対決! 綾香VS筋肉女!
written by 李俊
朝の登校風景。
そこに校内一のスーパーお嬢様、来栖川綾香の姿があった。
そしてその周りには、綾香と話をしようとするかしましい女の子たち…。
まあ、何しろ格闘技を筆頭にスポーツ万能、歌を唄わせればプロ並、その他明朗活発、成績優秀、容姿端麗、才色兼備、家内安全(?)と来ていれば、その状況も頷けるだろう。
しかし、その綾香の行く手を阻む影があった。
その人物の着ている制服から、この寺女の生徒だとわかる。
しかし、問題はその容姿である。
…2m以上ある巨体。そして筋肉はモリモリ。
ボディビル選手権では確実に優勝するだろう…ただし男性の部で。
「来栖川綾香! 今日こそ、決着を着けなさい!」
外見からは意外なほど可愛い声で、彼女(?)はそう叫んだ。
その声で、周りに居た娘たちは綾香との距離を置いた。そして声を殺して対峙する2人を見守る。
「あなたは…確か、ボマ子さん?」
綾香は、その立ち塞がる彼女の名を、記憶の中から思い出した。
「ボマ子じゃないわっ! 私の名前は『升流母 真子(まするぼ まこ)』よっ!」
綾香の言葉をブンブンと首を振って否定する、ボマ子…もとい、真子。
しかし、彼女のアダ名が「マッスル ボマ子」であるのは、周知の事実であった。
「あ、ゴメン。謝るわ」
頭をポリポリと掻いて、謝る綾香。
だが目は笑っている。
…確かに、筋肉隆々たる彼女の姿を見ると、「マッスル ボマ子」と呼びたくなる気持ちもわかるのだが。
「…まあ、名前なんてどうでもいいのよ。とにかく、この学校の最強が誰なのか、決着をつけましょう!」
開き直ったボマ子…いや真子は、そう言って綾香ににじり寄る。
それに対して綾香は、ふう、とため息をひとつ。
ボマ子…また間違った…もういいや、ボマ子に統一します。
ボマ子は、ファイティングポーズを取ると、綾香に向かって言い放つ。
「さあ、挑戦を受けなさい!」
「断る」
間髪入れずに返答する綾香。
「なっ…なんでっ!」
ガガーンという効果音が似合いそうなリアクションで、ボマ子は訊ねた。
「なんでって…意味ないでしょう、そんなことしても」
そう言って、綾香はボマ子の脇を通りすぎて校舎の中へと入って行く。
「あんたには意味なくても、私にはあるのよーっ!」
「とにかくダメよ〜」
にべもなく断り、綾香はそのまま校舎の中に消えて行った。
残されたのは、ボマ子とそれを遠目に見ているその他の生徒たち。
「さすがですわ…綾香様。凛々しくて、ス・テ・キ」
「ボマ子がいくら強いって言っても、綾香様が相手するほどじゃないわよねー」
「さすがのボマ子も、綾香様にかかれば形無しよ」
「綾香様って優しいですよね。多分、ボマ子さんに恥をかかせまいとして相手してないんですよ」
静かだった周りが、次第にうるさくなっていく。
当然、それはボマ子の耳にも届いていた。
「うるさいーっ! それにあたしの名は真子よーっ!」
思わず叫ぶボマ子。
「キャー、ボマ子が怒ったわ〜っ」
「早く行っちゃいましょう、筋肉バカが移るわ〜」
ドドドと生徒たちは走り去り、そしてボマ子だけがそこに残った。
「うう…小さい頃にキン肉マンに憧れてレスリングを始めてから、ずっと最強の女と呼ばれていたのに。…なぜみんな、あの女の方が強いっていうのよ…」
ボマ子はそうつぶやくと、しまってあった生徒手帳を取り出し、開いた。
…そこには、彼女の憧れの人、ハ○ク・ホーガンの写真が入っていた。
「ホーガン…私は貴方のために強くなるわ…」
そして、その写真に口を近付け…。
ぶちゅうぅぅぅ。
その頃、ホーガンが豪快な寒気を感じたかどうかは定かではない。
☆☆☆
(何としても…あの来栖川綾香を倒して、私が最強だと知らしめなくちゃ…)
その日の授業中、ボマ子はそんなことを考えていた。
ちなみに彼女の席は一番後ろである。
彼女の後ろからは前が全く見えないため、席替えの時に常に一番後ろにさせられるのだ。
(それには、彼女との勝負の場をどうにかして作らないと…)
ボマ子が綾香に挑戦を申し込んだのは、今日に始まったことではない。
綾香がエクストリームの大会で優勝してから、何度も繰り返し挑戦していた。
綾香が優勝するまでは、彼女が校内最強の格闘少女(?)だったのだが…。
彼女は奪われた最強の名を取り返すべく、挑戦し続けていたのだ。
…だが、綾香は取り合おうとはしなかったのである。
「こうなったら、勝負させるためには手段は選ばない!」
思わず拳を握り、立ち上がるボマ子。
「な、なんですか升流母さん!?」
教卓の先生が驚いた表情で彼女を見る。
「あ…」
自分に視線が集まっていることに気付くボマ子。
今が授業中であることをすっかり忘れていたようだ。
「えへっ…ごめんなさい♪」
照れ隠しの不気味な笑い(当人は天使の微笑みと思っているらしい)を見せ、ボマ子は座った。
シーンと静まり返る教室…。
☆☆☆
放課後。
学校から出ていこうとする綾香を、そっと尾行する巨体。
「ひっ!?」
そこに偶然通りかかった女生徒が、恐怖の声をあげた。
その巨体はもちろん、ボマ子であったのだが…。
どこで着替えたのか、丈の長いコートをはおり、そして帽子にサングラスとマスク。
いかにも怪しげな格好である。
どうやら、尾行というものはこういう格好でするものだ、と彼女は誤解しているらしい。
(ふふふ…今日は来栖川綾香の弱みを探ってやるわ…)
腰を抜かしている女生徒には気付かず、綾香を追ってボマ子は校舎の外に出て行った。
綾香は何も知らず、歩いていく。
そしてその後を、通行人を豪快に驚かしながら尾行するボマ子。
(ふっ…バレてない、大丈夫ね)
どうやら当人にさえバレなければ、後は別に構わないらしい…。
やがて綾香は、とある高校の前まで来た。
そして、校舎の裏手に見える、小さな神社へと向かう。
(…何をするつもりかしら…)
ボマ子も、下校途中の生徒たちを驚かしながら、後をつける。
やがて神社に着いた綾香は、そこにいた人物に手を振って走り寄る。
(あああ!? 逢引き!?)
木の影に隠れて様子をうかがっていたボマ子は、その衝撃の事実に驚いた。
綾香は、なんと男と会っていたのである。
『来栖川綾香、可愛い振りしてわりとやる高校2年生! 実は他校の男と付き合っていた!?』
三流週刊誌の見出しのような言葉が、ボマ子の頭を駆け巡る。
(でもあの人、わりとかっこいいかしら…でもホーガン様には負けるわね)
そんなことを考えていると、その男と綾香は、神社の影の方に移動する。
(も、もしや、こんなところで○△×をっ!?)
一応ボマ子も年頃の女の子である。
こういうのをナマで見るチャンスなど、ほとんどない。
ボマ子はゴキブリのようにガザガサと移動すると、神社の境内の下に入って様子をうかがった。
「もういいんじゃないか? 俺がマッサージしてあげるよ」
「やだもう、えっちねえ、浩之…」
「ち、違う、俺はだな…」
「ダメ、私が代わりにしてあげるわ。浩之じゃ何されるかわからないもの」
「ちぇっ…信用ねえなあ。じゃ綾香、頼むわ」
「よーし、じゃ、気持ちよくしてあげるわよ〜」
そんな会話が聞こえてきた。
(き・き・気持ちよくする!? もしかしてあーんなことやこーんなことを…)
ボマ子は、以前雑誌で読んだ告白コーナーの記事を思い出した。
(キャー、恥ずかしいぃぃぃぃ)
そんなことを思いながら、衝撃の現場を掴むためにボマ子はゆっくりと声のする方に近付いていく。
「うぅぅ…」
悩ましげな声が聞こえ、ボマ子はいっそう興奮した。
そして、様子がうかがえる場所まで来ると、そっと覗いてみる。
(あれ?)
そこには、綾香と先ほどの男…綾香は浩之と呼んでいた…の他に、ショートカットの少女の姿があった。
綾香は、座っている少女のマッサージをしている。
(か、勘違い…?)
自分の想像と全く違う展開に、ボマ子は戸惑っていた。
「…葵、あまり無茶しない方がいいわよ」
マッサージしながらの綾香の言葉に、葵と呼ばれた少女は悩ましげな声で答えた。
「…うっ…でも、もっと頑張らないと…ふぅ…綾香さんに追い付けないですよ…んっ」
「何言ってんの、もう十分追い付いてるわよ」
きゅーっとツボを押しながら、綾香はイタズラっぽく微笑んだ。
「そうそう、頑張りすぎるのも良し悪しだぜ」
横にいた浩之も、そう諭すように言った。
どうやら、葵と呼ばれた少女も、綾香と同じく格闘少女のようである。
奥の木を見てみると、その枝にはサンドバッグがぶら下がっていた。
(なんだ…ちぇっ)
ボマ子はかなりがっかりした様子だ。
だが、すぐに気持ちを切り替える。
(いやいや、これはあの女の弱みを握るための尾行よ。別に芸能レポーターの真似をするためではないわ)
そしてまた、様子をうかがう。
「…そういや葵、今日は用事あるって言ってたんじゃない?」
ポン、と葵の肩を叩いて、マッサージの終わりを知らせる綾香。
葵はゆっくりと立ちあがる。
「あ、そうなんです。ですから、今日はこれで終わりにしたいんですけど…いいですか?」
申し訳なさそうに、葵は浩之に尋ねた。
「いいんじゃないか? 休養にもなるしね」
「あ、時間が…じゃ綾香さん、浩之さん、これで失礼します」
ペコっとお辞儀すると、葵は荷物をまとめ始める。
「おう、片付けはやっとくから」
びっと親指を立てる浩之。
「じゃあね〜」
「すいません、それじゃ」
葵はそのまま、ほとんど走るように去っていった。
残された綾香と浩之は、サンドバッグを片付けた後、学校を後にする。
…当然、ボマ子も後をつける。
「さて、これからどうする? ただ帰るのも何だし…」
浩之が、綾香に向かって訊いた。
「じゃ浩之、ヤック寄ってく?」
「いいねえ」
「ラララ○○○くん♪ ララララ〜」
「何だよ、その謎の歌は…」
「お約束かなと思って」
「アホか」
「だぁからお前はアホなのだぁっ!」
「ワケわからん…」
「ダメよぉ浩之、ちゃんとテレビ見てないと」
「ちゃんと見てるつもりなんだがな…」
そんな他愛もない話をしながら、2人はヤクドナルドへと向かった。
(…うーん、あんな来栖川綾香は初めて見るわ…)
尾行し続けているボマ子は、電柱の影に隠れながらそんなことを思った。
屈託のない笑顔。
ボマ子には、綾香の表情がそう見えた。
学校での綾香は、笑ってはいるものの、どこか作ったような笑顔だった。
そう、誰かに見られているのを意識しているような。
だが今の綾香の表情は、見せるためではなく、本当に心からの笑顔のように見える。
(やはり、あれは好きなのね…私もホーガンが好きだからわかるわ…)
ポッと頬を赤らめるボマ子。
…丁度その頃、そばを通行人が通りかかったのだが、その通行人は見てはいけないものを見てしまったかのように走り去った。
☆☆☆
その後、2人はヤクドナルドで1時間ほど時間を潰し、そして別れた。
(…ふふふ。あの男、使えるわ…)
1時間もの間、そばを通る通行人を不安にさせていたボマ子は、ある企みを胸に浩之の尾行を開始した…。
浩之が、自宅への道を帰っていると…。
「…ちょっと、お兄さん…」
誰かに肩をつつかれた。
「何ですか…」
くるり…と振り返る浩之…。
「…わあああああああああああああああああ!!」
あまりのことに驚き、叫んでしまう浩之。
そこには、いかにも怪しげな格好の巨体の人物がいた。
「大声出さないでっ!」
ごきっ! きゅうっ…。
「ぐふっ…」
その人物…ボマ子は、素早い動きで浩之を捕まえると、得意のスリーパーホールドであっさりと落としてしまった。
「あ…ついやっちゃった…てへ」
ボマ子は不気味に(本人は可愛いつもり)笑う。
浩之が起きてたら、てへじゃねえよお前、と言われるかもしれない。
「まあいいか、あなたには少しの間、人質になってもらうわよ…」
☆☆☆
ちゃ〜ら〜ら〜 たららららら たららら〜。
綾香の持っている携帯電話から、ブランニューハートの着信メロディが鳴る。
「あれ? 誰からだろ…ぽちっとな」
変な擬音を口にして、綾香は携帯を耳に当てた。
「…もしもし?」
『ふっふっふ、来栖川綾香ね?』
どこかで聞いたような声。
「…只今、この電話ハ使ワレテオリマセン。番号ヲオ確カメノウエ…」
ハナをつまんでそう答える綾香。
『こら! 誤魔化してんじゃない!』
「はいはい…で、ボマ子さん、何の用?」
綾香は、ふう、とひとつため息をつく。
『真子よっ! …用というのは他でもないわ。これから私の言う場所に来て欲しいのよ』
「ごめんなさい、私、そのケはないから…。女同士っていうのは不毛よ」
『何の話をしとるかぁぁぁぁ!』
ブチ切れ声をあげるボマ子。
「あはは〜ごめんなさい、でも行く気はないわよ」
『へえ…。あなたの大事な男を預かった…と言っても?』
ボソッとボマ子が呟いた言葉に、綾香は反応する。
「大事な…男? もしかして…」
少しうろたえたような綾香の声を聞いてボマ子は、
『そう、さっきまであなたが会ってた男のことよ。学校のそばにある公園に6時までに来なさい」
と嬉しそうに言った。
「ちょっと…どういうつもりよ!」
思わず声を荒げてしまう綾香。
「私はただ勝負して欲しいだけよ。来ないと、彼は好きにさせてもらうわよ』
「浩之はそこにいるの!?」
『ふふふ、声がさっきまでと違うわねぇ…。待ってるわよ』
ぷつっ…。
「待ちなさいっ!?」
しかし綾香の声に答えるのは、電話が切れた「ツー」という音だけであった。
☆☆☆
寺女のすぐ近くにある公園。
ここはこの時間帯、いつもは寺女の女生徒が話し込んでいたりする。
…しかし今日は、公園の中心部に怪しげなレオタード姿の巨体と、その横の木にプラーンとぶら下がっているミノムシのような男がいたため、誰も近寄ろうとはしなかった。
「あの…ボマ子さん」
ロープでぐるぐる巻きにされ、木の枝に吊るされた浩之が、傍らに立つボマ子に話しかけた。
「真子です!」
キッと睨むボマ子。
…確かに初対面の男に『ボマ子』呼ばわりされては面白いはずがない。
「あー、ごめん。綾香のヤツなら来ないと思うぜ…」
ヒマなのか、浩之は自らプラーンプラーンと体を揺らしながら言った。
「いえ、来ます…彼女は必ず」
「どうかなぁ…」
首をかしげる浩之だったが、ボマ子は確信していた。
「来ますよ。私にはわかるんです…」
…6時。
「…ん?」
まず、浩之がそれに気が付いた。
…ざっざっざっ…。
人影が、ボマ子と浩之の方に歩いてくる。
「…来たわね」
それは、グローブをはめ、スカートの下にスパッツを着けた、完全に戦闘態勢の綾香であった。
「来たわよ」
ボソリ、と綾香が呟いた。
感情を殺してはいるが、語尾に怒りが感じられる。
「…待ってたわ。彼を助けたかったら、私を倒すことね」
ボマ子はそう言って、ファイティングポーズを取る。
「…わかったわ」
綾香もそれに答え、スッと構えを取った。
…睨み合いが続く。
ボマ子としては、スピードに勝る綾香に対して迂闊には仕掛けられない。
綾香としては、今、隙のない状態のボマ子に対して仕掛けづらい。
そんな思惑が交錯しての睨み合いだった。
「はっ!」
…先に動いたのは綾香だった。
立っている位置から、すっと横に動き、そこから前にステップしての正拳突き。
「やぁぁぁ!」
ボマ子は、それを避けながら、得意のプロレス技に持っていこうと掴みかかった。
しかし、綾香の正拳突きはフェイントだった。
「甘いわよ!」
綾香はすぐさま後ろへ下がり、掴みかかろうとするボマ子へ蹴りを放つ。
びしっ!
蹴りは、ボマ子のわき腹にクリーンヒット。
…しかし、ボマ子はニヤリ、と笑うのみだった。
「効かない!?」
驚きの声をあげる綾香。
「ふっふっふ、この程度の攻撃、レスラーには効かないわよ!」
そう、プロレスは「耐える」格闘技である。
他の格闘技と違い、プロレスはいかに相手の技を耐えぬくか、そこが問題になってくる。
そのため必然的に、プロレスラーは打たれ強くなるのである。
ましてや体格のいいボマ子のこと、一筋縄の攻撃では倒れることはないだろう。
「捕まえたわっ!」
一瞬の隙を突いて、ボマ子は綾香を捕まえ、両腕で彼女の身体を締め上げ始めた。
両手も一緒に捕まえてはいるが、いわゆる『ベア・ハッグ』の態勢である。
「あああぁーっ!」
ギリギリと両腕ごと締められて、綾香は悲痛な叫びをあげる。
「ふふふふっ! 私の勝ちねっ!」
綾香の叫びを聞き、喜びの声をあげるボマ子。
苦しみながらも、締められている腕を広げて、そこからの脱出を試みようとする綾香。
「こんなもの、腕を広げて抜けられ…くうっ! ダメ、抜けられない!」
しかし、ボマ子の両腕の締め付けはすさまじい力で、脱出することはできなかった。
「ふふふ、私には常識は通用しないわ!」
「確かに通用はしないな…。外見からして常識外だ…」
ボマ子の言葉に、妙に感心するミノムシ浩之。
「うあああっ!」
「ギブアップなさい! 肋骨が折れるわよ!」
…ボマ子は容赦なく、いっそう綾香を締め上げる力を強めた。
(も…もう…ダメ…)
綾香がすぐ気を失う…その寸前。
「こら! 何やってんだ綾香! お前の力はそんなモンなのかっ!」
浩之が、身体を思いっ切り揺らしながら、叫んだ。
「ひ…ひろゆき…」
失いかけた気を、綾香は何とか保った。
「そんなにあっさり負けるようなお前なんて、葵ちゃんの目標にはさせられないぞっ!」
「む…無茶を…言わないでよ…。こ、こんな状況から…どうやって…反撃しろっての…」
その綾香の問いに、浩之は…。
「お前なら出来る! 何とかしろっ!」
と、ミノムシ状態のままブンブンと前後左右に身体を揺らして、叫び励ます。
…みしっ…。
その時、浩之のぶら下がっている枝から亀裂音が聞こえた。
「えっ?」
次の瞬間、浩之の身体は支えを失い、地面に落下する。
どすっ!
「ぐっ…!」
強い衝撃を受けた浩之は、気を失ってしまった。
「早くギブアップしなさい! あなたの力では抜け出すことは不可能よ!」
ボマ子は、かまわずにどんどん綾香を締め上げる。
「力では…そうね…抜け出すことは不可能ね…」
ボソボソと、ささやくように言葉を口にする綾香。
しかし次の瞬間、目を見開き、叫んだ。
「でも、こうすればっ!」
綾香は多少自由の効く足を、前後左右に揺さぶり始めた。
「くっ…バランスがっ!?」
さすがにボマ子も、バランスを保つのに必死になる。
そして、一瞬だけ腕の力が抜けた瞬間を、綾香は見逃さなかった。
「はっ!」
「…しまった!」
ボマ子の縛めを振り解いた綾香は、いったん後ろにステップ。それを追おうとするボマ子。
しかし綾香は、すぐさま、また前にステップした。
…最初の後ろへのステップは、ボマ子を誘うためのフェイントだったのだ。
「…はっ! どうせ一撃じゃ私は倒せないわよ!」
しかし、ボマ子は構わずに綾香に掴みかかろうとする。
「やぁぁぁっ!」
気合の一声をあげると、綾香は身体をクルリと反転させ、必殺の後ろ回し蹴りを放った!
びしぃぃぃぃっ!
…時が止まったかのような錯覚。
すたっ…と着地する綾香。
信じられない、といった表情のボマ子。
そしてボマ子は、そのまま白目をむいてドウッと倒れ込んだ。
「…どんな人間でもね…」
はあはあと息を荒げながら、誰に言うともなく綾香は呟く。
「…どんな人間でも、頭に直撃受けて倒れないヤツなんていないのよ…」
そう…綾香の横からの蹴りが、もの凄い勢いでボマ子の側頭部を捉えたのだった。
ボマ子は直接、頭に打撃を受け、脳しんとうを起こしたのである。
…綾香は、よろよろと倒れ込んでいる浩之に歩み寄った。
「浩之…浩之!」
身体を起こして、ペチペチと頬を叩いてやる。
「う…」
意識が戻り、目をうっすらと開ける浩之。
…その目の前には、綾香の顔。
「勝ったわよ」
にこり、と笑ってそう告げる綾香。
「そうか、まあお前なら当たり前だろうけどな」
同じく、浩之も笑いかける。
…その浩之の言葉に、綾香は首を振り、
「…何言ってんの、浩之がヒントをくれたお陰よ」
と口にした。
「は? 俺はただ『お前なら出来る』としか言ってないぞ」
「…あなた、思いきり身体を揺らして、木の枝折ったじゃない。それがヒントになったのよ」
綾香は人差し指を立てて、浩之に説明した。
「はぁ…そんなつもりは全然なかったんだがなぁ…」
浩之は、いつもなら頭をポリポリと掻くところだが、今は自由が利かないのでモゾモゾ、と動くだけだった。
そんな様子を見て、綾香はぷっ…と吹き出してしまう。
「とりあえずロープを解きましょ」
綾香にロープを解いてもらい、浩之は自由を取り戻した。
「ふう…やっと自由になったか。で、アレどうする?」
倒れてそのままのボマ子を指差して、浩之が聞いた。
「アレって…」
ププッと笑いを堪える綾香。
「ま、介抱してあげましょ」
ひとつウィンクして、綾香はボマ子のそばに駆け寄った。
こうして、ボマ子の綾香への挑戦劇は幕を閉じた…。
☆☆☆
見慣れた朝の登校風景。
今日も登校する綾香の周りには、たくさんのかしましい女の子たち…。
そしてまた、その綾香の行く手を阻む黒い影。
ボマ子である。
その姿を見るや、周りに居た娘たちはすぐに綾香との距離を置く。
綾香は、ため息をひとつつき、
「…昨日の結果じゃ、不満?」
とボマ子に聞いた。
…ボマ子は黙って、一歩前に進む。
そして、いきなり彼女は土下座してしまった。
「お願いします! 私もエクストリームをやりたいんです!」
…空気が止まる。
「…ぼ、ボマ子さん…?」
「私を弟子にしてください! ボマ子でも犬とでも何とでも呼んでください!」
「いや、その…」
「私は強くなりたいんです! 綾香さんを超えるには、同じエクストリームで自らを磨くのが一番だと判ったんです!」
「なんで、こうなっちゃうの…?」
「師匠と呼ばせてください〜っ!」
かくして、エクストリーム界にまた新しい星が生まれた。
次回大会では「寺女黄金時代到来」とまで言わしめる活躍を見せるのだが、それはまたのお話。
「師匠〜っ! 待ってください〜っ!」
「私は弟子なんて取ってなぁーいっ!」
ちゃんちゃん。
あとがき
…何でこういう話になる…?(^^;
最初は、綾香を主人公に格闘シーンを書きたいなあ…というとこから始まったはずなのに…。
怪しさ爆発な話になってしまった…。
最初は坂下との戦いの予定だったんですが、「いや、プロレス系の方がいいなぁ」ってことで敵役ボマ子登場。
で、キャラクターを際立たせるために、外見はマイク・ハガーをモデルに(判る人だけ笑ってください)したんですが…。
いやもう、勝手に一人歩きしてまあ…いつの間にかこんな話にしやがって。
綾香の魅力が全然出てないじゃねえかぁぁぁぁ!
しかし、格闘シーンて難しいですねえ。
うまく表現しきれません。
まあ、自分の文章力ならこの程度なのかな…とは思いますが。
…知識のない部分はご容赦ください〜。
ノリとしては、実際の格闘技というより、格闘ゲームのような感じで見ていただけるといいですね。
感想等、お待ちいたしております。
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