２０９年７月初旬
軍師である劉髭の死。
この出来事は、この時点では金旋個人、そして軍全体にとって大きな痛手であった。
金旋もそう感じ、また、周りもそう思っただろう。
他勢力の者が真に警戒していたのも、金旋本人ではなく、
劉髭の戦略手腕に対してであった。
劉表などは、劉髭の死の以前には、武陵近くの江津港に武将を１人配置していた。
しかし、劉髭が死して後、すぐに引き揚げさせている。
この例を見るだけでも、いかに劉髭が恐れられていたのか。
そしてまた、金旋本人はどうでもよく思われていたのかがよく判るであろう。（※）
（※ゲーム的には、他の要因で異動したものと思われます）
桂陽太守の趙範も同様で、劉度軍との交戦で兵を減らしたにも関わらず、
新たに徴兵をすることもなく、また衡陽城塞から兵を移すようなこともしなかった。
金旋を侮り、急務の策を図らなかった。
だが……。
零陵城内、劉髭の棺が置かれた部屋。
香が焚かれ、灯りも暗くしてあるその部屋の中に、金旋の姿があった。
 金玉昼
 金目鯛
金玉昼「ちちうえー。ばんごはん食べないのかにゃー」
金目鯛「おやじー。なんかしら食っておかんとダメだぞー」
子二人が呼んでも、返事は返ってこなかった。
金旋は棺の前に座ったまま、微動だにしない。
金玉昼「うーん……いかんまひる」
金目鯛「ああ……。辛いのは判るがな」
魏 延「全くですな」
金目鯛「魏延どの？」
鞏 恋「私も……」
金玉昼「恋ちゃんも来てまひる」
 魏延
 鞏恋
魏 延「殿に付き従っている我々将兵がおるのです。
弱い姿は見せては欲しくありませんな」
金玉昼「む。魏延さん、２人を短い時間しか見てないからそんなこと言えまひる」
魏 延「……心外ですな。
殿が軍師を厚く信頼なさっていたのは、
１年しか仕えておらずともよくわかりますぞ」
鞏 志「玉昼さま、魏延どのは判っておられますよ」
 鞏志
鞏 志「魏延どのも判った上で、このままではいけないと申してるのです」
金玉昼「むー」
金目鯛「とはいえ、俺らじゃどうしようもないよな」
鞏 恋「うん。さっぱり」
魏 延「どうしたものか……」
金玉昼「うーん……打つ手ないにゃー」
下町娘「お待ちください〜！」
 下町娘
金目鯛「今度は町娘ちゃんか。皆心配なんだなー」
下町娘「当たり前です。金旋さまに元気になっていただかないと、
倒産即解雇も有り得るじゃないですか！」
金玉昼「わー、本音出まくりにゃー」
下町娘「ともかく、です。
金旋さまにシャキッとしていただくに、ある方法を用います」
鞏 恋「……方法？」
鞏 志「ほう、それはどのような？」
下町娘「私の愛読する書に、これと同じような状況から、
見事主君を復活させた事象があるんです。
それと同じ方法を取れば……」
金玉昼「あー。銀○英雄伝説にゃりね……」
下町娘「そう！ 強大な敵を倒したまではよかったものの、
半身ともいえる幼馴染みを凶弾により失うラ（略）様！
その悲しみに沈むラ（略）様を復活させるべく、部下は頑張りました！
それまでは一応味方ではあったものの今後政敵となる相手、
つまり内なる敵を、部下が皆で協力して倒したのです！
このことにラ（略）様は奮い立ち、統一に向け決意を新たにされたのでした！」
鞏 志「ふむ、なかなかよい話ですな」
金目鯛「ああ、面白いな。俺たちもそれに習おうってんだな」
下町娘「ええ！ これなら間違いありません！
私たちも、内なる敵を倒しましょう！」
魏 延「……下町娘どの。ひとつ、いいかな」
下町娘「なんでしょう！？」
魏 延「この場合、誰を倒すのかな？」
下町娘「え！？ え、えーと……内なる敵、内なる敵……？」
金目鯛「そう言われると、いねーな……。ダメじゃん」
下町娘「そ、そこは！ 誰か狂言で仕立て上げて！
ほ、ほら、『これを機にクーデターを謀った』とかなんとか言って！」
鞏 恋「それ……魏延さんが適役」
鞏 志「れ、恋！？」
魏 延「ええっ！？ わ、私が！？」
下町娘「あ！ それナイス！
魏延さんが、金旋さんの影響力が薄まったと見て反乱！
それを私たちが鎮圧して、報告するの！
すると金旋さまが『私のいない間にも皆が頑張ってくれたのだな』とか言って！
それ以来、金旋さまはスーパー君主となり、
中華統一のため頑張るようになるのよ！」
金目鯛「おいおい……」
金玉昼「町娘ちゃん、今日はちょっと暴走気味にゃ」
鞏 恋「でも、面白い」
鞏 志「面白い、じゃない！」
魏 延「そうだ鞏恋どの！ 狂言とはいえ、それでは殺されてしまうわ！」
下町娘「ごちゃごちゃ言わない！
中華のため、金旋さまのため、覚悟をお決めなさい魏延さん！」
魏 延「ひ、ひぃぃ！ 目が尋常じゃないぃぃぃ！」
金 旋「そこまでにしておけ。魏延も困っているぞ」
 金旋
金玉昼「ち、ちちうえ？」
金目鯛「おやじ？」
金 旋「俺のために倒すのは、魏延じゃない。他にいる」
下町娘「え、え？ ほ、他に真なる内なる敵が！？
はっ！？ じ、実は金旋さまが真のラスボス！？
み、みんな、心して掛かるのよ！ そう簡単には勝たせてくれないわ！」
金 旋「……鞏恋、町娘ちゃんをちょっと頼む」
鞏 恋「らじゃ」
下町娘「もがっ！ もがーー」
鞏 志「殿。もう、大丈夫なのですかな？
軍師の死は……乗り越えられましたか？」
金 旋「ああ。軍師は、死んではいないからな」
金玉昼「ち、ちちうえ？ さ、さささ錯乱、しししてる？」
金目鯛「医者、医者だ！ だ、誰か医者を！
内科じゃねーぞ精神科だ！」
魏 延「ちょ、ちょっと待っててくだされ、町の医者を呼びに……」
金 旋「おちつけおまえら！」
金旋の一喝で、落ち着きを取り戻す一同。
金 旋「今のは『心の中に生きてる』って奴だ。
人を勝手に精神病患者にすんな」
金目鯛「そ、そうか、よかった」
金 旋「それじゃ皆、出陣の準備をしろ」
金玉昼「ほえ？」
魏 延「出陣……ですか？」
金 旋「言っただろう。倒すべき敵を倒しにいくんだ……。
心の中の軍師も、そう言ってる。『機を逃すな』とな」
鞏 志「わかりましたぞ。軍師は、こう仰ってるのですな？
『好機を見逃さず荊南を統一せよ』……と」
魏 延「おおっ！ 趙範軍を攻めるのですな！？」
金 旋「うむ。敵は桂陽にあり！ 陣容を揃えろ！
それから、長沙より張常を呼べ！ 今回の軍に加える！」
鞏 志「はっ！ 至急、手配致しまする！」
金目鯛「よし！ 俺も行くぜ！」
魏 延「腕が鳴りますな！」
言うやいなや、鞏志、魏延、金目鯛は走り去る。
続いて、金玉昼の方を向く金旋。
金 旋「玉！」
金玉昼「は、はいっ！」
金 旋「今回の遠征、兵はどれくらい出せばいいと思う！？」
金玉昼「は、はいにゃ！ ええと、多ければ多いほど攻め落とすのは早いにゃ。
現在は出兵可能な数は４万５千、零陵の守備には１万残せば心配はないまひる。
ということは、３万から３万５千くらいにゃ！」
金 旋「よし、ちゃんと状況は頭に入れてあるな。偉いぞ」
金玉昼「え、えへへ」
金 旋「鞏恋。兵の訓練を行い、士気を高めよ。
戦後で気力の萎えてる者もいるからな」
鞏 恋「らじゃ」
金 旋「それから……町娘ちゃんはそろそろ離してやれ。
酸欠で今にも逝きそうだぞ」
金玉昼「わー、顔色まっさお」
下町娘「ぷふぁーーーっ！
ひ、酷いよ恋ちゃん、全然息できなかったよ！」
鞏 恋「ごめん、ついうっかり」
下町娘「うー」
金 旋「町娘ちゃん、俺をなんとか奮い立たせようとしてくれたのは嬉しい。
感謝するぞ」
下町娘「え、えへへー。そうですか？」
金 旋「だが暴走は控えめにな。
さっきは本当に魏延を殺しそうな勢いだったぞ」
下町娘「は、はぁい」
金 旋「……１０日もあれば準備も整うだろう。皆、出陣の支度をしておけ！」
３人娘「はい〜」ぱたぱたぱた
金 旋「ふう。俺が落ち込んでるような暇は全くないらしいな。
……軍師、もう少し待ってろ。桂陽を落とし、荊南を統一する。
そうしたら、改めて葬ってやるからな」
７月中旬。
零陵の金旋軍は、桂陽への侵攻部隊を組織し、出撃する。
第一隊の大将は金旋。
金玉昼、鞏志、鞏恋、下町娘を副将にし、兵は２万。
第二隊は金目鯛が大将。
魏延、魏光、張常を副将に、兵を１万５千。
両隊は時を同じくして零陵を発し、桂陽へ向かう。
８月上旬に両隊は桂陽城へ到達、攻撃を開始。
中旬には、これを陥落せしめる。
君主の趙範は逃亡し、陳応ら桂陽の将は捕らえられた。
衡陽城塞にいた兵１万は、この報を聞くや皆逃げ出した。
また守将の鮑隆も、どこぞへ逃げ去ったらしい。
あまりにもあっさりと桂陽を落としてしまった金旋だが、
これは機を逃さなかったためであり、少しでも猶予があったならば、
桂陽の守備は堅くなり、多くの犠牲を払うことになっただろう。
ともあれ、金旋軍はここに荊南四郡を統一したのだった。
これにより、金旋の勢力は他から見ても無視できない規模となった。
『荊南の小竜』……この頃の金旋はこう呼ばれている。
金旋がもはやバカ君主ではないことを、天下は認めたようであった。
その後、金旋は衡陽城塞の中に祠を作り、劉髭の棺を納める。
そして、その傍に碑を立てた。
だが、豪奢の限りを尽くした祠に対し、その碑は小さく簡素なものであった。
そこに刻まれたのは、一言だけ。
『我が師』……と。
次回へ続く。
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