すーぱー まりお わーるど!!
第1話「まりおが うちに やってきた」
written by 李俊
始まりは藤田家から。
☆☆☆
-EVERYBODY'S EYE-
「…というわけで、君に新型試作機のモニタをしてもらいたいんだ」
長瀬が、そう説明する。
「なんだ、どうも話がうますぎると思ってみれば…ただのテスト係かよ」
事情を聞いて、多少げんなりしている浩之。
浩之は、ある大会の賞品として、来栖川グループより新型カスタムメイドロボをプレゼントされることになっていたのである。
今日、長瀬が訪問したのは、それの説明をするためだった。
…実は、「賞品のプレゼント」などではなく、「試作機のテスト係」が欲しかっただけなのだが。
長瀬は手をひらひらさせて、不満気な表情の浩之をなだめるような仕草をする。
「まあまあ。君なら、何の偏見もなく接してくれるし、実にいい人間に当たったもんだ」
そう言って、おだてる。
「そんな大した人間じゃないって」
そう返事しつつも、浩之はまんざらでもなさそうな顔だ。
「いやいや、謙遜せずともいいよ。それに、ここなら先輩としてマルチもいるからね。…そう言えば、マルチは?」
思い出したように、長瀬はきょろきょろと見回す。
しかし、マルチの姿はない。
「あ、マルチなら買い物行ってますよ」
その頃のマルチ。
「…牛乳、パン、靴下、パンツ、歯磨き粉…と」
浩之に渡されたメもを見ながら、スーパーの中を歩き回っていた。
「…えっと、最後は…はぅ? こんどーむ?」
「…そうか。ま、それは置いといて…君ならば、良い親代わりになるかと思って、ね」
「うーん。親、ねえ。…俺も大学行ってる身だし、そんなに暇がないんだけど…」
浩之はあまり乗り気ではなさそうである。
それに対し、長瀬はニヤニヤと笑う。
「パチンコ・競馬・徹マンと遊びまくって、大学の出席が危うくなってるからかい?」
その言葉に、動揺する浩之。
「どどどどどどどどどどどーしてそれを!?」
「この前メンテナンスに来たマルチから聞いたのさ」
ニヤニヤしながら、長瀬は種明かしした。
「あー、そう」
浩之はがっくりとうなだれた。
まったくおしゃべりなんだから…と呟く。
それは長瀬には聞こえなかったが。
「大丈夫、謝礼はたんまり出すよ。…私が払うわけじゃないけどね」
「わかったよ。やりますよ…」
観念したように、そう答えた。
長瀬は微笑んだまま、満足そうに頷く。
「よし。じゃ、説明してあげよう。新しいメイドロボ、HMX−14『マリオ』のことをね」
「マリオ…ですか? なんだかなぁ…」
浩之の脳裏には一瞬、某ゲームのヒゲオヤジが浮かんだ。
「うん、マルチの感情制御装置とセリオのサテライトキャノン…もとい、サテライトサービス機能を受け継いでいるんで、両方の名前を合わせて『マリオ』なんだ」
楽しそうに説明する長瀬。
「…安易ですねぇ」
手元においたメモ用紙に書きながら、浩之が答える。
「…私は『マルオ』の方がいいと言ったんだが…却下されてしまった」
そりゃ却下されるだろう、と浩之は内心呆れていた。
「まあ、名前はいいとして…マリオのコンセプトは、『かいがいしいお手伝いさん』なんだ」
「はあ。『海外四位』ですか」
浩之が紙に書いたその字を見て、首を振る長瀬。
「…字が違う。『甲斐甲斐しい』だよ」
「でも俺のパソコン、一発目の変換で『海外四位』って出ますよ」
「それはいつも変な文章ばかり書いてるからだ」
「はっきり言ってくれますね…」
話がそれつつあると感じたのか、長瀬はひとつ咳払いして、話を続けた。
「コホン。…とにかくだ。マリオは、『機械的、画一的』な部分を出来るだけ無くし、『人間的』な気使いで主人に仕えるんだ」
「…俺の『マルチ』のように?」
浩之が言っているのは、HM−12ではなく、彼に仕えているHMX−12『マルチ』のことだ。
「ああ。ようやく、『感情を持ったロボット』を作ることが出来る。今度はHM−12のように、簡略化などはないからね」
感情を備えたメイドロボを作る…長瀬の長年の夢だった。
「長瀬のおっさん…」
「おっさんじゃない」
「はいはい」
長瀬は、説明を続ける。
「他に、サテライトサービスと学習型コンピュータを組み合わせ、クオリティを維持しつつも成長していく、画期的な人工知能を搭載している」
「ふーん。料理で言えば最初からそこそこうまくて、作るたびにうまい料理が作れるってことか」
浩之の自分流の解釈に、長瀬は頷いた。
「そゆこと。とにかく、マリオが販売されれば、世界一高性能なメイドロボになることは間違いない」
「すごいな…。ま、それはそれとして」
「ん?」
「『例の機能』は付いてるんでしょうね?」
ボソボソと小声になる浩之。
「例の機能…? ああ、『夜の機能』か」
浩之が何を言いたいのかを気付くと、長瀬はニヤリと笑った。
「付いてるんでしょうね?」
念を押すように、聞いてくる浩之。
「ふっふっふ、君も好きだねえ…。安心したまえ、そこはばっちり付いている」
長瀬のその言葉に、浩之は思わずガッツポーズを取った。
長瀬は思わず苦笑する。
「モニターの件だが、今最終テストを行ってるところなんだ。1週間後に連れてくるよ」
「わかりました」
「よし、商談が成立したところで、私は帰るよ」
そう言って長瀬は席を立ち上がる。
「もう少しすりゃマルチが帰ってくるけど?」
マルチに会いたいんじゃないかと気を利かせて、浩之はそう聞いてみた。
しかし、首をふる長瀬。
「いや、マリオの調整をしなくちゃならんからね。マルチには点検の時に会えるし」
そう言いながら玄関まで歩いてくる。
「じゃ、来週ですね」
「うん」
☆☆☆
-HIROYUKI'S EYE-
あれから1週間後。とうとう今日が、「マリオ」の来る日だ。
俺としては楽しみな半面、どこかに不安がある。
何を不安に感じているのか、はイマイチ自分でもわからないのだが。
ピンポーン。
「おっと…来たぞ、マルチ」
「はい〜」
俺が頼むよりも早く、マルチが玄関まで迎えに行く。
長瀬のおっさんが来るのを、楽しみにしてたようだ。
「や、マルチ。元気にしてたか」
「はぁい。おかげさまですぅ」
「ははは、お邪魔していいかな?」
「はい、どうぞお上がりください〜」
そんなやり取りが聞こえ、その後パタパタとスリッパの音が聞こえて来た。
「やぁ、こんにちは」
長瀬のおっさんは、普段通りの「スーツに白衣」状態だ。
研究所にいる人たちは、みんなこうなのか?
…それに続いて、マルチが入ってくる。
あれ?
「例の新型はどーしたんです?」
入ってくると思っていた新型の姿が見えず、俺はそう質問した。
「うん、あの娘には1人で来るように行ってある。まぁテストみたいなもんだよ」
ニコニコと笑ってそう答えるおっさん。
「…道に迷ったりしないですか?」
以前にマルチが家に来た時のことを思い出しながら聞いてみた。
あの時は結局俺が迎えに行くハメになったのだが…。
「いや、衛星からの情報を使うから、それはないね」
おっさんは、きっぱりと否定した。
「…ほえ〜。すごいんですね〜」
妙に感心するマルチ。
「そうだな…マルチとは大違いだな…」
ぼそっとつい本音を漏らしてしまう。
それを聞いて、マルチが申し訳なさそうな表情になった。
「あう〜、すびばせぇ〜ん」
「あーすまんすまん…つい本音が」
そう言ってなだめる俺。
しばらく、マルチの出したお茶を飲んで、雑談をする。
最近、マルチのお茶のいれ方は、あかり並にうまくなって来ている。
料理類も早くあかりに追い付いて欲しいものだ。
「うーん、そろそろ来る頃だとは思うんだが…」
腕時計を見て、おっさんがそう呟いた時。
ぴんぽーん。
玄関のチャイムが鳴る。
「おっ、来たみたいだな。じゃあ、俺自ら出迎えるか〜」
そう言って、パタパタと玄関に出て行く。
ガチャ。
玄関を開けると、そこには…。
「こんにちは〜♪」
見知った女の子がいた。
「…綾香?」
来栖川綾香。来栖川グループのお嬢様。
次女ということもあってか、お嬢様ぽくなく、さっぱりした性格だ。
いろいろと縁があって、今じゃあかりやマルチの次に気の許せる相手になっている。
(ちなみに志保は一番気の許せない相手だ)
綾香は、じーっと俺の顔を見つめる。
…何だか普段と様子が違うな。
「あなたが浩之さんですね?」
は?
何を言うかと思えば。
「何すっとぼけてんだ、綾香…」
その時、後ろから声がかかる。
「浩之くん、その娘がマリオだよ」
どうやら、長瀬のおっさんもこっちに来たらしい。
「マリオって…ええっ? こいつが?」
綾香…に良く似たマリオを指差し、声をあげる。
そう言われてみれば、耳にウサ耳センサーが付いている。
(ウサ耳センサーってのは、人間とメイドロボを区別するためのセンサーのことだ)
それに、髪の色が違う。
綾香は黒髪だが、この娘は栗色の髪をしている。
おっさんは頷いて、
「綾香お嬢様に、マリオのモデルになってもらったんだ」
と説明した。
綾香がモデル?
なるほど、じゃあ似てて当たり前か。
でも…。
「…よく本人が承諾したなぁ」
俺の言葉に、おっさんは首を振る。
「いや、『面白そうじゃない、いいわよ♪』と二つ返事で快く受けてくれたんだけどね」
「…確かにあいつなら言いそうだ」
マリオは、俺に向かってまっすぐ向き直すと、勢い良く御辞儀した。
「HMX−14、通称『マリオ』です♪ よろしくお願いしまーっす♪」
おいおい…いいのか? こんな能天気なヤツにして…。
その後、居間に入って、おっさんが説明してくれた。
期間は設けずに、しばらくテストして欲しいとのこと。
面倒見ている間、礼金を振り込んでくれること。
異常があった場合、電話一本で駆け付けてくれること。
「そういうわけで。今説明した通り、彼女をしばらく面倒見て欲しい」
ぺこりとお辞儀するおっさん。
それに習い、マリオも御辞儀をする。
「なにがそういうわけだか…。ま、いいでしょ」
俺の返事に、マリオは満面の笑みを浮かべる。
「えへへ…これからよろしくおねがいしまっす♪」
のー天気度150%(対綾香比較)であいさつするマリオ。
「マリオさん、よろしくお願いしますねぇ〜」
そののー天気さに負けないマルチのあいさつ。
…どっちもどっちか。
「こちらこそよろしくねー。マルチ姉さん♪」
手を差し出して、マリオは握手を求める。
「…ね、姉さんって…何だか恥ずかしいですぅ〜」
恥ずかしがりながらも、手を出して握手するマルチ。
メイドロボ同士の握手。
何だか奇妙だけど、心温まる光景だった。
「じゃ、しっかりやるんだぞ、マリオ」
マリオを俺たちに預けて、長瀬のおっさんは帰る。
俺たちは外まで出て、見送った。
「主任〜! 私頑張るよ〜!」
ブンブンと手を振り続けるマリオ。
姿が見えなくなるまで、振り続けた。
「…さて!」
おっさんの姿が見えなくなって、マリオはくるっとこっちを向く。
「…何が『さて』なんだ?」
俺の疑問の言葉に、マリオはニコリと笑って答える。
「『浩之さん』とお呼びした方がいいですか? それとも『ご主人様』の方がいいですか?」
どうやら、俺の呼び方がまだ決まってないらしい。
「…別に、好きなように呼べばいいさ。あんまりかたっ苦しいのは好きじゃないけどな」
俺がそう答えると、マリオはまたニッコリと笑って、
「わかりました! じゃ、『ヒロピー』にしますね!」
がくっ。
思わずコケる。
…よく見るとマルチまでコケていた。
「なんでそーなるんじゃー!」
「え、だって好きに呼んでいいのでは…。かたっ苦しくもないですし」
マジメな表情で答えるマリオ。
「『ヒロピー』はダメ!」
とにかく、その気の抜ける呼び方だけはダメだ。
それを聞いてマリオは、再び思案する。
「そうですねぇ…それじゃあ『ヒロポン』で」
ごきっ。
またコケる。
マルチにいたっては壁に顔をぶつけるほどのコケようだ。
「痛いですぅ〜」
半ベソ状態のマルチを、よしよしとなだめる。
…泣くくらいならコケるなって。
「ダメ…ですか?」
マリオは首をかしげる。
「当たり前じゃー!」
「じゃあ『ヒロリン』では…」
「あーもういいもういい、『浩之さん』にしといてくれっ!」
もうコケるのがイヤな俺は、マリオの言葉を遮って言った。
マリオはこくりと頷く。
「わかりましたっ、浩之さん♪」
そして、満面の笑み。
その笑顔に、俺はつい照れてしまった。
「そ、そうだ。マリオ、お前髪型変えてくれないか?」
「え? どうしてですか?」
子首をかしげるマリオ。
「…どうもな、綾香と間違えそうになるんだよ」
実際、仕草とか、綾香に似ているところが多い。
マルチも、それに頷く。
「あ、それはありますねー。私も間違えそうになりました」
マリオは、自分の髪を手に持って、考え込んだ。
「そうですか…。じゃ、切っちゃいますか?」
「いや、それは勿体ない…」
いやいや、それ以前にまずいだろ。一応預かっている立場なんだから。
「ポニーテールなんかどうだ? 似合いそうだけど」
俺の提案に、マリオが頭の上で髪を束ねて、ポニーテールを作ってみる。
「こんな感じですか?」
「わぁ、マリオさん、可愛いですぅ〜」
マルチが、感嘆の声をあげる。
…可愛い。
マジで可愛かった。
ガラにもなくトキメいてしまった自分が恥ずかしくなる。
「そうですか。じゃ、ポニーテールにしておきますね♪」
「お、おう。これからよろしくな」
胸のドキドキを押さえつつ、俺はポン、とマリオの頭に手をやった。
…こうして今日から、マリオが我が家の一員となったのである。
☆☆☆
-EVERYBODY'S EYE-
夜、浩之の部屋。
「はい、ベッドメイキング終わりました♪」
マリオが、ベッドのシーツ取り替えを終えた。
すでに、髪型はポニーテールに変えている。
「うむ。それではマリオ」
コホン、と席払いをして、浩之はベッドに座る。
「はい?」
「夜のおつとめをしてもらおうか」
浩之の期待一杯の言葉。
しかし、マリオは首を振る。
「それはダメです」
きっぱりと断るマリオ。
「なっ…なにゆえ!?」
愕然とする浩之。
「だって…そういうことは本当に愛し合っている男女がすることだ、と主任が言ってましたので」
「なんだとぉぉぉ!?」
浩之は、ニヤニヤと笑う長瀬の顔を想像した。
「浩之さんにお仕えしてまだほんの少ししか経ってませんし、まだ浩之さんを愛するまでには至ってませんから」
よどみなく説明を続けるマリオ。
彼女の言葉に、浩之はシオシオとしぼむようにうなだれた。
「がーん…」
そんな浩之を気遣ってか、マリオは優しい声で付け加える。
「でも…本当に浩之さんを愛せるようになったその時は…させてくださいね♪」
そう言って、扉を開けて、部屋の外に出る。
ぱたん。
扉を閉める音。
後には、浩之一人が残る。
「き…期待してたのに…」
浩之は、真っ白な灰になっていた。
「燃えたよ…燃え尽きた…真っ白によ…」
がくっ。
ちゃんちゃん♪
あとがき
ども。李俊です。
最初は1話完結の予定で書いていたんですが、全部書き切るほどの時間がないので、不定期連載の続きモノにしました。
ちなみに、以前書いた「ドキッ☆ 男だらけの相撲トーナメント in Leaf」というSSで出てきた「カスタムメイドのメイドロボ」ってのが、マリオです。
「視点の切替」を今回取り入れて見ました。
ぶっちゃけた話、ただ人称を替えてるだけですが。
今回は三人称と浩之のみでしたが、マルチの視点、マリオの視点等、いろいろな組み合わせで話が作れるのでは…と自分では思ってます。
さて。今回は「顔見せ」のような形になってます。
これからどんな話が展開するかは、これからのお楽しみ…ということで。
あかりや綾香など、他のキャラも順次登場させようとは思ってます。
マリオが綾香をモデルにしたってのは、まるっきり趣味です。(爆)
ポニーテールにしたのも、まるっきり趣味です。(連爆)
ついでに言えば眼鏡を掛けさせたいのですが、そこは思いとどまりました。(超新星爆)
この話がどこまで続くのか…。それは気力と運次第。(ォィ)
とりあえず最終話の構想は出来てるんで、尻切れにはしないつもりですが…。
応援よろしくお願いします! 気力をください!
「みんなの気力を、ちょびっとオラに分けてくれっ!」(爆)
ではでは。
仕事がどーしようもなくきつい李俊でした〜。(^^)/~~~
独り言:誰かマリオの絵描いてくれないかな〜。
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