To Heart アナザーストーリー〜However Multi〜

*おまけです。っても結構重いです(汗)。とはいえかなり無茶な話かも。
 本編の方でマルチの好感度が足りなかった場合です(笑)

書いた人:秀


 ・・・。
 暗いその部屋に浩之は一人佇んでいた。どうしてここに居るのか浩之自身良く解っていない。
 確かここは、来栖川研究所の地下室。数日前にその研究所主任、長瀬に連れられてやって来た所だ。
 多数のシリンダーが並び、「マルチ」いや・・・HM−12がずらっと並んでいる。
 電源は入っておらず「眠ったまま」という表現が正しいだろう。
 数日前、ここでオッサンとくだらない論議を続けた。
 くだらないと思う。
 くだらないと思いたい。
 少なくともオレ自身は。
 同じ表情、同じ姿の「マルチ」が眠り、回りに並んでいる。
 オッサンが壊したシリンダーがそのまま放置されている。
 あれから誰もここに来た気配は無いが無いのだ。
 完全に廃棄されてしまった空間。
 人間の道具でしか無いものが、人間よりも優れた能力を持ち、人間よりも多くの場で使われる事自体間違っていた。学校でもマルチは道具でしかなかったしな。
 オレは、高校にテストで来ていたマルチの扱われ方を思い出していた。
 便利な道具。
 オレはおかしな気がした。
 人間と何ら違いのない彼女が、いや人間より人間らしい彼女が何故道具なのか?
 ロボットだから。
 簡単な答え。
『ロボットに、心は必要ですか?』
 オッサンの問いを思い出した。
 オレはあっても良いじゃないかと答えた。
 楽しい。
 その方が。
 マルチの様なロボットだったら、いくらでも居てくれて良いと思う。
 だがマルチはどうなのだろう。
 マルチは楽しいんだろうか。
 オレには笑顔で『みんなが喜んでくれるのが嬉しいんです』と答えてくれた。
 自分が道具として使われているのも、自分がロボットだと言うことを解った上で、全て知った上で働くことを好きだと言った彼女。
「ったく、夢遊病かオレは」
 ふるふると頭を振り、考え直す。
 なんでこんな所にいんのかって事だ。
 マルチについても、ンな暗い考えしててもはじまん無い。
 帰るか。
 階段の方を向くがふと、オッサンがオレを連れていった扉のことが気になった。
「ちょっと覗いてみっか」
 鍵が掛かっていたはずだけど、まぁどんな扉かちょっと見てみよう。
 オレはオッサンが開けかけて止めた扉へと向かっていった。
 埃だらけの大きな扉。
「あれ・・・?」
 鍵が外されていた。
 頑丈な鍵で施錠されていたはずなのに、軽く手を掛けてみる。
 ギイィッと重い音を発てて扉が開く。
「・・・・」 
 好奇心がオレを支配し、扉の中へと導いた。
 真っ暗で、何も見えない部屋。ほんとの暗闇だ。
 辺りを見回すと、一つだけ淡く輝く光があった。
 手探りでそこへと歩いていく。
「・・・・・」
 淡く緑に輝く球体。
 オレは軽くそれに触れてみた。
 暖かい光。
 すうっと心が何かに満たされていく感じがする。
『浩之さん・・・・』
「・・・」
 声。
「マルチ・・・?」
 球体、いや、その奥にある大きなコンピューターからの声。
 聞き覚えのある、言うまでもなくマルチの声。
『どうして、こんな所に・・・』
 マルチから聞いたことはあった。マルチの記憶メモリーは研究所の端末に保管され妹たち(HM−12)に受け継がれていく、って。その端末がこれか?
「元気か?マルチ」
 なんか妙な質問をしてしまうオレ。
 多分困ったような顔をしてマルチは
『ロボットに病気なんてないですよ、浩之さん』
 と答えた。
「でもさ、こんな暗いところで何やってんだよ。灯りぐらいつけ・・・・」
『・・・ダメなんです』
 灯りと言う言葉に酷く反応する、マルチ。
 でも暗いままだと何も見えない。
「どうしてだよ?」
『・・・』
 無言のマルチ。
『私の姿が・・・浩之さんに見えてしまいます・・・』
「別に、マルチはマルチだろ?」
 少し間をおいてから部屋に灯りが灯る。
 ひろーい部屋に大きなコンピューターと・・・、それと・・・。
「・・・」
 オレが見ていた丸い球体の下に、横になっている少女が居た。
 そう・・・まさにマルチぐらいの歳の少女が。
『私です』
 何本もの管がその少女に取り付けられてある。
 それがコンピューターと繋がり、マルチが喋っているのだろう。
「どーいう・・・ことだよ・・・?」
『・・・・。私は、脳が死んでしまったらしくて・・・だから・・・え、と』
 何となくだけど理解した。
 そこで眠っているのが本当のマルチの姿なんだ。
 脳が死んでしまって・・・目を覚ますことが無くなってしまったけど。
『でも、私は・・・』
「マルチだろ?」
『え・・・?』
「お前はマルチじゃねえか」
 姿は大きなコンピューターでも、マルチであることに違いはない。心は・・・オレの知っているマルチとしての心は。
『・・・・』
 球体を優しく撫でてやる。
 あの時にマルチにしてやったように。
『浩之さん・・・』
「どうした?」
『私と・・・私と、いてくれますか?』
 マルチがオレに聞いてきた。
「ああ・・・・・・・」  

 静かに眠る二人の男女。
 外界との接触を断ち。
 二人は永遠という時を手に入れた。
 死など存在しない。
 滅びなど存在しない。
 男は彼女と共に生きることを選んだ。
 ・・・・人間としてではなく、機械として、ロボットとして。
 その身体では動くことは出来ないが、人間よりも人間らしい心を持ち・・・。
 そこで永遠に。

「娘が幸せになれればそれで良いって思うのは普通でしょう?」 


あとがき

 エンディングその3。浩之ロボット同化説・・・・・。
 とはいえ力不足のため、かなり無茶してます。
 いやぁ、長い目で見てくだせぇ〜〜。


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