213年3月
宛城周辺
3月に入っても、金旋軍の宛城攻めは続いていた。
鞏恋隊のほか、魏延隊、霍峻隊も、攻撃の手は緩めない。
甘寧隊もまた、許猪の守る城壁に向かって攻撃を仕掛けていた。
そんな時、新野より費偉が陣中見舞いに訪れた。
甘寧
費偉
甘 寧「新野より酒を持ってきた?」
費 偉「ええ。戦ってる兵たちを激励しようと思いまして」
甘 寧「なるほど、これで兵たちの士気も上がろう」
費偉の激励により、甘寧隊は士気が高揚した。
黄祖
李厳
黄 祖「おおっ、酒か! よーしまずはワシが味見を……。
……ぷはー! 美味い!」
李 厳「黄祖どの、こういうのはまず大将からというのが決まり……」
黄 祖「別に構わんじゃろーが! ほーれ酒を配るぞー! 並べー!」
黄祖の前にぞろぞろと兵たちが並び始めた。
それを見てため息をつく甘寧。
甘 寧「やれやれ。俺はまだ許可してないんだがな……。
しょうがない、ちょっと灸を据えるか」
費 偉「ははは、お手柔らかにお願い致しますよ」
甘寧は費偉に笑って手を振り、黄祖の側へと向かう。
甘 寧「黄祖、ちょっと付き合え」
黄 祖「なんじゃ、皆に酒を配るところなんじゃが……」
甘 寧「酒の前に少し運動してくるぞ。ついてこい」
黄 祖「……なんじゃい、久しぶりの酒だというのに」
甘 寧「なに、運動してからの方がすぐ酔えるぞ」
黄 祖「運動?」
甘 寧「よーし、お前らもちょっとこーい。列は崩さずになー」
甘寧は並び始めていた列を誘導し、隊列を作り始めた。
酒が貰えると期待していた兵たちは、不思議そうな顔で並んでいく。
黄 祖「なんじゃ、この隊列は」
甘 寧「これから城に攻撃をかける。その隊だ」
黄 祖「な、なにぃ〜!?」
兵 A「そ、そりゃないっすよ大将!
酒くれるって言うから並んだのに!」
甘 寧「はっはっは、一発かましたらすぐ戻ってくる!
その後、たっぷり酒を飲ませてやるぞ!
各自、弩と矢をとっとと用意しろ!」
兵たちはバタバタと準備をする。
準備が整うと、甘寧を先頭に即席の攻撃隊は城へ向かって進撃し始めた。
さて一方、城壁にいる許猪は、近付いてくる甘寧たちを見つけた。
許猪
許 猪「あんだぁ? あんな少数で何する気だあ?」
甘 寧「よし、だんだん足を早めろ。合図と同時に弩を放て!」
黄 祖「ハァハァ、徒歩で行軍するのは、この歳では辛いんじゃがのう」
甘 寧「泣き言は後ほど酒の席にて聞こう!」
やがて隊は皆、全力疾走で城壁へと向かってくる。
その様子を見て、許猪は慌てた。
許 猪「あ、あいつら、このまま城壁を登ってくるつもりかぁ?
ええい、石を落とす用意をしろぉ!」
甘 寧「今だ、矢を放て!
そのまま城壁間際で方向転換、離脱する!」
甘寧の号令とともに、各員が矢を放つ。
全力疾走中の射撃のため大した狙いはつけられてなかったが、
それでも慌てていた許猪隊の兵は、矢を受けて次々に倒れていった。
許 猪「うむうー、裏をかかれたぁ! 甘寧めぇ!」
黄 祖「ハァハァ、もう目が回るぅー! うりゃー!」
軽い酸欠状態になりながらも、黄祖は弩の引き金を引いた。
全然狙いも何もなかったが、ばしゅ、と放たれたその矢は、
ちょうど背中を見せていた許猪のケツに
ブスリと突き刺さった。
許 猪「ひぎぃぃぃぃ!」
その許猪の悲鳴を聞きつけ、近くにいた曹仁が飛んできた。
うつ伏せに倒れた許猪の尻に、矢が真っ直ぐに突き刺さっている。
曹仁は一瞬だけその姿に可笑しさを覚えたが、
すぐに許猪の身を案じて駆け寄った。
曹仁
曹 仁「きょ、許猪! しっかりしろっ!」
許 猪「し、尻に穴が開いたぁ……」
曹 仁「気をしっかり持て許猪! 穴は最初から開いている!
というか穴にホールインワンなだけだ!」
許 猪「い、いでぇ……いでぇよぉ……」
曹 仁「待ってろ、こんな矢などすぐに抜いてやるぞ! ふん!」
ブチブチ
許 猪「あひゃぁあああっぁあぁ!」
許猪は重傷を負った。
一方、甘寧と黄祖たちはそのまま離脱、本隊に合流する。
残っていた費偉と李厳は手を叩いて彼らを出迎えた。
費 偉「いや、見事なものでした。
甘寧どのの指揮、そして黄祖どのの狙撃。
いずれも素晴らしかったですぞ」
李 厳「うむ、敵も虚を突かれたようでバタバタしていたな」
甘 寧「ははは、そう褒めるな」
黄 祖「ぜえ、はぁ、ふう、ひい」
李 厳「……疲れましたか、黄祖どの」
黄 祖「ふう、うむ、はあ、この歳で、ひい、全力疾走は、
へえ、疲れるぞ、ふぅ」
費 偉「ずっと徒歩でしたし、無理はありません」
甘 寧「さて、それでは約束通り皆に酒を振舞おうか。
まずは軍功第一、敵将を狙い撃った黄祖に一献」
黄 祖「ぜぇ、はぁ、ち、ちと、待たんかい、
これでは、酒など、の、飲めぬわ」
甘 寧「なんだ、歳寄りみたいに息など上げおって」
黄 祖「『みたい』じゃなくて、実際に歳寄りなんじゃ!
もう66歳なんじゃぞ!」
李 厳「黄祖どのは我が軍の最年長の将ですからな」
甘 寧「そうか、それではまずは俺が飲もう。
……んぐっんぐっ……ぷっはー!
よーし、お前らにも分けるぞ! 一列に並べ!」
李 厳「黄祖どの、甘寧どのは51歳なのですぞ」
黄 祖「な、なに? もっと若いのかと思っていたが……」
李 厳「40代、いや30代でも通りそうですが。タフですな」
黄 祖「……むう。しかし、酒の飲み比べならばワシも負けんぞ!
息もようやく静まったしな! さあ、バケツ一杯に酒を貰おうか!」
費 偉「あ、申し訳ありません、ちゃんと列に並んでください」
黄 祖「……列?」
見ると、分配を待つ列が、ズラッと並んでいた。
だいぶ向こうのほうに、『酒分配 最後尾こちら』という板が見える。
黄 祖「……これに並べと?」
費 偉「すぐ貰いたいのは皆一緒です。
将軍への分配は多目にしますから、順番は守ってください」
黄 祖「わかったわかった……」
酒を振舞われ、甘寧隊の士気は上がった。
同じように、鞏恋隊や魏延隊にも届けられ、金旋軍は総じて士気が向上。
攻める勢いを増し、宛城へ襲い掛かるのだった。
さて一方、宛城内の士気は、あまり芳しくはなかった。
すでに兵数は3千を割り、陥落は間近といった雰囲気である。
関羽
馬良
関 羽「許猪が重傷だと?」
馬 良「はい。矢を急所に受け、指揮が取れません。
また、馮習も狙撃を受け傷を負い、指揮に影響が出ております」
関 羽「むう……ならば、牛金を許猪の担当部署に回すように。
また、馮習の代わりには田疇を。
許猪どのは重傷ならば後方に逃がした方がいいかもしれんな」
馬 良「はっ……」
関 羽「まだ、何かあるのか?」
馬 良「このままならば、この宛城は落ちます」
関 羽「そうであろうな……敵の攻撃は厳しく、援軍の来る気配もない。
遠からず、落城するであろう」
馬 良「関羽将軍、ここまで戦えば十分です。金旋軍に降りましょう。
関羽将軍ほどの将であれば、必ず厚遇してくれるはずです」
関 羽「言うな。今は私は曹操様の将だ。それは私の義に反する」
馬 良「しかし……」
関 羽「やめい! それ以上言うのなら、お主の首を斬らねばならん」
馬 良「……はっ」
関 羽「私は降らんが……他の者は自分で考え、好きにすればよい。
私は止めぬ」
馬 良「将軍……」
関 羽「お主も、元は劉埼配下であったのを戦で捕らえられて、
仕方なく曹軍についたのだろう。
荊州の兵たちとの戦いで嫌気が差すのも無理はない」
馬 良「……関羽将軍のお気持ち、ありがたく思いまする」
関 羽「だが、ここが落ちるまでは曹操軍の将だ。しっかり働け。
手抜きは許さんぞ」
馬 良「はっ、承知いたしました」
3月中旬、ついに宛城は陥落する。
関羽、曹彰、許猪は脱出に成功したが、
その他の将たちは金旋軍に捕らえられた。
捕縛された将は、曹仁・馬良・牛金・田疇・馮習・申儀・蔡中・何晏。
後ほど、曹仁以外の者たちは全て金旋軍に組み込まれた。
これは、曹操軍の勢いが衰えていることも一因だが、
金旋軍が一大勢力となってきたことが最大の要因であろう。
……さて、宛城陥落の報は、曹操の元にも届く。
現在、彼は本拠である陳留へ侵攻してきた孫権軍と戦っている最中であった。
曹操
曹 操「……流石、と言うべきか。不甲斐ない、と言うべきか」
???「どちらとも言えますが……最大の要因は、連携の悪さにあるでしょう」
ひとりごちる曹操に、誰ぞ声を掛ける者。
その人物は、曹操の一番信頼する軍師であった。
曹 操「……起きていて大丈夫なのか? 郭嘉」
郭 嘉「はい。今日は調子が良いので、散歩がてらご挨拶に」
郭嘉は病を患っていた。すでに、余命幾許もない。
だが、彼は療養することよりも、曹操の傍にあることを選んだのだった。
少しでも長く曹操と共に在りたい……と彼の純粋軍師の魂が思ったのだろうか。
曹 操「あまり無理するなよ。……で、連携の悪さとは?」
郭 嘉「新と旧とが噛み合っておりません」
曹 操「新と旧……譜代と外様か」
郭 嘉「関羽に軍団を持たせたのは少々早かったかもしれません。
今回の荊州失陥は、彼と譜代の将との軋轢に原因があると見ます」
曹 操「確かに、許昌が汝南へ兵を出さなければ、宛への援軍は送れたな。
李通も、関羽に含むところがあるのか」
郭 嘉「殿の関羽に対する厚遇ぶりを見れば、
皆、大なり小なり同じような感情は抱きます」
曹 操「……そうは言うがな。だが、関羽以上の将もそういないぞ」
郭 嘉「ええ。ですから、早かったと申しました。
関羽にはしばらく軍団は預けず、他の軍団長の元で働かせるべきかと」
曹 操「そうだな……憶えておく。
しかし、金旋の勢力も大きくなったな」
郭 嘉「確か、彼の武陵太守への派遣は殿自ら決められたのでしたな」
曹 操「そうだ。劉表に対する牽制のためだ」
郭 嘉「それが今では劉表以上の強敵に……。失敗でしたな」
曹 操「フフフ、予想外のことは起こるものよ」
郭 嘉「……喜んでおられるのですか? 彼の台頭を」
曹 操「私を誰だと思っている? 乱世の姦雄、曹操孟徳だぞ。
私に対抗しうる強敵が現れたのだ、実に楽しいことこの上ない」
郭 嘉「孫権よりも金旋の方が、手強いとお思いですか?」
曹 操「孫権の勢いはすでに失われつつある。
この陳留を攻めるのにも、守備の兵を無理に減らして、
その分を注ぎ込んできてるわけだからな。
だが金旋は、一見すると兵力の一極集中を図っているが、
その実、常に守備を考えて兵を置いて、着実に一歩一歩進んでいる。
長い目で見たときに、どちらが脅威かは明らかだ」
郭 嘉「確かに……。
常に国境沿いの城には、2万以上の兵を置いておりますな」
曹 操「もう一度、奴と顔を合わせてみたいものだ。
どのような顔つきになっているのか、非常に興味がある」
郭 嘉「やれやれ、殿にも困ったものですな。
……まあ、そういうお方だからこそお仕えしたのですけれども」
曹 操「感謝しているぞ、郭嘉。
お前のような男を軍師にできて、俺は幸せ者だ」
郭 嘉「いえ……道半ばで退場せざるを得ない私を、どうかお許しを」
この後、曹操軍は陳留を守りきり、孫権軍の主力軍も撃破する。
だが、その後すぐに軍師郭嘉が病没。まだ44歳であった。
しかし悲しみにくれる間もなく、曹操は軍備を整え、
孫権に奪われた都市の奪還を開始する。
このすぐ後に、許昌からの遠征部隊が汝南を奪還。
孫権軍に攻められ続けていた曹操軍が、逆襲を開始した瞬間であった。
曹操軍汝南奪還
さて、話は金旋軍に戻る。
3月下旬。
ついに荊州統一を果たした金旋は、博望砦より宛へ入城した。
金旋軍将兵、そして宛の民も、金旋の到着を歓迎する。
金旋
金 旋「とうとう、荊州全土を平らげたぞ、軍師……」
荊州平定
感慨深げに、空を見上げる金旋。
彼の目には、そこに軍師劉髭の顔が映って見えているのだろうか。
苦難の武陵時代。試行錯誤の荊南統一戦。
対劉表劉埼戦、そして曹操軍との戦い。
その中で矛を交えた者、散っていった者。
そしてそれ以上に彼の元に集った者。
それぞれに思いを巡らし、彼はまた決意を新たにした。
金 旋「俺はまだまだやるぞ。全てを平らげるまで突き進む。
そう、覇道だ。これが俺の進むべき道だ。
見ていろ、軍師。
あんたが俺に見た夢、絶対に現実にしてみせるからな!」
そう叫ぶと、高々と拳を突き上げ咆哮をあげた。
それに、将たちが、兵たちが、民たちが続く。
地を揺るがすほどの何千、何万もの唸り声。
彼らの決意のほどを表わすかのごとく、力強さに満ち溢れていた。
☆☆☆
そう、それは新たなる時代の息吹……。
こうして荊州を統一した彼らは、また新たな戦いへと身を投じるのでした。
でも、それを語るのはまたの機会に。
それまで、しばしのお別れです。
さようなら、そしてありがとう。
中華英雄伝説 金旋立志伝
−完−
皆さん、長い間応援ありがとうございました。
来週からは新番組
「究極桃尻天使 BAN=BOW!!」
が始まります。どうぞお楽しみに!
<次週予告>
私、望はごく普通の、だけどちょっぴり恥かしがり屋の恋するオ・カ・マ。
ずっと片思いの彼を想い、恋焦がれる日々を送ってたの。
だけどある日突然、私の前に言葉をしゃべるウサギさんが現れたのよ!
「今日より君は愛を伝える究極桃尻天使だ!」ですって! 何それぇ〜。
そしたらいきなり、変な人たちが現れて脅迫してきたの!
え? 彼との交際は諦めろ? 我々は同性愛は絶対に認めない?
何よそれ、勝手なこと言わないで! おしとやかな私でもブチ切れるわよ!
……なにウサギさん? 変身して戦え? ステッキを持って呪文を唱えろ?
わかったわ、彼との恋路を邪魔する奴はコテンパンにのしてやるんだから!
ピーチでん部パワー、ビルドアーップ!
究極桃尻天使 BAN=BOW!! 第1話、
「ダメよ、私お尻は弱いの♪」
食らえ、必殺のアナノレスクリーマー!!
あなたたちの精力いただきよ!
金 旋「蛮望! てめえ何を勝手に宣伝やってるかー!」
蛮望
蛮 望「あ、見つかっちゃった。てへ♪」
金 旋「てへ♪じゃねえ! 勝手に終わらせるんじゃねーよ!
それになんだ究極桃尻天使って!?」
蛮 望「来週からの新番組よ〜」
金 旋「まだ言うか!」
金玉昼
鞏恋
下町娘
金玉昼「そんな番組、誰も見ないにゃ〜」
鞏 恋「んー。ちょっと見てみたい気もする。ネタとして」
下町娘「やーめーてー。気持ち悪い〜」
お話はまーだまだ続きます。
終わるだなんてとんでもない。
それでは金旋立志伝、次回「宛の下の力持ち」へ続く。
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