突然番外編 セイカクハンテンタケ再び

0.隆山の朝
フェイズ<小出由美子>
カコーン
などと遠くから小気味良い音が響いてくる。
窓から見える光景は良く手入れされた日本庭園で気分が和んで、顔が意味も無くほころんでしまう。どちらかと言うと私は寺社仏閣を眺めるのが好きな方で旅行する時は専ら
そっちに関心がいってしまう。
言い忘れたが私は今隆山の柏木邸に来ている。
柏木君に便宜を図って貰い隆山鬼伝説をより詳しく知る為である。別にお金で苦労はしていなかったのだが、これもまた柏木君の好意で泊めてもらっている。楓ちゃんと歳を越え親友(恋敵でもあるけれど)になりいい関係だ。
世間的に見れば、三人の仲は健康なモノではないけれど……。
1.
昼時の食卓、美味しそうな料理が並び香ばしい香りを放っている。
けれど何故か千鶴さんを抜いた面々の顔は蒼白だ。調子が悪いのだろうか。
「……由美子さん、これ」
楓ちゃんがオズオズ差し出したのは胃薬だ。
「ごめんよ〜。由美子さん、アタシが料理を作るって言ったのに……。」
目の前に座っていた梓ちゃんが泣きそうな顔で呟く。普段、元気な梓ちゃんがこんな顔を見せるのは初めてだ。よほど料理が作れなかったのが悔しいらしい。
「じゃ、いただきましょ。」
千鶴さんがにこやかに呟いた。大人の魅力というやつだろうか?
「い……いただきます」
震える声で柏木君たちが呟く。その顔は一様に死刑を宣告された囚人の様である。
と、気を取り直して私は見たことの無いキノコが入ったキノコご飯にハシをのばした。
一口。うん……美味しい。今まで食べたことのない味で幾らでも食べれそうだ。
きっと胃薬は私が食べ過ぎた時のものだったのだろう。気が利く良い子だ。
ご飯を丁度空にした時、異変が起きた。
心の中から何かが這い出るような感覚……そして這い出てきた何かは同化し、私は倒れた。
倒れる途中で柏木君が「セイカクハンテンタケだ〜」と叫んでいた気がした。


フェイズ<暗黒面の由美子>
ズキズキと痛む頭を押さえながらオレは目を覚ました。倒れてから時間は経ってない。
まっ一分ってとこだな。
「由美子さん?大丈夫?」
耕一の奴が引き攣った笑みを浮かべながらオレを見つめてた。オレが倒れたのが心配だったらしい。ちっ可愛いやつだ。
「ああ、多少アタマが痛ぇが大丈夫だ。安心しな」
シニカルに耕一に笑い掛けてやったが、絶望的な顔してやがる。
「コウイチ!てめぇオレが無事で嬉しくねえのかよ」
オーバーなくらい耕一はぶんぶん顔を振る。それでいいんだよ。
懐に手を伸ばして煙草とジッポーを手にする。煙草はオレが咥え、ジッポーは耕一に渡し
顎で火をつけなと伝える。
耕一は暫く呆然としていたが、意味を理解したらしい。即座に火をつける。
「耕一、街に行くぞ!この街を締めてやる!!」
立ち上がり玄関へと向かおうとする。
耕一は唖然とした顔をしていたが何やら決心をしたらしい。顔に出るヤツだから意図は簡単に分かる。オレを止める気なのだ。
「梓!由美子さんを止めろ!!」
即座に反応して梓が俺に突っ込んでくる。鬼の力を使っているらしく床が足型にめり込んだが、俺に言わせればまだまだだ。幾ら人間を凌駕する力を持っていても知恵が無くてな。
「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
重心を落としたタックルだ。まともに食らえば命が危ない。
俺はぶつかる寸前にヒラリと躱し、梓が止まったのを確認し背後に接近。太股から足の裏を這わせ丁度膝の辺りで全体重をかけて強く踏み込む。
カクンと音が聞こえたかのように無様に転倒する。実も蓋も無く言えば膝カックンだが、実はこれキチンとした武術の技の一つだ。倒れたら、そのまま転がって逃げるのがテだ。
梓は動けない。信じられないと言った顔つきで俺を見てる。
「力任せで勝てるのは素人相手にだけさ。ついでにいや、お前はまだ人間の域をこえて
ないんだよ。可愛いやつだよ、この程度の力で俺に勝とうなんてな」
煙を吹きかけ咽た所で顎にヤクザキック。腰の回転も加えて威力があるので梓は見事に昏倒した。手加減しなかったが死にゃしないだろ。
「何で!鬼に素手で勝てるんだ?!」
耕一の叫び……言いたいことは尤もだがね。梓には技が伴ってないのさ。
「行くぞ耕一!!」
鎖の付いた首輪を耕一に付けようとした時
「……由美子さん、耕一さんの為に貴方を止めます。」
楓が立ち塞がった。
既に鬼化していて殺気を叩き付けてくる。
「いいね〜。最高だ」
咥えていた煙草を吐き捨てて楓と対峙する。
「必殺!」
傍らにあったモノに手を伸ばし渾身の力を込め持ち上げる。
「耕一ボンバーー!!」
勢い良く飛び出す耕一!その姿はまるでロケットの様ですらある。
俺はその間に楓に肉薄する。楓は耕一ボンバーを避け、華奢な足でハイキックを繰り出す。
甘い!俺の頭を通過した足を肩に掛け、そのまま押し倒す。
「ハハハッ!甘すぎるよ楓!!」
そのまま、教育上不適切なお仕置きへと移動し……隆山の日は暮れて行く。

フェイズ<小出由美子>
とうに日は沈み、時刻は六時を回っていた。
何故か、柏木家の面々は一様にボロボロになっていて夕飯は私が作ることになった。
作った夕飯を並べる。梓ちゃんは顎の調子が悪いらしく顎をしきりに触り、楓ちゃんは
上気した顔で私を見つめていた。
「いただきます!!」
晩御飯は皆、にこやかな表情だ。
「あれ?由美子さん……このオムレツ美味しいね。」
柏木君が食べながら、オムレツを指差す。
「うん、美味しそうなキノコが冷蔵庫にあったから入れたんだけど。」
ときざんだ名前の分からないキノコを私は口にする。
柏木家の面々の顔があから様に引き攣ったのは何故だろう?
そう考えながら、私は闇の中へ
「千鶴さん!!どうして冷蔵庫にいれてたんですか!!」
柏木君の叫び声が隆山の空に木霊した。
<終わり>


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