212年7月下旬
7月も下旬に入り、新野城の動きがあわただしくなっていた。
甘寧
楽進
甘 寧「よし、出撃だ!」
楽 進「我らも出るぞ!」
いよいよ新野の金旋軍が動き出した。
目指すは曹操領の西城である。
西城は新野以外の都市からは遠く、先にこちらを標的にしたのも、
ここを叩いた後に宛や許昌を窺う方が有利だからだ。
動員されたのは4部隊、兵は総勢6万。
まず第一陣、2部隊3万が先行する。
甘寧隊1万5千、将は金玉昼・金目鯛・張常・陳応。
楽進隊1万5千、将は蛮望・刑道栄・蔡瑁・卞志。
そして後ろから第二陣、2部隊3万が続く。
魏延隊1万5千、将は鞏恋・魏光・謝旋・伊籍。
李厳隊1万5千、将は霍峻・黄祖・呂曠・卞質。
対する曹操軍は、西城に許猪率いる3万。
そして近隣の安陽港に関羽率いる兵2万。
川を挟んだ上庸港に、曹仁率いる兵1万5千である。
新野・西城周辺
この西城一帯と宛の軍は、都督に任命された関羽が統率していた。
劉備軍が滅んだ後に登用された一介の降将が、
4年のうちに曹一族の将や古参の将の上に立っているのである。
関羽に対する曹操の並々ならぬ信頼が伺えよう。
関羽
関 羽「金旋軍め。そう簡単に西城は落とさせぬぞ。
この安陽の兵を西城に入れれば5万になる。
そうなれば、奴らを追い返すことは造作もない」
関羽は、安陽港の兵をまとめすぐに西城へ向かう準備をしていた。
だが、彼の元に急報が入る。
兵 A「も、申し上げます! 金旋軍、進路を変え、
この安陽に向かってきております!」
金旋軍方向転換
関 羽「なんと!?
最初から西城ではなくこの安陽を狙っていたのか?
むう、移動は中止だ!
守備を固め……いや、この港では守りきれん。
よし、兵1万2千を以って迎撃する!」
関羽は兵1万2千を率い、先鋒の甘寧・楽進隊へ向け出撃した。
一見無謀ではあるが、港の施設では有効な反撃手段がなく、
押し寄せる6万の軍を防ぐことは到底不可能。
それならばと、野戦で各個撃破する作戦を採ったのだろう。
さて、甘寧隊では。
甘寧
金玉昼
金目鯛
甘 寧「関羽め、やはり出てきたか」
金玉昼「予測通りにゃ。
守るだけでは落ちるのは時間の問題だからにゃー」
甘 寧「だが、こうなることはすでに折り込み済み。
我が隊と楽進隊は野戦用の錐行陣形にしてある。
すぐにでも関羽隊を殲滅してやろうぞ。
金目鯛どの! 関羽隊に向け進軍!」
金目鯛「おう! 関羽隊など蹴散らしてやる!」
甘寧隊・楽進隊は、標的を関羽隊に定め、両翼より襲いかかった。
数の上では1万2千と3万。倍以上の兵差である。
これでは相手にはならないと思われた。
だが、それは相手が普通の将であった場合だった。
襄陽から新野を落としたこれまでの戦いで、
金旋軍の将たちにも少しばかり過信が生まれたのかもしれない。
関羽隊の攻撃は凄まじいものであった。
大将の関羽の気迫が乗り移ったかのように、
全ての兵が甘寧隊に襲いかかる。
その獅子奮迅の攻撃に、甘寧隊は手痛い被害を被ったのである。
甘 寧「ぬうっ、流石は音に聞こえし関羽雲長!
まさかこれほどとはっ……。
陳応! 矢を連射するぞ!
突っ込んでくる敵兵に矢を浴びせてやるんだ!」
陳 応「承知! ……恐れるな、敵は寡兵だ!
数人がかりで一人を倒せ!」
甘寧、陳応が連携して矢を連射する。
その攻撃で関羽隊は何割か兵を減らすが、
それでも攻撃の手は緩まない。
楽 進「関羽め、甘寧隊のみに目標を絞っているな。
我が隊の突進で甘寧隊を救うぞ!
付いてこい、刑道栄!」
刑道栄「おお! あんたの力、見せてもらうぜぇ!」
楽進隊は、関羽隊の側面に突っ込む。
全てを正面の甘寧隊にぶつけていた関羽隊にとって、
それはかなりの痛手となった。
かき乱され、討ち取られていく関羽隊の兵たち。
楽進のその老練な指揮ぶりに、
後ろで見ていた刑道栄は感嘆の声を上げたのだった。
(※刑道栄、突進を習得)
兵 A「楽進隊の側面からの攻撃にて、
我が隊の被害は甚大な物になっております!」
関 羽「楽進か……。敵となったのは実に惜しいな」
兵 A「楽進隊に目標を変更なさいますか?」
関 羽「ならん。正面の甘寧隊に攻撃を集中せよ。
ここで甘寧隊を潰しておかねば、挟撃の憂き目に遭う」
兵 A「はっ!」
楽進隊の攻撃は苛烈を極めたが、それでも関羽隊は引かない。
正面に立つ甘寧隊は攻撃を集中させられ、兵は次々と倒れていく。
甘寧隊はあと少しで壊滅、というところにまで追い込まれた。
関 羽「ぬおおお! 金旋軍など何するものぞ!」
金目鯛「げえっ関羽!」
甘 寧「ダメだ……このままではやられる。
軍師、脱出の用意をしておいてくれ」
金玉昼「……その心配はないようにゃ」
甘 寧「む、あの旗は。そうか、やっと来たか」
後方より『魏』の旗を掲げた一軍が現れた。
そして別方向に『李』の旗の一軍も。
ようやく、後陣の魏延隊・李厳隊、計3万が到着したのだ。
魏延
李厳
魏 延「苦戦しておるようだな甘寧!」
甘 寧「やかましい! 早く助けんか!」
魏 延「お主から『助けろ』などという言葉が聞けるとはな!
待っておれ、関羽隊など全て討ち果たしてくれよう!」
李 厳「よし、我が隊も関羽隊を攻撃だ!
恐れるな、敵は疲れているぞ!」
魏延・李厳両隊は、安陽攻撃用に弩兵を中心にした隊だったが、
それでも3万の新手が現れては流石の関羽隊もなす術がない。
関羽隊は包囲され、反撃に転じた甘寧隊の連射を受け全滅。
関羽のみが愛馬赤兎を走らせ、安陽に逃げ込んだのであった。
関 羽「く、もう少しで甘寧隊を潰すことができたものを……」
兵 B「関都督! 敵が港を包囲し、攻撃を開始致しました!」
関 羽「もう来たか。敵の侵入を許すな」
兵 B「はっ」
関羽が一息つく間もなく、すぐに金旋軍は安陽に到着。
大量の矢を撃ち込み、ひっきりなしに襲いかかった。
中でも目を引いたのが、魏延隊の鞏恋と謝旋である。
鞏恋
鞏 恋「いくよ!」
謝 旋「はい!」
二人の騎馬隊が駆け回りながら矢を撃ちこんでいく。
その疾風迅雷の攻撃に、安陽の兵は次々に倒れていった。
関羽も必死に防戦に当たった。
だが、港湾施設の防衛は困難を極める。
元より兵は1万にも満たず、多勢に無勢である。
戦闘開始からしばらくして安陽港は陥落。
関羽はまたも赤兎馬を駆り脱出、西城へと落ち延びたのだった。
安陽は金旋軍の手に落ちた。
西城の目と鼻の先にあるこの地を手にいれたことで、
金旋軍は次の西城攻めを有利に進められるようになったのだった。
だが、この戦いで金旋軍は1万5千余りの被害を受け、
その中でも甘寧隊は、1万もの死傷者を出していた。
この結果からも関羽隊の奮闘ぶりが窺い知れよう。
甘寧
金玉昼
魏延
甘 寧「あれほどの将がいたとはな。曹操軍、侮りがたし」
金玉昼「劉備の勢力が滅んでから、
曹操が真っ先に登用したのが関羽らしいからにゃー。
その実力も推して知るべし、にゃ」
甘 寧「先鋒で間近に見た金目鯛どのも、
『今日は疲れた』と言って宿舎にバタンキューだからな」
魏 延「なァに、次には私があの髭面を叩っ斬ってくれん」
甘 寧「ふん、後から来た者はお気楽でいいな」
魏 延「なんだと!?」
甘 寧「あの青龍偃月刀を振りまわす姿……。
あの鬼神のような強さは、実に身がすくむ思いがした。
流石に俺はあの髭男には挑む気にならん。
……正直、初めて『怖い』と思ったぞ」
魏 延「そ、それほど……なのか?」
甘 寧「うむ。それほどだ」
魏 延「そうなのか……。
いやしかし、そういう猛将は得てして頭が弱いものだ。
策をもってすれば……」
楽 進「いや、それがな」
楽進
魏 延「お、楽進どの」
楽 進「関羽は兵書や経書に精通しており、
経験に裏付けされたその用兵は非の打ち所がないとか」
魏 延「な、なんと!?」
甘 寧「そんなに凄いのか!?」
楽 進「春秋左氏伝を諳んじ、経済にも明るく、
さらに義に厚く侠の心を持ち、人民に慕われること神の如し」
魏 延「ぬうう、奴は完璧超人か!?」
甘 寧「それでは全く敵わんではないか!」
楽 進「ただ自尊心が強く、時として相手を侮ることがある。
付け入る隙があるならそこだな。
だが、やはりやりあいたくはない相手だ」
甘 寧「むむ、恐るべし関羽」
魏 延「出会った時は死んだフリでもするか……?」
楽 進「『げえっ関羽!』と叫んで、
心臓麻痺を起こしたかのように倒れれば、
なんとか誤魔化せるのではなかろうか」
甘 寧「おお、それは名案」
金玉昼「はぁ……おじさん3人で何言ってるかにゃー」
魏 延「ちょ、ちょっと待ってくれ軍師!
私はこの2人より一回りは若いぞ!」
金玉昼「30過ぎれば皆おじさんにゃ。
……いくら関羽が強いと言っても一介の人間にゃ。
一騎討ちになって一人が負けても、
また違う人が打ち掛かれば、勝つ可能性は充分あるにゃ。
古人も言ってまひる。
『一人より二人がいいさ。二人より三人がいい』と」
甘 寧「一人より二人がいいさ……」
楽 進「二人より三人がいい……」
魏 延「力も夢も、そして勇気も……」
三 人「「それだけ強く、でかくなる!!(※)」」
(※ わからない人はgoogle等で
「若さはプラズマ」を調べてみてください)
金玉昼「そういうことにゃ。みんなで力を合わせて頑張りまひる」
甘 寧「おお! 何か勇気が沸いてきたぞ!」
楽 進「うむ! 協力し合えば関羽なぞに負けぬ!」
魏 延「我らの力を思い知らせてやろう!」
金玉昼「うんうん、その調子にゃ。
……というわけで、一騎討ちになった時の順番でも
決めたらいいにゃ」
甘 寧「いっき……うち?」
魏 延「じゅん……ばん?」
金玉昼「そりゃ、全員で打ち掛かるわけにも行きませんにゃー。
作戦のためにも順番は大事にゃ」
魏 延「そ、そうか。ならばここは歳の順でよかろう。
楽進どのから甘寧どの、最後が私で」
楽 進「な、何を言うか、それを言うなら若い者からであろう」
甘 寧「いや、勝利の確実性を増すために武力の低い順から……」
楽 進「待て! 私は武力80台、関羽とは10以上離れてるのだぞ!
最初にやっては絶対に負けるわい!」
魏 延「となると高い順からだな」
甘 寧「いやいや確実なのは弱い順から」
楽 進「若い順だ!」
魏 延「いつ死んでもいい年寄りから……」
楽 進「誰が年寄りだコンチクショウ!」
魏 延「うわ、自分で若い順とか言ってるくせに!」
ケンケン ゴウゴウ
金玉昼「あー、面白いにゃ♪」
金玉昼はただ三人をからかってるだけのようであった。
……結局、関羽と会った時には
「げえっ関羽」と叫んで逃げるよう徹底された。
勇猛果敢な将たちも、天下無双の豪傑を相手には、
少々腰が引けてしまうようであった……。
次回、『西城 篭城 攻城戦』に続く。
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