222年1月
涼国領、長安。
ここには今、3万の兵が揃っている。
またすぐ側の潼関にも2万、新たに建設された
子午谷の城塞にも2万の兵が置かれていた。
馬騰
庖徳
馬 騰「ふははははははははははは!
どうだ、見たか! この軍勢、この陣容!
何度敗れたとしても、こうして不死鳥のように
甦るのが我が涼の強さよ!」
庖 徳「閣下……。よくもまあ、そのように
浮かれポンチでいられますな」
馬 騰「なんじゃい庖徳、しっぶい顔をして」
庖 徳「この兵力の大半は羌族より借り受けたもの。
以前に借りた兵の返済も全く棚上げ状態ですし、
このままだと借金ならぬ借兵地獄に陥ります。
渋い顔にもなろうというもの」
馬 騰「なーにを言う、勝って領土を広げてしまえば
すぐ熨斗つけて返せる規模であろう」
庖 徳「また負けたらどうなさいます」
馬 騰「男は負けた時のことは考えぬものだ。
なに、兵が足りなくなったとて、また閻圃が
羌族を説得して調達してくれようぞ」
今回の兵の借用では、軍師である閻圃が
羌大王をなんとか口説き落として成立させた。
だが、次も同じように兵を借りられるかどうかは
羌大王の心証次第である。
庖 徳「羌族の力をこれからも借りるためにも、
我等に力がある所を見せねばなりません」
馬 騰「うむ、わかっておる。
すでに馬岱に天水奪回を命じておるでな、
すぐに良い結果がもたらされるであろう」
庖 徳「……は? 天水奪回?」
馬 騰「うむ、此度借り受けた兵のうち、隴西と街亭の
城塞にそれぞれ2万5千ずつ兵を置いたじゃろ。
それを率いて天水を攻めるよう命じた」
庖 徳「……ああ」
庖徳は頭を抱えた。
昨年の末に炎に奪われた天水は、伝聞によれば
もうすでに多数の兵が入ってしまっている。
それを、考え無しに力押しで攻められるほど、
涼軍の兵力は回復したわけではない。
ここはひとまず守りを固めておき、攻めてくる敵を
撃退した後、それによって生じた隙を突いて
攻めるべきであり、そのために兵を配したはずだが。
庖 徳「確か兵を借りるための名目は、涼のみならず
羌をも攻めんとしている楚国を討ち果たすため、
であったはず。楚との戦いはどうなされます?」
馬 騰「無論、楚との戦いも続けねばならん。
しかし、奪われたものを取り返すのは当然だ。
天水は涼州の重要都市、必ず取り返さねば」
庖 徳「はあ……」
こういうのを、二兎を追う者なんとやら……
というのだろうな、と庖徳は溜息をついた。
☆☆☆
長安から西にある、涼州の中心都市、天水。
ここは現在、炎の饗援が直接治めている。
都市自体に駐屯する兵は6万だが、段谷城塞に
兵4万が置かれており、一たび戦いになれば
総勢10万の兵が動員できる状態である。
饗援
慧雲
饗 援「ふむ、馬岱と張任の隊、総勢5万の軍勢が
この天水に向かってきておる、か」
慧 雲「如何なさいましょうか」
饗 援「何故、この天水を奪われたのか。
その訳をまだ分かっておらぬようだな……。
よかろう、私自ら迎え撃つことにする。
段谷にいる孫尚香には、援護のみを行うよう
伝えておけ」
慧 雲「はっ」
饗援は、城にたなびく朱色の旗を見上げた。
饗 援「旗の色直しも全て終わっているようだな」
慧 雲「はい、命の通り、朱色の旗に変えてあります。
今回は、この旗の初陣となりますね」
饗 援「この朱の色こそ、我が炎の色。
燃え上がる炎の如く、敵を焼き尽くしてやろう!」
(今後、詳細マップでの蜀炎の旗色は朱色になります)
さて、それに対する涼軍。
街亭の城塞を発した馬岱の部隊、兵2万5千は
隴西から来る張任隊に先んじて天水に着いた。
馬岱
楊任
馬 岱「むう、張任隊が遅れているな……」
楊 任「馬岱どの、彼らもそのうち来るだろう。
先に城に攻めかかっておくべきではないか」
馬 岱「いや、兵力で勝っている時ならともかく、
絶対数で劣る状態でそれはできない。
合流してから攻めるべきだ」
楊 任「いやいや、それほどに慎重になるなら、
最初から攻めるべきじゃなかろう」
馬 岱「私としては、そのほうが良かったのだが」
楊 任「は?」
馬 岱「いや、なんでもない。
とにかく、単独で攻めるわけには……」
その時、物見の兵士が駆け込んできた。
涼 兵「御大将! 天水城から敵の部隊が来ます!
饗援自ら、5万の兵を率いています!」
馬 岱「くっ、饗援め! 機は逃さぬか!
迎え撃つぞ、張任隊が来るまで踏ん張れ!」
楊 任「ちっ、どちらが攻め手か分かりゃしねえぜ!」
饗援
慧雲
饗 援「さあ皆の者! 遠路はるばる来た涼兵に、
我ら炎の強さを見せてやれい!」
慧 雲「御意!」
楊 任「くそっ、蜀炎軍何するものぞ!
このわしが敵の勢いを止めてみせよう!」
涼 兵「おおっ、なんと勇ましい物言い!
『火の楊任』と呼ばれるだけのお方だ!」
そこへ、丁度饗援隊の先鋒を務める趙雲が現れた。
趙雲
趙 雲「覚悟せい、涼のものども!
趙子龍の槍を受けられる者がおるかーっ!」
楊 任「…………」
涼 兵「将軍!? 何を黙っておられるのです!?
ここは颯爽と敵前に現れて『わしが楊任よ』
とか言うところではありませんか!」
楊 任「いや、そうは言うが……。
あいつ、どう見てもわしより強そうだもの」
涼 兵「な、なんと情けない物言いですか!」
饗援に率いられた軍の勢いは馬岱隊を圧倒。
張任隊が到着してからも劣勢は覆すことはできず、
逆に天水から黄忠隊1万2千が出撃したことで、
さらに形勢は悪化した。
(この間、段谷より天水へ兵1万が異動している)
黄忠
張横
黄 忠「ほれ張横、しっかり働くのじゃー」
張 横「うっせーな、爺さん。ちゃんとやってやるよ」
楊任
楊 任「むっ、張横だと! 貴様、涼州のために生き、
涼州のために死すとか言っておったくせに、
なぜ饗援についているのだ!?」
張 横「うるせー!
馬騰のおっさんじゃどうにもなんねえからだ!
涼州を治めるのは強い奴でなきゃなんねえ、
だから馬騰より饗援を選ぶ、それだけだ!」
楊 任「……わからなくもない論理ではあるが、
しかしそれを認めるわけにはいかんな!
この楊任がその根性を叩き直してやる!」
涼 兵「はぁ……(いやはや全く。
自分より弱い相手には強気なんだから)」
張 横「いいだろう、相手になってやるぜ!」
この両者の一騎打ちの結果はともかくとして、
天水を巡る攻防は終始、炎側有利で進むのだった。
☆☆☆
さて、涼は炎領の天水に侵攻するばかりではなく、
楚領へも侵攻を始めていた。
長安から馬休隊2万(副将:馬鉄・馬承・庖徳)、
潼関から韓瑛隊1万、媚城から李堪隊1万、
子午谷城塞から程銀隊2万。
郭淮らが駐屯している武関(兵3万)へ向けて、
この総勢6万の軍が動き出した。
一方、楚軍も黙ってそれを見ているわけではない。
魏延らのいる商県城塞(兵4万)では、それを
迎え撃つ準備を進めていた。
魏延
馬謖
魏 延「涼の連中も全く懲りんな。
何度やられれば気が済むのだろうか」
馬 謖「しかし、いつの間にか兵力を揃えている、
その調達力には目を見張るものがあります。
涼にそこまで強固な基盤があったとは」
鞏志
楊儀
鞏 志「……私は、そこまで涼の国力は高くはない、
と思うのですが、どこから湧き出しているのか」
楊 儀「もしや、魏が援助をしているとか……」
魏 延「は? お前は何を言っているんだ。
どこからそんな理屈が出てくる」
楊 儀「おやおや将軍。
可能性をハナから否定してはいけませんぞ。
涼がここまでの戦力を単独で揃えるのは
難しい、とは皆が思っておりましょう」
魏 延「で? 魏が援助して涼に兵を与えていると?
はっ、馬鹿か。魏にそんな余裕があるのなら、
自国の兵を揃えるのが先だろうに」
楊 儀「先頃、魏もかなりの兵を揃えたと聞きます。
その余裕のあるうちに、同じく楚を敵とする
涼へ援助をしたと考えるのが自然では?」
魏 延「……それが自然だとは思えんがな。
涼と魏は交戦したことすらある間柄だ」
馬 謖「自然かどうかはともかく……。
可能性のひとつとしては、成り立つやも」
鞏 志「背に腹は変えられぬ、とも申しますし、
楚を脅威とする呉越同舟として、ひとまずは
手を結んだとも考えられますね……」
魏 延「むむ」
その時、そこへ聞きなれぬ者の声が。
???「いや、それはありえませんな」
楊 儀「だ、誰だ。私の考えを否定するのは!」
楊阜
楊 阜「失礼しました、楊阜にございます」
魏 延「おお、昨年に加わった楊阜か。
そういえばお主は涼の軍師をしていたことも
あったな、何か知っているのか」
楊 阜「ええ、知ってるも何も……。
涼の兵力の源は、羌にあります」
魏 延「羌だと?」
楊 阜「羌へ、兵力の貸与を要請したのでしょう。
新たに増えた涼軍の兵の顔を見てみれば、
少し顔の作りが違うことがわかるはずです」
楊 儀「お、お主は、なぜ涼軍が羌から兵を
借りたと分かるのだ」
楊 阜「私は過去にそれをさせられましたから。
おそらく今回は、今軍師になっている閻圃が
血反吐を吐く思いで羌大王を説得したのかと」
魏 延「なるほど、羌族が後ろにいるのか……。
そうなると厄介だな」
楊 阜「しかしながら、このような裏技は何度も
使えるものでもありません。
羌も、タダで貸すわけではありませんから」
魏 延「確かにそうだな。
それならば、羌が兵を貸す気にならぬほど、
我等の強さを見せてやれば良いのだな。
楊阜よ。お主の見識、これからも皇帝陛下、
ならびに楚国のために役立ててくれ」
楊 阜「はい、少しばかり遠回りはしましたが、
楚の将の一員になれて、光栄に思います」
楊 儀「くっ、多少事情を知っていただけのくせに、
いい気になりおって……」
于禁
楽淋
于 禁「魏延どの、迎え撃つ準備は整ったぞ」
楽 淋「後はアンタの命令ひとつだ」
出撃準備を整えていた于禁・楽淋が顔を出した。
魏延はそれに頷き、号令をかける。
魏 延「出陣だ!
楚国を脅かす涼軍、我らで討ち果たす!」
☆☆☆
魏延隊・于禁隊、それぞれ1万5千の部隊は、
武関へと向かう涼の軍を討つべく出撃した。
魏延
于禁
魏 延「我等は西よりやってくる程銀隊を討つ。
于禁隊は北より来る部隊を迎え撃て!」
于 禁「承知!」
副将に馬謖、鞏志、簡雍、楊儀を連れた魏延隊は、
子午谷城塞からの程銀隊2万に向かっていく。
魏延
魏 延「楚軍大都督魏延、ここにあり!
この首討てるものなら討ってみよ!」
馬謖
鞏志
馬 謖「魏延どの、張り切っておられますなあ」
鞏 志「大都督になったのが嬉しかったのでしょうか」
先頭切って突っ込んでいく魏延。
その前に現れる涼の兵は、ある者は臆して逃げ、
ある者は勇を奮って立ち向かうも命を落とした。
程銀
程 銀「おのれ、いい気になるな魏延!
楚に猛将魏延あらば、涼に我、程銀あり!
大将同士の一騎打ちと参ろうか!」
魏 延「おおっ、この私に挑んでくるとはな。
腕のほうはともかくとして、その勇は見事」
程 銀「嘗めるな魏延、馬騰どのの右腕として
長年働いてきたわしの武を見せてやる!」
当年53歳の程銀は、6歳下の魏延に切りかかる。
しかし、彼が何度となく長刀を振り回しても、
その刃が魏延を捉えることはなかった。
魏 延「鋭い振り、膂力の強さ、見事だ。
今まで生き抜いてきただけのことはある」
程 銀「ぐうぅ、ならばなぜ当たらん!」
魏 延「簡単な理屈だ、お主以上に私は強い」
程 銀「わしは! 涼のためにずっと戦ってきた!
その思いの強さは、誰にも負けぬ!」
魏 延「その思いもまた見事。
貴殿のような宿将がいるからこそ、涼は
戦っていられるのだろう。……だが!」
一閃。
これまで一度も手を出していなかった魏延は、
最初の一振りで勝負を決めた。
魏 延「それでも私のほうが強いのだ」
程 銀「ぐっ……」
魏 延「退かれよ、程銀どの。
貴殿の思いに免じ、この場は見逃そう」
程銀は重傷を負った。
彼は部隊の指揮へ戻ったが、手負いのまま
まともに指揮できるわけもなく、隊は壊走した。
☆☆☆
さて、一方の于禁隊は。
副将に楽淋、張虎、楊阜、魏劭を連れた
于禁隊は、馬休隊・韓瑛隊に向かう。
それを見た涼軍は、馬休隊が于禁隊に当たり、
韓瑛隊は武関へと向かった。
楽淋
張虎
楽 淋「どうする、あいつら二手に分かれたぞ」
張 虎「両方追うわけにもいかぬだろう。
手近なほうから倒すべきではないか」
楽 淋「……なんかおまえずるい」
張 虎「は? 何が」
楽 淋「なんかお前だけ名将っぽい雰囲気だ」
張 虎「な、なんだそりゃ」
于禁
于 禁「落ち着け楽淋……。
武関に向かった韓瑛隊は放っておけばよい。
我らは、馬休隊に攻撃を集中させる」
楽 淋「しかし……」
于 禁「二兎を追う者、一兎も得ず、だ。
なぁに、案ずるな。武関へ向かった兎は
彼らが捕まえてくれるはずだ」
数の少ない韓瑛隊は、武関にいる郭淮らに任せ、
馬休隊のみに目標を絞り、攻撃をかける于禁。
だが、この馬休隊がなかなかに手強い。
馬承
馬鉄
馬 承「父譲りのこの走射を受けてみるがいい!」
馬 鉄「おお、見事なり馬承!
兄者を彷彿とさせる働きであるな!」
馬超を父に持つ馬承が于禁隊へ一撃を見舞う。
また数に勝る馬休隊は、于禁隊と戦う一方で
呉懿の守る商県城塞に庖徳が飛射攻撃を行った。
6千近い兵を倒され、普段は冷静沈着な呉懿も
慌てて于禁に助けを求める。
呉懿
于禁
呉 懿「于禁どのおおおお!
もう2千しか戦える兵はおりませんぞおお!
次やられたらお終いですぞおおお!」
于 禁「わ、わかっている、必ず抑えてみせよう!」
馬休
庖徳
馬 休「行けそうだな、庖徳どの!」」
庖 徳「おお、馬休どの! 我々だけで于禁隊を討ち、
商県城塞を落とすのも夢ではありませんな!」
果たして、このまま両隊のみが戦い続けていれば
どうなっていただろうか?
だがこの両部隊だけの対決は、そうは続かなかった。
武関方面から1万の軍勢が現れたかと思うと、
于禁隊の方向を向いていた馬休隊の横腹を突いた。
馬 休「な、なにやつー!」
庖 徳「楚軍の新手か!?」
金目鯛
蛮望
金目鯛「金目鯛参上!」
蛮 望「蛮望見参よーん」
刑道栄
陳応
刑道栄「マサカリ担いだ刑道栄と」
陳 応「飛叉の使い手、陳応もいるぞ!」
武関からやってきた金目鯛の隊だった。
彼らは兵の数は馬休隊より少ないが、
突撃を敢行し、馬休隊を突き崩していった。
于禁
孟達
于 禁「おお、おバカ隊……ゲフンガフン!
き、金目鯛どのの隊か、助かった!」
孟 達「聞こえてますぞ、于禁将軍。
それにこの部隊には私もいますので、その
おバカ隊という呼称はおやめいただきたい」
金目鯛「ほほう……なるほどなあ。于禁どのは
俺達をそんな風に思ってたのかぁ〜」
于 禁「い、いや、今のは違いますぞ。
バカみたいに強い部隊、という意味であって、
けしてバカにしてるわけではござらん!」
金目鯛「なんだ、そうなのか。ならばよし!」
于 禁「は、ははは……。ちょっとの間に、
また強くなられたのではござらぬか」
金目鯛「お、分かるぅ? ちょっと前に、焼き討ちで
武力がアップしたんだよ、うひひ」(※)
于 禁「(ふう、機嫌は直ったみたいだな……)」
(※金目鯛の武力が92に、武器補正込みで96に)
楊阜
楊 阜「……(今も変わらず単純な方ですなあ……)」
金目鯛「お、そこにいるのは?」
楊 阜「楊阜にございます。
殿下にはご機嫌麗しゅう……」
金目鯛「お、あんたが楊阜か。よろしくな。
で、その『殿下』てのはやめてくれや」
楊 阜「は、はあ……。
(私のことは既に忘れてしまったのか?)」
于 禁「それより金目鯛どの。
武関に向かった韓瑛隊はどうされた?」
金目鯛「ああ、あいつらなら郭淮どのに任せた。
身内が自分に任せろって言ってたからな」
于 禁「身内?」
☆☆☆
その頃……。
武関に向かっていた韓瑛隊の前に立ち塞がる
部隊があった。郭淮率いる1万の部隊である。
郭淮
劉曄
郭 淮「彼に任せて大丈夫なのだろうか……」
劉 曄「さて、どうでごさいましょうな」
牛金
夏侯徳
牛 金「自信があるからこその大言だろう」
夏侯徳「いや、実はああ言って我等を欺いて、
再び寝返るつもりかもしれませんぞ」
郭 淮「いや夏侯徳、それはない。
ここで彼が寝返る理はないし、それに」
夏侯徳「それに?」
郭 淮「彼はそこまで頭の回る人ではない」
この部隊の先頭に立ち、敵将韓瑛の前に
いるのは、韓瑛の父である韓徳であった。
韓徳
韓瑛
韓 徳「韓瑛! 我が自慢の息子よ!
会いたかったぞぉ〜!」
韓 瑛「お、オヤジ……!?
どうして楚軍の部隊にいるんだ……」
韓 徳「韓瑛よ!
お前が涼のために働く必要はない!
お前の居場所は、父のいる楚国にある!」
韓 瑛「そりゃどういうことだよオヤジ!
アンタ、そりゃ熱心に涼のために働けって
何度も何度も言っていたじゃないか!」
韓 徳「そ、そんなこといったか?」
韓 瑛「言ってた、確実に!」
韓 徳「む……むかしのことはわすれた」
韓 瑛「昔ってほど昔のことじゃねーぞ!」
韓 徳「むかしといったらむかしなのだ」
韓 瑛「そんな説明で納得できるかー!」
劉 曄「説得は芳しくないようですな」
郭 淮「むむ……」
劉 曄「では、別の策を実行しましょう」
郭 淮「別の策?」
劉曄が手を挙げると、銅鑼の音が鳴り響いた。
ジャーンジャーン
涼 兵「な、なんだ!?」
劉 曄「韓瑛隊の者ども、聞こえるか!
お前たちはすでに包囲されているぞ!」
韓瑛隊の両脇に広がっている林から、次々と
楚軍の兵と旗が現れた。
韓 瑛「な、なんだと! オヤジ、謀ったな!?」
韓 徳「し、知らん、わしは何も知らん!
こんなことをするとは聞いておらん!」
韓 瑛「はっ、さっきのアンタの言葉聞いてたら
今の言葉も信じることなどできないね!
実子さえ騙し討ちするとは、アンタ最低だ!」
韓 徳「そ、そんな……」
劉 曄「信用のない父親ですなあ……」
郭 淮「劉曄どの、何時の間に包囲を?
包囲できるだけの兵はいないはずですが」
劉 曄「あれは敵を動揺させる計略です。
大勢いるように見せているだけで、実際は
少ししかおりません」
郭 淮「な、なるほど」
劉 曄「さあ、敵兵が混乱している今です。
韓瑛が寝返らぬのなら、倒すのみです」
郭 淮「……仕方ない。全軍、韓瑛隊を攻撃だ!」
郭淮隊は韓瑛隊を殲滅。
だが、肝心の韓瑛は取り逃がしてしまった。
韓 瑛「覚えてろよオヤジ、この卑怯者め!
俺たち兄弟は金輪際、アンタと縁を切る!」
韓 徳「ま、待て韓瑛、誤解だー!」
韓徳と息子たちの関係はどうなってしまうのか?
そんなどうでもいいことは置いておくとして、
郭淮隊は馬休隊攻撃にも参加し、これを殲滅。
これで、現時点で武関に向かっていた部隊を
全て片付けたことになる。
郭 淮「……あれ? 全て片付けた?」
劉 曄「どうかされましたかな?」
郭 淮「いや、数が合わないような」
劉 曄「ああ……。媚城からの李堪隊でしたら、
司馬望どのの偽報に引っかかりまくってます。
まだ途中でウロウロしてるところですな」
郭 淮「策略が成功しまくるのも良し悪しですね、
これでは一旦武関に戻らないと」
こうして、楚軍は涼軍の攻勢を一旦退け、
一息つく暇を得たのだった。
☆☆☆
こうして商県・武関にて魏延・郭淮らが
涼軍を相手に戦っている時……。
その東で動き出した軍があった。
曹操
諸葛亮
曹 操「ふう……」
諸葛亮「閣下、お加減は如何でございますか」
曹 操「うむ。しばらく悩まされていた頭痛が、
今は嘘のようにスッキリしているぞ」
諸葛亮「では……」
孟津港に10万という大軍を駐屯させながら、
ここしばらく動きを見せなかった魏国。
その本軍、そしてその総大将が。
曹 操「うむ、涼が攻勢をかけている今が好機。
楚に対し、反抗作戦を行う!」
諸葛亮「ははっ」
曹操が、ついに動き出す。
曹 操「……では、お主の立てた作戦に従うのなら、
わしはここから洛陽を攻めればよいのか」
諸葛亮「はっ、閣下は洛陽をお攻めください。
私は、『裏』に回ります」
曹 操「ふむ……。
そして冀州方面からは濮陽を攻める、と」
諸葛亮「はっ」
曹 操「諸葛亮、この策だが。
わしには少し回りくどいように思えるが」
諸葛亮「それもまたごもっとも……。
洛陽のみを取り返すのならば、このような
手の込んだ策は要らないかもしれません」
曹 操「分かっていて、なおこの策を選ぶのか」
諸葛亮「はっ……。今回は、洛陽を取り返すだけでは
足りぬのです。失った領地を、少しでも
多く取り戻さねばならないのです」
曹 操「なるほど」
諸葛亮「もちろん、閣下がこの策を良しとせず、
ご自分の案がございますのなら、この私は
それに従うまでにございますが……」
曹 操「いや。わしはお主を軍師としている。
その軍師の策なのだ、従ってしかるべきだ」
諸葛亮「勿体無き、お言葉。
それでは早速、準備を始めると致しましょう」
曹 操「うむ、そうしてくれ」
諸葛亮はその場を離れた。
そこに残された曹操は、誰に言うともなく呟く。
曹 操「確実な手段は選ばず、二兎を追うか。
あやつらしからぬ策ではあるが……。
焦っているのか、諸葛亮?」
楚に対する壮大な反抗作戦を実行に移す魏軍。
楚軍は、それを撥ね返すことができるのだろうか。
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