210年12月上旬
荊州マップ
12月に入り、金旋は江陵を出、金玉昼・下町娘らを連れて襄陽へ入った。
霍峻に出迎えられ、城内を案内してもらう。
金旋
霍峻
金 旋「ここが州都襄陽か……流石に風格があるな」
霍 峻「はい。もっとも、長い戦いでボロボロになっておりますが……」
金 旋「そこは追々直していこう。
今は亡き劉表も、ここを文化の中心都市として栄えさせてきた。
俺もそれを受け継ぎ、州都以上の都にしてみたい」
霍 峻「はい。劉表様も、それを聞けば喜びましょう」
金 旋「うむ。それより、戦況の方はどうなってる?」
霍 峻「隆中を落とし、金目鯛さま以下、主力部隊が駐留して港の修復を
行っております」
金 旋「そーかそーか、よくやった」
金玉昼「でもー」
金玉昼
金 旋「どうした、玉?」
金玉昼「西城から申儀隊1万が迫っていまひる。
まだまだ気が抜けないにゃ」
金 旋「そうか……隆中の守りを固めねばな」
金玉昼「鞏志さんが荊南の兵力をいくらかこちらに回してくれていまひる。
それを送れば兵力の心配はいらないにゃ。むしろ……」
霍 峻「むしろ、なんでしょう?」
金玉昼「隆中港は修復途中で防衛戦をするには無理。
というわけで、野戦での迎撃をしなきゃならないのが心配にゃ」
金 旋「はっはっは、なんだそんなことか。
大丈夫だ、目鯛・魏延・鞏恋・卞質・卞柔と将は揃ってるぞ。
それに甘寧も派遣しておいた。全然心配いらん」
霍 峻「そうですね。
特に甘寧どのは劉表軍に居た頃より勇名を馳せておりました。
上官とソリが合わず出世はしませんでしたが、実力は折り紙付きです」
金玉昼「ん〜。でもなんか不安なんだにゃー」
金 旋「はっはっは、大丈夫、大丈夫」
その頃、隆中では。
その派遣されてきた甘寧と、魏延が睨み合っていた。
甘寧
魏延
魏 延「……」
甘 寧「……何か俺の顔についてるか?」
魏 延「おかしなヒゲがついてるな」
甘 寧「な、なんだと!
殿にも誉められたこのヒゲを(※全然褒めてない)
おかしなヒゲと言うのか!?」
魏 延「ああ可笑しいな! 腹抱えて笑ってしまうわ!」
甘 寧「なんだとぉー!」
金目鯛
鞏恋
金目鯛「おいおい、いい年した大人が何やってんだよ」
鞏 恋「犬と猿の喧嘩」
魏 延「誰が犬か!」
甘 寧「ちょっと待て! それでは俺が猿だということになるぞ!」
魏 延「おう、お前など猿で十分だ!」
甘 寧「なんだと!」
金目鯛「がー! んなことしてる場合じゃねっつーの!
敵軍が迫ってきてんだよ!」
魏 延「なんと!? まことですか!?」
金目鯛「ああ、西城から申儀隊1万がここに向かってきてる。
というわけで、迎撃の部隊を出さなくてはならないんだが……」
魏 延「私が出ましょう!」
甘 寧「いや、ここは俺が!」
魏 延「むっ……お前は爵位がないだろう!(※)
少ない兵しか率いられぬぞ!」
(※ 現在、魏延は校尉、甘寧は無官。
率いられる兵数は校尉1万5千、無官1万)
甘 寧「何を言う、兵1万いれば申儀隊など蹴散らせるわ!」
魏 延「大言を吐きおって! このヒゲカールめ!」
甘 寧「何だとこのモーモーさんが!」
金目鯛「もうやだ俺……。
人の上に立つってのが、こんなに辛いもんだとは思わなかった」
鞏 恋「がんばれ」
金目鯛「襄陽に帰っていい?」
鞏 恋「ダメ」
結局、魏延が大将を務め、預かる兵は1万5千。
副将に甘寧・魏光・卞柔・卞質を付けた。
甘 寧「大将でないのが気に食わんが、まあいい。
暴れさせてもらおう」
魏 延「暴れるのは結構だが、命令には従ってもらうぞ」
甘 寧「おう。頼むからまともな指示にしてくれよ」
魏 延「ぬがー! お主、どっちが上だと思ってるんだ!」
甘 寧「歳は俺の方が一回り上だ。年長者を敬え」
魏 延「戦場で年長も年下もあるか!」
金目鯛「いいからとっとと行ってくれ!」
ガーガー言い合いながら退室する二人。
魏光
魏 光「……参りましたねー」
金目鯛「あたたた……胃がいてぇ……」
鞏 恋「胃ガン?」
金目鯛「んなわけあるか、心労でキリキリ痛いんだよ。
……あー、やっぱ甘寧どの外して鞏恋にしとくんだったかな」
鞏 恋「でも金ちゃんの手紙には、あの2人を使えって書いてあったんでしょ?」
金目鯛「そーなんだよ。確かに2人の実力は軍内でも飛びぬけてるけどな……。
あーもう、どーなっても俺しらねーぞ」
鞏 恋「ま、大丈夫、大丈夫」
金目鯛「魏光、とりあえず抑え役よろしく」
魏 光「……了解です。卞兄弟とも協力して、何とか抑えます」
金目鯛「頼む」
金目鯛の心配をよそに、隆中港を出撃する魏延隊。
すでに付近に来ていた申儀隊に襲いかかる。
魏延
甘寧
卞柔
魏 延「おらー! 襲い掛かれ!」
甘 寧「魏延勢に負けるな、奮迅だ!」
卞 柔「二人に遅れを取るな!」
魏延・甘寧・卞柔の3者による奮迅。
意外にも連携が上手く決まり、申儀隊はあっという間に殲滅された。
魏 延「ふん、なかなかやるな」
甘 寧「お主こそ、攻撃力だけは頭抜けているな」
魏 光「よ、よかった。何事もなく終わって」
卞 柔「なんだかんだ言って、それなりに上手くかみ合ってますな」
魏 光「傍目にはそうは見えないですけどね……。
さあ父上、隆中に帰還しましょう」
魏 延「は? 帰還? 何を言ってるんだ?」
魏 光「……へ?」
魏 延「物見の報告では、すでに後続の曹仁軍が近くに来ているらしい。
我が隊は引き続きこれを迎撃する」
魏 光「ちょ、ちょっと待ってください。
戦闘終了後はすぐ引き返すようにって言われてるじゃないですか!(※)」
(※ 出撃時に「戦闘後は退却」と指定してある)
魏 延「戦闘はまだ終了していないぞ。
隆中に近付く部隊がある以上、戦闘は終わっていないのだ」
甘 寧「やれやれ、屁理屈だな。
戦い足りないならはっきりそう言えばいいではないか」
魏 延「ええい、うるさい!
責任は俺がちゃんと取るからガタガタ言うな!
とにかく進軍だ! 曹仁隊を蹴散らすぞ!」
甘 寧「ま、戦闘が続くのは俺も賛成だ。
責任は御大将が取るらしいし、まあ従おうじゃないか」
魏 光「し、しかし……」
卞 柔「……今の魏延将軍を翻意させるのは無理ですな。
おとなしくついていくしかないでしょう」
魏 光「……」
引き続き魏延隊は、西城より来た曹仁軍1万5千を迎え撃つ。
数・士気ともにほぼ互角の両軍は、激しくぶつかり合った。
魏延
曹仁
魏 延「いくぞ曹仁! 今度こそ貴様の首を刎ねてくれる!」
曹 仁「またあの鬼男か!? 今度は以前のようにはいかぬぞ!」
魏 延「全軍、曹仁軍を切り刻んでやれい! ぬおおお!」
魏 光「(父上は焦っておられる……。
甘寧という名将に殿の信頼を奪われるのを恐れているのだ)」
兵 士「敵将、覚悟!」
魏 光「うっ!?」
甘 寧「ぬりゃあ!」
魏光に襲い掛かる敵兵を、甘寧が切り捨てる。
甘 寧「魏光! 油断禁物!」
魏 光「す、すみません!」
甘 寧「よし、中央は魏延勢に任せ、我らは左翼を切り崩す!」
兵 士「おお!」
甘寧とその兵は、そのまま曹仁軍の左へと回りこんでいった。
魏 光「……さすがだ。機を見るに敏、そして兵の統率。
間違いなく、我が軍随一だ。父上の焦りも判らないではないが……」
戦闘開始直後は、魏延隊の方の勢いが勝り優勢であった。
だが、後方からの激励・救援を次々と受ける曹仁軍に、序々に兵を減らされていく。
魏 延「くっ、さすがに以前のように簡単には行かぬか……」
曹 仁「曹軍四天王であるこの曹仁をなめるなよ!
敵は疲れ始めている、今こそ奮迅の時!」
曹仁軍の奮迅を受け、魏延隊の兵は倒れていく。
後方よりどんどん救援兵を送り込んでくる物量作戦の前に、
魏延隊の旗色は悪くなった。
だが、そこに救援が現れる。
金目鯛
鞏恋
金目鯛「金目鯛隊参上!」
鞏 恋「さんじょー」
曹仁軍来襲の報を聞き、金目鯛は援軍兵1万を率い出撃してきたのだった。
金目鯛隊の参戦により、形勢は金旋軍に傾いた。
魏延隊にかなりの被害が出たものの、何とか曹仁軍殲滅に成功する。
魏 光「鞏恋さん! 助かりましたぁ〜」
鞏 恋「そう。よかったね」
魏 光「よかったです〜」
金目鯛「いやあ、間に合ってよかった。
流石に曹仁相手では楽勝というわけにはいかないだろうからなぁ」
魏 延「……申し訳ない。命令に反し、勝手に進んでおきながら。
援軍に頼ってしまうとは」
甘 寧「お、やはり命令違反の自覚はあったのだな」
魏 延「茶化すな」
金目鯛「……まあ、勝ったからいいって。さて、帰ろう」
こうして、隆中付近での戦いは終了した。
だが、隆中港へ戻った彼らを待っていたのは、曹仁軍以上の脅威であった。
それは……。
蛮望
蛮 望「やっほー、ばんぼーでぇーっす♪
みんな、よろしくねぇ〜」
魏延
鞏恋
魏 延「おわっ、なんだこのキモイ生き物は?」
蛮 望「プンプン! 失礼しちゃうわね!
自分だって変な角生やしてるくせに!」
鞏 恋「それでも存在自体が変なのよりはマシ……」
蛮 望「そこの小娘、なんか言った!?」
鞏 恋「別に、何も」
魏光
魏 光「ま、まーまー、喧嘩はよしましょうー、
まずは落ち着きましょう、ね」
蛮 望「……ま゛っ」
魏 光「は?」
蛮 望「あなた、名前は?」
魏 光「え、はい、魏光です。こちらの、魏延の子で……」
蛮 望「あら、そうでしたの……ごめんなさいねお父様」
魏 延「お、おおおおお父様だあ?」
蛮 望「いずれ義理の父になるかもしれない方ですもの。
お父様とお呼びするのが道理ですわ。ウフン」
魏 光「ええーーーーっ!?」
魏 延「……光っ!? こんなのと結婚など俺は認めんぞ!」
魏 光「いきなり何言い出すんです父上!?
誤解です、結婚なんてするわけないじゃないですか!」
蛮 望「やーねー、私はいつでも、身ひとつで嫁ぐ準備はOKなのに」
魏 光「こっちが全然準備してません!」
魏 延「だいたい、いつから付き合っているんだ!?」
鞏 恋「かれこれ1年くらい?」
魏 光「わあああ! 鞏恋さん何言ってるんですか!?
違いますよ、今会ったばかりです!」
魏 延「会ったばかりなのに結婚の約束をするとは何事かーっ!」
魏 光「なんでそーなるんですかっ!?」
鞏 恋「照れなくてもいいよ?」
魏 光「鞏恋さんも話を難しくしないでください!」
魏 延「魏光! ちゃんと説明せんかっ!」
蛮 望「まあまあ落ち着きなさって、お父様」
魏 延「お父様言うな!」
魏光が魏延の誤解を解くまでには、今しばらくかかった。
魏 延「全く、誤解なら誤解と最初からはっきり言えというのだ」
魏 光「はっきり言ってましたけど……」
魏 延「で、君はなんでここにいるのかね?」
蛮 望「私、この前まで江陵にいたんですけどぉ。
金旋様に呼ばれたので、こっちにきたんですのよん♪
戦力増強のためですって〜」
魏 延「永久に来ないでほしかった……」
蛮 望「何か言いまして?」
魏 延「いんや」
一方、部屋の外。
厠に行っていた金目鯛が戻ってきた。
金目鯛
甘寧
金目鯛「たれた〜♪ たれた〜♪
でっかいウンコをたれちゃった〜♪
(「でっかいウンコの歌」 作詞作曲:金目鯛美味)
……あれ? 甘寧どの、なんでそんなところに?」
甘 寧「金目鯛どのか……気にしないでくれ、何でもない」
金目鯛「いや〜、そんな隠れるようにして中を伺ってる様子を見ると、
気にしないではいられないんだが……」
甘 寧「いや、さすがに苦手でな。ああいうのは」
アレ。
金目鯛「……まあ、得意な奴はそういないだろうなあ」
甘 寧「なるべくお近付きにはなりたくないものだ……」
しかしその後、甘寧は蛮望に捕まり、熱い抱擁を受けたという。
蛮 望「キャー男前なおじさま! その変なオヒゲもラブリー!」
甘 寧「は、はな、離せ……ガク」
……合掌。
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