健太郎受難の記録 −夢相−

written by 李俊

俺は得意の絶頂だった。
手にしたワイングラスから、外を透かして見てみる。
「ふっふっふ…まさか、骨董品屋からここまで育つとはな…」
ビルの最上階に位置する社長室。
そこから外の街を一望しながら、俺は一人、笑うのだった。
骨董品を転がし、高値で売りさばく。そんな商売を続けていたら、いつのまにかこんなところから街を眺めている。
自分の才能が恐ろしいくらいであった。
いまや『五月雨商事』は、総合商社のトップクラスに位置する大企業になっていたのだ。
「失礼します」
ノックして部屋に入ってきたのは、秘書のスフィー。
以前はただのちびじゃり娘であったが、今はナイスバデェで才色兼備の俺の片腕だ。
「ああ、スフィー。今日のスケジュールは?」
グラスのワインを飲み干すと、俺は机に座り、スフィーの言葉を待った。
スフィーは手にした書類を見ながら、今日のスケジュールを読み出す。
「はい。午前中は書類の承認、昼食は高倉財閥社長との会食…」
「うん、高倉財閥はいい取引先だからな…」
俺が頷いたのを見て、スフィーが続ける。
「午後からは買い付け品の視察、夜は長瀬氏との対談が予定されています」
「わかった。ところでスフィー…」
「なんでしょう?」
俺の言葉に、スフィーは少し、小首をかしげた。
…か、かわいい仕草じゃないか…。
「もう少し近くに来なさい。少し遠過ぎる」
「はぁ。…これくらいでよろしいですか?」
部屋の中央付近にいたスフィーは、机のすぐ側まで来た。
「もっと、近く。俺の横に」
「はい」
俺の手招きに、スフィーが俺の椅子の脇まで来た。
「スフィー…」
「なんでしょう?」
「ふふふ。いい身体をしているな」
俺はおもむろに、スフィーの腰に手を回す。
「しゃ、社長…いけません」
拒絶するスフィー。
しかし、俺はかまわず、触り続けた。
「ははは、よいではないか、よいではないか…」
「あ〜れ〜…ってそれはお代官遊びです! いけません!」
今度は強い調子で拒絶され、俺もさすがにその手の動きを止める。
…しかし、離しはしない。
「どうした? 俺とお前の仲じゃないか、今さら何を…」
俺の言葉に、スフィーは首を振った。
…何か、焦っているような感じだ。
「今日は奥様がいらしてます、だからダメです」
「奥様?」
「何言ってらっしゃるんですか、社長の奥様ですよ…」
スフィーが言ったその時。
「あなたたち、何をしてるの!」
入り口から聴き憶えのある声。
見ると、そこには結花の姿があった。
「お、奥様!」
驚きの声をあげるスフィー。
へ? 奥様って…結花が?
「最近、夜が寂しいと思ってたら…こんなことになってたなんて」
ツカツカと迫る結花に、スフィーは青ざめた顔で後ずさる。
「す、すいません奥様、私、私…」
そんなスフィーに対し、結花はニッコリと笑いかける。
「あ、いいのよスフィーちゃんは…悪いのはこいつなんだから」
そして、ゆら〜りとその顔を俺に向けると、その顔は般若の面と化した。
「あんた! 今日という今日は許さないからねっ!? 覚悟なさい!」
「ちょ、ちょちょちょちょっと待てぇ〜! いつ結花が俺の奥様になったんだぁ!!」
「何寝ぼけたこと言ってんの! 覚悟なさい!」
「わわわ、ちょ、ちょっと待ってくれ! ゆ、許してくれぇぇぇ!」
しかし、結花の動きは止まらない。
結花の振り上げた足が、俺のテンプルにクリーンヒット。
そして俺は…意識を失った。

☆☆☆

「っていう夢を見たんだよ…」
HONEYBEEで俺は結花特製のピラフを頬張りながら、結花とリアンに話して聞かせていた。
「あのねぇ、『許してくれぇぇぇ』って声、私の部屋まで聞こえたんだよ〜」
笑いながら、スフィーは目の前のホットケーキを食べ続ける。
いつもと変わらない量だ。…いや、増えているかも?
「なんで私があんたの奥様なのよ…」
とってもイヤそ〜な顔で答える結花。
今日は客が少ないんで、こうして結花とリアン、2人とも俺たちに付き合ってくれている。
「まあそう言うな。夢を見た俺自身、そういう気分だ」
「ま、所詮は夢だからね。殴るほどではないけどさぁ」
「そう言いつつ、握りコブシ作ってるのは誰ですかな?」
「ほほほ、気のせいですわ♪」
俺に指摘され、結花は笑いながら手を後ろに引っ込めた。
その時、ここまで言葉を発していなかったリアンが声を掛けて来る。
「あの…」
「ん? どうしたリアン?」
俺の声に、リアンは一瞬、戸惑いの表情を見せる。
…そういや、話の途中から表情が曇っていたような気もするが…。
「あの…今の夢の話ですけど、ムソウが良くないです」
「ムソウ?」
聞き慣れない言葉を聞いて、俺はリアンに聞き返した。
「えっと…グエンディーナでは、夢の相を占うのが習慣的なんです」
…ああ、夢の相で夢相か。
「占うっていうと、夢占いみたいなもんか? こんな夢はこういう精神状態で見る、とか…」
「案外、健太郎のその夢、願望の表れだったりしてねぇ。よく言うじゃない、夢は深層意識の表れだって」
結花のチャチャを入れる言葉に、俺は大きく首を振った。
「バカ言うない。嫁にするなら結花よりもリアンだ」
「何ですってぇぇ?」
「まあ待てや」
今にも殴りかかりそうな結花を制し、リアンに続きを言うよう促した。
リアンは、首を振って続きを話す。
「その…そういうのじゃなくてホントに占いなんです。そういう夢を見ると、こんなことが起きる、っていう…」
リアンの言葉を聞いて、スフィーが小首をかしげた。
「…そうなんだ?」
夢と違い、ちびじゃり状態でやられても萌えやしねぇ。
「お前もグエンディーナ出身だろうが…」
「そーいう地味なのより、ぱーっと派手な魔法を勉強してたから」
俺のツッコミに頭をカキカキ、スフィーが説明する。
まあ、スフィーらしいって言えばそうなのかもしれないが…。
「…それで、健太郎さんの夢相なんですけど…かなり不吉です。誰かに怪我をさせられる可能性があります」
誰かに怪我を?
俺はその言葉を聞いて、迷わず結花を見た。
「…ちょっと、その視線は何よ? 私が怪我させるとでも思ってるの?」
結花はジト〜っと俺を睨みつける。
その結花の声に、俺は大きく頷いた。
「おう、十分ありえる話だ」
「ムキィィ! そういうことを言うのはこの口かぁぁぁ!」
「ひたひひたひ、はなひてくへぇ〜(痛い痛い、離してくれぇ〜)」
ビローンと俺の口を引っ張る結花の手を叩いて、ギブアップをアピールする。
結花はしぶしぶ手を離して、俺の口は何とか開放された。
「あの…誰かというのは、結花さんじゃないと思うんです」
「結花じゃない?」
リアンの言葉に、まだ口を動かせない俺に代わってスフィーが代弁する。
「夢に出てきた人はキーワードみたいなもので、直接関係はないんです。今の話だけで判断すると、事故で夢に出た人以外の誰かに怪我をさせられます」
「事故…? 交通事故とかか?」
「そこまでは判らないですけど…故意に狙われる、ということはないです」
そりゃまいったな。
結花じゃないとなると、かなり面倒だ。
…相手が結花でも面倒だがな。
「…何か言いたそうね」
俺の視線に、結花が反応した。
「い、いや、別に何も」
しどろもどろに言葉を返す俺。
「…それじゃけんたろ、帰り道は気をつけてね」
スフィーが俺の顔を見て微笑む。
…こいつは、他人事だと思って…。
「そうだな…でも所詮は占いだろ?」
「違います」
笑って言った俺の言葉を、リアンがたやすく否定した。
「占いといっても、グエンディーナでは立派に学術として確立されている分野なんです。ほぼ、確実に起こるといっても過言じゃないです」
「あら、そうなの…」
まいったね。確実に起こるってか。
「どうしても避けられないの? その…魔法使っても、とか」
結花の言葉にも、リアンは首を振る。
見事に俺の希望を打ち砕いてくれるな、この娘は。
…リアンが悪いんじゃないがな。
「魔法を使ってもダメなんです。その事故が起こるのは必然で、出来るのは程度を軽くすることくらいで…」
さいですか…。
俺の落ち込む様を見て、スフィーが声を掛けてくる。
「ねぇねぇ、私がずっとけんたろーを見張ってて、事故りそうになったら怪我を軽くしてあげるよ」
「私も、出来る範囲でお手伝いしますから」
リアンも、俺の顔を心配そうに見てくれている。
「すまん…。ありがとう、2人とも」
ううっ、健気だなぁ、リアン。…ついでにスフィー。
その時、思わぬ相手からも声が掛けられた。
「私も、出来る範囲で…」
「結花も?」
驚いて結花の顔を見ると、その瞳をウィンクして結花は言葉を続けた。
「…出来る範囲で見ててあげるわ。あんたが怪我する様を」
…をい。
「…お前にちょっとでも期待した俺がバカだった…」
「や〜い、ばぁか」
「お前が言うな!」

☆☆☆

「さて、帰るとするかね…」
客も少し多くなって、結花もリアンも忙しくなってきた。
俺もスフィーも食う物食ったし、これ以上長居はできない。
…あんな話の後じゃ、あんまり帰りたくねぇけどな…。
「結花、勘定頼むわ」
「はいは〜い。いつも通り5000円よ」
俺の声に、結花がカウンターのところに来る。
「おう。…ああスフィー、外に出ててくれ」
「うん、わかった。…危なくないか、見ておくね」
「ああ、頼む」
俺に微笑むと、スフィーが外へ向かう。
…こういうとこ、結構気が利くよな、スフィーは。
「あ、健太郎さん…」
スフィーが外に出ていくのと同時に、店の奥からリアンが現れた。
他の客がオーダーしたものか、手に持ったトレイにパフェとコーヒーが乗っている。
「健太郎さん気をつけ…あっ」
俺のことを気にしてか、小走りに駆け寄ってきたリアンは、何かにつまずいた。
手にしたトレイを放り投げる形で、その場に倒れ込む。
トレイとそれに乗っていた物は、まるでスローモーションのように、その先にいる俺に向かって飛んできた。
…それがリアンの言っていた事故だと俺が気付いた時には、すでに遅かった。

ゴイン!(パフェの容器)
バシャ!(コーヒー)
コキン!(コーヒーカップ)
ベチャ!(パフェの中身)
カコーン!(トレイ、その角)

見事な5つの音が響き渡った。
それと同時に、俺の身体が倒れ込む。
「け、健太郎さぁ〜ん!」
リアンの声が、空しく響く…。

そして俺は、リアンの言った通りに、この事故で3段重ねのタンコブ(&ヤケド&生クリームまみれ)という怪我を負ったのだった。


「きゃははは! けんたろ、おっかしいの〜! アイスクリームみたい〜」
「あ〜うるせぇうるせぇ!」


健太郎受難の記録が、また1ページ…。

<END>


あとがき

どもっす。
今回はまじ☆アンの話をお届けです。
別にこのゲームの設定を使わずともいい話でしたが、異世界グエンディーナの名前出すだけで説得力が出るので。(ォィ
練り込みが足りない部分もありますが、かる〜いスナック感覚の話だと思ってくださいませ。

んで。まじアンの話。
個人的にはリアン萌えですが、健太郎に似合うという点では結花イチオシです。
ああいう飽きない関係がいいんですよねぇ〜。
スフィー…はずっとちびじゃり状態でいいよ(笑)
現時点では上の3人までしか見てません。
…シナリオ進めるより経営に夢中になってしまって…いや、まいったまいった。

それでは、続編をお待ちくださいませ(って続くんかい)

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