熱湯!!子牛宴
熱闘!!甲子園

written by 猫玉

「ズンタタタ、ズンタッタ! ダイヤモンドをつ〜んざいて〜♪ し〜ろいイナヅマ、お〜っぱしる〜♪」
帽子を目深にかぶりながら、無人のブルペンで元気よく歌う一人の少女。艶やかな赤毛が、緩やかな夏の風になびいている。
午前六時半。まだひと気の無い甲子園球場に、少女の歌だけが大きく響く。その右手に握られた白球を、少女は落ち着き無くもてあそんでいた。
「……ずいぶんと早いやんか、沙織。まだ練習開始までは、ずいぶんと時間があるで?」
不意に背中から聞こえた声に、新城沙織はハッと振り返った。そこには眼鏡をかけた、少しつり目の勝ち気そうな少女……保科智子が腕を組んで佇んでいた。
「な、なによ、智ぴー。いつの間に来てたのよ。それに何よ、その格好……」
キャッチャーマスク、プロテクターに身を包んだ智子に、沙織がいぶかしげに言う。
『あほか』と言わんばかりの深い溜息をついて、智子は答えた。
「この格好で『ピッチャーの球を受ける』以外の何をやれ言うんや? ……練習つきあったる。さっさと投げ」
プイッとそっぽを向きながら、ぶっきらぼうに言う智子。その言葉を聞いて、沙織は大きな目を見開いて、ポカンと口を開ける。
「……なんやの、そのリアクションは……」
「い、いや……智ぴー、熱でもあるのかなーって……」
いつか、しばかなあかんな。そんな事を本気で思いながら、智子はポツリと言葉を漏らした。
「昨日の神音高校の試合……圧巻やったな」
「…………」
智子の言葉に、それまでのおどけた空気が一瞬にして張り詰めたものになる。
「準決で、GL学園相手にノーヒットノーラン。打ちも打ったり9得点。世間は『今大会より参加が認められた、女子野球部二校、ついに決勝で激突!!』なんて騒いでるけど……全く、やる方の身にもなって欲しいわ」
さわさわと風が吹き、智子の三つ編みを揺らした。
「ふふ……ふふふふ……」
顔を伏せたまま、不意に笑い声を漏らす沙織。そんな沙織を怪訝そうな顔で見つめながら、智子は声をかけた。
「な、なんやの。一体……」
「ふははは……あーはっはっはっ」
徐々に大きくなっていく沙織の笑い声。そして、伏せていた顔を勢いよく上げる。
その顔は、真夏に咲くヒマワリのように晴れやかな笑顔だった。
「最高じゃない!! そんなスゴイ人達と試合ができるんだよ?」
「……へ?」
呆気に取られたように、智子は気の抜けた声を出す。
「もう、どうやって打ち取ろうか考えただけで、たまんなくなってくるのよねー!
はぁ〜、バレー部から野球に転向して、本当に良かった〜♪」
「…………」
しばし呆然とする智子。そして元気よく腕を振り回す沙織を見て、苦笑混じりの溜息を漏らす。
「ふぅ……。心配するだけ無駄やった言うことやな」
そう言うとくるりと後ろを振り返り、そっけなく言った。
「もうええから、はよ出てき。とっくにばれてるで」
そんな智子の言葉に、物陰に隠れていたメンバー全員がゾロゾロと出てくる。
「な、なんだ。バレてたんだ」
聖葉学園 女子野球部キャプテン、神岸あかりはバツが悪そうに言った。
「あたりまえや。アンタらの行動くらい把握できな、キャッチャーなんてポジションが務まるかいな……けど」
ジロリ、と選手の陰にこそこそと隠れている人物を見据えて、智子は言葉を続ける。
「監督まで一緒になって、こんな事やっててどないすんねん! 引き止めんかい!!」
言われた当の本人、聖葉学園 女子野球部監督、柏木千鶴はにこやかな笑みを浮かべながら、その口を開く。
「で、でもね、保科さん。きっとみんなの団結力も高まるだろうから、こういうのも
いいかなーって……」
「……面白がってただけのくせに」
その横にいたショートカットの少女がぼそりと呟く。
「……何か言ったかしら? あ・ず・さ?」
「な……何でもないですぅ」
顔を伏せたまま、柏木梓はダバダバと涙を流した。そんなやり取りを見ながら、智子は大きな溜息を吐いた。
「はぁ……こんなことで、今日の試合大丈夫なんかな……」
その肩に手を置いて、あかりがにこやかに微笑む。
「大丈夫だよ、保科さん。今まで私達がやってきた事を出し切れば、きっと勝てるよ! 絶対に勝って……優勝旗をもって帰ろう!!」
「あかりのいう通りね! そんでもって、志保ちゃんの部屋にあの真紅の優勝旗を、ペナントみたいに張り付けるのよ! くうぅ! 志保ちゃんドリーム、ここに極まれりね!!」
「それは……無理だと思います」
志保の言葉に、冷静に突っ込みを入れる楓。
「がんばってくださいね! 初音さん!」
「うん! マルチちゃんも、いっぱい応援してね!!」
お互いの手を取り合って、気合いを入れる初音とマルチ。
全員の心が、迷いなく一つになっている。いける。きっと勝つのは私達だ。
そんな事を自分に言い聞かせながら、智子は静かにブルペンでミットを構えた。
「さあ、思い切りきいな、沙織! アンタの球は、誰にも打たれへん!!」
「当然!! いくでぇ! 豆タン!!」
「誰が豆タンやねん!!」
ザッと大きく腕を振りかぶる。沙織の背番号4がマウンドで踊った。
「うおりゃあああぁぁぁぁぁ!!!!」
ズバァァァーーーーーン!!
沙織の投げた球は炎を宿しながら、みんなの夢を乗せて、智子のミットに轟音と共に収まったのだった。<終>


猫玉「どうも、こんちわ!猫玉です。毎度恒例、後書き座談会なわけですが……今回は『りりーふえーす』への投稿と言う事で、やきうなSSです(笑)。やっぱり球児たちの汗はいいものですね!」
あかり「はい、質問でーす!なんでさおりんはエースピッチャーなのに、背番号が4なんですか?普通は1ですよね」
猫玉「ええっと……本人に聞いてみましょう。なんで?」
沙織「監督に頼んだの。『俺の背番号は4(死)だ!』ってね。千鶴さんも納得してくれたんだよ♪……ってなによみんな、その顔は」
智子「あんた……年いくつや」
綾香「いきなり変な歌歌ってるしね。何なの、アレ」
沙織「ムキー!!『侍ジャイアンツ』は野球小僧のバイブルなのよ!!ビデオでもなんでもいいから、必ず見るべし!!」
瑞穂「でも、『いくでぇ、豆タン!』って……」
猫玉「ええっと……キリが無いので話題を変えましょう」
あかり「はい!質問その2!!初音ちゃんがマルチちゃんに『応援してね』って言ってましたけど、マルチちゃんは選手じゃないんですか?」
猫玉「ええっと……どうなの?」
マルチ「あ、はい。私はマネージャーをやらせてもらっています。こーやれんと言う方々から、『ロボットの出場は認められない』とクレームがつきまして……。だから、少し皆さんがうらやましいです。私も皆さんと一緒に甲子園を目指して、野球がしたかったです……。ですが、今は少しでも皆さんが気持ち良く野球に取り組めるように、セリオさん達と頑張っています!だから、とっても幸せなんです」
猫玉「ま、マルチ〜!!お前って奴はぁ〜(TΟT)!!」
沙織「うぅ……マルチちゃん、優勝行進は一緒だからね……」
あかり「えっと……質問その3!甲子園球場って、朝の六時半から入り込めるんですか?」
猫玉「わかんない。無理なら、全員で忍びこんだって事にしといて」
初音「そ、それでいいのかなぁ……(笑)」
あかり「え、えっと……では最後の質問です。神音高校って何なんですか?『初参加の女子校二校』って……」
猫玉「ん?カノン高校だから……つまり……」
全員『…………』
猫玉「では、お時間が来ました!今日はこの辺で……」
志保「い、一体何なのよーー!!」(爆)
――でも、『KANON』って女の子五人しかいないし。まいったね、コリャ(笑)。

【おまけ♪】
私立 聖葉学園高等学校、女子野球部

<スターティングオーダー>
1番、長岡志保、背番号6、センター
2番、柏木楓、背番号2、セカンド
3番、新城沙織、背番号4、ピッチャー
4番、神岸あかり、背番号1、サード
5番、柏木梓、背番号5、レフト
6番、保科智子、背番号8、キャッチャー
7番、月島瑠璃子、背番号3、ファースト
8番、来栖川芹香、背番号9、ライト
9番、柏木初音、背番号7、ショート

<控え投手>
松原葵、背番号12(先発、中継ぎ)
来栖川綾香、背番号10(リリーフエース)

<控え野手>
藍原瑞穂、背番号14、(捕手)
宮内レミィ、背番号15、(内野手)
姫川琴音、背番号11、(外野手)
雛山理緒、背番号13、(内野手)

<監督> 柏木千鶴

<マネージャー> HMX−12(マルチ)、HMX−13(セリオ)、太田可奈子、日吉かおり
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