レンの気持ち -Merry X'mas-

written by 李俊


高町家では毎年恒例となっているクリスマスパーティー。

翠屋がクリスマス時期は忙しいので、昼間は俺や美由希、赤星やなのはも手伝いに回っている。
そういうことで、毎回、パーティーの開始時間は夜になってからだ。
料理はほとんどレンや晶がやるが、ケーキは母さんが仕事から帰ってきて作る。
母さんの作るブッシュ・ド・ノエル(薪型のチョコケーキで、フランスとかでは定番のクリスマスケーキなんだそうだ)は、誰も真似できない味で美味い。
俺も、昔からクリスマスにだけ食えるこのケーキが楽しみだった。
俺たちが食っていると『父さんも大好きだったんだよ』と、口癖のように母さんは言っていた。
ま、甘党だったからな……親父は。

今年のパーティーもいつものように……いや、月村や神咲さんたちも加わり、いつも以上に楽しかった。
たくさんの料理と笑顔。
フィアッセの賛美歌。
晶やレンの漫才。
……あ、いや、2人とも漫才をやろうとしてやってるわけじゃないだろうが……。

そして、用意したプレゼントを各自に配る。
一品一品にはあまりお金は掛かってないが、それぞれ趣向を凝らしたプレゼントを用意している。
……俺は、いつもお菓子で誤魔化しているが。

その楽しいひとときも、必ず終わりは来る。

夜も更け、パーティーもお開きとなった。
皆、余韻に浸りながら、家路についたり、後片付けに入っていく。
俺も食器等を台所へ運んだり、片付けを手伝った。

「あ、恭ちゃん……」
同じく食器を片付けていた美由希が、俺を見つけて声を掛けてきた。
多分、声を掛けてきたのは。
「今日も、これからやるんだよね?」
そう、毎日の鍛錬。1日だって欠かせない、大事な日課だ。
しかし、たまには……。
「いや……今日はやめとこう」
「えっ? いいの?」
俺の言葉に美由希が、びっくりしたような顔を見せた。
……まぁ、俺の普段の鬼コーチぶりから考えれば、仕方ないのかもしれないが……。
何か、むかつく。
「……別にいつも通りでも俺は構わないぞ?」
「あ、えとその……」
美由希は何と言えばいいのかわからないようでパニックになる。
……実際、今日のところは手伝いとかで疲れているだろうし、やらないで済むならその方がいいには違いない。
しかし美由希の真面目な性格が、素直には頷けないのだろう。
だから俺は、苦笑しながら美由希に言った。
「……お前、料理やケーキをガバガバ食ってただろ? あれだけ食ってたら今日は動きが鈍るだろうから、やめとこうと言っているんだ」
「が、ガバガバなんて食べてないよ〜。確かにいつもより少し大目には食べたけど……」
美由希も苦笑して答える。

結局は、『何もやらないわけにはいかない』と、軽めのメニューをこなして今夜の鍛錬を終えた。

☆☆☆

「おししょ、お師匠〜」
鍛錬から戻り、俺が自分の部屋に戻ろうとしていた時だった。
レンが何やら手に包みを持って、俺に走り寄ってくる。
「……どうしたんだ、レン」
俺は部屋に戻る足を止め、レンを待った。
レンは少し弾んだ息を整えてから、
「いや、そのですね〜」
と少し照れた顔で、何か言い出しにくそうに話す。
俺は彼女の手にある包みに興味を引かれた。
「それは?」
俺が指差すと、レンは照れ笑いを浮かべて答える。
「あ、えと、これはですねぇ〜」
レンはひとつ呼吸を入れて、また続ける。
「これは、その……お師匠への、プレゼントです」
語尾があがる、関西弁独特のイントネーション。
俺はその言葉を、イマイチ理解できなかった。
「プレゼントって……、パーティーでレンからのも貰ったろ」
俺のその言葉に、首を横に振るレン。
「いや、皆と同じもんやのうてですね、お師匠には、特別なモンをあげたいんです」
「特別?」
「とりあえず、もろてください」
レンの渡した包みを受け取る。
……重さはない。
「……軽いな」
俺のつい言った言葉に、レンは目をつり上げた。
「あ、おししょヒドイです! こういうモンは重さやのうて、中身ですよ!」
「あぁ、すまないすまない。別にけなす気はないんだ」
そう謝ってから、レンに確認する。
「開けても、いいのか?」
それに頷くレン。
俺は、丁寧に包みを外し、中身を取り出す。
「……サポーター?」
それは、肌色の布地のサポーターだった。
膝用のサポーター。表の宣伝文句には「遠赤外線で冬もポカポカ」と書いてある。
「ええ。お師匠、膝悪いのに動き回らなアカンやないですか。だから膝を保護するように、てなことで」
「そうか……悪いな」
俺の言葉に、レンは手を振った。
「あ、ええんですよ、これは普段お世話になってるお礼、ちうことにしといてください」
「ああ、すまない……使わせてもらうよ」
俺はレンの頭を撫で、そう言葉を掛けた。
「あ……」
少し照れた様子で、撫でられるままのレン。
しばらく、そのまま撫で続けようか、と思った矢先……。

「見ぃちゃったもんね〜」
そう言いつつ、晶が現れた。
「げ、今一番会いたくない奴がっ」
レンは見るからにイヤそうな顔で、晶を見る。
「ふふーん、師匠にプレゼントかぁ〜。いい子だねレンちゃんはぁ〜」
晶は意地悪そうな笑顔を浮かべつつ、レンの顔を覗き込む。
「べ、別にええやろ。うちの、普段の感謝の気持ちや」
「ほほー。では他の方々には感謝していない、と」
「そんなこと言うとらんやろっ」
普段のレンならば軽くあしらうのだが、今日は少し興奮気味だ。
晶の言葉に食って掛かる。
「2人とも。今日はもう遅いし、ほどほどにしとけよ」
俺が言葉を掛けると、2人は「はぁい」とハモった。
「じゃ、俺は風呂に入って寝るから」
2人に手を振り、俺はその場を離れる。

その間に背後から聞こえる言葉に、俺は耳を傾ける。
「ああ、そや。あんたにこれ、やるわ」
「……え?」
レンの言葉に、晶が驚いた声を上げる。
「あんた、いっつも拳むき出しで殴り掛かってくるやろ。見ててものごっつ危なっかしいから、それ、やる」
「グローブ? ……いいのか?」
「拳痛めたら、うちに掛かってることもできへんやろ。ストレス発散の対象がいなくなるんは勘弁やからな」
「……なんだとぅ!」
「ほれ、それ付けて掛かってこんかい」
「おう、望むところだっ!」

そのやりとりを聞いて、俺は苦笑した。
レンも、素直じゃないな。

俺は貰ったサポーターを手に、自分の部屋へと向かうのだった。
2人の喧騒を、聞きながら。

メリー、クリスマス。


あとがき

はじめてのとらハSSです。
しかもいきなりとら3で!
無謀極まりないっすなハッハッハー!
クリスマス記念ということで突発的に書いたので、オチがイマイチなのはご愛嬌〜。
短いしね〜。

今回はレンを中心に話を組み立てました。
実はまだレンしかクリアしてないんで(12/24現在)他のキャラはあんまり深く描けないんです〜。
うおーレン萌へ〜。

これからもとらハSS書いてくつもり(あくまで「つもり」……げふんがふん)なんでよろしく〜。
感想なんか送っていただけると嬉しいッス。短くてもいいので。
備え付けのフォームメール使って頂いても結構ッスよ。

ではではん。

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