○ 第四章 「誰も来てくれなくて…夏」 ○ 
〜207年4月


4月も下旬になり、暑さも本格化してきた武陵。
もともと南方に位置するこの地だ。
服装も薄手のものにしないと、暑くてやっていられない。
武陵の太守府でも薄着の者が目立っていた。

   金旋金旋     劉髭劉髭     下町娘下町娘 

金 旋「……だからって、
    ステテコパンツとランニング姿
    っつーのはどうかと思うぞ、爺様」
劉 髭「暑いもんは仕方あるまい。
    おぬしこそカッコつけてそんな着物を着おって。
    そんな格好しても威厳なんて全く出ないぞ?
金 旋「う、うっせーじじい!
 ここには下町娘ちゃんだっているんだぞ? もう少し気にしろ」
下町娘「あ、私は気にしませんから。だいじょぶです」
劉 髭「ほれ、こー言っとるではないか」
金 旋「そ、そうか……?」
劉 髭「下町娘ちゃんも薄手の白い服が眩しいのぅ。
    こう、身体のラインが見えて……ぐひひ
下町娘「いやん、お爺様。
    そーいうこと言ってるとセクハラで訴えますよー?
劉 髭「や、やあ、冗談じゃよ冗談。カ、カッカッカ」
金 旋「ふーむ……しかし気にせんのなら別にいいか。
    いい加減暑いしな、これは脱ぐか……」
下町娘「あ、金旋さまはダメです
金 旋「なぜに!?」
下町娘「どうしてもです。絶対ダメですからね」
金 旋「………………。
    (スタッフサービスに電話したくなったなぁ……)」(T□T)

部下からのイジメにあったら、オー人事オー人事までお電話を。


ちりーん、と風鈴の音が鳴る。
傍らでは蚊取り線香が細い煙を上げていた。
武陵の夏、金旋の夏。

金 旋「しかしなー爺様よー」
劉 髭「……おぬし、そろそろ『軍師様』と呼んでくれんか?」
金 旋「だーれが言うかい。
    そう呼んで欲しかったら、もうちょっと的確に助言しろっての」
劉 髭「……いつも的確に助言しとるだろ?」
金 旋ど、こ、が、だああ!
    つい先頃の李異を登用しようとしたとき、なんて言った!?」
劉 髭『十中八九は成功するじゃろう』だったかの」
金 旋「登用の結果は失敗だったよな?」
劉 髭「うむ、まさにワシの言ったとおり
金 旋どうしてそうなる!
劉 髭「まあ聞け。
    十中の八九は成功する、ということはだ。
    十中の一二は失敗する、ということじゃ」
金 旋「……は?」
劉 髭「つまりは、あの時ワシは『登用できんかもしれん』
    と言っておったのじゃよ」
金 旋「……ちょ、ちょっと待て、それは何か違う……」
劉 髭「どう違うのじゃ? ワシの今の言葉に嘘はなかろう?」
金 旋「え? そ、そう言われると……。
    ま、まあそれはそれでいいとしておく。
    しかし沙摩柯を登用しようとした時の、
    『あの者も当方からの誘いを待ってるだろう』
    とか言うのは何だ! あの時も失敗したぞ!」
劉 髭「『誘いが来るほど自身が評価されている、ということを嬉しく思ってくれるだろう』
    ということじゃ。登用に応じるとは言っておらん」
金 旋「おいおいおい! それって屁理屈と言うんじゃ!?」
劉 髭「まあまあ、あやつらとの相性がイマイチじゃったということじゃろ。
    自身の境遇に不満があり、相性のいい者ならば、必ず来てくれよう」
金 旋「そ……そうか? 誰か来てくれそうなの、いるか?」
劉 髭「他勢力で不満を持ってそうな者をリストアップしてみたぞ。
    この中から誰か誘いをかけてみるがよい」
金 旋「ほ、ほほう。ぐ、軍師どの、そのリスト、早く見せてくれい」
劉 髭「カッカッカ、そうあせるでない……」


   金玉昼金玉昼     鞏志鞏志 

金玉昼「あーあ……ちちうえ、簡単に丸め込まれていまひるー」
鞏 志「軍師の口車に翻弄されてますなぁ……」


金旋、リストアップされた将の中から劉度配下の魏劭(魏攸の子)を選び、自ら登用に乗り出す。
しかし魏劭は全く受ける気はなく、金旋は失意のうちに帰投した。

劉 髭「おやおや、やはり登用できなんだか」
金 旋「ちょっと待て! 今回は
    『必ずや快諾するだろう』って言ってただろう!」
劉 髭「はて、そんなこと言ったかのう。最近ボケてきたかもしれん」
金 旋こーのーじーじーいーがーーーっ!


〜207年5月

武陵の内政は、少しずつではあるが改善されてきていた。
金の不足は兵糧の売却金で補い、開墾、巡察をそれぞれ得意な者が行う。
貧乏克服計画は、それなりの成果を上げていたのだった。

しかし、金旋の表情はあまり晴れない。
人材の登用では、劉髭が潘濬を連れてきた以外はことごとく失敗していたからであった。

金 旋「はあ〜。全然あかんなぁ」
鞏 志「申し訳ありません……。譚雄も、なかなか心を開いてくれませんで」
金 旋「まあ、ダメもとで今回も登用を……あれ?
    譚雄が武陵におらんぞ?」
鞏 志「李異も沙摩柯もおりませんな。
    調べてみましょう、少々お待ちを」

しばらくして。

鞏 志「太守……。譚雄も李異も沙摩柯も、孫権の配下となった模様です」
金 旋な、なにぃーーー?
    譚雄は『まだ仕官するつもりはない』って言ってたし、
    李異は『しばらく天下見聞の旅を続けるつもりだ』
    って言ってたんだぞ!? それが急に……!?」
鞏 志「やはり勢力の大きさでしょうか……。
    孫権の領国は曹操に次ぐ大きさですから」
金 旋ふ、ふふふふ……
鞏 志「……た、太守? どうされましたか?」
金 旋「いいんだ鞏志、言い繕う必要はない。
    はっきり『君主の魅力の差だ』って言っていいぞ。
    はっはっはっはっ」
鞏 志「太守、お気を確かに!」
金 旋「いいんだいいんだ!
    どーせ俺なんて4バカ君主の1人なんだ!
    そんな奴になびく人材などおらんわ!
    うひゃひゃひゃひゃ!
鞏 志太守!

びしいっ!(鞏志、金旋の頬を張る)

金 旋「は……」
鞏 志「し、失礼しました!
 しかし太守、あまり自らを卑下するものではありません」
金 旋「鞏志……」
鞏 志「確かに孫権はなかなか稀有な人物かもしれません。
    英雄と呼ぶに相応しい人物でしょう。
    しかし、だからといって太守に魅力がないということではありません!」
金 旋「…………」
鞏 志「現実に潘濬どのが仕官してくださったではありませんか!
    彼ほどの人物が、他の者よりも太守を選んだのです!
    それがなによりの証ではありませんか!?」
金 旋「しかし、彼は軍師が連れてきただけで……」
鞏 志「いいえ! いくら登用の使者が優れていようと、
    最終的には君主本人の魅力こそが決め手となるのです!」
金 旋「そ、そうだな……」
鞏 志「納得していただけましたか?」
金 旋「うむ。潘濬は優秀な男だ。それが俺の元にいる。
    その事実は誰にも否定できんし、させる気はない」
鞏 志「はっ」
金 旋「それに、お前が俺の元にいてくれているのだ。
    俺もそう捨てたものではなかろう」
鞏 志「は、ははは、太守も世辞が上手くなりましたな」
金 旋「ふふふ、そういうことにしておくか。
    よし! そうなれば、また人材登用だ!
鞏 志「…………え゛?
金 旋「なぁに、今までの奴らとは相性が悪かっただけだ!
    俺に魅力がある限り、人材は必ず来る!
    そういえば建寧あたりに不満を持ってる将がいたはずだ……。
    よし、行って参る!」

どたどたどたどたどたどた

鞏 志「あ、ちょっと、太守〜!
    ……あーあ、行ってしまった。
    参ったな、そうそう登用なんて成功するとは思えないんだが」


鞏志の心配通りだった。
建寧の蛮望配下の胡渉を登用に向かった金旋であったが、あえなく撃沈。
(金目鯛、下町娘も同様に登用をかけたが、これも失敗)
20日後に帰ってきた金旋は、またも自信喪失モードに突入していたのだった。



〜207年6月

金 旋「どーせ俺は魅力ないさぁー。くすんくすん」

自室でひとりさびしく酒を飲みながら愚痴る金旋。
そんな彼を家族と配下の者は遠巻きに見ていた。

下町娘「ああ……だいぶ参ってますねぇ」
金目鯛「ありゃあ重症だなー。親父も人の子だから」
金玉昼「むしろ人より打たれ弱いにゃ」
劉 髭「とはいえ、このままではうっとーしくてかなわんぞ?」
鞏 志「……こうなれば、もう誰でもかまいません。
    なんとか人材を登用してきて、元気を取り戻してもらうしか……」
潘 濬「それが一番ですな。手分けして登用に向かいましょう」

彼らは、方々の不満を持ってそうな将にアタックを掛けに行く。
しかし残酷にも、誰も登用には成功しなかった。
一方、残された金旋は……。

金 旋「……ふー、ずっと部屋に篭ってるのもなんだな。
    気晴らしに外に行ってくるか。おーい、鞏志ー」
金玉昼「あ、ちちうえ?」
金 旋「お、玉。鞏志見なかったか?」
金玉昼「え、え? きょ、鞏志さんはちょっと留守にしていまひる」
金 旋「ん? どこ行ったんだ? 軍師も姿見かけないしなぁ」
金玉昼「さ、さあ? わかんないにゃー」
金 旋「まあいい。ちょっと領内を見廻りしてくるぞ」
金玉昼「は、はーい。いってらっしゃいまひる〜」

金旋は、そのまま1人で町へ出た。

金 旋「んー、領内は争いごともなく平和だな、なによりだ。
    これも皆が仕事をきっちりこなしてくれてるからだな。
    それは感謝せねば」
男 A「あ、金旋さま!?」
金 旋「おう、いかにも俺は金旋だぞ。
    ……どうした慌てて、なんかあったのか?」
男 A「そ、それが、土地神様がお怒りになられて!(※)
金 旋「はあ? 土地神?」

男の話によれば……。
この近くにある土地神が祀られた祠で、土地神の怒りの声が聞こえるそうな。
なんでも、
供え物がないぞ〜 祟ってまうぞ〜
プリーズギブミーイチマンエーン

と怨みの声をあげていたとか。

(※ 実際の土地神イベントは、探索時に発生します。
 見廻り、つまり巡察では発生しません)


男 A「おねがいでごぜえます! お助けくだせえ!」
金 旋「お、お助けったって……お、俺が神様なんかに敵う訳がな……」
男 A「おねがいでごぜえます! おねがいでごぜえます!」
金 旋「わ、わかったわかった。一応見に行くだけ行ってやるよ」
男 A「ありがとうごぜえます!」

成り行きで引き受けてしまった金旋。
男に案内されて祠に行く途中、
(あ、軍師に相談するとか言えばよかったかなー。でも今更そんなこと言い出せねーな)
(オカルトの類の書は玉が好んで読んでたよなー。こういう奴の退治法とかないのかなー)
とか考えていた。

男 A「ここでごぜえます」
金 旋「そ、そうか」(少々びびってる)
男 A「では、いってらっしゃいまし」
金 旋「う、うむ……」

おそるおそる中へ入っていく金旋。
そこは祠というよりは、洞窟のようであった。

金 旋「……うーむ、暗くてよく見えんな……。
    あ、そうか、ちょっと奥に行って戻って、『何もいなかった』って言えばいいんだ。
    そうだそうだ、俺ってあったまいーーー

それは根本的な解決にはなってないわけだが、
気楽になった金旋、ずんずん進んでいく。

がっ

どたんっ!

金 旋「い、いでで。何かにつまづいたぞ……」
盗 賊「いっでぇ……なんかがぶつかったぞ……」

……
…………
………………

盗 賊誰だてめえーーーーーーー!!
金 旋誰だきさまーーーーーーー!!

盗 賊「だ、誰だっていいだろうが!」
金 旋「……ははあ、お前が土地神を騙ったんだな?
    ふふん、聞いて驚け、俺は武陵太守の金旋だ。
    おとなしくお縄につけい」
盗 賊「う、嘘だ! んなわけねえ!」
金 旋「んなわけあるんだから仕方ないだろ!」
盗 賊「絶対違う!
    だってお前、太守ってツラしてねーだろ!


   金旋金旋


金 旋なんだとコラァーーー!

ばきぃぃっ


金旋の活躍により、土地神を騙った賊は捕えられる。
賊を引き渡した金旋は、頼まれた男とその仲間に出迎えられた。
(ちなみに、その賊の顔は必要以上にボッコボコにされていたらしい)

男 A「いやあ、さすがは金旋さまじゃあ!」
金 旋「はっはっは、まあな」
男 A「これはお礼の金にごぜえます。皆が少しずつ出し合いましたんで」
金 旋「お、おう。すまんな、ありがたくいただこう」
男 B「金旋様、ばんざーい!」
老 人「ばんずぁーい!」
子 供「ばんじゃーい!」
全 員ばんざぁーい!
金 旋「うむうむ、ありがとう、ありがとう」

この出来事が広まり、金旋の人望は上がった。
「情けは人のためならず」とは良く言ったものである。

しばらくして、鞏志たちが登用先から戻ってきた。
盗賊を捕らえた話を聞き、鞏志が謝る。

鞏 志「申し訳ありません、留守にしている間に太守を危険な目に……」
金 旋「いやいや、貴重な体験だった。
    民にああして喜ばれると、実に気持ちがいいものだ」
鞏 志「……左様ですか、それは良うございました。
    お気持ちの方も、すっかり晴れたようですな」
金 旋「うむ、人徳とは持って生まれるものではない。
    小さな徳を積み重ねていくものだと思い知らされた。
    ならば徳の無さをただ嘆くのではなく、より多くの徳を積むべきだ……。
    そう教えられた気がする」
鞏 志「さすがです、太守……」
金 旋「というわけで、次回より探索を強化する!
    その際に困ってる人々を見つけたらすぐ助けるように!」
鞏 志え゛
金 旋「ふっふっふ、こうして人々の信望を高めていけば……。
    人材なんていくらでも来てくれるわー!
    はーーーーっはっは!
鞏 志「はぁ……。
    (やれやれだな……。まあ落ち込まれてるよりはいいか)」

この言に従い、鞏志ら武陵の将たちは幾度も人助けを行い、金旋の名を上げた。
あるときは難民に施し、またあるときは賊の退治。
その他祭りを認めたり商売の許可をしたり……。
いつしか彼らは、『武陵お助け隊』とあだ名されるようになったのである……。


かくして、新たな人材は登用できなかったが、信望向上という目標を得た金旋。
今後、彼は人々に仁君と思わせることが出来るのだろうか!?
また、本当に人材は来てくれるようになるのだろうか?
そして今回は台詞ひとつだけの金目鯛の運命やいかに!?
待て、次回!


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