210年3月
軍を率い江津港に留まっている金旋であったが、
前線に出ているからといって君主としての職務が無くなるわけではなかった。
各都市からの報告書に目を通したり決済をしたりと、
人の上に立つ者はとかく忙しいものである。
……とはいえ、ふんぞり返って茶をすすりながら
書類を斜め読みしている姿は、あまり忙しそうには見えないのだが。
横で各方面からの情報を整理している金玉昼の方が、よほど忙しそうだった。
金旋
金玉昼
金 旋「ん〜。荊南四都市の運営は順調なようだな〜。
鞏志や潘濬たちはよくやってるようだ〜(ずずず)」
金玉昼「……ちちうえ、余裕があるんならこっちも手伝って欲しいまひる」
金 旋「いや〜。これはこれで頭をフル回転させて情報分析とかしてるんだぞ〜。
これからどう運営してくかとかな〜(ずず、ぷっはー)」
金玉昼「知力22のくせに」
金 旋「なんか言ったか〜?」
金玉昼「ん〜ん、なんにも〜。
えっ……こっ、これはっ!」
金 旋「ど、どうしたロビンマスク!」
金玉昼「……土瓶鱒食う?」
金 旋「ロビンマスク。正義超人軍団のリーダー格。
その豊かな戦歴と知識は他の超人たちも一目置いたという。
ちなみに、最年長と思われがちだが実はラーメンマンより年下なんだ。
あ、俺は2世は読んでないからそっち方面は知らんからな」
金玉昼「……全然わからんにゃ」
金 旋「そうか……それより何に驚いたんだ?」
金玉昼「そうそう! これを見てにゃ!」
金 旋「んー? 曹操軍の人物登用リスト?
そんなズラズラ人の名前が並んだのが何だと……。
ほほう、『し』の欄に気になる名前があるな」
金玉昼「ちちうえも見つけたにゃり?」
金 旋「この『朱霊』てのは女性かねえ?
なんかいい感じの名前の響きだが」
金玉昼「……違いまひる、ムサイ男の人にゃ。
ってそんなのどうでもよいにゃ! 『しょ』のところを見てにゃ!」
金 旋「しょ、しょ……しょ、かつ、りょう……。諸葛亮か。
ふむ。こいつがどうした?」
金玉昼「この人すんごいのにゃ!
この人がいれば天下も獲れる、なんて言われてるほどなのにゃ!」
姓は諸葛、名を亮。字を孔明という。
ご存知、三国志一のすーぱーえくせれんとぱーふぇくと軍師。
実は軍事的才能は乏しかったとか、人を見る目がないとか、
奥さんがブスだとか、ジャイアントロボの孔明はキモイとか、
最近の説でアラも出てきてはいるものの、それでもその才は突出している。
その諸葛亮がなぜ曹操軍にいるのか?
それは、劉備が三顧の礼で迎える前に勢力を滅ぼされてしまったので、
その後に隆中を落とした曹操に見出され、登用されていたからだった。
金 旋「な、なんとっ!? そんな奴が曹操軍に!?
ヤヴァイんじゃねーかそりゃ!?」
金玉昼「まだ仕えて日が浅いようにゃり。
登用するなら今しかないにゃ!」
金 旋「わ、わかった。
逆にそれほどの者がこちらについてくれれば、申し分ないしな。
各都市に伝えてくれ。『内政の手を休め、諸葛亮の登用に向かえ』とな。
俺も登用に行ってくる」
金玉昼「そうしてにゃ。じゃ、ここの大将は……」
金 旋「ああ、魏延に任せておく。
玉も目鯛や鞏恋たちと共に、あいつに従ってしっかりやってくれ。
劉表軍が出てきたら、きっちりシバいてやるんだぞ」
金玉昼「わかったにゃ、留守は任せてにゃ」
金 旋「まあ、どうせ俺は、ここにいてもしょうがない(※前回参照)
らしいからなぁ、ふっ……」
金玉昼「わわ、ちちうえ、あのときのあれは言葉のアヤで〜」
金 旋「わかってるわかってる、パパちゃーんとわかってるぞー!
あれは玉が照れ隠しに言っただけだってな!
玉はパパにぞっこんラブだってこと、
パパちゃーんとわかってるから安心しろー!」
金玉昼「……かなり間違ってるけど、放っとくにゃ」
金 旋「よし、それじゃ行ってくるぞ!
……諸葛亮よ! 首洗って待っていろ!」
金玉昼「それは殺しに行く時の言葉にゃ……」
さて、金旋は自ら北へ向かい、冀州にある[業β](※)に入る。
(※ 「ギョウ」と読む。
「へん」が「業」(ぎょうへん)、「つくり」が「β」(おおざと)。
第二水準漢字で変換が出来ないため、こういう表記にしている。
このような表示不能漢字は武将名、地名でよく出るため、
今後も[]で括った文字は一字として見ていただきたい。)
(※ また、一部の武将の字は当て字に変換して表記している。
表記不可文字 変換表を参照)
曹操の本拠であるこの都市に、目当てである諸葛亮はいるのだ。
金旋は諸葛亮の邸宅を見つけ、そこを訪問する。
金 旋「失礼する」
諸葛亮「……なんと、ヤクザ!?
この都市にヤクザが出没するとは聞いてはいないぞ!?」
金 旋「あーもう、パターン化してるな。
違う違う、俺は金旋だ」
諸葛亮「ヤクザ……ではないと?
顔はヤクザそのものですが……」
諸葛亮
金 旋「……お前も人のこと言えんぞ」
諸葛亮「ふふふ、これほどオシャレな私に何をおっしゃいますやら。
虞羅参は私のように似合う者が掛ける物にございますぞ。
似合わぬ者は掛けぬ方がよろしいかと」
金 旋「歯に衣着せぬ奴だな」
諸葛亮「まあ、それは置いときまして……。
金旋どのと言えば近頃、ここらでも話題になっておりますな」
金 旋「ほほう! ど、どんな話だ?」
諸葛亮「なんでも乳は大きさよりも形にこだわるとか、
娘を溺愛しているとか」
金 旋「そっちの三面記事っぽい話かよ。
……まあいい。今日ここに来たのはな……」
諸葛亮「登用に参られた」
金 旋「よくわかったな」
諸葛亮「先ほど、あなたの配下の方が参られましたので」
金 旋「あ、そうか。誰か来てたのか。
……で、俺の元に来る気はないか?」
諸葛亮「また同じことを言わなくてはならないのですねぇ……。
荊州からはるばるこちらへ参られて恐縮ですが。
答えはNO、でございますよ」
金 旋「むう……なぜだ?
ああそうか、曹操に惚れたのか?」
諸葛亮「ええ、あのような方は他にはおりません」
金 旋「冗談に素で返しやがった……。
そうか、そういう関係だったか、いや失礼」
諸葛亮「何を言ってるのかわかりませんが……。
私は曹操さまの器の大きさに惚れているのです」
金 旋「ほうほう。曹操の方が受けだったのか、それは意外。
しかし、穴が大きい方がいいのか……。
その手の人の趣味はよくわからんものだな」
諸葛亮「曹操さまの器は、他の者と比べようがありません。
そのような方の元を、私が離れるとお思いでしょうか?」
金 旋「いや、よくわかった。曹操の穴が名器と、そう言いたいのだろう。
うむうむ、そういうことならとても裏切る気にはならんわな」
諸葛亮「私の心情、わかっていただけましたか?」
金 旋「うむ、よくわかった。帰るとしよう。
あ、エイズには気を付けろよ、コンドームは常に付けるようにな」
諸葛亮「はあ……?」
金旋は諸葛亮の説得を断念し、帰国の途に着く。
なお彼は、先に結果を手紙にしたため金玉昼に送ったのだが、
その文面は下のようなものであった。
『……というわけで、奴はホモだった。
ケツの危険がピンチになるので、そういう男を登用はできん』
この手紙を見た金玉昼は、気の遠くなるやら呆れるやらだったという。
(なお、諸葛亮がホモだという事実は全くない)
さて、長い旅路を終え、ようやく金旋は江津へと戻ってきた。
登用に出発してから、実に1ヶ月以上経っている。
だが港に着く前から、周辺の様子がどこかおかしかった。
どこからか聞こえる歓声、銅鑼の音、地響き……。
金 旋「劉表軍との戦闘が始まってるのか!?」
さらに港近くまで来ると、江陵から出たと思われる劉表軍が、
江津港近郊で金旋軍との戦闘に及んでいたのが確認できた。
金旋軍2部隊の旗を見ると「金」と「鞏」の字が見える。
金目鯛と鞏恋が隊を率いて劉表軍を攻撃し、魏延が港を守っているようだった。
だが、劉表軍は金・鞏両隊の攻撃に晒されながらも、江津港に攻撃を加えている。
対する港内部は、どうも混乱しているようだった。
金 旋「魏延はどうしたんだ!
あいつも部隊を率いて戦えば三方から包囲殲滅できるだろうに!
くそ、俺が帰って港の守備を代わった方がいいのか!?」
客観的にみれば金旋が魏延に勝ることなど全くないわけだが、
責任感に駆られた金旋は、一刻も早く港に戻ろうと馬を走らせようとする。
だが、それを止める者がいた。
警察官「あーそこの怪しい男。待ちなさい」
金 旋「はあ? なんだお前」
警察官「この地区を管轄してる江津署の者だ。
ここから先は戦闘区域だから、勝手に入ってはいかんぞ」
金 旋「ちょっと待て! 俺は金旋だぞ!?
なんで自分の領地に戻るのを止められなきゃならん!」
警察官「はあ? 金旋? あんたが? あの荊南の小竜?」
金 旋「おう。見てわからんのか」
警察官「何を寝言を言ってるんだ?
お前のようなガラの悪い男が、どうやったら仁君金旋になるんだ」
金 旋「あんだとーーー!」
警察官「ふむ、あくまで金旋と言い張るなら、身分証明書見せなさい」
金 旋「……みぶんしょうめい? なんだそりゃ」
警察官「ないなら通すわけにはいかんな。戦闘が終わるまで待っていろ」
金 旋「ま、待て待て待て!
魏延たちが、江津港がピンチなんだよ!」
警察官「知らんなあ。私はただ規則は守ってもらうだけだからなあ。
はい、証明書ないなら戻って戻って」
金 旋「ノーーーー!」
……というわけで金旋は、戦闘が終了するまで港に戻ることはできなかった。
しかし、戻ったところで結果が良くなったかどうかは微妙なところである。
さて、今度は江津の様子を追っていくことにしよう。
時間は金旋が[業β]へ出発してすぐの頃までさかのぼる……。
210年3月、江津港
金玉昼「江陵の密偵から報告が来たまひる。
劉表を大将に、3万の兵が出陣したそうにゃ」
金目鯛「よし。それじゃぶっ倒してやろうか」
魏 延「うむ……では金目鯛どの、鞏恋どの。
それぞれ兵1万5千を率い、劉表軍を迎撃してくだされ」
鞏 恋「わかった」
金目鯛「了解」
魏 延「私は残った兵でこの港を守ろう。玉昼どのもよいな?」
金玉昼「はいにゃ」
劉表軍迎撃のため、江津港より金目鯛隊と鞏恋の部隊が出撃する。
金目鯛は刑道栄と胡渉を従え、鋒矢陣形を採った。
突進戦法で劉表軍を突き崩そうという構えだ。
一方の鞏恋は陳応と下町娘を従え、陣形は箕形の構え。
こちらは弩の連射攻撃で切り崩そうという部隊である。
劉表軍と金旋軍ニ部隊。両軍は江津港近郊ですぐにあいまみえた。
金目鯛隊は、倍する劉表軍に突っ込んでいく。
刑道栄「どけどけどけえーーー! 刑道栄さまのお通りだあ!」
元劉度配下、刑道栄。蛮勇のみならば金旋軍の中でも指折りの将である。
彼の突破を足がかりに、劉表軍の兵を蹴散らす金目鯛隊。
兵力差をものともしない怒濤の攻めだ。
これに側面から鞏恋隊が弩を浴びせ、切り崩していく。
だが劉表軍は、挟撃されているにも関わらず進軍をやめない。
金目鯛隊を押し退けるように、どんどんと前へ、港へ向かって進んでいく。
劉 表「兵はいくら倒されようと構わん! 江津港を目指せ!」
韓 嵩「は、はっ!」
普通の将であれば、ここは一旦標的を金目鯛、鞏恋の隊に変えるところである。
だが劉表は、そのまま江津港へ向かって軍を進めさせた。
戦慣れをしていない君主の、あまりにも無謀な采配である。
しかしその無謀さゆえに予想外の出来事であった。
これに慌てたのが、江津港を守る魏延と金玉昼である。
2つの部隊に攻撃されながらもそのまま突破して港まで向かってくるとは、
夢にも思っていなかったからだ。
魏 延「なんと……あれだけ側面から攻撃されても、なお向かってくるのか!?」
金玉昼「正気の沙汰じゃないにゃー!」
魏 延「迎撃、迎撃だ! 弩隊、矢をどんどん放て! 寄せ付けるなっ!」
もともと港というものは防御に適した施設ではない。
そんなところに2万半ばもの兵が攻め寄せれば、どんな名将でも苦戦は必至である。
金目鯛隊、鞏恋隊は背後・側面より猛攻を加え、劉表軍の兵を減らしていく。
だが、劉表軍の港への攻撃の勢いは変わらない。
そのうえ、敵将韓嵩の計略により金目鯛隊が混乱させられ、
劉埼の心攻の計により江津港の兵が一部が寝返ってしまった。
兵 A「金目鯛さまが恩賞を独り占めしてるらしいぞ」
兵 B「なんだと? 俺らだってがんばってるのにひでえ話だ」
金目鯛「だー! 俺は独り占めなんかしてねーぞ!
つーか恩賞なんていつ出たんだー!?」
魏 延「軍師! 『江陵にはグラマー美人がたんまりいるぞ』という
劉埼の言葉に惑わされ、兵が一部寝返りおった!」
金玉昼「あーもう、これだから男どもはーっ!
魏延さんもしっかり統率しないとダメにゃ!」
魏 延「……す、すまぬ、その時は私も少し心がグラついてしまって……」
金玉昼「がーーーーーーっ!」
一時、劣勢になったかと思われた金旋軍。
しかし、金目鯛も魏延もなんとか指揮系統を回復させ、攻撃を再開する。
鞏恋隊・金目鯛隊、江津港が連携し攻撃。
劉表軍の損害はかなりのものになり、勢いは序々に無くなっていく。
そこからの戦いは、完全に金旋軍が優位に立った。
金目鯛「さっきの借りを返す! 刑道栄、胡渉、突っ込むぞ!」
刑道栄「承知! ぬおりゃーーーーーー!」
胡 渉「蹴散らしてくれん!」
金目鯛隊が一斉に突進攻撃を開始した時点で、劉表軍の敗色は決定的となった。
苦し紛れに劉表がまたも流言を放つが、今度は金玉昼が看破し未然に防ぐ。
もはや挽回の余地はなく、やがて劉表軍は壊滅。
劉表軍の将たちは逃亡し、江陵へと逃げ返ることとなる。
こうして、江津港の戦いは幕を閉じた。
途中乱されたところはあったものの、金旋軍は戦いに勝利。
結果として状況は金玉昼の戦略通りとなっていた。
さて、戦後の江津港に、ようやく通行を許された金旋が帰ってくる。
金旋
金玉昼
金 旋「いやー参った参った。少し前に近くまで戻ってきてたんだが、
結局戦闘終わるまで足止め食っちまった」
金玉昼「君主元気で留守がいい、にゃ。
戻っても状況は変わらなかった……というか悪くなったと思うにゃ」
金 旋「もう少し歯に衣着せてもいいじゃないか……。
『ちちうえがいなくて心細かった』とかさあ……」
金玉昼「そんなこと、全く、全然、このうえなく思わなかったにゃー」
金 旋「しくしくしく」
さあ、江陵軍の迎撃に成功した金旋軍。
次回は、江陵攻防の戦いです。
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