212年10月
『西城陥落』。
この報は、襄陽の金旋の元にすぐさま届けられた。
金旋はその報告を無言で頷き聞いていたが、
その右腕はガッツポーズをしていたという。
間者が出ていった後、金旋は小躍りして喜んだ。
金旋
金 旋「むっふっふ。これで無官返上まであと1つだな!
よーしパパあとひとつコールやっちゃうぞー。
あっとひっとつ!
あそーれ、あっとひっとつ!」
下町娘「……(じー)」
下町娘
金 旋「あっとひ……(はっ)」
下町娘「他勢力の情勢報告に来たんですけど……。
お邪魔でしたね。すいません、また後に……」
金 旋「コホン、何言ってるのかね。
君は何も見ていないし私は何もしていない」
下町娘「はあ」
金 旋「つまり何もなかったのだよ。いいから報告を」
下町娘「……フカヒレの姿煮」
金 旋「は?」
下町娘「フカヒレの姿煮が食べたいなぁ〜」
金 旋「おいおい、フカヒレなんて俺だってめったに食えない……」
下町娘「あ、手紙を書く用事を思い出しましたんで、失礼しまーす」
金 旋「あ゛ー! わかったわかった、あとでご馳走する!
だから待ってくれ!」
下町娘「……約束ですよ?」
金 旋「はいはい、わかったから。んで、報告の内容は?」
下町娘「あ、はーい。東と西で一件ずつですね。
まず一件、東の孫権が北海に続き遼東を陥落させました」
金 旋「は? 遼東? 遼東っつーたら北東の外れだろ?」
孫権、遼東進出
下町娘「その遼東ですよ。お船でどんぶらこっと北上して、
手薄だった港や城を落としたようです。
流石は最強の水軍を抱える孫権軍だけありますねー」
金 旋「うーむ。危うき哉、孫権」
下町娘「え?」
金 旋「孫権のやつ、調子に乗りすぎだな。
兵力比ではまだまだ曹操はトップだ。
その曹操軍に対し、孫権は豫州・徐州・青州に飽き足らず、
海を渡って幽州にまで戦線を拡大している……。
一連の戦いで孫権軍の兵力は減少しているにもかかわらずだ」
下町娘「勝てる時は進むのが兵法なんじゃないですか?」
金 旋「それも場合によりけりだな。
足場を固めないうちに奪ってもすぐ取り返されるのがオチだ。
そのうち、手痛い反撃を食らうだろうよ」
下町娘「ふむー。着実に一歩ずつ、踏みしめて進めと」
金 旋「そゆこと。で、もう一件は?」
下町娘「はい。今度は西の方ですけど」
下町娘「このたび、馬騰軍と張魯軍が合併するそうです」
金 旋「合併、というと中秋節を祝って食べるアレか?」
下町娘「それは月餅です」
金 旋「じゃあ曹操を暗殺しようとした医者か」
下町娘「それは吉平です」
金 旋「その胸に2つついてる柔らかい餅状の物体……」
下町娘「これはおっぱい……って何言わせるんですか!
そういうセクハラ発言するんでしたら、出るとこ出ますよ!」
金 旋「な、なにっ!? 民事!? 民事なのか!?」
下町娘「それが嫌なら自粛してくださいね」
金 旋「はっ、重々承知致しました。
……で、何の話だっけ? やわらかい餅の話?」
下町娘「違います! 合併の話!」
金 旋「ああ、写真ばかり取ってる芸能人か?」
下町娘「それは林家ぺーです……って、それかなり苦しいですよ。
そうじゃなくて2つが1つになるアレですよ」
金 旋「2つが1つに、ということは合体か」
下町娘「馬騰と……張魯が……合体……ハァハァ」
金 旋「おーい」
下町娘「……はっ、いえ何でもないです」
金 旋「ふーん、馬騰と張魯が合併ねえ……」
馬騰・張魯、軍団統合
金 旋「合併後はどう呼ぶようになるんだ?
両方の1字を取って馬魯軍(ばーろーぐん)とか?」
下町娘「なんですか、その変な名前は。
馬騰軍が張魯軍を吸収する形になってますので、
そのまま変わらず馬騰軍ですよ」
金 旋「なーんだ、つまらん」
下町娘「つまらんって……」
金 旋「要はに馬騰が漢中も支配するようになったってだけだろ。
大したニュースじゃないよ」
下町娘「はあ。じゃあ、どんなのが大したニュースなんですか?」
金 旋「そうだなあ、曹操軍が我が領に攻めこんできたとか……」
下町娘「それはまた直接的なニュースですね」
その時、バタバタと劉埼が走りこんできた。
劉 埼「金旋さま! 一大事ですぞ!」
金 旋「おー劉埼。どうしたそんな慌てて。
ピョン吉(※)が誰かに食われでもしたか?」
(※ 劉埼の飼ってる兎の名前。
元が食用なのでまるまる太って美味しそう。ジュルジュル)
劉 埼「笑えない冗談を言ってる場合ではないですぞ!
我が軍の安陽港が、曹操軍に攻撃を受けております!」
金 旋「あ、あんですとぉー!?」
先の西城攻略の際に攻撃拠点として使われた安陽港は、
現在は兵1万程度で守られていた。
そこへ、水路より曹操軍が現れたのである。
逆襲の曹彰
先の戦いで西城を追われた関羽は、上庸港に入り軍団を再編成。
すぐさま攻撃軍を組織し、漢水を遡り安陽港を攻撃させていたのだ。
攻撃艦隊の大将は曹彰。
新野・西城と連続して敗戦を喫して金旋軍に苦渋を舐めさせられた彼は、
その汚名を晴らすべく怒涛の勢いで攻撃を続けるのであった。
射撃に優れる楼船を駆り、矢の雨を降らせる。
曹 彰「撃て撃て! ありったけの矢を撃ちこめ!
我らの怒りを金旋軍にぶつけてやるのだ!」
対する安陽港の守将は張允。
ここには先の関羽軍との攻防で出た負傷兵が多く残っており、士気も低い。
加えて施設内にはまだ先の戦いの傷痕が残り、防御力も低いままだった。
健在な兵が1万いるとはいえ、守り切るのはかなり厳しい情勢であった。
兵 B「敵艦隊の攻撃、止む気配すらありません!」
張 允「ぐぬぬぬ……このままでは落ちる!
救援だ! 西城の魏延どのに救援を請え!」
兵 B「はっ! 急使を飛ばしまする!」
張 允「間に合ってくれよ……え?
わしの台詞これで終わり? もうないの?」
出番を終えた張允をよそに、急使は西城に到着。
魏延に窮状を訴えた。
魏延は軍師金玉昼と協議し、対策を講じる。
まず、甘寧・霍峻らの将に健在な兵の訓練を行わせ、士気を鼓舞させる。
これは西城での攻防で兵たちが疲れ、士気が低下していたためだ。
次に、港への増援として兵1万を黄祖に任せ急行させた。
この増援が港に入れば、しばらくは持ち堪えることができる。
そして、迎撃のための部隊として、
魏延隊1万5千、鞏恋隊1万5千が満を持して出撃する。
魏延隊には金玉昼・金目鯛・楽進・蔡瑁。
鞏恋隊には謝旋・魏光・卞志・卞質が付いた。
甘寧
魏延
甘 寧「くぅぅ、艦隊戦になるんなら俺も行きたかった……」
魏 延「あんたは訓練やったから出られないぞ」
甘 寧「それが納得いかん。お主が訓練、俺が出撃。
水軍を扱うなら、この方がいいではないか」
魏 延「軍師の指示なんだぞ。
そんなに不満なら軍師に聞けばいいだろう」
甘 寧「おお、聞いてやるわい」
甘寧はずかずかと金玉昼が準備をしているところに入っていった。
金玉昼
甘 寧「軍師!」
金玉昼「ん? どったにゃ?」
甘 寧「なにゆえ魏延が出撃で私が留守番なのだ!」
金玉昼「知力の差」
甘 寧「……は?」
金玉昼「今の西城は落としたばかりで民が不安になっていまひる。
それを解消するには巡察が必要にゃ」
甘 寧「ふむ、確かに」
金玉昼「巡察をするには知力の高い方がいい、ということで、
費偉さん、霍峻さん、李厳さん、
そして甘寧さんに残ってもらったのにゃ(※)」
(※甘寧は政治はからきしダメだが知力は高い。
詳細は武将一覧を御覧あれ)
甘 寧「なるほど……」
金玉昼「魏延さんの知力も悪くはないけど、
残してまで内政させるほどのメリットはないから」
甘 寧「しかし、蔡瑁・卞質などは知力が高いぞ。
彼らを連れていく理由は?」
金玉昼「蔡瑁さんは罠兵法が使えて闘艦も扱えまひる。
卞質さんは教唆が使えるから、敵の計略を見破るのに必要にゃ」
甘 寧「ふむ。いや、よくわかった。納得したぞ」
金玉昼「あーい」
納得顔で出てきた甘寧を、魏延が捕まえた。
魏 延「……なんと説明されたのだ?」
甘 寧「ふっ……」
甘寧は鼻で笑うと、ポンと魏延の肩を叩いた。
甘 寧「お主が馬鹿だということだ」
魏 延「なにぃっ!?」
さて、準備の整った魏延・鞏恋の両隊は西城を出て安陽港へ向かう。
安陽港では激しい戦闘が繰り広げられていた。
安陽の防備に途中1万の増援が追加されたが、
それでも曹彰隊に押され、金旋軍の旗色は悪いままであった。
曹 彰「もうすぐ落ちるぞ! もっと矢を撃ちこめ!」
兵 A「曹彰様! あれを!」
曹 彰「む……西城からの軍か。よし、目標を変えるぞ。
港などいつでも落とせる」
兵 A「はっ!」
曹 彰「兵力比ではこちらが不利だな。
敵軍を川におびき寄せ、艦隊戦で決着をつけるぞ!」
曹彰艦隊は幾分後退。
魏延・鞏恋隊が水上へ出る余裕が生まれる。
魏延
楽進
金玉昼
魏 延「ふん、水の上なら勝機もあると思ったか。
それが奴のあかさかさよ!」
楽 進「それを言うなら、あはさかさ、だろう」
金玉昼「……あさはかさ、にゃ」
両隊は共に闘艦に乗り込み、漢水に入った。
曹彰艦隊の楼船は射撃戦用の艦であるのに対し、
魏延・鞏恋艦隊の闘艦は突撃・射撃共にできる万能艦だ。
艦隊戦においては、闘艦の方が戦闘力は優っている。
両軍の艦が入り乱れ、矢の応酬が始まった。
鞏恋
魏光
鞏 恋「各砲座、しっかり狙え!」
謝 旋「はっ!(ほうざって何だろう?)」
鞏 恋「左舷弾幕薄いぞ、なにやってんの!」
魏 光「は、はいっ!(だんまく? だんまくって何?)」
某艦長っぽく命令を放つ鞏恋に、翻弄される鞏恋艦隊の諸将。
だがそれでも闘艦の戦闘力は曹彰艦隊の楼船のそれを上回り、
曹彰艦隊は次第に数を減らしていく。
元より数では曹彰隊の方が分が悪く、勝ち目はなかった。
曹 彰「むうう……。
奴らも水上戦の準備は万全であったということか。
この数の差は如何ともし難い……」
兵 A「曹彰さま!
敵艦隊の攻撃が凄まじく、このままでは全滅必至です!」
曹 彰「ここで兵を全て失っては、上庸も危うくなる。
退却だ! なんとか上庸まで逃げ込め!」
劣勢に立たされた曹彰艦隊は、退却を開始。
だが楼船はその大きさから小回りが利かず、
魏延・鞏恋艦隊の闘艦に追い付かれ、斬り込まれる。
曹彰艦隊は結局、壊滅した。
曹彰は何とか小舟にて脱出し、逃げていったのだった。
金目鯛
金目鯛「よぉーし、大勝利!」
魏 延「このまま上庸を落とすぞ! 各艦前進!」
勝利の余韻に浸る間もなく、魏延・鞏恋艦隊は上庸へ向け進む。
元より曹彰隊を撃破した後は、上庸を攻める手はずになっていたのだ。
11月に入り、魏延・鞏恋艦隊は上庸港に攻めかかる。
上庸港には数千の兵しかおらず、抵抗もままならない状態だった。
曹仁
関羽
曹 仁「こりゃダメだな。脱出するぞ、関羽殿」
関 羽「……安陽、西城に続いて、今度は上庸……。
拠点を3つ連続で失うというこの失態。
曹操様に会わせる顔がない……」
曹 仁「関羽殿に落ち度がある訳ではない。
こんなところで捕まる方が、よほど失態だ。
まだ、関羽殿は宛を守るという使命があるのだぞ」
関 羽「そう、だな。宛に戻って守りを固めねば。
宛まで落とされてしまったら、
曹操様に任された都市を全て失うことになる。
それだけは防がねば」
曹 仁「おう、それじゃあとっとと逃げるか」
激しい攻撃に晒され、上庸は数日のうちに陥落した。
だが、関羽や曹仁といった将たちが脱出し宛へ逃げ延びたことは、
曹操軍にとって不幸中の幸いであっただろう。
魏延・鞏恋艦隊は上庸へ入港した。
金旋はこれでようやく、西城一帯の地域を平定したことになる。
次の目標はいよいよ、荊州制覇への最後の都市。
宛城である。
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