212年 3月
3月、新野。
強兵政策により兵を増やし、また他の都市からも送られてきており、
現在はここに駐屯する兵は8万に達していた。
『孫権が曹操領の下[丕β]を落とし、北海にも軍を差し向けた』
その報が入ったのはそんな頃である。
212年3月
反曹操連合の一端を担う金旋軍の兵たちも、
次の侵攻はいつかと気勢を養っているところであった。
鞏恋
鞏 恋「以上。これで教育は終了」
謝 旋「ありがとうございました」
3ヶ月の訓練行程を終え、謝旋は正式な金旋軍の将として迎えられた。
鞏恋の教えを受け、彼は弓騎・弩兵を扱えるようになっている。
一軍の大将としては少々物足りないものの、
副将としての能力は多分に備えていた。
謝旋(シャセン) 統率74 武力71 知力67 政治37
性格:冷静 兵法:奮闘・飛射・連射・楼船など
だが、それを面白くなく思っている者が一人。
魏光
魏 光「くそう。謝旋だか斜線だか知らんが、
いい気になってるんじゃないぞ」
魏光はここの所、探索任務に回されていた。
兵の徴兵・訓練が一段落して、やることがなくなったからだった。
領内を巡回しながら、ブツブツと独り言を呟く。
魏 光「最近なんか、軽んじられてる気がするなぁ。
確かに蛮望とか楽進どのとか、強い武官も増えてきたけど。
でも私だって父上と並んで古株と言っていいくらいの将だ。
もう少し大事にしてくれたって……」
民 A「あ、お武家様! 丁度いいところに!」
魏 光「ん? 私のことですか? どうしました?」
民 A「虎が、虎が出たんでさぁ!」
魏 光「虎か……よーし! 私の存在をアピールするチャンスだ!
案内してくれ!」
民 A「へい!」
虎
虎 「アイガー! アイガー!
アイガーナパカッ!」
民 B「ぐへえっ!」
民 A「あ、あれにございます」
魏 光「あ、あれか……。つ、強そうだな」
民 A「へえ、タイランド・ムエタイ界の伝説の帝王とかで、
なんでも『隻眼の猛虎』と呼ばれてるとか」
魏 光「そ、そんな奴がなんでこんなところに?」
民 A「さあ……とにかく頼みましたぜお武家様!」
魏 光「ああっ! 置いてくなぁぁぁ!」
虎 「なんだ……。貴様は……」
魏 光「お、お前を退治しにきたのだ! 覚悟しろ!」
虎 「ほほう。面白い、返り討ちにしてくれよう!」
『ファイナルラウンド ファイト!』
魏 光「何だ今の声は?」
虎 「よそ見をしている場合か! アイガー!」
魏 光「おわっ! と、飛び道具とは……。
これではなかなか近付けない」
虎 「アイガー! アイガー! アイガー!」
魏 光「し、しかしこのままでは身を削られていく!
何とかタイミングを計って……。
とお! ジャンプだ!」
虎 「バカめ! アイガーナパカッ!」ベキッ
魏 光「や、やられた……。これが奴の戦法か……」
魏光はふらつきながらも立ち上がった。
虎 「……ふむ、少々入りが浅かったか。
しかし我が技には死角はない! アイガー!」
魏 光「くっ……。飛び道具で牽制し、対空技で落とす。
単純だがそれゆえに強い。一体どうすれば勝てるんだ?」
魏光はガードしながら隙を窺うが、
間髪入れず連射されるタイガーショットには一分の隙もない。
下手に飛びこめばまたタイガーアッパーカットを食らうであろう。
そんな攻めあぐねている魏光に、横から声がかけられた。
鞏 恋「光! これを!」
魏 光「鞏恋さん!?」
鞏恋が放り投げて渡したのは、短弓と矢筒であった。
魏 光「そうか! これで奴の飛び道具を相殺すれば!」
魏光が矢を放つ。
虎のタイガーショットは、魏光の矢が当たると消滅した。
虎 「む、むうっ! おのれぃ! アイガー! アイガー!」
魏 光「なんの! てい、てい!」
両者の撃ち合いは続く。
やがてしびれを切らしたのは虎の方であった。
虎 「ええい! ならばこちらから飛びこんでやるわ!」
魏 光「……かかったな!」
虎 「なにぃ!?」
魏 光「ジャンプしてしまってはガードはできまい! 食らえ!」
魏光は矢筒の中から一本だけ違う矢をつがえ、構えた。
それは矢と呼ぶにはあまりにも大きすぎた。
大きく、太く、重く、そして大雑把過ぎた。
それはまさに鉄柱だった。
魏 光「必殺! パトリオット・アロォォォォ!」
轟音と共に矢が放たれ、虎へと向かっていく。
虎はその矢を避けることも防ぐこともできなかった。
必殺の矢を受けた虎は立ち上がることはもはやできなかった。
魏光が勝ったのだ。
魏 光「か、勝ったのか……」
鞏 恋「お疲れ。相手がダッシュ仕様で助かったね」
魏 光「ダッシュ仕様?」
鞏 恋「判らないなら別に気にしないで」
魏 光「あ、うん……鞏恋さん、ありがとう。
この弓矢が無ければなす術もなかったですよ」
鞏 恋「ん。じゃ、後でレンタル料徴収する」
魏 光「ええ、金取るんですか?」
鞏 恋「うん。勝負の世界は甘くない」
魏 光「そ、それじゃあ、か、身体で支払いますよ。
……な、なーんちゃってぇ」
鞏 恋「ん。わかった」
魏 光「え、えええ! マジですか!?
いいんですかっ!?」
鞏 恋「城壁修復の仕事がまだ残ってたはずだから。
キリキリ働いてね」
魏 光「まあ……そんなオチだとは思いましたよ」
ぎこうは とらを たおした!
ぎこうは ぶりょくが あがった!
魏 光「あ、あれ? なんか武力が上がったような……」
鞏 恋「あー。虎を倒すと1上がる」
魏 光「そ、そうなんですか?
ということは、鞏恋さんとの武力差も少し縮んだわけですね!」
鞏 恋「うんう。それは違う」
魏 光「え? それってどういう……」
鞏 恋「だって、ここに来る前に私も倒してきたから」
そう言って鞏恋が指差したのは、馬の蔵にくくられた虎の毛皮。
魏 光「なんですとぉ〜?」
212年3月。魏光・鞏恋、揃って虎を倒し武力を上げる……。
魏光が鞏恋と肩を並べる時は来るのだろうか。
212年 4月
襄陽。
新野での強兵政策のため、主だった将は新野へと渡っており、
また江陵の開発のためにそちらにも人員を割いている。
そのため、ここに残っているのは金旋と下町娘のみであった。
金旋
下町娘
金 旋「平和だねえ」
下町娘「平和というより、暇ですね」
金 旋「まあ……この2人でやれることってないからな。
内政やっても大して効果ないし」
下町娘「探索にでもいきましょうか?」
金 旋「町娘ちゃんの場合、夜盗やら虎やらには絶対負けるからなあ。
あんまり行く意味ないんだよな」
下町娘「何言ってるんですか、そんなことありませんよ!」
金 旋「そう? じゃあ何か確実にやれることってある?」
下町娘「え、えーと……司馬徽さんとお茶飲んで談笑してくること」
金 旋「そんなの誰だって出来るわい!」
下町娘「だってぇー。ずっと篭りっきりじゃ気が滅入りますよぉ」
金 旋「しゃーないな。空登用(※)でもしてきてもらおうか」
下町娘「からとうよう?」
(※ 空登用……将との友好度を上げるために
成功の見込みはない登用をすること)
金 旋「とりあえず会って茶飲み話でもしてこいってこった」
下町娘「あんまり司馬徽さんと会うのと変わりませんね」
金 旋「違うぞ、将来の登用のための大事な布石だ。
……とはいえ今は捕虜もいないし、曹操軍はちょいと遠いし」
人材所在リストを見て適当な登用対象を探していた金旋は、
その中に近くにいる在野の人物を見つけた。
金 旋「おおっ? 今、近くの華容(※襄陽の一地域)に
費偉(ヒイ)って人物がいるな。
こいつは掘り出しものだぞ」
下町娘「掘り出し物……ということは、
その人って地底人ですか?」
金 旋「えーっと……」
下町娘「……今のは冗談です。
その知性を疑うような目は辞めてください」
金 旋「はいはい。じゃ、とりあえず会って話して来て」
下町娘「はい! 絶対連れてきます!」
バタバタと下町娘は部屋を出ていった。
金 旋「あー、本採用のために韓浩や潘濬あたりも行かせるから。
あまり気張らんでいいぞ〜。
……ってもう行ったのか、早いな。
まあしょんぼりして帰ってくるのが関の山だな」
時は過ぎ、その数日後。
下町娘「ただいま戻りました〜」
金 旋「おー、ご苦労さん。
流石に門前払いはされなかっただろうな」
下町娘「……ふっふっふ」
金 旋「な、何だ? その不敵な笑いは」
下町娘「おーっほっほっほ! 費偉さんカマーン!」
金 旋「……へ?」
費偉
費 偉「お初にお目にかかります。費偉文偉にございます」
金 旋「な、なにィーーっ!?
登用に成功しただとォーーー!?」
下町娘「ふふーん。どうですか」
金 旋「ははぁ。恐れ入りました」
費 偉「えーと……」
金 旋「あ、すまんな。まさか君のような有能の人物が、
すんなり登用に応じるとは思ってもみなかったもので」
費 偉「ははは、ご謙遜を。
金旋さまほどの方に見込まれたのです。
喜んで力になりましょう」
金 旋「おお、嬉しい言葉だ。
君との出会いを祝して、一席設けよう」
費 偉「ありがとうございます」
ここまで金旋が喜ぶ費偉という人物の登用。
三国志演義では後年の蜀を支えた人物なのだが、
彼の活躍した時代は諸葛亮の死後ということもあり、
よほどの三国志マニアでない限りあまり馴染みがないと思われる。
そういう方はここで彼の人物像を知っておいていただきたい。
費偉(「示へん」に「韋」)、字を文偉。
礼儀正しく沈着冷静な性格であった。
また書物を数回読んだだけでその内容に精通したという。
驚異的な理解力を持っていたのだろう。
政務の能力も人並み外れていた。
「朝と夕に政務を治め、その間に賓客に応接し、
飲食しながら遊び戯れ、博奕(ばくち)までし、
人のやる楽しみを尽くしながら、仕事も怠らなかった」
と伝えられている。
費偉と共に蜀の四相と並び賞される董允が、
この費偉の政務のやり方を真似ようとした。
しかし十日も経つともうすでに仕事が溜まってしまった。
「人間の才能・力量がこれほどかけ離れているとは」
董允はこう嘆いたという。
軍事面でも非凡であった。
魏の大将軍曹爽が漢中に攻め寄せた時、
援軍を率い漢中に駆けつけ、魏軍を撤退に追い込んだ。
よく文官のように見られる費偉だが、
大将軍として軍事も司る、万能の人材であった。
なお、後に彼は降将の郭脩に刺され命を落とす。
この後に姜維が大将軍となり内を省みずに外征を繰り返し、
蜀は衰退していくのである。
さて、このリプレイでの彼も若いながら(※若干20歳)有能である。
金旋が喜ぶのも無理はなかろう。
金 旋「いやー、そんな君が我が軍に来てくれるなんてな。
実に嬉しいことだ」
費 偉「ありがとうございます」
金 旋「何か意見があったらどんどん言ってくれよ。
軍師に玉もいるが、政治は君には負ける(※)だろうからな」
(※政治は補正無しで92。文句無しに金旋軍No.1の実力である)
費 偉「わかりました。では早速、一件」
金 旋「ん? 何かあるのか?」
費 偉「はい、少しばかり。
ここのところ、強兵政策で兵を増やしたようですが」
金 旋「ああ。お陰で兵も充分な数が用意できた。
これから出撃計画を考えようと思ってたところだ」
費 偉「その計画は、秋まで延ばされますよう」
金 旋「……秋? なんでだ?」
費 偉「現状で軍を出せば、秋まで兵糧が持たぬと思われます。
そのため、秋の収穫まで出撃はお控えくださいますよう」
金 旋「兵糧が足りないのか……わかった、憶えておく」
金旋はこの後、すぐに兵糧の備蓄量を調べさせた。
費偉の言う通り、このまま軍を出すと秋が来る前に
倉が空になってしまうことが判明したのである。
軍師の金玉昼が新野におり、
軍全体の兵糧を把握する者がいないことが原因であった。
金 旋「いやー危ねえ危ねえ。
せっかく増やした兵を米不足で逃がすところだった。
流石は費偉だなー」
下町娘「ふっふーん」
金 旋「何で君が偉そうにしてるのかな」
下町娘「費偉さんを連れてきたのはこの私! ですよ」
金 旋「はあ。それはよくやった」
下町娘「ふっふーん!」
金 旋「でも何か違うんじゃないか……?」
さて一方、出撃を延ばされた新野では。
兵糧収入のある秋になるまで、武官を中心に探索任務を行った。
この期間、大量に虎が現れたため、将たちはこれを多数退治する。
金目鯛や魏延などの他、鞏恋に至っては、この期間で3匹もの虎を退治。
新野の民はその武を讃え、鞏恋を『たいがーばすたー』と呼んだ。
そして、212年の秋を迎える。
兵糧不足はこれにて解消され、
また金旋が襄陽にて米を買い付け、兵糧を十分に蓄える。
いよいよ、新野の軍が動き出す時がやってきたのだ……。
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