…僕は、街を歩いていた。
賑わう街。
鮮やかなイルミネーション。
楽しそうに笑い合う、仲のいいカップル。
毎年この時期になると、嫌でも目に入ってくる光景だ。
「何でみんな、こんなことをするのだろう」
僕はいつも不思議だった。
クリスマスなんて、ただのキリストの誕生日じゃないか。
クリスチャンでもない奴等が、なぜ知らない男の誕生日を祝うのだろう。
そう思っていた。
別に恋人たちをひがんでいたわけじゃない。
意味のないことに、なぜわざわざ参加しなくちゃならないのだろう。
そう思っていただけのことだった。
クリスマスにケーキを食う習慣だって、ただお菓子屋が売り上げを伸ばしたいから広められたものだろう。
同じようなものにバレンタインもある。
あれだって、元々はバレンタインという人を称える日なのに、いつのまにかお菓子屋の陰謀でチョコレートを贈る日にされてしまった。
日本人はバカだ。
その日がどういう意味を持つかも知らないまま、周りに踊らされている。
踊らされている事実も知らないまま、喜んでいる。
なんと滑稽なことだろうか。
…ふと、僕は足を止める。
ショーウィンドウの中に、大きなぬいぐるみを見つけた。
広いショーウィンドウの中にひとつだけ、残っている。
多分、クリスマス用に売られていたのだろう。
でも値段が高いからか、売れ残ったようだった。
「お前はどう思う?」
僕は答えが返ってくるはずがないことを知りながら、そう呟いていた。
やはり、ぬいぐるみからは何も帰ってこない。…当たり前だ。
しかし僕には、ぬいぐるみが微笑みかけている…そんな印象を受けた。
「そういえば…隣りの家に女の子がいたな」
誰に言うともなく呟き、僕は店の中に入っていった。
そして店員を見つける。
「…あのぬいぐるみ、ください」
…僕も、ついに踊らされるようになったのだろうか?
よくわからない。
やがて僕は、大きなぬいぐるみを抱えて、自分の隣りの家を訪ねていた。
玄関のドアを開け、随分久しぶりになるその言葉を口にする。
「メリークリスマス」と…。