悲恋

written by 李俊

俺の名は「矢島」。
高校2年生だ。
自慢するようでなんだが、俺は1年の頃からバスケ部のエースとして活躍している。
顔もそこそこいいと思ってるし、勉強だってまあまあできる。
難点といえば、多少、女の子に免疫がないことぐらいだな。

俺には、好きな人がいる。
その人の名は、「神岸 あかり」。
入学式で同じクラスになった時から、好きだった。
…パッと見はそれほど目立たないけど、でも優しいいい子だと思った。
微笑んだ顔がとても可愛くて、好きだった。
言葉を交わすことは少なかったけど、でも、彼女と一緒のクラスにいると思うだけで、俺は幸せな気分になれた。

そんな彼女が、髪型を変えた。
前の、言ってしまえば地味なおさげの髪型から、リボンを結んだ目立つ髪型に。
以前の髪型も良かったが、今の髪型も彼女によく似合っている。
それは俺としても、うれしかった。好きな人がより可愛くなるのだから。
ただ問題なのは、彼女が目立つことによってライバルが増えることだ。
事実、部の男どもや、クラスの男どもは、彼女最近いいよな、とか、あんな子が彼女に欲しい、などと言う様になってきた。
冗談じゃない。俺は、会った時から彼女を見ていたんだ。
今さら気付いた奴らに、彼女の本当の魅力がわかるものか。

…2年生になり、俺は彼女とまた同じクラスになった。
相変わらず会話はほとんどない。
けれど、彼女をまた見つめていられる。それで良かった。
…その日までは。

ある日のことだ。
部活が終わり、部室で着替えを終えた時。
新入部員の奴らの話が聞こえてきた。
女子の先輩で、誰がいい感じか、といった他愛も無い話だ。
しかしその場を去ろうとしたその時、神岸先輩なんかいいと思うけどなあ、という声が聞こえた。
…なんてこった。
入ったばかりの1年にまで、彼女のことが知られているとは。
…俺は危機感を持った。
このままでは、いつか彼女を誰かに取られてしまう。
取られるくらいなら、俺が先に告白してやる。…そう決心した。

まず、俺は作戦を検討した。
普通に告白したのでは、他の奴らと同じだ。
もっと、有利に進められる方法を取らなくてはいけない。そう思った。

まず最初に考えたのは…「暴漢撃退スペシャル大作戦」だ。
つまり、彼女が暴漢に襲われているところに颯爽と現れ、暴漢を撃退する。
さすれば、彼女は俺に感謝し、好意を持ってくれる。
ついには2人はラブラブな関係に…。
ウヒヒ。(←ラブラブモード想像中)

…しかし、この一見完璧に見える作戦にも、実は達成困難な要因が隠されていた。
まず第一に、暴漢はいつ現れるかわからない。
第二に、俺にはケンカの経験がない。
負けてしまえば、感謝も何もあったものではない。
そして彼女は暴漢に連れ去られ、哀れ彼女は奴隷として売り払われる…。
イカン! それではイカーン!
…あ、しかし奴隷として売られているところを俺が買い、俺の奴隷に…というのも萌えるな。
あーんなことや、こーんなことを彼女に…。挙句の果てはそーんなことまで…。
おおっ、そんなことまでしてくれるとはっ…はぁはぁ…。(←イケナイ妄想中)
(タラ…)…わわっ、鼻血がっ!
…お、俺は何を考えてるんだっ!
まずは彼女のことを考えてあげないと!
…暴漢を誰かに頼む、という方法も考えられたが、そんなことをして彼女に好感を持たれても仕方がない…そう考え直した。

次に考えたのが…「クラスの噂ウルトラ大作戦」だ。
クラスにわざと、俺が神岸さんを好きだという噂を流す。
そうすれば、神岸さんとて俺を意識するはず。
そして頃合を見計らって、告白。
心の準備が出来ていた彼女は、すんなりとOKする…。なかなかの作戦だ。
…しかし、問題がある。
噂が流れた時点で、神岸さんが意識して俺を避けるようになる可能性が、あるのではないか?
そうすると、彼女との距離が離れることとなり、逆効果だ。
これも良くないかもしれない。ダメだ。

他にも「運命の激突デラックス大作戦」や「ストーカーデリシャス大作戦」、さらには「お掃除手伝いルリルララ大作戦」、ついには「魔法の媚薬ミラクル大作戦」なども考えられたが、イマイチ決めてにかけるか、一歩間違うとヤバイものばかりだった。
…これではダメだ。
こんなことでは、彼女はいずれ誰かに取られてしまう。
しかし、どうすれば…。

少し考えて、俺はふと思った。
…もしや、作戦の考え方が間違っているのでは?
根本的なところから、考え直してみたら、どうだろうか。
…俺は、今までの考え方をあきらめ、科学的、かつ論理的に考えてみた。

そうだ。こういう時は、昔の人の言葉を参考にしてみよう。
すぐに俺は、「よいこのことわざ辞典」を開いた。
ぱらぱらと、ページをめくっていく。

「あ」…「あぶはちとらず」。江戸時代、ハチさんはアブに刺されるのが恐くて、取ることができなかった。
「い」…「いぬもあるけばぼうにあたる」。イヌモさんが歩くと、ボウニア樽である。
「う」…「うまのみみにねんぶつ」。馬を怒らせると、その耳で2年はぶたれ続ける。
「え」…「えいゆういろをこのむ」。英雄は名古屋名物ウイロウが大好きである。
「お」…「おれにかれーをくわせろ」。日本印度化計画のこと。

しばらく見ていった俺は、「し」の欄で、いい言葉を見つけた。
「将を射んと欲せば、まず馬を射よ」という言葉だ。
…つまりは、神岸さんを落としたくば、その周りの人間から攻めていくべし、という意味だ。
なんといい言葉なんだろう。昔の人よ、ありがとう!
(いえ、どういたしまして)
…何か聞こえたような気がするが、気にせず行こう。

彼女の周りにいる人間といえば、隣のクラスの長岡志保、彼女の幼なじみで同級の藤田浩之、同じく佐藤雅史、といったところか。
口添えを頼んで、何とか神岸さんに近づければ…というところだな。

さて、とりあえず長岡志保だが…、これはダメだ。
歩く噂話拡散波動砲の異名を持つ彼女のことだ。
ちょっと話せば、何万倍もの噂が校内にばらまかれることだろう。
噂を広めたければ、逆に利用できる奴なのだが…。今回は不向きだ。

次に藤田だが…。あいつは、こういうことには非協力的な感じがする。無愛想だからな。
それよりは、佐藤の方が頼みやすいだろう。
佐藤、あいつはいい。
人がいいし、几帳面だ。頼まれたことは必ずやってくれるし。
よし、佐藤に頼もう。

…俺は、次の日、佐藤に口添えを頼んでみた。
しかし、結果は「NO」。
なんでも「浩之に悪いから」だそうだ。
藤田が、神岸さんを好きだからなのか? うーむ…。
しょうがない、藤田の奴に頼んでみることにしよう。
本当に彼女を好きなら断るだろうし、別に構わないなら受けるだろう。

早速、次の日に藤田に頼んでみる。
しぶしぶではあったが、受けてくれた。
「俺たちは付き合ってる」なんて衝撃的な言葉も予想してはいたのだが、そんなことはなかった。
よし、これでアポ取りはOK。
神岸さんも藤田の言葉なら聞くだろうし、これで後は俺の力量次第だ。

そして休み時間。
俺は、藤田に教えた場所に、先に来ていた。
少しすれば、藤田が神岸さんを連れてここに来る。
そこからが勝負だ。
神岸さんも押しの一手で攻めまくれば、必ずや落ちるはず。…いや、そうに違いない。

…来た。
2人で話をしている。内容は聞こえないが。
神岸さんの表情は、こちらからは陰になって見えない。
藤田、大丈夫なんだろうなぁ…。
…藤田が、走るようにして俺の方に向かってくる。
…あとはお前次第だと、そう言い残し藤田は走り去った。
藤田…俺の告白の邪魔をしないよう、いなくなってくれたんだな。
俺はあいつのことを誤解していたようだ。
藤田、これからはいい友人になれそうだぜ…。
おおっと、それより今は神岸さんだ。
…よし、男矢島、見事に花を咲かせてみせる!

…しかし。
運命の神は、俺をあざ笑った。
私、好きな人がいますから…そう神岸さんは言ったのだ。
ガ、ガガーン!
お、俺の、完璧な、計画が…。
誰を好きなの…俺は、そんなことしか聞けなかった。
神岸さんは少しうつむいて、矢島くんも知ってる、とだけ言った。
…ぐゎいーんっ!
藤田…、き、貴様…。
前言撤回…。奴とは、一生友人にはなれそうもない…。
ごめんね、矢島くん…と、彼女はそう言って小走りに去っていった。

…ヒュ〜ルリ〜。ヒュ〜ルリ〜ララ〜。
ついてぇおいでとぉ泣いてますぅ〜。

…俺は、不幸のズンドコに叩き落とされた。


−THE END−


あとがき

どうでしたでしょうか、矢島くんの視点からのお話は?
今回、会話シーンを極力カットし、矢島くんの心の描写をメインにしました。
…って、それでギャグやってりゃ世話ねーやん。(笑)

実はこのあと、浩之とあかりがくっつくまでの話を作っていたのですが…。
く、暗い。暗すぎるぞ矢島!
ってことで、後半はお蔵入りです。(^^;
読む方としても、ねちねちとした失恋男の心理描写など読みたくもないでしょう。
ライトなお話を、が李俊のポリシーです。(笑)

ご感想、ご要望等がございましたら、数行程度でもかまいませんので、ガンガン送り込んでください♪(笑)

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