○ 第四十八章 「完璧奇襲謀略大作戦」 ○ 
214年2月

金旋はまだ前回のショックを引きずっていた。
無理矢理やられたとはいえ、
こともあろうか、オカマと事に及んでしまったのである。
それをすぐ忘れろというのはかなり無理な話だろう。

とはいえ、彼も人の上に立つ身、
いつまでも落ち込んでるわけにもいかない。

   金旋金旋    金玉昼金玉昼

金 旋「ようするにあれだな。
     前向きに考えることにしよう」
金玉昼「……は?」
金 旋「いや、こっちの話。
     そうだよ、相手がオカマだから良かったのだ。
     ホモのままだったら自らの菊花も壮絶に散っていたはず、
     それを考えれば別に……ぶつぶつ」
金玉昼「……なんだか知らないけど、
     何か必死に自分の心を誤魔化そうとしているのかにゃ」
金 旋「ダメだ……_| ̄|○
    やっぱり考えるたびに気持ちが沈む……」
金玉昼「あ、落ち込んだ」
金 旋「こういう時は茶でも飲んで気を休めた方がいいな。
     町娘ちゃーん、お茶を……。
     あれ、下町娘ちゃんは?」
金玉昼「あー、なんか宅急便が来たみたいで、
     それの受け取りに行ったにゃ」
金 旋「なにっ……宅急便!? それはいかん!
     ちょっと行って来る!」

金旋は何やら掴むと、ダッシュで部屋を出ていった。

金玉昼「……? 落ち込んだり走り回ったり、
    さっぱりよくわからんにゃ」

   下町娘下町娘

黒猫倭「毎度どうもです、宅急便のお届けに参りました」
下町娘「ご苦労様です」
黒猫倭「ここに印鑑かサインお願いします」
下町娘「じゃ、サインで……」

 『まてぇい!』

金 旋「そのサインちょっと待った!」
下町娘「な、なんですか金旋さま、いきなり」
金 旋「ここにハンコあるから、是非これを押したまへ」
下町娘「……って、これこないだ貰った
    中郎将の印綬じゃないですか!」
金 旋「まーまーいいから。ほい、ペッタン、と」
黒猫倭「はい、確かに。じゃ、失礼します。
    あ、割れ物みたいなんで注意してくださいね」

金旋は小さい小包を受け取った。

下町娘「全く、バチアタリなことして……」
金 旋「いいじゃないか、道具は使ってこその道具よ」
下町娘「見せびらかしたいだけでは?」
金 旋「まあそうともいうな。
    ……しかし、割れ物なんて誰からだ?」
下町娘「送り主は夷陵の鞏志さんですね」
金 旋「どれ、開けてみるか……。
    おお、なんかプチプチに包まれたなにかが出てきたぞ」
下町娘「手紙も入ってますね、読みます?」
金 旋「おう」
下町娘「えーとですね……。
    夷陵にて珍しい宝が出土しましたのでお送りします。
    何氏(和氏)の璧です。壊さないようにしてくださいね。
    ……だ、そうです」
金 旋「おおっ……これが何氏の璧かっ!」


   
   ピカピカピーン

下町娘「へぇ……綺麗ですね」
金 旋「そりゃそうだろう、
    これを巡って戦争が起きそうになるくらいだからな」
下町娘「へーっ」
金 旋「『完璧』の由来にもなってる話さ。
    興味があったら調べてみるといい。
    ……しかし、戦国時代の趙の国が持っていたはずだが、
    それが夷陵から出てくるなんてな……」
下町娘「でもこれ、『出土したので』って書いてありますけど。
    鞏志さん、遺跡発掘でもやってるんですか?」
金 旋「さあ……それは知らんな」

何氏の璧は、金旋の宝物庫に入れられた。

金 旋「というわけで、これは何かの吉兆と思う」
金玉昼「……は?」
金 旋「だーかーらー、何氏の璧が俺の元に来たのは、
    何かいいことある前兆だろうってーの!」
金玉昼「ちちうえ……熱あるんじゃないかにゃ?
    普段は吉とか凶とか、そんなこと言わないのに……」
金 旋「あー、その、つまりだな。
    そういうのにかこつけて行動を起こしたいってだけだ」
下町娘「なんだ、最初からそう言えばいいのに。
    何事かと思いましたよ」
金玉昼「普段とかけ離れた言動するから誤解を受けるのにゃ」
金 旋「……俺、君主だよな? 偉いんだよな?」
下町娘「何当たり前のこと言ってるんですか?」
金 旋「や、なんとなく再確認してみたかったんだ……。
    じゃ、気を取り直して、コホン」

一呼吸おいてから、金旋は話し始める。

金 旋「我が軍の当面の敵は曹操軍だ。これは言うまでもない。
    そして長安が馬騰軍の手に落ちた今、我が領に接するのは
    許昌、洛陽の2都市である」

宛周辺
宛周辺地図

下町娘「一応、汝南も隣接都市ですけど?」
金 旋「そこは遠いから今は忘れておくように。
    ……でだ、我が軍が次に狙うのは、セオリー通りなら許昌だ」
金玉昼「許昌を落とせば洛陽・汝南・陳留への進出が可能になり、
    宛・新野へ侵攻されることがほとんどなくなるからにゃ」
金 旋「当然、曹操軍もそう思っているはずだ。
    事実、許昌の兵が4万ほどなのに対して、
    洛陽は現在は1万ほどしかいない。
    まあ、これは長安が取られて日が浅いというのもあるが」
金玉昼「ちちうえ、まさか……」
金 旋「そこでだ。この虚を突き、洛陽を攻めようと思う」

洛陽吸収
洛陽急襲

金玉昼「無謀にゃ! 他の堅城には見劣りはするけれど、
    洛陽の防御力だって並じゃないにゃ!
    戦いが長引けば周りの都市から続々と援軍が届くし、
    それに許昌が宛・新野へ侵攻する恐れがありまひる!」
金 旋「その意見はもっともだ。
    だから、これは完全な奇襲作戦とし、
    時間内に落とせない場合は即座に退却させる」
金玉昼「その間にも許昌が軍を出したら!?」
金 旋「それだ。俺の狙いがまさにそこにあるとしたら、どうする?」
金玉昼「えっ……」
金 旋「その許昌から出てくる軍を叩くのが、真の目的だとしたら?」
下町娘「……どういうことですか?」
金 旋「洛陽を攻めるのは陽動作戦だってことさ。
    あくまで、許昌を攻め取るのが第一。
    だがそれには、許昌を弱体化させねばならない。
    そのためには……」
下町娘「わざと隙を見せ、おびき出して叩く、と……」
金 旋「そういうこった」

洛陽吸収
陽動・挟撃

金玉昼「……戦術としては、なかなかのものだと思うにゃ。
    でも、少し急ぎ過ぎる気がしまひる。
    もう少し戦力が整ってからでも……」
金 旋「いや、洛陽の守備が薄い今が最大のチャンスだ。
    時を置けば、洛陽も次第に兵を増やすはず。
    そうなるともう、この作戦は使えない。危険ばかりが増す」
金玉昼「……むー」
下町娘「今までは正攻法で戦ってきてたじゃないですか。
    兵力充実させてから、大兵力で攻めるのはダメなんですか?」
金 旋「……俺としてはとにかく早いうちに、
    忘れるきっかけを作りたいんだよな」
下町娘「忘れる? 何をですか?」
金 旋「いや、なんでもない。
    とにかく、この作戦を実行するぞ。
    修正箇所はあれば直すが、異議は認めん」
金玉昼「じゃ、提案。洛陽奇襲部隊は1部隊のみ、兵は2万5千まで。
    これで宛には3万5千の兵が残り、不測の事態に対処できまひる」
金 旋「あまり兵を残すと、許昌から出て来ない可能性があるが……」
金玉昼「単独で守れない兵力にしとくのは危険にゃ。
    来なきゃ来ないで洛陽への攻撃を継続すればいいにゃ」
金 旋「まあ、そういうことならいいだろう」
金玉昼「奇襲部隊は弓騎が得意な将を配置し、錐行陣とする。
    また、田疇さんを配置し道案内にすること。
    これで機動力が確保されてすぐ帰ってこれるし、
    敵の計略に引っ掛かることもないにゃ(※)

(※田疇は教唆持ちなので偽報・撹乱に引っ掛からない)

金 旋「うむ、いいだろう」
金玉昼「で、最後に。この作戦の発案者は?」
金 旋「魏延と韓遂……あ、やべ」
金玉昼「……ふーん。魏延さんが洛陽急襲を提案、
    韓遂さんが修正して許昌の軍のおびき寄せに使うようにした。
    こんな感じかにゃ」
金 旋「……まるでその場にいたように言うんだな、その通りだ」
金玉昼「一応は軍師なのだから、将たちの分析くらいできまひる」
金 旋「だが、それを決めたのは俺だから、2人は責めるなよ。
    雑談の中から出た話だからな」
下町娘「あ、さっき3人で話してたのはそれですね。
    ……そうですよねー! 金旋さまが、
    そんな細かい作戦思いつくはずはないですもんね」
金 旋「そこ、さらっと酷いこと言わないように」
金玉昼「別に2人を責めるつもりはないけど……。
    何か嫌な予感がしまひる」
金 旋「大丈夫だって。奇襲部隊はすぐに戻させるし、
    許昌から出てこなくても、こっちに被害は全くない。
    実にぱーふぇくつな作戦だろが。
    明確にどこがヤバイ、というのはないだろ?」
金玉昼「んー、確かに……」
金 旋「じゃあ、決まりな!
    作戦名は『完璧奇襲謀略大作戦』でいこう。
    完璧な内容と何氏の璧を引っ掛けた、いいネーミングだろ」
金玉昼「だっさ……」
下町娘「知性が疑われる名前ですね」
金 旋う、うわぁぁぁん! いぢめだー!

お世辞を言わないことがいぢめなのかどうかはおいといて、
すぐに作戦は発動された。

奇襲部隊の隊長は鞏恋。副将は秦綜・謝旋・呂曠・田疇。
率いる兵は2万5千、騎馬を中心とした隊だ。

   魏光魏光

魏 光「な、なぜ自分は隊に入れてもらえないんですか!?」
金 旋「お前、弓騎兵は使えないだろ。
    騎射や飛射とかを使えないと参加させられないぞ」
魏 光う、うおぉぉぉん!
金 旋「いや、そんな血の涙を流されてもな」

泣き崩れる魏光をよそに、鞏恋隊は潁川を通って洛陽を目指す。
陽動が目的ではあるが、可能ならばそのまま攻め落とそうという
本気の部隊である。

さて、それに対する洛陽。
ここでは、鞏恋隊の接近が報じられるやいなや、
天地をひっくり返したような騒ぎとなった。
何しろ、天下の漢の王都である。
そこへ攻め入るということ自体、ただ事ではないのだ。

民 A「なんでも金旋軍は、裸になって踊るような変態揃いらしいぞ」
民 B「金旋本人はヤクザらしいし、
    配下もコワモテの連中ばかりらしい」
民 C「でも民のために孫の手をくれるらしいぞ?」
民 D「んなもん何の役に立つんだ?
    背中でも掻いてろってか?」

逃げ出す者は流石にいなかったが、
洛陽の民たちは不安にかられるようになっていた。

やがて、鞏恋隊は洛陽城の見えるところにまで到着。
鞏恋は田疇と共に、城の様子を観察する。

   鞏恋鞏恋

鞏 恋「あれが洛陽……」
田 疇「はい。漢の王都、洛陽にございます」
鞏 恋「兵は報告通り1万くらいだね」
田 疇「その様ですね。しかし洛陽の防御はなかなか堅いです。
    ふんどしを締めてかからねばなりませんな」
鞏 恋「私はふんどしじゃないけど。
    とりあえず、攻撃の準備を……」

『よく来ましたね金旋軍の将兵たち!
  しかし、この城は渡しませんよ!』


そんな声と共に城壁の上に現れたのは、洛陽太守の諸葛亮であった。
彼は長安にいたのだが、馬騰軍が陥落させた後、
こちらへ逃げてきたのである。
他に頼れる武官もおらず、彼は一人で迎撃の用意を整えていた。

   諸葛亮諸葛亮

鞏 恋あ、変態軍師
諸葛亮ふっ、誰が華麗な蝶ですって?
田 疇「昆虫の変態の方の意味で取ってますね……。
    ボケてるのか厚かましいのかどっちでしょう」
鞏 恋「蝶でもあながち間違いじゃない……。派手好きみたいだし」
諸葛亮「ふふふ、私の華麗さに惚れてしまってはいけませんよ。
    あなたは私の敵なのです。
    まあ、私の元へ来るというのなら拒みは致しませんが……」
鞏 恋「……射っちゃっていい?」
田 疇「どうぞ」

 ヒュンッ

諸葛亮「おおっ!? なんて危ない……。
    当たったらどうする気ですか!?」
鞏 恋喜ぶ
田 疇「うわぁ」
諸葛亮「ふ、そう照れなくとも結構です……。
    今ならまだ間に合います、我が軍に鞍替えなさいませんか」
鞏 恋「断る。全軍、攻撃開始!」

鞏恋の号令で、鞏恋隊は洛陽城に襲い掛かった。

諸葛亮「やれやれ、せっかちな方だ……。
    ……落石用意! 城へは一兵足りとも入れるな!」

洛陽の守備兵は1万と少ない。
だが、洛陽城には落石装置がついており、
近付く敵部隊にホーミングで石が飛んでいくのであった。

襲い掛かる鞏恋隊、それを防ぐ諸葛亮以下洛陽守備兵。
果たして決着はつくのだろうか?

    ☆☆☆

さて、場所は変わって許昌。

この都市に本拠を置く、曹操軍第三軍団。
その長である李通は、自室ですっぽんぽんになり、
鏡に向かって唄いながらポージングをしていた。

   李通李通

李 通ビルドアーップ♪
    バンバンバン、ビルドアッープ♪
    バンバンバンバン……♪」
???「お父様、こちらですか……キャー!」
李 通「ぎゃー! ノックくらいせんか馬鹿者!」

   李通万億

彼女は李通の娘、万億。
万億というのは字であり、名は別にあるのだが、
諸事情あって今のところは字で表記することにする。

万 億「も、申し訳ありません!
    まさか裸踊りをしているとは夢にも思わず……」
李 通「誰が裸踊りなどしてるか!」

赤面しつつ下着を履きながら、
李通は背を向けている万億に言い返した。

李 通「よし、履いたぞ。こっち向いてよし」
万 億「は、はい……裸踊りではないなら、何を……」
李 通「ポージングの練習だ」
万 億「……(裸踊りとどう違うのだろう……)」
李 通「で? 何か用があったのであろう?」
万 億「は、はい。荀域さまがいらっしゃってます」
李 通「荀域どのが? 何用であろう?」
万 億「金旋軍が洛陽へ向かっているので、その対策を……と」
李 通「ふーむ、洛陽に金旋軍が……ってナニィー!?

着心地が悪かったのか、下着を直していた李通は、
驚きのあまりその手を離してしまう。

 ハラリ

万 億きゃあーーーーっ!?

 パッシーン

   荀域荀域

荀 域「おお、李通どの……お?
    どうされましたか、その頬の紅葉跡は?
李 通「いや、何でもない。
    気にせんでくだされ……というか聞かんでくだされい」
荀 域「はあ」
李 通「で、金旋軍が洛陽に向かったとか」
荀 域「はい、物見の話ではその数2万5千。
    旗から判断するに大将は鞏恋、騎馬中心の隊でした」
李 通「……なるほど。この許昌を捨て置き、
    洛陽を一気に落とそうというのか」
荀 域「いかが致しましょうか?
    洛陽の守備は微妙なところです、援軍を出しますか」
李 通「いや、それは後方の都市に任せましょう。
    ……それよりも」
荀 域「なんでしょう?」
李 通「宛の兵が減った今が好機。
    出撃し敵の城を攻めようと思いますが」
荀 域「いや、それはお待ちを!
    宛を攻め落とすだけの兵は許昌にはおりません!
    また、攻めている間に敵の部隊が戻り、
    挟撃の憂き目に遭いますぞ!?」
李 通「誰が、宛を攻めると言いましたかな?」
荀 域「え?」
李 通「狙いは新野でござるよ」
荀 域「……新野!?」
李 通「金旋軍は新野にいた兵を引き揚げ、宛に入れた。
    今、新野の兵は2万。
    先の戦いで見せた我が部隊の力、再び発揮すれば、
    この程度はどうということはない数でしょう」
荀 域「しかし……ここで兵を失えば、
    この許昌の守りも危うくなります」
李 通「兵は徴兵すれば増える。だが城はそうはいかない。
    いわば、新野は金旋軍の生命線だ。
    ここを取ってしまえば、宛への補給は滞り、
    西城・江夏などとの連携ができなくなり、
    その結果、我が軍が有利となる」
荀 域「……で、本音は?」
李 通「防戦するだけじゃ大した手柄にはならん。
    城を落としてこそ大手柄……あわわ」
荀 域「……はあ。仕方ありませんね」
李 通「まあ、そういうことでひとつ……。
    軍団長たる李通が命じます。新野攻めの隊を編成しますぞ」
荀 域「わかりました……」

李通は許昌にて部隊を編成、新野に向け出撃させる。
自らを大将とする隊1万5千と、
髭髯龍を大将とする隊1万、合計2万5千。
兵力は若干少ないものの、攻城兵器の井蘭を揃え、
また郭淮・髭髯豹・髭髯鳳といった有能な将を従えており、
油断ならない戦力であった。

新野出撃
李通軍、新野へ出撃

果たして、金旋軍は作戦通りに李通軍を倒せるのだろうか?


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