終章 そして、始まる物語
教室の窓から見える景色を柏木君は呆然と見ていた。
五限も終わり周囲は既に夕闇に閉ざされ見える景色などたかが知れていると言うのに。
「……柏木君、どうかしたの?」
何気なく近づき、私は窓に寄りかかった。
「昨夜、楓ちゃんに話したよ……。」
いつになく静かな澄んだ声だった。あの事件が終わり、柏木君は前世と決別することを
決めた。それは前世と現在を切り離して自分の気持ちを確かめたかったのだろう。
それでも、楓ちゃんの事を思うと心が痛んだ。
「……楓ちゃん、泣いてた。」
「そう……。」
柏木君が「二人とも好きだ」と言ったのは本気なのだろう。
「……互いの気持ちを……今の柏木耕一と柏木楓の気持ちを大切にしたいから、また
従姉妹からやり直すよ。」
口で言うほど簡単でないことは私にも分かった。一度変わった関係は元に戻らないのが
常だから……。それは私も同じだけれど。
「……じゃ、私が割り込む余地はあるわね。」
柏木君は面を食らった顔をしていたが、ゆっくりと微笑みを浮かべ、頷いた。
「見てなさいよ。今度は実力で柏木君を奪って、私のものにしてみせるから」
きっと楓ちゃんは柏木君を諦めない、勿論私もだ。
今はそれだけで十分……そう思い私は極上の笑みを浮かべた。
そして、私達の物語が始まる。
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