東鳩の怪談!

written by 李俊

それは、ある暑い夏の日のことじゃった…。(日本昔話風に)

「ヒロー!今日さあ…」
昼休み。
毎度のごとく、頼んでもいない『喋る東スポ』が俺のとこに届く。
「お前と付き合ってるヒマも義理もない。わかったら帰れ」
昼寝をしていた俺は、首をあげて志保にそう言うと、また元の昼寝の体勢に戻した。
「ちょっとぉ…その態度は何よ。話を聞きなさいって」
ちょっと不機嫌そうな声だ。
…無視無視。
こいつと話すとロクなことがない…。それに時間のムダだ。
俺にとってこの昼寝の時間は、なによりも代え難いものなのだ…。
「ふぅ〜ん…そういう態度に出るんだぁ…」
今度は何か企んでるような声。
…ふん、その手は食うか。
どうせ大したことじゃないんだ。完全無視無視。
「あっそう。じゃ、みんなに言いふらそーっと。『藤田少年、覗き行為を見つかり金髪少女にハンティングされかかる!』…ってね」
がばっ!
「何か御用でございましょうか志保お嬢様」
「いいわねー。あんたのそーいうとこ好きよー」
志保は楽しそうだ。
「…そりゃどーもぉ」
こいつに言われても全然うれしかねー。
「何の話?志保」
志保が来てるのに気が付いたか、あかりが俺の机のところまで来る。
「あ、あかり。いやねぇ、ヒロがレミィに…」
わわわっ!
「おいこらっ!言うんじゃねっての!」
「あら、ごめーん。つい」
「つい、じゃねーよ」
…こいつ、わざとやってるんじゃねーだろな。
「?」
あかりはわけがわからないといった表情だ。
「丁度よかったわ、あかり。あんたも今日、参加ね」
「酸化?塩酸でもかけるのか?」
「ひ、浩之ちゃんひどい…」
俺のせっかくの高度なギャグを、あかりは真に受けてしまった。
ちっ、使えん奴。
「ヒロ…」
ジト目で睨んでいた志保が、何か言おうとした時。
「今のギャグ、北極点並みの寒さやで」
隣りの席にいたいいんちょが、ぼそっとつぶやいた。
…ひゅうううううううううううううううううううううううううううう。
季節は夏だというのに、凍てつく寒さが俺を襲った…。
「保科さん…代弁ありがと」
「別にかまへんよ。…それより今日、何をやるんや?」
「ん?保科さんも気になる?じゃ、説明するわね」
「そ、それより志保…浩之ちゃんが固まったままなんだけど…」
…情けないことに、俺はいいんちょの一言に凍っていた。
うっ…意識はあるのに、動けん!?
金縛りかぁっ!?
「なんやの、あの程度で情けないわ」
いいんちょの痛いお言葉。…ホントに情けなや。
「ここは…王子ならぬ、王女様のキッスで目覚めさせるしかないわね…というわけで私が」
なっ!志保!何する気だっ!
俺の貞操はお前にはやれ〜んっ!
俺にキスしていいのは、あかりだけじゃ〜っ!
「…何言うてんのや、神岸さん差し置いて何すんねん」
そうそう、いいんちょの言う通り。
「…わかったわよ。じゃあかり、ぶちゅ〜っとやるのよ!」
「えええっ!そんな、こんなとこじゃできないよ〜(半泣)」
…弱音を吐くな、あかり!
人の目を気にしてど〜するかっ!
いつもはあ〜んなことや、こ〜んなことしてるじゃないかっ!
…えへ。(←思い出した)
「…なんか嬉しそうやね、藤田くん」
ドキ。
いいんちょがジト目でこっちを見る。
い、いや、別に嬉しいとかじゃなくて、動けないんだからしょうがないだろ…。
って、俺は今しゃべれないのに何言ってんだ。
「喝っ!」
ゴキッ!
急に背後から声が聞こえたその瞬間、背骨に激痛が走った!
「いでぇぇぇぇぇぇぇっ!何するかぁぁぁぁぁぁぁっ!…って、あれ?動ける…」
「動けるようになってヨカッタネ、ヒロユキ」
振り向くとそこには、レミィがいた。
「レミィ?…今の『喝』は一体…」
「どこかのジーサンに教えてもらった技ネ」
ニコニコと笑うレミィ。
どこぞのジーサン?
あのジジイ、レミィにも何か怪しい技を教え込んでいるのか?
ちなみにジジイとは、愛のニックネームを持つあのクソジジイである、マル。
「そーね、レミィも丁度いいわ、今日のお楽しみ会について説明するから聞いて」
志保が猫を誘うような手でレミィを呼ぶ。
「…なんやの?そのお楽しみ会て」
いいんちょが聞き返した。
それを聞いて志保は不敵に笑う。
「ふっふっふ…今日は、夏といえばコレ!っていうイベントよ」
夏といえば…ねえ。
うーむ、夏といえば…スイカ…かき氷…流しそうめん…冷やし中華。
って全部食いもんやんかっ!などと1人ツッコミ。
「夏といえば花火やろ?」
おお、いいんちょ。それだそれ。
しかし、志保は首を横に振った。
「んー、ちょっと違うのよねぇ。涼しくなるイベント、というかぁ…」
「もしかして…キモ試し?」
あかりがおそるおそる聞く。
そーか、そういう手があったか。
「いや、それはその…秋に取っておいてぇ…(汗)」
しかし志保は、冷や汗をたらして否定した。
「何で取っておくんだよ?」
普通は秋にキモ試しなんてやらねーぞ?
しかし志保は、ダラダラと冷や汗を流している。
「…いいのよ!秋にやることに決まってんだから!(大汗)」
…なんのことだろう?(笑)
「と、とにかく。今日は『怪談百物語』をやりたいと思いま〜す」
こいつ、話を逸らしやがった。
…まあいいけどさ。
「カイダン?それってコワイ話のコトでしょ?」
「そそ。1人1本ロウソクに火を点けて、1つ怪談を話すたびに消してくアレよ」
「へえ…面白そうやないの。やってもええで」
いいんちょが賛同した。
「ワタシもイイヨ」
これはレミィ。
「じゃ、僕もね」
これは、雅史…って、わあっ!
「ま、雅史、いつからそこにいた?」
「やだなあ浩之。浩之が昼寝している間、ずっと見守っていたじゃないか」
にこっと笑う雅史。
…な、なんか急に寒気が。
「ヒロもやるわよね?」
え?俺か。
「う…うむむ。しょうがねー、やったるよ」
俺は幽霊とか苦手な方なんだが…ま、別にいいだろ。
本物に会うわけじゃないし。
「…あかりはどうする?怖いんなら強制はしないけど…」
「う、ううん。いいよ、面白そうだから…え、えへへ」
あかり…顔が引きつってるぞ…。
「よし。じゃ今日の夜9時、校舎裏の神社に集合ね〜」
…やれやれ。何も起きなきゃいいんだが…。
☆☆☆

放課後。
帰ろうとしていた時、誰かの呼び止める声が聞こえる。
「浩之さ〜ん」
この声は、マルチだ。
振り向くとマルチが、手をブンブンと振ってこちらに走ってくる。
トテテテテテ…ポテ。
…転んだ。今日も。
だああああああっ!お前の学習型コンピュータは伊達なのかぁっ!
…などと言いたくなるが、ここは我慢。
悪いのはマルチじゃないしな…造った奴が悪い、うん。
「大丈夫か?マルチ」
「は、はい〜」
マルチの手を取り、助け起こしてやる。
「浩之さん、お帰りですか?」
まるで何事もなかったかのように、マルチは聞いてくる。
…転んだ後の処理だけ学習してんのか?
「ああ。…そうだ、一緒に帰るか?」
「は、はいっ。うれしいです〜」
ホントに嬉しそうにマルチが答えた。

帰り道。
「そういやさ、今日怪談話大会やるんだ」
たわいもない世間話から入って、話題は今日のイベントに写った。
「そうなんですか?」
マルチは興味ありげに聞く。
「ああ、みんな集まってな」
「…私も参加していいですか?」
「…え?」
参加って…怪談話だぞ?知ってんのか?
…俺の持った疑問は、次の言葉で解消された。
「以前に長瀬主任から、お話を聞かされたことがあるんですよ」
「へえ…主任からねぇ」
あの馬ヅラの主任からね。
…うぷ。思い出したら笑いそうになってしまった。(←失礼なヤツ)
「今日の夜は自由行動が認められてますから、参加できると思いますが」
マルチは是非ともいきたい!といった感じだ。
…怖い話するんだけどな…ま、いいかな。
「ああ…いいんじゃないか?人数は多い方がいいと思うし」
「あ、ありがとうございますぅー(ぺこりん)」
んな大層にお辞儀せんでもいいって。

☆☆☆

さて。
草木も眠る丑三つ時…にはまだ5時間ほど早い。
少し遅れ気味に神社に到着すると、懐中電灯の光が俺とあかりを出迎えた。
「遅いわよ、ヒロ、あかり。みんな揃ってるわよ」
懐中電灯のヌシは志保であった。
「いや、わりぃ…あかりが『怖いよ〜怖いよ〜』ってダダをこねるもんだから…」
いいわけを言ってると、
「なんやて!神岸さんがダダ星人をこねくり回してたやてぇ!?」
と、横からヌッと出てくる山ン婆…じゃなかった、いいんちょ。
「いいんちょ…古すぎるぞ、そのネタ…(汗)」
フフン、と笑ういいんちょ。
「…わかってる藤田くんも古いんやない?」
そーですな。(汗)
「…ダダ星人ってどなたですかぁ?」
先に来てたらしいマルチが、そばにいる雅史に聞いている。
「たしかウルトラマンに出てきた、変な顔の敵だよ」
おめーもよく知ってる。(汗)
ホントに俺ら高校生か?
「そうなんですかぁー。その方を、あかりさんはコネていたんですねぇ。すごいですー」
だんだん、あかりのイメージが変になっていくな。(笑)
ま、別にいいや。
「違うの、別に私、ダダもダダ星人もこねてなんかいないのよー。ただ浩之ちゃんが遅れたモガ」
とっさにあかりの口を塞ぐ。
「…いらんことはしゃべるなあかり」
せっかくダダ星人の話題で誤魔化せたところを…。
…ふふんと勝ち誇った表情になる志保。
「なーんだ、結局ヒロが遅れただけじゃないのよ。この遅刻魔」
…だからコイツにだけは知られたくなかったのに。

おや?見慣れぬ者が1人いる。
「…なんでセリオがいるんだ?マルチ」
「あ、それはですねぇ、彼女も行きたいっておっしゃったんで」
へえ…感情のないセリオが、ねえ。
「──ご迷惑でしたでしょうか」
「いや、別にいいと思うぜ?人数が多い方が楽しいしな」
実際、セリオって外見はキレイだし、下手に飲み屋のネーチャンと遊んでるより、
セリオと話をしてた方が楽しそうだ…って思ってたんだよな、俺。
…ってなんで飲み屋のネーチャンが引き合いに出されるんだ?
俺ってホントに高校生なのかっ!?

「じゃ、みんな集まってー。ロウソク渡すから」
志保が集合をかける。
手にはロウソクの箱を持っているようだ。
1人に1本づつ渡していく志保。
「…1人1本づつ持った?じゃ、火を点けてー」
しゅぽっ。
百円ライターでロウソクに火が点けられる。
それぞれのロウソクを、円形に置き、その周りを囲むように座った。
「準備OK、それじゃ、『第1回チキチキ怪談百物語大会』を開催いたしまーす」
そのチキチキってのはなんだ(笑)

こうして、恐怖の怪談百物語(実際は七物語だが)は幕を開けた…。

☆☆☆

「じゃ、トップバッターは…」
志保がぐるっと俺達の顔を見渡す。
ぴしぃっ!
そこへ威勢良く手をあげたのは…。
「…マルチ?」
「はい、私からお願いしますー」
…俺としては、どんな怪談を話すのか不安なのだが、当の本人は自信ありげだ。
「えーっとですねぇ、私の話は、長瀬主任に教えてもらったものなんですけど…」

長瀬主任の実家の近くに、大きなお寺があるそうなんですけど。
それは大きなお寺なんだそうです。
主任は小さい頃、よくそこで友達とかくれんぼしたり、鬼ごっこしたりして遊んでいたそうです。

ある日、鬼ごっこをしてた時のことです。
鬼さんに、敷地の奥の方に追いつめられた長瀬主任は、近くにあった急な階段を駆け上がったそうです。
鬼さんは階段を使うとは思ってなかったらしく、何とか逃げられそうでした。

…しかし。
階段の一番上まで駆け上がった主任は、なぜかそこにあったバナナの皮を踏みつけ、足を滑らせてしまったのです。
そのまま、主任は頭から階段を転げ落ちてしまいました。
ほんの数秒の出来事でしたが、主任にはすごく長い時間に感じられたそうです。

「そして主任は、10針も縫う大怪我をしたそうなんですよー」
マルチが語り終えた。
しーん。
…みんな無反応だ。
「…おひ。マルチ」
「はい?」
俺は一瞬ためらったが、疑問に思っていたことを聞くことにした。
「それって…昇り降りする階段の話じゃないのか?」
「(あっさり)そうですけど、どうかしましたー?」
がっくり。
…やっぱ、こんなオチかい。

全然怪談にはなってはいなかったが…とりあえずロウソク1本の火が消された。

☆☆☆

次はセリオだ。
「──私の話は、サテライトサービスよりダウンロードした、最新のものです」
いつものよどみのない澄んだ声。
「ほう。マルチの階段話よりは期待できそうだな」
チラとマルチを見て、俺はちょっと皮肉っぽく言った。
「…す、すみませぇ〜ん」
小さくなるマルチ…。
「──それでは、お話いたします。これは、つい先日のことなんですが…」

──某軍事国家の財政が最近悪化してきているのです。
これは、金融不安が深刻化しつつあることが原因なのですが。
そこでその某国の大統領は、この財政危機を打開しようと思ったのでしょう。
先週末、日本に財政援助を申し入れるため、来日してきました…。

「…ちょっと待てセリオ。その話って『首脳会談』とかいうんじゃないだろうな?」
「──はい。『kaidan』のキーワードで検索したところ、この話が一番最新でしたので」

がくぅぅぅぅぅ。
全員落胆。
「──みなさん、どうなされました?」

…セリオを製品として売り出すには、もう少し熟成が必要なようだ。
とりあえずロウソク1本、消し。

☆☆☆

「今度はワタシが話すネ」
レミィだ。
「おいレミィ、頼むからまともな話にしてくれよ…」
マルチとセリオの話のようなダジャレオチはもうカンベンだ。
「ダイジョブ、ノープロブレムネ。ちゃんとコワイ話するから」
自信たっぷりなレミィ。
ホントに大丈夫かよ…?
「アレは、ワタシがまだ日本に来る前の話ね…」

アレはそう…夏の暑い日だったワ。
その頃エレメンタリースクールから帰ってきたワタシは…。

「ちょっと待ってくれレミィ…えれめんたりーすくーるってなんだっけ?」
どっかで聞いたことはあるような…。
雅史が、クスクスと笑って答えた。
「小学校のことだよ、浩之。中学で習ったじゃないか」
『しょうがないなあ、浩之は』といった顔をしてやがる。
「そうなのか?」
…そう言われれば習ったような気がする。
「ソウデスヨ〜。ゴメン、日本語出てこなくて」

…じゃ、続きネ。
ワタシその時、汗をイッパイかいてたからシャワーを浴びたの。
そして、何か飲み物が欲しくなったから、冷蔵庫の中を見たら…。
おいしそうなジュースが一本、あったのヨ。
そのジュースには、MySister…シンディの字で、
『Don't drink absolutely!(絶対に飲むな!)』って書いてあったんだケド…。
ドーシテモ欲しかったから、飲んじゃったの。

で、その夜。
自分の部屋で寝ていたワタシは…シンディのドロップキックで目を覚ましたワ…。

「その後、シンディは得意のプロレス技で、ヨーシャなくワタシをいたぶったワ…。アアッ!今思い出すだけでもコワイィィィィィィィィィィッ!」
レミィはそう言ってブンブンと頭を横に振った。
「レ、レミィ…シンディが怒ると恐いのはわかったが…それ、全然怪談じゃねーぞ…」
俺の言葉にウンウンと一斉にうなずく一同。
「…エエッ!ドーシテ!?すごいコワイ話デショ!?」
信じられなーい、という表情のレミィ。
「いや…怪談てのは、幽霊とかお化けとか、そういう関係のコワイ話を指すんだが…」

シンディに会う時は、怒らせないようにしよう…。
という教訓を得たとこで、ロウソク一本消し。

☆☆☆

「次は…そうね、あかりにやってもらいましょうか」
「あ、私?」
あかりは比較的怖そうでもないようだ。
…ま、全然怖い話をしてないっていうのもあるがな。
「あかり…あんたちゃんと話せるんでしょうね」
志保が心配する。
そりゃそうだ…今まであかりから、怖い話なんて聞いたことないもんな。
「だ、大丈夫…。題名は、『悪魔の人形』よ」
それって…。
「…『あ、クマの人形』ってか?」
俺がポロッと言った言葉に、あかりは悲しみの表情に変わる。
「ひ、ひどい浩之ちゃん…オチを先に言っちゃうなんて」
「…ひどいじゃねー!そんなバレバレな話をすなっ!」
大体、そういうダジャレ系統は俺の持ちネタだ。
「じゃ、じゃあ…『悪魔の置物』は…?」
「『あ、クマの置物』」
ひゅう〜。
風が吹き抜けて、ロウソクの炎を揺らす。…あ〜涼しい風。
「それじゃ、『悪魔の巣』」
「『あ、クマの巣』…ってお前、それしか知らんのかいっ!」
「ご、ごめ〜ん」

結局、あかりには怪談話はムリだってことだな。
もういい、ロウソク消しちまえ…。

☆☆☆

「私の番ね」
志保が笑う。
「ふっふっふ。これからみんなを、恐怖のズンドコに落としてみせるわ!」
「…ズンドコに落としてどうする。それを言うならどん底だろう」
志保の言い間違いを訂正する俺。
「なによ〜。別にどっちでもいいでしょうが」
…よかないわい。
「ま、いいか。タイトルは『恐怖のシュウマイ』よ」
「何や、緊張感のないタイトルやな」
今度はいいんちょが、イヤミっぽくツッコミをいれた。
「シュウマイ、オイシイヨ!マヨネーズかけると、特にネ!」
レミィが瞳をキラキラさせている。
「レミィ、あんたしばらく黙ってて…」
「Why?」

…いい?
じゃ、始めるわね…。
あれは私が小さい頃、そう幼稚園に通っていた頃。
その頃から私は、みんなのアイドルとして幼稚園に君臨…。
(浩之:話ずれてねーか?)
あれ?そう?ま、いいか。
とにかく私はその頃から可愛い女の子だったわけね。
(智子:よく言うわ)

…ある日私は、近所のオジサンからできたての箱入りのシュウマイを貰ったのよ。
「家の人と食べてね」と言われたんだけど、その日はちょうど家に誰もいなかったの。
家に入る前にちょっと箱を開けてみたんだけど、それはもうおいしそうに12個くらいのシュウマイが並んでるワケよ。
食いしん坊のヒロじゃなくたって、食べたくなるわよね?
(浩之:はいはい、そうでしょうよ)
そういうわけで私は、家に入ると鍵をかけて、1人で頂こうと思ったわ。
台所に持っていって、蓋を開けようとした…その時。
丁度運悪く、そこに電話がかかってきたのよ。
無視しようかとも思ったんだけど、そこはマジメな志保ちゃんだからして、玄関にある電話に出たのね。
電話は…確か近所のおばちゃんからだったかしら。
お母さんは外出中だよって言って切ったから、実質1分程度。
で、その後でシュウマイを頂こうと台所に戻って、いざシュウマイの蓋を開けてみると…。

「箱の中には…何もなかったのよ…」
「へ?」
何も…なかった?どういうことだ?
「…だからぁ、シュウマイだけが消えていたのよっ!」
志保は、わからないかなあ、とバカにしたような表情。
「ネコが食ったとか、そんなんじゃねーのか?」
「…家はペットは飼ってなかったし、カギも閉め切って、誰も入れない状態だったのよ?」
誰もいないのに…消えた?
「し、志保…それ、ホントの話?」
あかりがこわごわと聞く。
「ホントだってば」
…初めての怪談らしい話に、それぞれ不安そうな顔だ。

「…この話の続きがあるんだけど、聞きたい?」
「…聞いてやろうじゃねーか」
ちと怖いけど。
ふふっと志保は笑うと、再び低い声で語り始める。
「…蓋を開けて何もなかったんだけど、よーく見てみると…」
「見てみると…なんや?」
いいんちょが急かす。
「実は…」
そこまで言って、志保の声は急に明るくなる。
「…シュウマイは全部、フタに張り付いてたのよん♪フタの方には注意してなかったから、消えたと思っちゃったわけね」
がくぅぅぅぅぅ。
一同、がっくり。

「なんだ、それってただの志保がマヌケだったって話じゃねーかよ」
志保が俺の言葉に色めき立つ。
「だ、誰がマヌケよ!?」

ま、こんなのもアリだろ。1本消し。

☆☆☆

「あかんよ、みんな。ちゃんとした怪談を話さんと」
いいんちょが語り出す。
「…心して聞いてや。特に神岸さん」
いきなり振られたあかりは、ビクッとする。
「え、えっ!?」
「…ちびったらあかんよ。ふ、ふ、ふ」
こわいなー今日の委員長。(汗)
「あれは私が中学の時や…」

その頃私は、神戸にある中学に通ってたんや。
で、ちょっと遠いとこやから、自転車で通ってたやけど…。

ある日、帰りが夕方くらいになってしもたんや。
で、少し近道しよかと思って、ある空き家の敷地を横切ろうとしたんやけど。
その時、すっ…と眼鏡のレンズの内側に人影が写ったんやな。
誰か後ろに人がおるんやろか…と振り返ってみたんやけど、誰もおらへん。
その時は、気のせいやろとおもてそのまま帰ったんやけどね。

で、次の日や。
これまた遅くなってしもて、暗い中を帰ってたんや。
で、今日も近道やとおもて、またその空き家を横切ろうとしたんやけど…。
したらまた、すっ…と人影が眼鏡のレンズの内側に映ったんや。
…前の日に見えた時より、はっきり見えたんよ。
その時は日が暮れてかなり薄暗いというのに、やで?

怖くなってもた私は、そのまま振り返らずに猛スピードで逃げ帰ったんや…。
それ以来あそこの家には、近付いておらへん。

「あとで友達に聞いた話なんやけど、そこで無理心中した人がいるらしいんやわ…」
「そ、それは、貴重な体験だったわね」
志保がコメントする。
余裕ぶってるようだが、実際顔は青ざめてる。
…結局こういうの弱いんだよな、志保の奴。
で、あかりは…。
「………(冷や汗)」
あ、ダメだこりゃ。めっちゃ青冷めてやがる。

うむ、1番まともだったな。1本消し。

☆☆☆

「じゃ、今度は僕が…」
雅史の番だ。
雅史の奴、かわいい顔して怪談系は強いんだよな。
「今日は何の話だ?」
「ま、聞いててよ」

…ある大学に通ってる3人組が、ある心霊スポットに行ってみようと、車で出かけた。

真夜中、車はその心霊スポット…確か幽霊屋敷だったかな…についたんだ。
だけど…いざ降りてみよう、となったとき。
車を運転していた人が、「何かイヤな感じがする」と言ったんだ。
2人は彼を連れて行こうとしたんだけど、彼はものすごくいやがった。
結局、彼を車に残して2人で見に行くことにしたんだ。

2人は幽霊屋敷を見に行った。
結局はなにもそれらしいものはなく、2人は「何だ、何もないじゃないか」と車に戻ったんだ。

車に乗った2人は、何もなかったと彼に笑って話した。
けど、彼はうつむいたまま、何もしゃべらない。

助手席に乗った方の人が、「どうしたんだ?」と聞くと…。
「俺達…友達だよな?」って彼が、涙声で聞いたんだ。
「…何言ってんだよ、当たり前だろ?…なんでそんなこと聞くんだ?」
そう助手席の人が聞くと、彼は黙って、自分の足首を指差した…。

そこには…彼の足首をがっちりと掴んだ、『手』が車の床から生えていたんだ…。
2人はものすごく怖くなって、彼を車に置き去りにして逃げ出してしまった。

「しばらくして、2人が車に戻ってみると…彼は発狂していたんだってさ…」
雅史が語り終わった。
…なかなか、怖い話じゃねーか。やるな雅史。
「うっ、ううう…」
…あかりのやつ、ぶるぶると震えている。
「ダイジョブ?アカリ」
「う、うん、ありがとうレミィ…」
心配そうなレミィに、あかりは笑って答える…がしかし、全然大丈夫そうには見えんな。
「佐藤くん、なかなかよかったで。さすがやん」
「そ、そうかな。えへへ」
雅史はといえば、いいんちょに褒められて照れてやがる。

ここにきて、やっと怪談らしくなってきたな。
というわけでロウソク一本消し。

☆☆☆

「ラストは俺だな」
ふっふっふ…この日のために用意した、とっておきの新作を披露してやるぜ。
「ヒロ、最後なんだから外すのはやめてよね」
「ふん、オメーとは違うって。タイトルは…」

恐怖シリーズ最新作…『恐怖!夜のタクシー』…。

「…いつものダジャレ話?」
「ふっ覚悟しておけ、あかり。今回はいつものダジャレ話とは違うぜ」

そう…あれは月明かりもない、真っ暗な夜だった…。

タクシードライバーの藤井さん(仮)は、遠くまでお客を乗せた帰りだった。
『よし、近道していこう』
その近道は、細い山道で、めったに車が通らないような場所だったんだ。

しばらく山道を走っていると、前の方に何か白い物が見えた。
『な、なんだ?』
彼はスピードを落とし、ゆっくりと近付いて行った。
…それは、白い和服を着た、若い女性だった。
(こんな車も通らない山奥に、何で人が…?)
彼は疑問に思ったが、その女性がタクシーを止める仕草を見せたので、彼女の近くで車を止めたんだ。

「すいません…ふもとのあたりまでお願いします」
女性は座席に座ると、消え入るような声でそう言った。
(え?)
彼はまた疑問に思った。
…この山道を抜けたふもとは、家も何も建っていないはずなのに。
おかしいなと思いながらも、
「わかりました」と返事して、車を発進した。

車は走り始めた。

彼はちらっと、バックミラーで彼女を見た。
彼女の肌は透き通るように白い…まるで死んでいるかのように。
顔を見てみると、目を閉じていてその表情からは何も読み取れない。
…しかし。
彼が前に視線を戻す瞬間、彼女が口元でニヤっと笑ったように見えた。

車は走り続ける。
女性は一言もしゃべらず、しばらくはエンジン音のみが唯一の音だった。

しばらく走っていて、彼はふと、前に同僚に聞いた話を思い出した。
何でも最近、ここの山で白い和服姿の白骨死体が見つかったらしい…という話を。

彼は、急に猛烈な恐怖に襲われた。
(彼女は…その幽霊なのでは?)
その一念が、彼の頭から離れなかった。
かれは、おそるおそるバックミラーを見る…。

しかし、そこには…。

…誰も写ってはいなかったのだ!

☆☆☆

「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
き〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん。
み、耳が…。
…何かと思えば、あかりが耐えかねて悲鳴を上げたのだ。
耳が聞こえなくなるかと思ったぞ。
「や、やかまひい…」
耳を手で押さえてる、いいんちょ。
「ひ、浩之ちゃ〜ん…」
…あかりはもはや半ベソ状態だ。
ったく、しょうがねーなコイツは。
「あかり、最後のオチまで聞けよ。じゃないと笑えねーから」
「…オチ?」
「ああ」
俺の言葉で、あかりのやつはなんとか落ち着いた。

☆☆☆

彼はその後、一度も後ろを振り向くことなく、自宅まで帰った。
家に到着した彼は、そこで始めて、奇妙な『音』を聞いた。
『すぴ〜…すぴ〜』
なんだろうと思った彼は、こわごわと後ろを振り向く…。

…そこには!
シートと後部座席の間の足置きに、挟まるようにして眠っている女性の姿があったのだっ!

☆☆☆

「つまり…彼女が無表情だったのも眠りに入ってたからであり、笑ったのも何か夢を見ていたからなのだ…」
語りを終える俺。
…ふっ。トリを飾るにふさわしい話だったぜ。
「どうだ?面白かっただろ」
みんなに感想を聞く。
「…ネタ的にはソコソコやけど…普通気付くで、んなとこで寝ておったら」
厳しいいいんちょの一言。
「…いや、これはこーいう話だから…そうマジに返されてもだな…」
「ま、ヒロらしいバカ話ってことね」
志保がさっきまでのコワゴワとした表情はどこへやら、憎まれ口が復活している。
…ったく、変わり身が早いんだからコイツは。
「お前のシューマイよりは怪談らしかったろうが」
「ま、まあまあ2人とも…」
険悪なムードの2人をあかりが仲介した。

☆☆☆

「さて、俺の話も終わったし、最後の一本を消そうか」
そう言ってロウソクの火を消そうとした時。
「ふふふ…そういえばさあ、最後のロウソクを消した時、肩を叩かれないようにしてね〜」
志保がうふふふふ〜とイヤな笑いをしている。
「え?なにそれ?」
雅史が聞く。
…バカ、マジに受け取るなよ…いつものデマなんだから。
「…肩を叩かれて振り向くと、そこに髪の長い女の霊が立ってるんだってさ〜」
両手をプラプラとさせて幽霊のポーズを取る志保。
「けっ、どうせまたホラ話だろう」
しかし、俺の言葉に志保はケロッとして、
「あら、これはホントよ」
と言った。
ふん、そうやって本気にさせようなんて甘いぜ。
「はいはい、じゃ消すぞ…って、あれ?」
自分のロウソクの火を消そうとした俺は、火の点いたロウソクが2本ある事に初めて気付いた。
「おい、志保。ロウソク一本多いぞ!ちゃんと人数分にしろよな…」
俺の言葉に、志保は眉をひそめる。
「…ちゃんと人数分だけ配ったわよ。それに、1人づつ火を点けてってもらったから、数がズレるわけないわ」
そういえば…自分のロウソクには自分で火を点けたよな。
「ロウソクの数は…1、2、…7、8本。1本多いぞ…」
「ひ、浩之ちゃん…ウソでしょ…」
あかりが怖そうな声で聞いた。
「ウソでしょ…って言われても、間違いようがないって…」
志保のやつ、怖がらせようとしてこんなことを…?
と思ったら、志保も青い顔してやがる。
…コイツの仕業ではないか。
じゃ、誰が?
ロウソクは志保が持ってるから、コイツに急接近しないと取れないぞ。
…そんなこと誰もしてないし。
じゃあ何か?…志保の言った髪の長い女の霊!?
…な、なんか怖くなってきた。
「き、気のせい、やろ?あ、あははははっ」
いいんちょの渇いた笑い。
「と、とりあえず、話が終わったことだし、帰ろっか?」
「そ、そうだな、うん!」
志保の提案にうなずく一同。
マルチとセリオはわけがわからない様子であったが、彼女らもうなずいた。
「それじゃあ…とにかく…帰るぞっ!」
だっ!
俺の言葉を合図に、みんなダッシュ!
俺達は脱兎のごとく逃げ出した…。

☆☆☆

『………ぁぁぁぁぁぁっ』

「い、今、女の悲鳴が聞こえなかったか?」
校門に一旦集合した俺達の耳に、『それ』は届いた。
皆、恐怖の表情を浮かべている。(但しセリオは除く)
あかりなんかはもう、俺の腕にがっちりくっついて、全然離そうともしない。
で、俺の背中にくっついているのは…?
「…雅史!?なんでくっつく!?」
「ううっ、怖いよ〜浩之」
「ええい、離れろっ!」
げしげし。
「浩之、ひ、ひどい…」

『気にするな、気にしたら負けだ』
結局、話し合いの結果、そういう結論に達した。
俺達は、謎の悲鳴に怯えながら、おのおの家路についたのだった。

…もう怪談話なんかやらねーぞっ!


浩之サイド終了。



さて…。
一本増えていたロウソク、そして謎の悲鳴…。
この2つを、別カメラで捉えた映像からどうぞ。

誰もいなくなった神社…。
そこの境内の下から、ロウソクの火に照らされて人影が出て来た。
「浩之さん…私を誘ってくれなかった罰ですよ(怒)」
それは、琴音であった。
彼女は、この楽しそう(?)なイベントに誘ってくれなかったことを、かなり根に持っているようだ。
「ふぅ。でもまあ、皆さんを怖がらせて少しは気が晴れましたね」
彼女は、気付かれないようにロウソクを増やしていたのだった。
…ふうっと火の点いたロウソクに息を吹きかける。
火は消え、あたりは闇に包まれた。
「それにしても、皆さん怖がりですね。髪の長い女の霊なんて…出るわけないでしょうに」
ふふっと笑う琴音。
…ぽんぽん。
不意に、琴音は肩を叩かれた。
「え?」
ふと振り向くと。
「…ぎにゃああああああああああああああああああああああああっ!」
悲鳴をあげる琴音!
そこには…髪の長い女が立っていたのだっ!

「…はうっ」
彼女は、気絶した。

☆☆☆

「お嬢様…この少女、どうして気絶しておったのですか?」
背負った琴音をふと見て、セバスは芹香に聞いた。
「………」
芹香の言葉を聞いて、セバスは眉をひそめた。
「何をしているか聞こうとしたら、いきなり悲鳴をあげて倒れたのでございますか?」
コクコク。…頷く芹香。
「それは失礼でありますな…。後で説教いたしませぬと」

この後、目を覚ました琴音は。
目の前のセバスのどアップを見て、2度目の悲鳴をあげることになる…。
因果応報。




ちゃんちゃん♪



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