Sister Battle

written by 李俊

…そこは、戦いのためだけにある世界。

「…どこに隠れているの…?」
鷹のように、せわしなく動く目。
綾香は、素早く移動しながら、ターゲットの姿を探す。

「……」
一方、岩陰に隠れ、息を潜めている芹香。
その表情からは何も読み取れないが、その手の中の杖を握る強さから、緊張していることがわかる。

からっ…。
綾香の立てた些細な物音に、芹香は反応した。
すぐに芹香は魔方陣を描き、何やらぶつぶつと呟く。
…そして、魔方陣をトン、と叩くと、何やら魔方陣から煙が出てきた。

「…見つけたっ!」
綾香は、その煙を見つけると、素早くダッシュし、芹香の元へ走り寄る。
そして、そのまま芹香につかみ掛かった。
「……!」
芹香の声にならない声。
…綾香の手が芹香に届くかという時、魔方陣が光り、何かが現れた。

「ぬぅぅぅぅん」
それは、体長3mくらいの、土で出来たゴーレムだった。
「……」
芹香が何か命令すると、ゴーレムは綾香へと襲い掛かる。
「ぬううううん!」
そのゴーレムのパンチを、素早くかわす綾香。
どかっ!
ゴーレムはそのまま、綾香がいた地面を思いきり叩いていた。
「ちっ…今一歩だったのに…」
綾香は舌打ちしながら、さっと戦闘体制に入った。
ゴーレムはまた、大きく振りかぶってパンチを放ってくる。
「甘いのよ!」
パンチを垂直跳びでかわす綾香。
そしてそのまま空中で前転し、蹴り技をゴーレムに放つ。
「食らえっ! ロォォォリングハンマァァァァァ!」
綾香の気合の入った声が響く。
がっ!
綾香の必殺のかかと落としが、ゴーレムの脳天に入った。
一瞬だけ、時が止まる。
「ぬうう…ん」
…頭を失ったゴーレムは、ゆっくりと倒れていく。
綾香のかかと落としの威力はすさまじく、ゴーレムの頭部を粉砕してしまっていたのだ。
ずううううん。
ゴーレムの巨体が崩れ落ちる。
「まだまだね、姉さん?」
ふふっと笑みを浮かべる綾香。
「……」
相変わらず芹香の表情は変わらないが、杖を両手でぎゅっと握り、綾香のひとつひとつの動きに警戒しているようだ。

「さて…行くわよ!」
ざっ、と地面を蹴り、綾香が芹香に向かって突進する。
「……!」
それに対し、芹香は精神を集中させ、杖を前方に向けて突き出した。
すると、杖の先端の空間に、いくつかの火の玉が現れる。
「…ファイアーボール!?」
綾香の表情が、それを見た瞬間に変わる。
すぐに方向を転換し、横に向かって走り出した。
「……!」
芹香が杖を振り下ろすと、火の玉が次々と綾香に向かって放たれる。
ぶおおっ! ぶおおっ!
火が綾香の側を通り過ぎていく。
「わああっ! 危ないいい!」
すんでの所で、全ての火の玉をかわした綾香は、転がるように近くの岩陰に身を隠した。
「……」
芹香の方はというと、休む間もなく次の呪文の詠唱に入っている。
すっと杖を高く掲げ、そして綾香の隠れた岩の方に向けて振り下ろす。
「……!」
芹香が何か呟くと、空で雷雲が発生した。
雷雲から発生した稲妻が、綾香の隠れている岩を狙う!
ぴっしゃぁぁぁぁん!
「ぎょひぃぃぃぃっ!」
綾香は何とか稲妻の直撃を避けた。
「ちょ、ちょっと姉さん、それはやり過ぎ…」
抗議する綾香だったが、芹香は聞く耳持たず、稲妻を何度も呼ぶ。
ぴしゃぁぁん! ぴしゃぁぁぁん!
「ひょえええ! うにょおおお!」
奇声を上げながら、何とか綾香はそれを避けていた。
…落雷のせいで、だんだん辺りには土ぼこりがたちこめてくる。
綾香は、何とか稲妻を避けようと、身を隠すため土ぼこりの中へと突っ込んだ。

「……?」
芹香は綾香の姿を見失い、きょろきょろと周りを見る。
しかし、土ぼこりがたちこめていて、綾香の姿を見つけることはできなかった。
稲妻を落とすのをやめ、姿を探すのに専念する。
ざっ…。
その時、芹香の背後で物音がした。
振り向く芹香。
…そこには。

「……!」
驚きの声をあげる芹香。
そこには、綾香の姿があったのだ。
「遅いっ! 食らえ、シャイニングフィンガァァァァァ!」
綾香が右手を大きく振りかぶって、芹香に襲いかかる!
それを避けようと身を捻る芹香だったが、この至近距離では避けきれない。
綾香の右腕が、芹香に迫る!

「ターッチ!」
…綾香の声が、辺りに響き渡った。

☆☆☆

『ゲームオーバー。WINNER・綾香』
画面に大きく、そう表示される。
その画面の手前に置かれた2つのシートに、綾香と芹香は座っていた。
2人は、顔をすっぽり覆うヘルメットを着けている。
「ふう、何とか勝ったわね〜」
綾香はシートを降り、ヘルメットを脱いだ。
「……」
芹香も、同じようにヘルメットを脱ぐ。
その表情は、多少悔しそうではあったが。
「さすがですね、お嬢様」
ぱちぱち、と手を叩いて、奥の方から研究者姿の青年が現れた。
「さんきゅ、七瀬さん。面白かったわ」
綾香に礼を言われて、赤くなる七瀬。
「……」
芹香も、面白かったです、と呟いた。
「いえ…元々は研究のために作ったシステムですから…」
カタカタ、と傍らのキーボードを叩いて、七瀬はシステムを終了させた。
ぶぅぅぅん…という音がして、電源が切れる。
「メイドロボのOSの基本性能を見るためのシステム…それを、人間用のバトル鬼ごっこゲームにしちゃうんだもの、すごいわね」
綾香は、感心したように、ヘルメットをポンポンと叩いた。
「あはは…それはまあ、趣味の延長ということで…」
カリカリ、と七瀬は頭を掻いた。
「また、遊ばせてね。…そうだ姉さん、今度浩之たちと一緒にやってみたいわね」
綾香の言葉に、コクリと頷く芹香。
「ああ、別にいいですよ。多少いじれば、5、6人くらいは同時に出来ますし」
「…それはいいけど七瀬さん、研究の方も疎かにしないでね」
「あ、はい、大丈夫ですよ。…あれ、どうしたんです、芹香お嬢様」
七瀬は、自分をじーっと見つめる芹香の視線に気づいた。
…芹香が、ぼそぼそと七瀬につぶやく。
「…魔法のシステムに追加ですか? 別にかまいませんけど」
綾香は笑って、芹香に聞いた。
「なぁに姉さん。私に負けたのが悔しいから、強くしてほしいの?」
芹香はそれに対し、コクリと頷く。…正直な人である。
「それじゃどんな魔法を…」
「……」
芹香の言葉を聞いた七瀬は驚いた表情を見せる。
「えっ…サタンを召喚できるようにして欲しい?」
芹香は、こくこく、と2度頷いた。
「こらこら姉さん、ゲームの世界ごと破壊するつもり!?」
綾香のツッコミに、芹香はマジメに頷いた。
…どうやら、芹香は相当悔しがっているようである…。

ちゃんちゃん。

あとがき

うーん、オチがイマイチやねぇ。

今回は「戦う来栖川姉妹」を出してみました。
もちろん、現実世界でゴーレムやファイアーボール出したりするのも無理があるので、ゲームの中の世界で、となりましたが。
(現実でやってもそれはそれで面白いですけどね(^^;)

最近、格闘シーンを書いてて思ったんですが、やっぱり動きを描写するのは難しいですね〜。
もともと自分は会話で話を組み立てていくタイプですので、けっこう苦戦しました。

シュバルツ「修行が足りんぞ、李俊!」

はっ…( ̄◇ ̄;)!?
今、誰かが背後にいたような…。
…気のせいか。(^^;

ではでは、感想等ありましたらください♪
お待ちしてます〜。

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