痕〜らせん〜 後編

*「らせん」を見ていない人、読んでいない人にはネタが解らないかも知れません。

書いた人、秀


「ふう・・・・慣れないものね。」
 千鶴は洗面所で顔を洗っていた。
 隣に置かれたタオルの上にはコンタクトが置かれていた。
 確か、千鶴の視力はそんなに悪くなかったはずだけど?
「身体はあの女の人のまま何だから・・・」
 顔を拭き、目にコンタクトを入れる。
「ふう」

 結局、由美子さんは講義に現れなかった。具合でも悪いのかな。
 そしてゼミの奴らからの飲み会の誘いを断り、俺は真っ直ぐに家に帰宅した。
 朝と同じように家に入ると台所からいい匂いがしていた。
 突然、料理の旨くなった千鶴さんが夕食の用意をしてくれてるんだろう。
 ほんとに手際よく料理を作っている千鶴さん。
「お帰りなさい、耕一さん」
 俺に気づき、振り向いて微笑む千鶴さん。
 その手には、おたまを持っていて鍋の味を確かめている姿が何かとてもよく似合ってた。
「ただいま、千鶴さん」
「講義はどうでした?」
「え?まぁまぁかな、相変わらず出席重視みたいだったから、あの先生」
「そうですよね、山岡先生は」
「え!??」
 言語学の山岡先生は、普段の出席率で点数を付けるからたちが悪い・・・・ってどうして千鶴さんが知って居るんだ!?
「千鶴さん、今なんて・・・」
「・・・え、えーと・・・・・・・」
「どうして千鶴さんが山岡先生を知って居るんだ?」
「き、聞き違いでしょう」
 明らかに動揺している。
 おかしい・・・。
 朝も、講義の事を知ってた。千鶴さんが知るはずもないうちの大学の教授の名前、そしてその教授の性格。
「千鶴さん」
「は、はいっ」
「やっぱり何か隠してない?」
 おかしいと言えば、死んだはずの千鶴さんがここにいること自体がそもそも変だ。
 確かに俺達の前で千鶴さんの遺体の入った棺桶が火葬された。
 いくら、えるくぅと言っても死んだ者が生き返るなんてあり得るはずがない。
「う・・・・・」
「あ、それから、砂糖入れすぎじゃない・・・・?」
 鍋の中に砂糖の山が出来ていた。砂糖を入れている最中に千鶴さんが固まってしまったからだ。

 とりあえず、夕食。
 話はその後だ。聞きたいことはいっぱいある。
 千鶴さんは押しに弱い・・・それに嘘を付いても千鶴さんは、顔を見ればすぐに解る。嘘を付いてます、と顔に出ているのだ。
 千鶴さんは黙ったまま俺の食事を摂るのを見ている。
 ん・・・・・・。
 この味どこかで・・・。
 シチューを口に入れ、しっかりと味わいながら飲み込む。
 ・・・・。
 誰だろ?
 誰かに作って貰ったような。
「ど、どうかしたんですか・・・・?」
 ・・・・・・・由美子さんだ・・・・・・。
 この前、インスタントばっかり買ってるのを見られて夕食を作りに来て貰った。その時に食べたシチューと同じ味。
 ・・・・シチューの味なんて同じ様なものか・・・いや、具も一緒だ。
「千鶴さん・・・このシチュー・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 それが答えだった。
 千鶴さんの顔が青くなる。
「どうしたんですか?」
「・・・・・・・・やっぱりバレるのね」
 隠しきれないと思い、千鶴さんが話し始める。
「ええっと・・・確かに私は死んだわ、でも鬼(エルクゥ)は元々思念だけの存在で肉体の死でしかなかったの」
「??」
「とりあえず、私の魂は死んでなかったんです」
 よく解んないけど、千鶴さんは思念だけで生きてたのか。
「それから雨月山をふらふらしてたら眼鏡をかけた女の人が、足を滑らせたのか知らないけど倒れてたんです」
「幽霊で言うと、由美子さんの中に入った・・・の?」
「・・・吸い込まれるようにその女の人の中に入っていって、気が付いたら子供の姿で和尚さんに育てられてて」
「子供?」
「はい、気づいたときはびっくりしました。それから2週間経ち・・・・今の、私が死んだときの姿になっていたんです」
 ・・・・信じられない。
 なら肝心の由美子さんは何処に行ったんだ?
 漫画みたいに「由美子さんの姿で中身が千鶴さん」とかだったら解るのに。
「和尚さんもびっくりなされて、仕方なくお寺で原因を調べていたんですけど・・・・」
「俺に会いに来た・・・と」
「はい・・・・」
「でも、やっぱり由美子さんは」
「・・・・多分私の中に・・・・」
 信じられないけど信じるしかない、現に目の前に居るのは紛れもない千鶴さんなのだから。
「これからどうするんです?」
「・・・・・・・・・・・」
「実は生きていた・・・って鶴来屋に」
「それは駄目です、足立さんに迷惑が掛かります」
「えーと、じゃあ」
「耕一さんが会長に就けば良いんです」
「へ・・・・・・」
 ポンと手を叩き、千鶴さんはそう言った。
 俺は俺で、やはり大学は出て置いた方が良いと足立さんからも言われ鶴来屋の一切の仕事を足立さんに任せて普段通り大学に通っていた。
 それがいきなり・・・。
「私はずっと家にいれば良いんですし」
「・・・・ち、千鶴さん・・・・・・」
「そう言うことで、隆山に帰りましょう」
 何か凄く積極的なんですけど、千鶴さん。まるで由美子さんの様に・・・、やっぱり由美子さんと一緒なのかなぁ。
 うう・・・疲れそうだ。

 数日後。
 実家に帰った時まず始めに千鶴さんに見た梓が卒倒する。
 楓ちゃんは、何の反応も示さなかったけど多分内心は凄く驚いていると思う。
 初音ちゃんは初音ちゃんで、素直に信じて喜んでいた。
 ・・・。
 家事、炊事、掃除・・・・・完璧な千鶴さん。
 そして、ずっと家にいる。
 幸せなのかな・・・?俺。

 終わり


おまけ

 エルクゥは元々思念体だけの存在である(らしい)。
 そこで、肉体の死んでしまった千鶴は新しい肉体を得るために丁度近くにいた由美子を狩り、身体を奪った・・・・・。
「秀・さ・ん、うそを言・わ・な・い・で・く・だ・さ・ら・な・い・?」
 って話だったんだけど、流石になぁ〜♪
 と言うことで、耕一が由美子とピーして耕一の中にあった千鶴の思念が由美子の中に入り・・・新しい千鶴が由美子の中から生まれた、って話をー
「秀・さ・ん、耕一さんはそんなこと・し・ま・せ・ん(私以外とは)」
 ぶ。
 目出度し目出度しで、OKね。   


あとがき

 どこら辺が『らせん』なんだ!?
 っうか・・・・書き始めた頃と内容が全く別物になってしまった(汗)
 おまけに書いた設定ならば『らせん』なんだけどねぇ・・・。
 知らない人に説明。
 『らせん』では、子供を亡くした解剖医が『りんぐ』で死んだ高山の愛人と交わり(解剖医はビデオを見ている)愛人の中で貞子が生まれ(転生?)、2週間でかつての姿まで成長するって話。まぁ、ここから貞子を依代にする事により少しでもDNAが有れば死んだ人間を生き返らせれるって続く、解剖医は息子を生き返らせて『らせん』は終わる。
 まぁ、良いや・・・・でわ、また。 


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