To Heart アナザーストーリー 〜However Multi〜
*PS版、ToHeartで来栖川姉妹中心に、マルチを攻略後、合間にあかりを入れての雅史エンド後の話。
とりあえず結構重い(?)話です。
書いた人:秀
季節は春。
また、新しい季節がやって来た。
しかしオレは怠惰な生活を繰り返していた。
それは去年の夏。
来栖川電工と労働組合で対立が起こった。
不景気なこの世の中にメイドロボの社会進出により、失業者が溢れついには失業者達の暴動が起こり始めたのだ。それは、全世界で。
見かねた労働組合、そして各国家はメイドロボの制作禁止を命じ一斉にメイドロボは廃棄されていった。
そう・・・オレはマルチとの約束を永遠に守れなくなってしまっていた。
「浩之ちゃん」
「あん?」
ぽけーっと中庭のベンチで昼寝をしているとあかりがやって来た。
昔はよく、昼休みに来栖川先輩が座っていたこのベンチも先輩が卒業してしまって誰も使わなくなっていた。
「お昼ご飯食べて無いよね」
あかりは、スポーツバッグを持ってオレの隣に腰掛ける。多分、そのバッグの中には弁当でも入っているのだろう。
予想通り、あかりはバッグから二人分の弁当箱を出した。
「あかり」
「な、なに?」
ふいに目を見て話すと狼狽えたようにオレを見返す。
「最近、以前にも増してオレの世話を焼くようになってないか?」
事実をすぱっと突っ込んでみる。
このところあかりは、毎朝起こしに来るのはいつもの事だが軽い朝食を作ってきてくれている、そして今日もだが昼飯もだ。
「え、えーと・・・浩之ちゃん心配だから・・・見てると」
「それだけか?」
変に勘ぐってしまう。
随分昔に気づいている・・・あかりのオレに対する気持ちは。それは、一年前の極日常の朝から。あの日、あかりはオレの言ったことを意識してか髪型を変えてきた。それはそれで単なる気分転換ととも取れるけど、その日から何かが変わっていた。
いつの間にか志保、雅史の四人で遊ぶことも無くなっていた。
志保は本気で芸能界に進む為か、本気で勉強を始めているし。雅史もサッカー一筋になってしまった。
「う、うん」
あかりが、首を縦に振ったので、それ以上追求するのは止め。有り難く弁当を頂いた。
翌日は、日曜日。また溜め込んだビデオを見て昼寝しての生活。
グータラやってんなぁ、オレ。
プルルルルプルルルルッ
電話だ。
オレは玄関まで降り受話器を取る。
その電話の相手はとても珍しい人物だった。
『ハロ〜、元気してた?浩之』
「・・・・誰だよ」
『綾香よ、あ・や・か』
「・・・以前にも増して先輩と違いが大きくなったな」
『明日、暇?』
オレの突っ込みを無視して、綾香。来栖川先輩の妹の来栖川綾香は話を進める。
「明日?忙しくなるかもな」
『暇なのね、じゃあ十時くらいに駅で待っててくれない?』
やっぱりオレの話を無視して一方的に話してくる。
変わってないな、先輩と志保を混ぜて2で割ったような性格。
「用件は?」
『でぇーとの誘いよ』
「冗談」
『とりあえず、来てくれないかしら?姉さんも一緒よ』
「ああ、行く」
『じゃ、明日ね』
ブツッ
いったい何の用だろうか。綾香だけが誘っている(まず無いだろうが)のならおかしな用事かも知れないが、先輩も一緒となると・・・。
ま、いいや今日はもう寝よ。
9時50分。駅。
休日と言うことでかなり人が多い。こんな所に綾香はまだしも先輩が来るのか?
駅ビルの前で立っていると、見たような黒髪の女の子が二人歩いてくる。
歩いて!?
「さすが、時間には正しいわね」
「………」
「おはようございます」と先輩が言った。大学に行っても声が細いのは変わって無いようだ。二人ともオレの前に立っている。
先輩は赤のチェックのブラウスに同じく赤のベストを着ていて、何か凄く上品な感じがする。綾香に至っても・・・って制服か。
「着慣れてるのよ、この服が」
ジーッと見つめていると先輩は、ぽっと頬を赤くして。綾香はオレが何を思ったか解ったかの様にそう答えた。
「それで、オレに何の用なんだよ」
「とりあえず行きましょ」
来栖川の美人姉妹を連れて、いや二人に連れられてバス乗り場へ。
そして、バスに乗り込む。
・・・来栖川電工研究所行き?
「先輩、今日は?」
「……」
綾香は一人席に、オレは先輩と二人で座っている。聞くもすぐに「秘密です」と答える。
「ちょっとぐらい教えてよ〜」
先輩は困った顔をする。先輩はお願いに弱い、これは変わってない。
すると綾香が前から顔を出して先輩に助け船を出した。
「行き先見たでしょ」
「来栖川電工、に今更何かあるのか?」
「貴男に会いたいって人が居るの」
それっきり綾香は黙ってしまった。
会いたい?って誰が?
来栖川電工は真っ先に失業者達の過激派に襲撃され、閉鎖されたはずだってのに。
「………」
ぽそぽそと先輩がオレに何か言ってくれたようだけどはっきりとは聞き取れなかった。
バスは目的地に着き、オレたちはそこで降りる。
数十メートル先に研究所跡が見える。
外見はそれほど壊れてはいない。
こんな所に連れてきて、誰が待ってるって言うんだよ。
そして、研究所へと歩いていく。
「無惨よねぇ、自分たちに能力が無いだけなのに全部ロボットの所為にして」
「笑えない事言うなよ、綾香」
「だってそうじゃない?実力がないから取られただけよ」
「格闘技・・・と一緒と言いたいのかよ」
綾香はその細い身体で格闘技の世界チャンプだ。信じられないことだけど、事実だ。その実力は身をもって味わされた・・・・。
「・・・そうよ」
「お前、ロボット相手に勝てるのかよ」
「やってみないと解らないわね」
「……」
綾香と不毛な問答をしていると先輩がぼそっと「勝てます」と言った。
・・・・そりゃ、先輩には科学では解明できない後ろ盾があるし・・・。
「着いた」
まだ電気が敷かれたままなのか、前に立つと自動ドアが開いた。
初めて来たけど、ここでマルチ達は生まれたのか・・・。マルチ、全てのメイドロボか。
「長瀬主任〜〜」
綾香がホールで名前を呼ぶ。
こんな所に住んでいる奴が居るのか?
「連れてきたわよ〜〜」
奥の扉が開き、濃ゆい顔に眼鏡をかけたオッサンが歩いてくる。煤けてはいるが白衣を来ており彼がこの研究所の社員であることが解る。
「わざわざ、お嬢様方が来て下さって」
このオッサン・・・どこかで見たことが、ああ執事の爺さんと親戚か何かか?確か執事の爺さんの名前も長瀬って名前だったよな。
そして、オッサンの視線がオレに移る。
何を考えているか解らない目・・・。
「じゃ、私たちはここで」
「おい、このオッサンと二人きりで置いてくつもりか?」
「だって用が有るのは、浩之にだけよ」
と、綾香は先輩を連れて研究所を出ていく。先輩も「ごきげんよう」と言い残し綾香に連れられていく。
「会ったことありましたっけ?」
「初対面だよ」
とりあえず着いてきてくれと言われたのでオッサン、長瀬主任の跡を追って歩く。
所々目立って壊れている研究所内部。本当に襲撃されて、壊されたみたいだな。
「あなたは、どう思います?」
「は?」
突然、「どう思います?」と言われても何をどう思うのかわかんねぇよ。
「ロボットは必要ですか?」
「・・・そら人間の出来ないこととかする時には便利だよな」
「人型の、人間と何ら変わりのないメイドロボは、どうです?」
どうしてそんなことを聞くのか解らなかった。それの答えはもう出ている、と言うより世の中が出してしまった。
「必要ない」・・・と。だから、全てのメイドロボが廃棄された。夢の島には大量にメイドロボの残骸が山積みとなっている。
「ロボットによるだろ・・・」
「『マルチ』の様、なですか?」
「・・・・・」
このオッサンが作ったのか、そういえば主任って言えば研究室とかでは一番偉いんだよな、金を出してくれるスポンサーとかを除いて。
『マルチ』ね。
企業利益、コストダウン、難しいことはよくわかんねぇけど、それらの為に低価格で販売された・・・『マルチ』の持っていた感情や、その他の回路を削除して。
「ロボットは、よく働きますよねぇ。…なんでもテキパキこなすし、早いし、ミスもない、おまけに残業だって文句も言わずにやっちゃうし。ですが、『マルチ』は違っていました、そうでしょう?」
オッサンにつづいて長い階段を降りていく。ずっと歩き続けているような気がしてならない。
「何をやっても失敗ばかり、動作も遅い、頭も人間並み、本当にロボットか?と言うように感じてしまう」
「結局、何が言いてぇんだ?」
オッサンの言い方が『マルチ』を何か馬鹿にしているような感じがして、癪に障った。
「下手な人間よりも、よっぽど人間らしいロボットでしたね」
「だから、それが!」
「着きましたよ」
オレの拳を無視して、オッサンはしれっと言った。そこが目的地。
研究所地下。
中に入るとたくさんの『マルチ』が居た。
「何だよ、これ」
「失敗作ですよ」
「は?」
ずらっと『HM12』と書かれたケースに『マルチ』たちは立っている。
『マルチ』をベースとして作られた、彼女の妹たち。
しかし、彼女の意識を一つも受け継ぐことなく制作され・・・た。ただの、普通のメイドロボとして。
「大きな失敗作ですよ、わたしの作りたかった物はこんなものでは有りませんからね。でも、上司達はそろってこう言うんですよね『ロボットには心なんて必要ない、必要なのはより便利な機能』ってね」
「・・・・」
「どうします?一つ持って帰りますか」
「冗談」
ガッシャアアアアンッ
するとオッサンは、床に落ちていたスパナを拾うと近くにあったケースを叩き壊した。
「お、おい」
「どうせ、ここは廃棄します。その前にあなたに見て貰おうと思いましてね」
オッサンはスパナを投げ捨て奥に進んでいく。
「あなたは、どう思います?」
再び同じ質問。
いや、今度は意味が違うようだ。
「ロボットに、心は必要ですか?」
大きな扉がある。
施錠されており、一年近く開けられていなみたいで埃が結構積もっている。
「あったほうがいいに決まってるじゃねーか」
『マルチ』見たいなロボットはな、と付け加えようかとも思った。
それがオレの答え。
はっきりと笑顔でオッサンに答えた。
「そっちのほうが楽しいに決まってんじゃねーか」
オッサンはしばらくオレを見つめた後
「やっぱり、そうですよねぇ」
と微笑んだ。
そして、鍵を外すかと思ったがオッサンは向き直り帰ろうとする。
「お、おいこの扉の中には?」
「夢はしまっておきましょう」
「は?」
訳が分からなかった。でも「オッサンが用事は済みました」と言ったので扉の中身が何だか確認することは出来なかった。
再び、長い階段を上っていく。
「けれど可哀想だと思いませんか?」
突然、オッサンがまた話し始めた。
「何が?」
「ロボットなのに人間と変わらないように、心を持っているんですよ」
「・・・・・」
「痛みを感じるんですよ」
ロボット自身の想い?
「それを言うと『人間の道具』だからと、返しますが・・・」
「オレにはわかんねぇよ、でもな『マルチ』はロボットに生まれてきたことを喜んでいただろ」
「・・・・・・・・本当は人間が作りたかったんですよ」
オッサンが最後に何か言ったようだけどはっきりと聞き取れなかった。
「お帰り〜、どうだった?」
ご丁寧に綾香と先輩はバス停の近くで待っていた。
弁当を並べてお昼のようだ・・・。そう言えばまだ十二時か。
「オッサンに連れられ研究所内を回って、話だけ」
「大丈夫だったの?」
「は?」
オレの身体を見回しながら、クスクスと綾香は笑う。
「ここだけの話・・・」
耳に当てぼそぼそっと話をする。
(長瀬主任って、モーホーらしいの)
「ぶっ・・・・・・」
そして、月日は流れ再びロボットが発売された。
・・・サテライトシステムと言った能力は省かれ、純粋に掃除、洗濯、と言った家事、介護などの能力のみを持ったメイドロボがだ・・・・。
「おめでとうございま〜す」
桜が舞う校門の前に一人の少女が生徒達にお祝いの言葉を述べていた。
緑のショートカットで少し目の垂れた女の子。
「おめでとうございま〜す」
生徒達は、気の良い後輩なのだろうとでも思ってるんだろうか、気付く様子もなく校舎へと入っていく。
この時間に登校するのは全て今日卒業する三年生達。
一、二年生は卒業式の準備をしている。
「おめでとうこざいま〜〜す」
「・・・・・・・」
浩之は、ただ呆然とするだけだった。自分の見知った少女だったから。
しかし、自分の知っている彼女は・・・人間ではない。
そこにいる少女は見間違えるはずもなく、歴とした人間の女の子である。
志保と話していたあかりは、立ち止まってボーっとしている浩之に気づき浩之の見ている方をあかりも見るが、少女に気づいた風もなく浩之に声をかける。
「どうしたの浩之ちゃん?」
「あ、いや・・・」
「ちょっとヒロ、卒業式まで遅刻する気ぃ?」
「・・・・・」
仕方なく浩之はあかりと志保と共に校舎に入っていく。
桜が舞う。
少女は居なくなっていた。
初めからそこに居なかったかのように。
「結局、無理だったんじゃろう?」
よく似た顔のオッサンが話をしている。
一人は眼鏡をかけ白衣を着ており、もう一人はぴしっとしたスーツを着ている執事の様な男だ。
「初めからこんな開発を始めなければ良かったと思ってますよ、自分自身」
「・・・・・」
白衣のオッサン、長瀬主任の前にベッドがあり眠っている少女が居る。
眠っている・・・と言っても、口には呼吸器が付けられている。
脳死。
その少女は、まさにその状態だった。
「どう、思います、兄さん」
「・・・・」
執事、長瀬主任の兄の通称セバスチャンは仏頂面で黙ったままだ。
「・・・・諦めるしか無いな」
長瀬主任の娘は、浩之の通う高校の前で車にはねられ・・・そのまま目を覚ますことは無かった。
頭を強く打ち、脳死したのだ。心臓は正常に動いているのに脳が死んでしまった状態。
それから・・・長瀬主任は、あらゆる研究をした。
しかし、それはそれでスポンサーに対する体裁もあり。表上、ロボットを作る研究として来栖川から費用を融資して貰い、実際は心、感情、そして脳についての研究をしていた。
その研究上で・・・ロボットに人間と同じ感情を与えた『マルチ』ができあがった。
『マルチ』の開発は成功だった。娘とうり二つの彼女が笑い、泣く・・・娘が生きていたならそうであっただろう様に。
しかし・・・・『マルチ』が居ることにより、長瀬主任の娘に対する想いが強くなっていく。
その中で『マルチ』は浩之に出会いー。
「・・・・」
全ての灯りが落とされ、蝋燭だけの暗闇の部屋。
そこは先ほどまで長瀬主任とセバスチャンが話をしていた場所。
芹香は、黒魔術の時の衣装を着、魔導書片手にぶつぶつと呪文を唱えている。
「大丈夫なんですか・・・・」
「お嬢様を信用しろ」
芹香の前に長瀬主任の娘が眠っている。
魔術の邪魔になる、と呼吸器等の機械は全て取り外されている。
セバスチャンが諦めろと言ったのは科学に対してで、娘を諦めろと言ったわけではなかった。
びゅおおおっと風が鳴く。
芹香曰く、魔王に頼み脳を生き返らせて貰う、らしい。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
びぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃんっと耳鳴りが始まり。そして、音が止まる。
呪文は完成され・・・・。
そして・・・・
桜が舞う。
志保は、一人関西の方の大学に行くらしい。何だかんだ言って突然勉強を始めて、あっという間にオレを追い抜いて大学に合格しちまいやがった。オレはオレでいつものように、あかりとそこそこ勉強して・・・何とか大学に行くこととなった。雅史は有名な体育大学、本格的にサッカーをするみたいだ。
今日で・・・四人揃うのも最後かもしれない。それぞれで会うことはあっても、四人全員で一緒に遊ぶことはもう無いかもな・・・。
「浩之ちゃんも写真撮ろうよ〜」
あかりは、何でもかんでも学校の物や友人達を写真に撮っている。
ったく・・・。
あかりの所に行こうとすると、突然懐かしい音を発てて校門の前に車が止まった。
黒塗りのリムジン。
確か来栖川の。
執事のオッサンが降り、ドアを開ける。来栖川先輩と・・・?
朝・・・・校門で見た緑の髪の女の子。
「浩之さん」
彼女は・・・・・・・・・・・・・・・・・
あとがき
ほい。何か無茶苦茶な話です。
内容を解って貰えたかひっじょ〜〜〜に不安です(笑)
いや、まぁ、『マルチ』長瀬主任娘説をやってみたんです。それから、ロボットについての話も混ぜてみました。
最後らへん思いっきり思いつきで書きましたから、かなり無理が有るかも知れません。
いや、無理がある。
そいえば、PC版マルチ没シナリオの方の内容も少し引用してあります。アレはアレでかなり破壊力が有りますが。・・・自分にはそんなの書けないしね。
んじゃ、さらばですぅ。(次は綾香SSを書くかな♪)