○ 第二十一章 「曹操と袂を分かつ」 ○ 
209年(回想)

時は遡り209年の秋。
曹操は、北の烏丸との戦いを続けながらも、南への侵攻を謀っていた。
その手始めに彼は、一族の曹仁を総大将に軍を派遣し、
劉備の統治する新野を陥れたのであった。

その後に彼は曹仁を居城へ呼び、今後の戦略を指示する。
その際に、次のようなやり取りがあったという。

   曹操曹操    曹仁曹仁

曹 操「曹仁よ。次は劉表の都市を攻め荊州北部を完全に支配下に治めよ」
曹 仁「はっ! 劉表の弱兵など、瞬く間に蹴散らしてみせましょう!」
曹 操「うむ……劉表などは我が軍の敵ではない。むしろ、警戒すべきはその後……」
曹 仁「その後? 呉の孫権にござりましょうか?
    確かに水戦の得意な者の多い勢力、水上での戦いでは強敵でございましょう。
    しかし陸に上げてさえしまえば、我が軍の敵ではありますまい」
曹 操「孫権か。確かに怖い敵ではあるが、私はそう気には留めておらぬ」
曹 仁「……と申しますれば、何を警戒すべきと?
    西涼の馬騰でございましょうか?」
曹 操「奴の騎馬軍は強かろうが、それだけだ。
    智を使える者が全くおらぬわ、全く相手にならん」
曹 仁「はあ……それではもしや、先の戦いで逃げおおせた劉備でしょうか?」
曹 操「関羽、張飛という豪傑は我が配下にいるのだ。劉備一人で何ができようか。
    それに、聞けば奴は孫権のところへ行き、その禄を食んでいるらしいではないか」
曹 仁「そうですな、ただの一将に成り下がった者など、脅威にはなりますまい。
    ……では、一体誰が?」

曹仁の問いに、静かに曹操は答えた。

曹 操「金旋だ。奴の勢力は今後、我々の最大の敵となるであろう」
曹 仁「金旋? ……ああ、武陵の太守でしたな。
    たしか、殿が劉表に対する抑えとして派遣したとか」
曹 操「うむ。最近零陵を攻め落とし、今度は桂陽を攻めているそうだ」
曹 仁「その金旋が将来、殿の敵になると仰せられるのですか?」
曹 操「そうだ」
曹 仁「……失礼ですが、金旋など小物でございましょう。
    今は調子づいているやもしれませんが、
    殿の前に立ちはだかる器量は持ち合わせてはおりますまい」
曹 操「いや。未だ小国と言えど、奴の勢力は異彩を放っている。
    奴を助ける人材の功績もあろうが、奴自身が英雄としての風格を備えてきたとも言える」
曹 仁「英雄……でございますか」
曹 操「ああ。私以外に英雄と呼べる存在がいるとすれば、まず奴であろうな」

金旋がいるであろう南の方を見やり、曹操は呟いた。

同じように漢の名臣を祖に持った二人。くしくも、曹操と金旋は同じ年齢である。
曹操は若くして名を上げ、機に乗じて献帝を奉じ権勢を手にした。
一方の金旋は決して目立たなかったわけではない。功を為し太守の座を得た。
だが、やはり曹操と比べると霞んでしまう。

曹仁などから見れば、玉と瓦ほどの差のある二人であったが、
乱世の姦雄とも称される彼の目に金旋は、自分のライバルになりうる存在だと映っていたのだ。

曹 操「金旋を英雄と成した老人……私も会ってみたかったものだがな」


210年8月、襄陽付近

ミニマップ
江陵-襄陽周辺

隆中港を出撃し、襄陽城への攻撃を始めた曹仁軍。
その軍中にあって、曹仁は一年前のことを考えていた。

曹 仁「……あの時の殿の推察は確かだったということだな。
    我が軍が襄陽を落とすより先に、金旋軍は江陵を落としてしまった。
    金旋軍……容易ならぬ相手だ」
兵 士「将軍! 敵の弩兵の反撃です!」
曹 仁「……その前に、まずは目の前の劉表だな」
兵 士「は?」
曹 仁「なんでもない。攻撃を継続!
    休む間もなく攻め立て、劉表軍の士気を下げさせろ!」


同時期、江陵

場所は江陵。
金旋の元には、襄陽への曹操軍の攻撃の続報が入ってきていた。

(なお前回の甘寧登用より少し時間が遡っている。
 現状では甘寧はまだ獄中にあり、登用されてはいない)

   金旋金旋    下町娘下町娘

下町娘「曹操軍がかなり押してるようですねー」
金 旋「物量が違うからな。兵が倒れても後から後から増援が来る。
    曹操軍以外には真似できねー力押し作戦だ」
下町娘「このままだと、襄陽も落ちますね」
金 旋「とはいえ、ただ落ちるのを眺めてるのは面白くないな。
    というわけで、玉!」

   金玉昼金玉昼

金玉昼「はいにゃー」
金 旋「襄陽に軍を出したいが、どうだ」
金玉昼「いいと思いまひる」
下町娘「ふむふむ、この際一緒に襄陽を攻めようってわけですね」
金 旋「いんや、戦う相手は劉表じゃない。曹操軍の方だ」
下町娘「え? 曹操軍の方なんですか?
    一緒に襄陽を攻めるんじゃなくて?」
金 旋「ああ、曹操側でいいんだ。
    一緒になって襄陽を攻めるとな、なにかと都合が悪いんだよ」
下町娘「ふんふん?」
金玉昼「襄陽を一緒に攻めた場合に、曹操軍に襄陽を落とされると、
    ただ兵を減らして曹操軍を助けるだけになってしまいまひる。
    その後に攻め取るにも、落とす前に援軍が送られてくるとお手上げにゃ」
下町娘「先にこちらが襄陽に入っちゃった場合は?」
金玉昼「こちらが攻め取った場合、曹操軍はそのまま攻撃してくるにゃ。
    劉表軍の代わりに入るような格好になってしまいまひる」
金 旋「というわけで、まず襄陽を囲んでいる曹操軍を野戦で潰す。
    野戦ならば兵の士気の高いまま戦える我が方が有利だ」
金玉昼「戦闘が終わった後、余裕があれば襄陽も取っちゃいまひる」
下町娘「は〜、本格的な戦略ですねー」
金 旋「相手は自軍よりも大きいからな。頭を使わないといかん訳だ」
金玉昼「バカも頭は使いよう、ってことにゃー」
金 旋「それを言うなら鋏だろ……。まあ、否定はしないがな。
    よし、金目鯛を呼んでくれ」
下町娘「了解でーす」

   金目鯛金目鯛

金目鯛「呼んだかー?」
金 旋「おう。……兵1万5千を連れ、襄陽を攻めている曹操軍を撃退しろ。
 副将に魏延、鞏恋、魏光、卞柔を連れていけ」
金目鯛「……あ? 魏延どのの爵位は俺より上だったろ?
    その中で総大将になるのは魏延どのだろ」
金 旋「いや、さっき手続きして、今はお前が上にしておいた。
    ま、上下変えても同じ校尉だから、魏延も納得するはずだ」
金目鯛「なんでまた、んなことを」
金 旋「いろいろ試してみたくてな。
    お前が魏延を率いてどういう指揮をするのか、見てみようかと」
金目鯛「おいおい、んな余裕かましてていいのかよ。
    いつも通りでもいいじゃないか」
金 旋「いや、ワンパターンだと飽きてきてなあ……」
金目鯛「は?」
金 旋「いやいや、なんでもない。準備して早よう出撃しろ」
金目鯛「うーい」

金 旋「ふう……これで曹操との関係は修復不可能となるな……」
下町娘「ん? なんでため息なんてついてるんですか?」
金玉昼「ちちうえと曹操は同級生なのにゃ」
金 旋「あいつには、少しばかり恩があってな。
    武陵太守になれたのは曹操のお陰もあるんだ」
金玉昼「そのうえ、昔は恋のライバルでもあったのにゃー(※外伝1参照)」
金 旋「こりゃ、余計なこと言わんでくれ」
下町娘「はぁ……過去にそんな因縁が……」
金 旋「まあ、な」
下町娘「そしてその後、二人には愛が芽生え……」
金 旋「芽生えん芽生えん」
下町娘「しかし時代の流れに二人は引き裂かれ、
    次に逢いまみえるのは戦場……ああっ禁断の愛! 萌えるわっ!!
金 旋「おーい、帰ってこーい」
金玉昼「これはしばらくは無理っぽいにゃー。
    ……で、ホントにいいのかにゃ?」
金 旋「何がだ?」
金玉昼「以前に反曹操連合に加担したとはいえ、これまでは直接戦闘はなかったけど。
    これで完全に曹操と袂を分かつことになっちゃいまひる」
金 旋「遅かれ早かれ、奴とは戦う運命にある。
    それなら、こっちから仕掛けた方が気が楽だろ」
金玉昼「割り切ってるならそれでいいと思うにゃ」
金 旋「それにな……」
金玉昼「ん?」
金 旋「乱世の姦雄と天下の覇を競い戦う……。
    こんな体験、そうそう出来るもんじゃないだろ」
金玉昼「……ちちうえの思考も乱世の姦雄っぽくなってきたみたいにゃ」
金 旋「そうか? 俺もいっぱしの群雄になったってことかな」
金玉昼「あと10年若い頃だったらにゃー。先が短いにゃ」
金 旋「ふん、歳のことは言うない」
金玉昼「あーい」
金 旋「……で、これはいつになったら終わるんだ?」

下町娘「戦いに敗れ金旋の元にひざまずく曹操……。
    しかし金旋は彼に手を差し伸べ『ようやく、また逢えたね……』と……」

放っておいたら夜までそのままだったそうな。

さて、9月中旬、江陵を金目鯛軍が出撃。
兵1万5千を率い、副将に魏延・鞏恋・魏光・卞柔を揃え、
襄陽を取り囲む曹仁軍の元へ向かった。

これはすなわち、金旋が曹操の天下を否定し、彼と戦う道を歩み始めたということである。
いよいよ最大の強敵、曹操軍との戦いが幕を開けようとしていた。


210年10月

10月。
益州は建寧の蛮望が、董蘭に攻められて滅亡した。
蛮望は在野に下り、放浪の旅に出たらしい。

   蛮望蛮望

……さて、ホモは放っておいて荊州の情勢に目を戻そう。

季節も冬に変わり始めた頃、襄陽を死守して戦っていた劉表が逝去。
病死ではあったが、襄陽を攻め立てる曹仁軍の猛攻が、
彼の命を縮めただろうことは想像に難くない。
彼の後は江夏にいた長男の劉埼が継いだ。

だが、それは襄陽の攻防戦に少なからず影響を与えた。
当初は君主劉表の死によって守備軍の結束が鈍るかと思われたが、
後を任された形の太守霍峻を中心に、逆に結束して曹仁軍に反抗をするようになったのである。
君主とはいえ兵を扱うのが上手くはない劉表から、
地味ながらも統率力のある霍峻に代わったことが逆によかったようだ。
もうすぐ陥落と思われていた襄陽城は、これによりまだ攻撃に耐えられるようになったのである。

   曹仁曹仁

曹 仁「むむむ……劉表の死が苦戦を生むとはな」
兵 士「曹仁将軍! 一大事にございます!」
曹 仁「……どうした!?」

   金目鯛金目鯛

金目鯛「おー。まだ襄陽は落ちてないみたいだな」
曹 仁な、何奴!?
兵 士「背後に敵軍が現れましてございます!」
曹 仁「んなもの、見ればわかるわ! どこの軍なのだ!?」
金目鯛「ふふん、この旗が見えないか!」

ひらひら、とはためく『金』の旗。

曹 仁「ぬうっ!? 金旋の軍だと!?」
金目鯛「我は金旋が子、忠義校尉(※)の金目鯛だ!
    今より、天子を操り国を乱す曹操の軍を討つ! 皆、続けえっ!」

(※金目鯛の今の爵位。金旋軍の武官では最高位)

金目鯛軍は勢いをつけて曹仁軍の背後に襲いかかった。
曹仁軍は襄陽を攻めるどころではなくなり、それを境に守勢に回ってしまう。

すでに長い攻城戦で兵は疲弊しており、新手をはねのけられるほどの士気はなかった。
あげく、江陵の金玉昼の放った密偵にかく乱され、曹仁軍は大混乱に陥る。

   魏延魏延

曹 仁「ぬうう! 金旋軍めぇぇぇ!
    今一歩で襄陽を落とせるというところで!
    なんとか、なんとか兵の士気を保たねば……」
魏 延「おうおうおう! 曹軍は弱兵ばかりか!
    お前達の中には、俺を討てる者がおらんのか!」
曹 仁「ぬうう、大言を吐きおって!
    ならば、この曹仁が望み通り葬ってくれる!
    我が薙刀、受けてみるがいいわ!」
魏 延「ほう、大将曹仁自らがお相手してくれるのか。それは光栄!
    我が名は魏延文長、いざ参る!」

ガキーン!
両者の薙刀の刃がぶつかり合い、火花が散る。

魏延:武力92 VS 曹仁:武力88

曹 仁「ぬうっ……こ、こやつ強い!? このような男が金旋軍におったのか」
魏 延「ふふん、存外やるようだが、相手が悪かったようだな!」

荊州では少しばかり名の通った魏延ではあったが、華北では無名である。
武を以って鳴る曹操軍にあって、常に重鎮たる働きをしてきた曹仁が、
荊州の田舎将軍の魏延を侮ってもなんら不思議はない。
だが、確実に魏延の武は曹仁のそれを圧倒していた。

ズバッ!

曹 仁「ぬあっ……!」

魏延の刃が、曹仁の肩を捕らえた。
しかし、なんとか曹仁は身を逸らしそれが致命傷となるのを防ぐ。
長く戦場に在って生き残ってきた男の執念であろうか。
地に倒れこんだ曹仁。それを守ろうと、曹軍の兵が矢を魏延に射掛け牽制する。

兵 士「曹仁様! 今のうちにお逃げくださいませ!」
曹 仁「す、すまぬ……」
魏 延「ちっ……曹仁! その命、一旦預けおくぞ!」

魏延は深追いせず、一旦味方の兵のところまで引き揚げた。
この一騎討ちの結果により金目鯛軍は勢いづき、曹仁軍の士気は低下。
これでさらに勝敗の趨勢は傾いた。

金目鯛「よーし、敵は浮き足立ってるぞ! 突進だ!」
卞 柔「我が隊も遅れるな! 突進!」

そしてとどめとも言うべき金目鯛・卞柔の手勢による突進攻撃により、曹仁隊は壊滅した。
曹仁ら将は逃亡し捕まえることはできなかったが、その負傷した兵を吸収する金目鯛軍。
金目鯛は軍をまとめると、今度は襄陽城へと向かう。

10月も下旬。
金目鯛軍は、曹仁軍との戦闘でボロボロになった襄陽城への攻撃に入る。
曹仁軍がいなくなって一息ついていた襄陽であったが、またも攻撃にさらされること
となった。

   魏光魏光    鞏恋鞏恋

魏 光「恋さん! 城兵を混乱させました、今が好機です!」
鞏 恋「ん。弩兵、放て!」

魏光が城兵を混乱させ、その機に乗じて鞏恋が矢を連射する。
曹仁軍との戦いの疲労が残った襄陽の兵では、
混乱させられた中でその矢の雨をかわせる者は少なかった。

魏 光「ど、どーです恋さん! 私も結構やるでしょ?」
鞏 恋「……まだまだ」
魏 光「がーん……じゃあ何をすれば認めてもらえるんだろう……」
鞏 恋「今すぐ城内に潜入して一人で無血開城させる」
魏 光「そんなの無理です! 死にます!」
鞏 恋「……いくじなし」
魏 光ぐぁーーーーん!!

太守の霍峻は兵をよく統率し良く守ったが、それでも陥落が少し先に伸びただけであった。
金旋が城攻めの増援として派遣した、卞質隊1万(副将:刑道栄・陳応)が到着した時点で、
大勢は決したと言えよう。
じきに襄陽は陥落し、霍峻は捕らえられた。

かくして、金旋は荊州の州都である襄陽を手に入れたのであった。

なお、『曹仁軍が敗れ、金旋軍が襄陽を落とす』の報は曹操の元へも届けられた。
その報を聞いた曹操は驚きもせず、ただ「そうか」と言っただけだったという……。

曹操との戦端を開いた金旋。曹操軍の逆襲をしのげるのであろうか。
次回「色物戦隊ヘンタイジャー結成」へチャンネルセット!

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