李厳の奮闘を受け続けても、
なお李通隊は方向を変えずに湖陽港へと襲いかかった。
まるで、李通の意地が隊に乗り移ったかのようである。

李 通「うらぁ金旋! どこだぁーっ!」
金 旋き、キタ━━━(;゚Д゚)━━━!
    い、いかん、身を隠さねば……」
郭 淮「金旋を探せ!
    金旋は具羅参をしており、その足は短足だぞ!」
金 旋誰が短足だあーーーっ!
郭 淮「あの怒り方は間違いない! あれが金旋だ!」
    よし、あそこに向かって矢を撃ちこめ!」
金 旋「げっ、しまった」

郭淮の騎射により、無数の矢が降り注ぐ。
金旋は施設の中をちょこまかと動き回り、なんとかかわした。
だが、その攻撃で港の守備兵はほとんど倒されてしまう。

金 旋「い、いかんぞ、兵がいない!
    これでは耐えきれん……」
李 通「覚悟しろ金旋!
    今までの恨み、ここで晴らしてくれん!」
金 旋「い、いやぁぁぁぁ! 堪忍してぇぇぇぇ!」
李 通「いーや、とっ捕まえて犬のウンコ食わしてやるわっ!
    いやいやそれだけではないぞ!
    簀巻きにした上で肥溜めに突き落し、
    息をしようと顔を出した所に俺の小便をひっかけてやる!」
金 旋「ひぃぃぃぃ! なんて下品な〜っ!」

まさに守備兵が全て倒されようとしたその時、
港に劉埼隊の船団が到着した。

劉 埼「殿! 只今到着しました!」
金 旋「お、おお、劉埼! 遅かったじゃないかぁ〜!」
劉 埼「そう言わないでください。
    これでも必死に漕いできたんですから。
    とにかく兵1万、確かに届けましたよ」

劉埼はそういうと、帰りの船に乗りこんで去っていった。

金 旋「さーて、これで形勢逆転だな……」
李 通「……えーと」
金 旋「さーて李通君?
    先ほど言った台詞、もう一度言ってくれないか」
李 通「えっ、い、いや、二度も言うほどのことでは……」
金 旋「いやいや、最近歳のせいか耳が遠くなってね。
    もう一度はっきりと聞いておきたいのだよ。
    で、なんだったかな?」
李 通「あ、あはははは、嫌だなあ!
    『金旋どのは敵にしておくのが勿体無い位ナイスガイだ』
    って言ったのさ!」
金 旋「ン〜ン? 犬のウンコがどうこうと言わなかったかね?」
李 通「そ、それは、金旋どのに比べたら、
    俺なんて犬のウンコのようなものってことだよ!」
金 旋「そうかァ〜、そんな犬のウンコのような君だ、
    捕まえて簀巻きにして肥溜めに突っ込んで、
    息をしようと顔を出した所を小便ひっかけても、
    全く問題はないよなァ〜?」
李 通「ぐ、ぐぬぬぬぬ」
金 旋「フン、決着がつく前に大口を叩くから、
    そういうことになるんだ」
李 通「じ、自分だって堪忍してぇ〜とか言ったくせに!」
金 旋「はて、最近物忘れがひどくてな。そんな覚えはないな」
李 通「……ボケジジイが」

その李通の呟きを聞き取った金旋は、
李通隊を包囲している魏延・李厳の隊に命を下した。

   魏延魏延    李厳李厳

金 旋魏延! 李厳! やーっておしまい!
李 厳「アイアイサー!」
魏 延「ポチっとな〜!」

李通隊は三方より攻撃を受け、全滅した。
李通や郭淮などの将たちは許昌へと脱出したが、
金旋軍は多数の負傷兵を捕虜とし、自軍へと組みこむのであった。

これで金旋軍は、許昌の李通軍を誘き出し叩くという
当初の目的は果たしたことになる。
だが、馬騰軍・劉璋軍による予想外の侵攻を許し、
また自らを敵の標的にされながらの薄氷を踏む勝利に、
金旋は反省する他なかった。

依然、馬騰軍・劉璋軍の侵攻は続いており、
将たちも勝利の酒を飲む暇もなく、すぐに救援に向かわねばならない。

果たして、彼らは襄陽や武関を守りきることができるのであろうか?

次回へと続く。



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