○ 第九章 「悪魔超人魏延文長」 ○ 
〜208年5月中旬

長沙。
金旋軍の統治により現在は混乱はないものの、
城の内外には先の戦闘の傷痕がいくつも残っていた。
その様は、この地の民が未だ戦に怯えているように見えた。

   金旋金旋    劉髭劉髭
金 旋「ふう、戦後の復興も大変だな」
劉 髭「うむ、金も人も必要じゃ。
    幸い、韓玄軍の残した金で当面の財政はどうにかなりそうじゃが」
金 旋「問題は人材だなー。
    劉備軍の残した将たちはどうにか登用できないか?」

先頃、荊州北部では劉備の城だった新野が、曹操に攻められて落城。
劉備は城を失い、その勢力は消滅した。
彼の配下だった将たちは、曹操に捕縛されたり、在野に下っていたりした。
そのうちの何人かは、曹操に登用されている。
その中には、天下無双の豪傑である関羽、張飛も含まれていた。

劉 髭「難しいのう。もともとあそこの将は義理堅い者が多い。
    降伏した曹操には仕えても、そう他からの誘いには乗りそうには思えん」
金 旋「だろうなあ……」
劉 髭「それに、いざ登用するとなれば、新野や他の曹操領へ出掛けてくることになる。
    その留守となる期間が勿体無いわい。失敗すれば全く無駄になるしの(※1)

(※1 遠くにいる将を登用しようとすると、かなり往復時間がバカにならない。
 例えば荊州南部の武陵から、北の外れの襄平に行こうとすると往復30日かかる。
 当然、登用が失敗すれば1ヶ月無駄にしたことになるわけだ)


金 旋「と、なると、ここか」
劉 髭「うむ。ここじゃな」
金 旋「よし、会いに行こう。誰か、獄へ案内せよ」

彼らの言った『ここ』とは、この長沙のことである。
その長沙の獄には、元韓玄の将が4人、捕らえられていた。
金旋は、その中の一人、魏延と面会しようとしていた。

金 旋「しかし韓玄がアホだった割に、配下には優秀なのが多いよな」
劉 髭「そうじゃな。黄忠に逃げられたのは惜しかったの」

黄忠は柴桑の遠征部隊にいたため、長沙陥落の際にそのまま逃亡した。
現在どこにいるかは不明(※2)である。

(※2 システム上では、武将一覧で確認可能)

金 旋「まあ、欲を言えばきりがないがな。
    魏延に韓浩、この両名が捕らえられたのは大きい」
劉 髭「そうじゃなあ。後は登用するのみじゃ」
金 旋「ああ。そういや、魏延って反骨の相があるって話だったな」
劉 髭「うむ、噂は聞いたことがある。
    なんでも、その骨を持っている者は主君に仇為すとか」
金 旋「どんな骨かねえ。興味あるよな」
劉 髭「まあ、頭にちょっと出っ張りがある程度じゃろ」
金 旋「そんなところか……。お、来たようだ」
獄 吏「失礼致します。魏延どのをお連れしました」
金 旋「うむ。通せ」
獄 吏「はっ。こちらです」

   魏延魏延
   ドッギャーーーン

金 旋オアーーー! 鬼だあーーー!!
    鬼はそとーーー! 福はうちーーー!
魏 延「……会っていきなりそれか。礼儀を知らん男だな?」
劉 髭「お、おちつけ金旋どの。彼が魏延どのじゃ」
金 旋「へ? あ、ああ……すすすまぬ取り乱した。
    と、ところで、そ、その角は一体……」
魏 延「生まれた時からあるものだ。
    とある者には『反骨である』と言われたが、私も詳しくは知らん」
金 旋「はんこつ、ねえ……」
劉 髭「そ、それよりほれ、本題に入ろうではないか」
金 旋「あ、ああ、そうだな。
    魏延、先の戦闘での指揮ぶりは敵ながら見事だった。
    貴殿の預かる兵がもう少し多ければ、我々はここにはいなかっただろうな」
魏 延「ふん、お前が戦下手なだけだ」
金 旋「なんだと!?」
劉 髭おちつけい!
    ホントのことを言われたからと言って、そう怒るな!」
金 旋「うるせー! どうせ俺は統率低いよ!」
劉 髭「どうどう。で、でじゃ、魏延どの。
    貴殿の武勇、獄に繋いでおくには惜しい。この男の配下とならんか?」
魏 延「断る。小人に仕えるのはもうこりごりだ
金 旋「だーれーがー小人さんだーーーーー!
劉 髭「おちつけっちゅーに!
    それに『こびと』じゃなくて『しょうじん』じゃ!」
金 旋「バカにされてる意味じゃ同じだっ!」
劉 髭「ああ、もうどうしようもないのう……。
    ……魏延どの、よくよく考えてみてくだされ。
    このままでは、ただの敗軍の将でしかない。
    この男に仕えることでしか、おぬしの道は開けぬとな」
魏 延「…………」
劉 髭「では、また会いに来よう。ほれ、いくぞい!」
金 旋「待て! まだ、まだ俺は何も言ってないーーーーー!」

金 旋「こら軍師! なんですぐ引き下がった!」
劉 髭……バカもん、頭を冷やせ!
    あんな喧嘩腰で人を口説けると思うてか!」
金 旋「む……」
劉 髭「おそらく、すぐには登用には応じまい。焦らず時間を置けい。
    彼らもずっと捕虜のままでいたいとは思わんはずじゃ」
金 旋「しかしなあ。こうバカにされるとな……」
劉 髭「彼らはまだ、おぬしが韓玄と同様のバカ太守だと思っておるのじゃ。
    序々に、韓玄などとは違うことを知らしめてやれい」
金 旋「ぬう……わかった。そうしよう。それより……」
劉 髭「ん? なんじゃ」
金 旋「魏延のアレ、どう見てもだよなあ。
    1千万パワーのあの人にそっくりだ」
劉 髭「……あの人?」
金 旋「ほれ、『ハリケーンミキサー!』とか
    『ロングホーントレイン!』とかやってる、あの人」
劉 髭「知らんのう……」
金 旋「俺らが苦戦したのも無理ないよなあ。
    あれほどの者が味方に出来れば、心強いんだがなあ」

金旋自ら魏延を登用しようとしたものの、断られてしまった。
これにより、捕虜の将を登用することをしばらく断念することとなる。
当面は民心の安定、兵の補充に専念することとなった。

〜う・ん・ち・く〜

魏延文長。
劉備、劉禅に仕え、その軍事的才能と武勇は蜀になくてはならないものであった。
しかし叩き上げの武人で我が強く、文人肌の諸葛亮、楊儀などとはソリが合わなかった。
そのため諸葛亮の死後、謀反の罪を着せられ殺されている。
(実際には謀反などしておらず、楊儀との抗争に敗れただけである)

そんな彼の『反骨の相』を表すべく、顔グラフィックを修正しました。
フリーウェアの『顔グラ交換ツール』を使い、ゲーム中の画像も変えてあります。
なので魏延が顔を出すたび笑いが……。

なお角の部分は『あの人』のぬいぐるみの写真画像から持ってきてます。

顔グラ交換ツールは、リンクしたHP『コーエーゲームのツール』よりダウンロード可能です。
自分もやってみようという方はどうぞ。

では、リプレイに戻ります。

〜208年6月、7月

六月に入り、荊南の情勢がまた動いた。
零陵の劉度が、軍を率い桂陽に攻め込んだのである。
だが、この戦闘は劉度軍が退却、敗走したことですぐに決着がついた。
桂陽の兵は大した被害もなく、結局、劉度軍は兵を減らしに来ただけと言えた。

さて一方、金旋のいる長沙では。
兵力を整え巡察を繰り返し、武陵ほどではないにしろ、治安も安定してきていた。
だが、衡陽の趙範軍は未だ健在であり、まだまだ気の抜けない情勢が続いていたのである。

   金旋金旋    魏延魏延
金 旋「……お前の力が是非とも必要なんだ。頼む、力を貸してほしい」
魏 延「わかりました。あなたの将となりましょう」
金 旋「おお! そうしてくれるか!?」
魏 延「私を使いこなして頂きたい。さすれば忠義を尽くし働きましょうぞ」
金 旋「うむ、心得よう。活躍、期待するぞ」
魏 延「はっ」

金旋は、捕虜になっていた魏延と韓玄の弟の韓浩を登用し、戦力の充実を図る。
またこの後、魏光(魏延の子)と鄒興(鄒靖の子)も遅ればせながら登用に応じた。
一ヶ月前は皆、登用に応じなかったのに、この変わり様はなぜだろうか。
それは、このような秘策によるものだった。

金旋は、ここ1ヶ月ほど魏延ら捕虜の将のいる獄に、
夜な夜な金旋を讃える歌を流させた。
聞こえるか聞こえないかギリギリの音量のその歌は、彼らの無意識に刷り込まれ、
その結果、彼らの頑なな心を溶かし登用に応じさせたのだった。
発案者の劉髭はこれを『睡眠学習催眠登用法』と呼んだ。
今後も金旋軍はこの方法を用い、捕らえた将たちの登用を容易にしたのであった。

何はともあれ、序々にではあるが金旋軍の人材も増えてきていたのだった。

そして、七月。
またも情勢は変わる。

   金旋金旋    鞏志鞏志
金 旋反曹操連合?(※3)
鞏 志「はい。大勢力である曹操に対し、
    諸侯が力を合わせ対抗しようではないか……という動きがあります。
    すでに孫権、馬騰などが名乗りを上げているようで。
    これに、我らも同調致しましょうか?」
金 旋「うーん、しかしなあ……。
    一応、我が軍は曹操とは友好関係にあるんだぞ?」

   劉髭劉髭
劉 髭「いや、ここは我々も同調すべきじゃ」
金 旋「ん? 何でだ?」
劉 髭「劉度や趙範も連合に加わりそうじゃ。
    となると、両軍は一時的にしろ休戦状態となる。
    そうすると、その2勢力の矛先は……」
金 旋「なるほど、連合不参加の俺の方に向かってくるってわけか」
鞏 志「となりますと、我々も連合に加わり、一時的に平和を迎えた方がよいでしょう」
劉 髭「うむ、その間に力を蓄えておくのじゃ。
    一年後の連合解散時には、すぐにも両軍を飲み込めるほどになっておこうぞ」
金 旋「よし、わかった。我々も同調する。
    『曹操を打倒せよ!』……と一応表向きは言っておくとしよう。
    言うだけはタダだからな
鞏 志「はっ!」

(※3 反●●連合……一番支配都市の多い勢力が動員兵力30万を超えると発生する。
 『目標勢力』と『参加勢力』との関係が悪化し、参加勢力同士の関係は良くなる。
 連合参加前に、とある勢力と戦闘状態にあっても、
 両勢力が連合に加わることで共に休戦、中立の関係となる。
 なお、連合している勢力に攻め込んだりすると、非難の対象となって君主の信望は下がり、
 連合からも除名されることになる)


反曹操連合が結成され、盟主である孫権を中心に曹操包囲網が出来た。
だが現在、実際に曹操と戦闘状態にあるのは馬騰と張魯、張芽くらいなもので、
あまり実行力のある連合ではなかった。
しかしながら、金旋、趙範、劉度が火花を散らしていた荊南地方には、
一時の平和がもたらされたのである。

長沙の街も、だいぶ穏やかな雰囲気がやってきていた。

   金旋金旋    劉髭劉髭
金 旋「で、街の巡察をしているわけだが……」
劉 髭「ダメじゃな、長沙は。
    可愛い娘はなかなかおらんのう
    やっぱり武陵の方がええわい」
金 旋「何を美少女ウォッチングなんかしてるかな、このじじいは」
劉 髭「よいではないか、つかの間の平和なんじゃ。
    今は今しかやれんことをやろうではないか」
金 旋「あのなあ」
劉 髭「そうそう、今しかやれんことといえば、兵力の移動もそうじゃな」
金 旋「……いきなり真面目な話すんなよ。で、兵力の移動って?」
劉 髭「次の目標を考えるとじゃな、武に優れる将の多い趙範軍とは、
    あまりやり合いたくないところだと思うんじゃ」
金 旋「ふむ、確かにな。陳応、鮑隆ら、そこそこいい武将が揃ってる。
    それに衡陽の城塞も落とすにはかなり骨が折れそうだ」
劉 髭「そりゃ、もう! 骨も折れようボキボキと!
    なにしろ、ワシがガッチガッチの城に仕立てたからな!」
金 旋「余計なことしてからに……」
劉 髭「奪われたのはおぬしが兵の配置をミスったからじゃ」
金 旋「なんだと?」
劉 髭「まあ、過ぎたことを言い合っても仕方あるまい」
金 旋「そりゃそうだ……で? 話の続きは?」
劉 髭「うむ。趙範軍は手強そうだ……とまで言ったんじゃったな。
    ……さて一方、零陵の劉度軍は、文官ばかりで武に優れる将が少ない。
    となると標的にすべきは、まずはこちらじゃ」
金 旋「しかし零陵を攻めるとなると、この長沙からは遠いな」
劉 髭「そこでじゃ。
    趙範軍と中立である今のうちに、武陵へ兵を送っておくのじゃ」
金 旋「ほう? 確かに、移動中に攻撃されることはないだろうが……。
    なんでだ?」
劉 髭「まあ図解するとこうなるんじゃが……」

荊南情勢荊南情勢

劉 髭「荊南の現状はこうじゃ。衡陽の趙範軍が邪魔ではあるが、我が軍が最大勢力といえる」
金 旋「ふんふん、それで?」

荊南情勢予想1情勢予想1

劉 髭「番号順にいくとじゃな。
    1番、まず、長沙を守れるギリギリの兵を残し武陵に兵を移動させる。
    2番、零陵の劉度軍は、兵の多くなった武陵よりも、桂陽を狙うであろう。
    3番、劉度軍が出撃したその隙を突き、零陵を攻撃し、落とす。
    ……もちろん、それまでに兵力はもっと増強しておくがの」
金 旋「ふむふむ、長沙の時と似たような感じだな。
    留守を狙った火事場泥棒って奴だ」
劉 髭「卑怯でもなんでもない、『勝ち易きに勝つ』。これが兵法じゃ」
金 旋「だが、ちょっと抜けてるんじゃないか?
    もしもだ。劉度が動く前に、趙範が兵の少ない長沙に攻めてきたら?」
劉 髭「それはそれでまたチャンスじゃよ。衡陽を取り戻すことができる」

荊南情勢予想2情勢予想2

劉 髭「1番、長沙が攻められる。
    ……しかし、衡陽からの出兵だとそう兵は多くは出ん。
    長沙もすぐには落ちんじゃろう。
    その間に、2番じゃ。武陵より出兵し、兵の減った衡陽を陥落させるのじゃ。
    あとは、後背から長沙を攻め取る趙範軍を討ってやればよい」
金 旋「ほほう。衡陽を取り戻せば、最初の戦略通り。
    万全の防御体制となるな」
劉 髭「そうであろう。どう転ぼうが、我が軍に不利はない。
    これは武陵と長沙、2つの都市を領する絶対的な優勢があるからじゃ」
金 旋「なるほどな……長沙を取っておいて正解、というわけだ」
劉 髭「ま、この戦略も荊南以外からの侵入がない、という前提から来るんじゃがな」
金 旋「劉表も孫権も来る気はないさ。どっちも曹操の方に向いてる。
    よし、早速兵を動かそう。同時に将も移動だ。
    鞏志や潘濬たちに長沙の開発を任せて、俺達は武陵に戻り兵力を増強する」

7月末、金旋軍は兵や将の配置転換を図る。
武陵にいた潘濬・劉巴を長沙に呼び寄せ、残した鞏志・韓浩・鄒興と共に復興・開発を任せる。
そして金旋、劉髭、金目鯛、鞏恋と魏延・魏光親子は武陵へ向かう。
こちらは兵力の増強・鍛錬を目的とした部隊である。
また、長沙の兵力を序々に武陵に移し始めた。

次の領地を得るために、虎視眈々と準備を進める金旋軍であった。


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