最強対決!オニとオタク
written by MAS@
感じる、感じるぞ。もうすぐここにやって来る、人成らざるモノが、人智を超えた何かが。
戦いこそがこの俺の生きている証、さあ、早く来い、この俺を官能の世界へいざなえ。
長かった梅雨も明け、夏本番を迎えた七月某日、隆山温泉街。
夜がようやく白み始めた早朝、まだ人もまばらな駅に列車が到着した。
降りる者は数少ない。程なくして発車のベルが鳴り響き、列車はホームを離れ、次の駅へと向かって行った。
数少ない降客も、すでに改札を抜け各々の目的地を目指し、ホームには唯一人を残すのみとなった。
「・・・・・」
無言であたりを見回すその人物、外見からは判ろう筈も無いが、実は心に、とある野望を抱いているのである。
野望と言えば九品仏大志、九品仏大志と言えば野望、と言う大方の予想を裏切り、その人物は女性だった。
「なんや、えらい寂れたトコやなあ」
兵庫訛りの関西弁を溜息混じりに漏らす。
小柄な体躯、髪は明るめの栗色でセミロング。
それを後ろで二つに分け、リボンでまとめている。
まだ幼さを残す顔は勝ち気な笑みをたたえ、大きな丸メガネが印象的だ。
「ホンマにこんな所におるんかいな・・・・」
二度めの溜息と共に、ゆっくりと改札に向かうその女性。
出会う人すべてに 強烈な印象と共に、打撲傷、擦過傷、捻挫、脱臼、その他もろもろを残すと噂の最強の同人娘。
そう、猪名川由宇その人である。
東京進出を謀りはや幾年月、大阪中心でやってきた由宇にとって、最初の頃は苦戦を強いられていた。
とは言うものの、そこは持ち前のパワーとガッツで着々とファンを広げ、今に至っているのだが、(まだまだウチはこんなモンやない!)
そしていつしか、自分を中心とした一大勢力を築き上げ、こみパを牛耳っていく、と言う野望を持つに至ったのである。
(手駒は多ければ多いほどええ、けどこみパに来るヤツを只待ってるだけやったらアカン!)
そして由宇は地方を回り、新人をスカウトする事を思い付く。
(攻撃は最大の防御っちゅうやないか、骨のあるヤツを発掘して手の内に納めてこみパに送り込む、 これや!これしかないわ!)
かくして由宇の地方巡業、もとい、新人発掘の為の地方探索が始まったのである。
「!!」
改札を通り、駅前に出た由宇を奇妙な感覚が包む。
(この感じ、さっき電車の中でのヤツと一緒・・・)由宇は思った。
旅に出る前、ただ闇雲に探し回ってもなんなので、以前、同人仲間である千堂和樹から聞いていた一つの話。
鬼にまつわる伝承と、鬼の末裔と噂される一族の話に興味をおぼえ、この地を選んだのだが、車中何かしら強く感じるものがあったのだ。
それはホームに降りた時は一旦消えたが、今再び感じている。しかもさっきより一層強くなって。
「おもろいやないか・・・・」
ニヤリと口を歪ませ、由宇が呟く。(ふふふ、感じるでえ、この地を真っ赤に染める戦いの予感がなあ!)
地元の人達にすれば、迷惑この上ない予感に胸を躍らせ、由宇の足は山の方角へと向かっていった。
同刻、 閑静な住宅街を山に向かって抜け、山小道を少し歩いた所にある静かな河原、男はそこに佇んでいた。
(来る、あと少しでここに・・・) 至福の時間が近付く喜びに、男はつい笑みを漏らす。
男の名は柳川、最強を自負する鬼の血を引きし者。
彼にとって生きる事とはすなわち戦う事に他ならない。
とは言うものの、強敵との生死を賭けた死闘など、そう滅多に有るものではない。
ところが今朝方にかけ、柳川の感覚に強く訴えるものがあった。
しかもそれはだんだんと強まって来るではないか。
(この感じは、耕一か、いや違う。千鶴でもない、まったく別の・・・・・)
鬼のそれとは違う、だがただならぬ気配、いずれにせよ只者ではあるまい、柳川の心は踊った。
と、その時、ガサッ、木々の揺れる音、そして、
「あーもう、うっとうしいなあ、なんやねんな、ここわあ!」
小道からややはずれた所の木々を掻き分け、由宇が現れた。
「ホンマにもう、道くらいつけとかんかい!ってなんや、こんなトコに道あったんかいな、それをはよゆうてえなあ、かなんなあ」
恨めし気に道を睨み、ぶーたれる由宇。
どうやら山に向かったまではよかったが、道からそれ、そのまま真っ直ぐ突き進んで来たらしい。
(見失う程の道とは思えんが・・・)柳川はややあきれて由宇を見ていた。
小さな体に虫も殺さぬ様なあどけない顔、殺気とは程遠い緊張感のまったく無い雰囲気。
(こいつ・・なのか?) 柳川は訝しがる。
だが、(まさか、な、) いまだ自分の存在に気が付かない由宇を見て柳川は一笑に付した。
そうだな、こんな奴が敵であろう筈が無い、観光の途中か何かで、たまたまここに迷い込んでしまったのだろう。
緊張感を削がれた柳川は溜息をつくと、
「お嬢ちゃん、どうかしたのかな? 」
いまだ道に悪態を付いている由宇に向かって声を掛けてみた。
「?」
不意に声を掛けられあたりをキョロキョロ見回す由宇。
やがて柳川の存在に気が付くと、
「わ、わあっ、びっくりしたあ、な、なんやねん、アンタ」
心底驚いた様子で由宇が口を開く。
「なんだとはご挨拶だね、いや、見たところ観光客の様だが、道にでも迷ったのかな、お嬢ちゃん」
由宇のいけぞんざいな態度に苦笑しつつ柳川は笑顔で返す。
「あんなあ、アンタ、そのお嬢ちゃんはやめてくれるか?ウチはこう見えてもオトナの女やねんからな」
由宇は少し不機嫌そうな顔をする。
「それになあ」
由宇が続けた。
「ウチは観光客やないし、道に迷ったワケでもないんやからな」
「道に迷ったんじゃない?」
柳川が不審がる。
「そうや、ウチは今朝方から感じてるモンを辿ってここまできたんやで」
「!! 」
とたんに柳川の顔が強ばった。
しかし由宇は気付く事も無く続ける。
「ウチには判る、かなりの力を持ったヤツや、ウチと互角かそれ以上かもしれん」
喜色満面の由宇。
「コイツを手なずけてモノにすりゃ、ウチの野望はまた一歩前進や!」
嬉々として由宇は捲くし立てた。
「・・・・・」 柳川は顔を強ばらせたまま動かない。
「ん? なんやアンタ、顔色悪いやん、大丈夫・・・・あぁ!」
驚きの声を上げる由宇。
「こ、この感じ、ついさっきまではなんにも感じんかったけど、今朝感じたアレと同じ・・・・・そうか、アンタやったんか!」
声をはり上げ柳川を睨み付ける。
「フ、フフフフ・・・この俺を手なずける?モノにするだと?ククク・・・」
柳川は愉快そうに漏らす。
「出来るのか、お前に・・・」
薄ら笑いを浮かべ由宇を挑発する柳川。
カチン!その見下す様な態度が 由宇の神経を逆なでした。
「こ、この・・人を小馬鹿にしよってからに!許さん、許さんでえ!!」
肩に掛けたバッグを放り投げ由宇は怒りを露にする。
「手荒なマネはしとうなかったけど、もう遅いわ!ギタギタにいてもうたるからなあ、覚悟しい!!」
由宇の全身を怒りの炎が渦巻く。
(ほう、なかなかのものだ、ふふ、だが、いつまで続くかな?)
柳川は不敵な笑みを浮かべると体に気合を込める。
ドクン、ドクン、ドクン、眠っていた鬼の血が全身を巡り、柳川の体を人成らざるものに変えてゆく。
「う、お、おおおおおおおお!!」
叫びと共に服は弾け飛び、身長は倍以上に膨れ上がる。
不気味な角、鋭い爪、牙が次々と伸びて行き、ついに伝説の鬼がその姿をあらわした。
(フフフ、どうだ、これを見てまだ強気でいれるか? これでキサマも恐怖のズンドコ、もとい、どん底に・・・)
柳川は由宇を見た。
こちらを凝視したまま動かない、が、少し間を置き、ゆっくりと口をあけると
「あかん・・・」
ぽつりと言った。
(は?) あっけにとられる柳川。
「あかんあかんあかん!!なんやそれわあぁ!!」
顔に怒マークを貼り付け由宇が怒鳴りつける。
「風情も何もあったもんやない!」
一言で切って捨てる。
「ええかアンタ、見栄えするポーズをとるとか、めゼリフをビシッと言うとか、何でもええから考えんかい!工夫が足りんわ!工夫が!!」
(なっ、なにいいいいいいい!!)
柳川はうろたえた。
(す、少しもびびっとらんぞ、コイツ・・・・) 異形の怪物を目の当たりにして、恐れるどころか文句を言うとは!(
「まあええわ、最初やし大目にみたる。ほな次いこ次」
右手をひらひらさせ、由宇が催促する。
だが柳川の心中は穏やかでは無い。
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(ううう、くそっ、調子に乗りおってええええ!な、ならば!)
「グ、グオオオオオオオオオオオオーーーーー!!」
ビリビリビリビリ、空気を震わせ、大地をも揺るがす程の凄まじい咆哮。
木々はざわめき山の獣達もすくみあがった。 (フ、フフフ、これなら・・・)
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どうだと言わんばかりに由宇を見る柳川。
だが由宇は特に驚く様子もなく、微動だにしない。
そしてジロッと睨むと、
「・・・・ど」
と一言漏らす。
(ど?) 柳川が思ったその瞬間、
「同人を なめとんのかああああああああっーーーー!!」
柳川のそれを遥かに凌ぐ大音響があたり一面に轟き渡る。
むろん聞いていた柳川も只ではすまなかった。
(のわああああーー!! こ、鼓膜がああああ!!)
耳を押さえ地面を転げまわる柳川。
「なんやねん!その蚊の鳴く様な声わあ!」
怒りに体を震わす由宇。
「そないな屁みたいな声で呼び込みがでける思うんか!オタクの耳をなめとったらアカンで!」
興奮し、真っ赤な顔でわめき散らす。
(ひっ、コ、コイツは い、一体 な、何者・・・) 柳川は狼狽した。
鬼の姿、鬼の咆哮にもびくともせず、逆にこの俺を圧倒している。
(こ、このままでは・・・) おののく柳川。
その間に由宇がゆっくりと間合いを詰めて来る。
「アンタには再教育が必要みたいやなあ・・」
怒りの形相で迫る由宇。
(ひいっ!) 完全にパニクッた柳川は爪を振り回し、闇雲に由宇に襲い掛かった。
ヒュン!ヒュウン!凄まじい速度の爪撃が由宇の顔面に迫る。
ザッシュウゥ! ついに捕らえたかに見えたが、柳川の爪は、由宇がいつの間にか手にしている巨大ハリセンに受け止められた。
(な、何!)
「遅い遅い、そんなトロくさい動きやったら、こみパでは身動き一つ取れんでえ!」
平然と言う由宇。
「それに・・・」
由宇は すっ と半歩下がり、
「手首の返しが甘いわあああっ!」
ばっしいいーーん!柳川の腕を思いっきりはたいた。
(うっぎゃあああああああっーー!) 豪快に地面にもんどりうつ柳川。
只でさえ太い腕が、倍近く腫れ上がっている。
「動きは遅いわ、スナップは甘々やわ、そんなんで一ヶ月84ページ、フルカラーがでける思うんかあああ!」
ずばっしーーーん!どてっ腹にハリセンがめり込む。
(ほげええええええ!)
「動きの源は腰や、腰をもっと鍛えんかああああ!」
ずびっしーーーん!(おがあああああ!)
びしーーん!ばしーーん!どしーーん!げしーーん!まんべんなく続くハリセンの嵐。
すでに柳川は息も絶え絶えの状態だ。
(ひ、ひいいい!た、助けて・・・)
狩猟民族の誇りも何もあったものでは無い。
柳川は、無様にも地面を這いずり回り、助けを求めた。
が、無情にも、すでに戦意喪失の柳川に、ゆらり、とメガネを妖しく光らせ、由宇が立ちはだかる。
(う、うわああ!お、鬼いぃぃぃ!)自分の事を棚に上げ、柳川は肝を潰す。
「アンタみたいなヘタレはなあ」
(ひい!)
「ケツ噛んで死んでまえええええええぇぇぇぇーーー!!」
どっごおおおおおおおおおーーーーーん!!!! 渾身の力を込めた由宇のハリセンの一撃が、瀕死の柳川を直撃する。
「うぎょおおおおおおおおおおーーーーーーんんん!!」
奇妙な叫び声をあげ、 吹っ飛ぶ柳川。
ドッシャアーーン!!地面に 叩き付けられ、二転三転、ついに柳川は動かなくなった。
「さあてと・・・」
勝ちを確信し、一息ついた由宇は、おもむろに柳川の首根っこを引っつかむ。
「さあアンタ、寝とるヒマなんかないで、これからウチと一緒に帰って同人修行や、覚悟しいやあ!」
と言って、ズルズルと柳川を引きずっていく。
こうして、鬼対オタクの壮絶な戦いは、由宇の勝利で幕を閉じ、鬼こと柳川は由宇の軍門に下ったのである。
その後の柳川は・・・・由宇の依頼を受けた千堂和樹により、同人スキルを徹底的に鍛え上げられ、
今や、鬼に姿を変える同人作家として、こみパにおいて好評を博しているとゆー。
カタンコトン、カタンコトン、山間を走る列車の中、駅弁を頬張り、ビールを飲みのみ、ニコニコ顔の由宇がいる。
「んーふふふー、イキのええ新人は見つかるわ、ウマイもんは食えるわ、これやから地方巡りはやめられへんわあ」
プシュッ!すでに二本目となるビールを開けながら、由宇は笑いが止まらない。
「さあ、次はどんなヤツやろな、ふふふ」
由宇の笑い声と野望を乗せ、列車はひた走る。
由宇の旅はまだまだ終わらない。
おわり
あとがき
はじめまして、MAS@と申します、初めてのSSであります。最初はシリアスのつもりでしたが
途中からギャグに変わってしまい、とり止めなくなってしまいました。
なにせ初めてなものですから、何とぞご勘弁下さい。
次からは、もっとちゃんとしますので、ご意見、ご感想、ご苦情等あれば、随時受け付けてます。
なにとぞよろしく。
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