必殺早喰人
written by かとぱん
今日は楓ちゃんと一緒に、夕凪大学の学園祭に来ている。
でも…。
(耕一さん…私、あれに出場して良いですか?)
(ええ? 楓ちゃんが?!)
(ダメで、しょうか…)
(うっ、い、いや、ダメじゃないけど…)
……大丈夫だろうか…。
『さあ、やってまいりました、本日のメインエベント!! 夕凪大学お料理研究会主催!! 夕凪大学杯、第5回女子早食い大会予選会を行いま〜す!!』
ををををををををっ〜!!!!!!
…とてもすごい盛り上がりだ。大学生は、とりあえずイベントさえあれば盛り上がれる特殊な人種なのだな、と改めて思い返させる。
『で、は! とりあえず優勝商品から!!』
ををををををををっ〜!!!!!!
…わざわざそんなことでも盛り上がれるのは、さすが大学生だな。
『優勝者には、賞金3万円と、温泉といったならまずここ、S県の隆山温泉の老舗、鶴来屋2泊3日をペアでご招待!!』
ををををををををっ〜!!!!!!
…意味ないじゃないか、楓ちゃん…。ま、でも3万円は欲しいかな?
『二着には1万円、3着以下には商品はありませんので、思いっ切り食べちゃって下さい!! …では、これに果敢にチャレンジしてくれる女性達を紹介いたしましょう!!』
順々に名前が呼ばれていく。
うーーむ……楓ちゃんは予選一組だな。楓ちゃんが会場に上がっていく。
『では、予選はこちらあ! ……カレーライス2杯早食い!!』
げっ! いきなりハードだ…。楓ちゃん、大丈夫か??
「……」
『用意はいいですか?! ……位置について、よーい…』
――ごくっ。
『すたーとぉ!!』
みんな同時にスタートした。おお、すごいスピードだ。で、肝心の楓ちゃんは…?
……なんだ? 手を挙げているぞ? もうギブアップなんだろうか?
『うっをあああああああああ!!! ほんとかよ!? 柏木 楓さん、もう食べ終わってます!! 予選一組終了!!』
…………………。
――はっ…。目と耳の調子が悪いんだ、そうに違いない、そうだといってくれ…。そ、そうだ、眼科と耳鼻科のお医者さんに相談しよう、そうしよう…。
「……やりました、耕一さん…」
「うわっ! な、か、楓ちゃん、とてつもなく早かったね…?」
「そうでしょうか…? 軽く流したつもりなんですが…」
俺は知らず知らず涙を流した。
そして確信した。優勝は、なにがなんでも楓ちゃんだろうと。
『さあ、予選二組、先ほどの柏木 楓さんの記録はすごかったですからねえ。ですが、あんなに早く食べ終わることはこちらとしても予想外でしたし、これからは無いと思いますんで、張り切って下さい!!』
まあ、見てもしょうがないけど、とりあえず次の本戦まで、待ってなくちゃいけないからな。
『では、位置についてぇ、よーい……すたーとぉ!!』
――ばっ!
同時にスタートを切った。おお、またまたすごいスピードだ。
――ぱっ。
…? ま、まさか………。そんな………。ありえない…………。
『うおおおおおおおお、ふざけんな、って叫びたい!! 新城 沙織さん、すでにクリア!! 予選2組終了!!』
……な、なにい!?
「やったよ! 祐君!!」
満面の笑みと会場にいる祐君であろう男にVサインを送っている。
俺は思わず楓ちゃんを見た。
――ぞくぅっ。
…楓ちゃんは相変わらずの無表情だが、俺にはわかる。背中に激しい闘志の炎がまき上がっているのが…。それに、この目だ…まるで獲物を狙う獣のようだ…。
「……耕一さん、今、私そんな目をしてました…?」
…たらあっ…と額に汗が伝う。
がってむ! 楓ちゃんは俺の心が読めるんだった!!
「……どうせなら、エモノを狙う鬼の目、ですよね……」
……そんなことを気にしていたのか?? 根本的に違うような気もする…。
『……我を失う大記録が続いていますが、二度あることは三度ある、といいます…、けど、今回の顔を見る限り、そんなことはない、とおもうんですが…予選三組、用意はいいですか?』
「楓ちゃん……」
「……」
う、目が真剣だ…。
ちら、とさっきのカップルの方を見てみると…?
「しっつれいな言い方ぁ〜、ね、祐君?」
「……でも、ダントツに早かったよ?」
「みんなが遅いだけよ!!」
「そうかなあ…」
うんうん! そういう風に答えるのが一番無難だぞ祐君!!
…そして、また。俺は、頬に伝う雫を止めることは出来なかった…。
『では!! よーい…連打開始ッス〜』
――。
一瞬、しいいいいいいん……と、あまり味わいたくない張りつめた空気があたりを包んだ。
な、なんだ? あの言い方は…? クレヨ○しんちゃんに近い声だが…?
『すみません、超がつくくらい極一部の方だけ解るネタを言ってしまいました!! では、改めて、位置について、よーい……、すたあとお!!』
――ばっっ!!
う、さっきの変なアナウンスのせいでスタートが悪いぞ。
だけど、みんな早いなあ、女性は見た目をかなぐり捨てるとこうまで早いのか?
――ぱっ。
……なに? なにが起きたか耕ちゃんわからなあい……
『ううっ、もう泣けちゃいます! 圧倒的な強さ! 雛山 理緒さん、空っぽだあ!! 予選3組、終了!!』
「やったよ!! 藤田君!! 良太!!」
「やったあ! さすがねーちゃんだぁ!」
「すごいぞ理緒ちゃん!(3万かけてるからな…)」
…どういう髪の手入れしているか聞きたいなあ。
――ぴぃん。
はっ!? 楓ちゃん、ものすごい殺気だ……。
「ふふふふふっ…」
そんな風に思っているのを感づいているのかいないのか、小声でくすくす笑う彼女。
ああ…、楓ちゃん。やっぱり、千鶴さんと姉妹なんだなあ…。
なんだか変に納得し。
やはり涙を流してしまう俺だった。
『………、私がなにをしたというのでしょうか? でも、とりあえず、最後の4つ目の席を決めなければ行けません…、それでは、準備はいいですか…?』
アナウンスも涙声だ。他人事かもしれないが…気持ちはよく判るぞ。
『ではぁ、位置について、よーい……、すったあとお!!』
――ばっ!!
今度はスムーズだが…。
――ぱっ。
………………………もう驚くのも疲れた。
「ふふふふふふふ…なんだか決勝戦、わくわくしますね、耕一さん」
……楓ちゃん怖い……。
『………………あれ? あなた、お名前は……?』
「みさきだよ」
『…………………、美咲、ではありませんよね?』
「? みさきだけど?」
『退場!!』
「ええぇ〜、どうしてぇ?」
「そうだぁ! みさき先輩に食わせろぉ!!(食費が浮くから!!)」
「ほら、浩平君だってああ言ってくれているのに…」
『それは、ここが…、夕凪大学だからです!!』
……そう、夕凪大学とは、森川 由綺を輩出したことでも知られる大学だ。葉っぱ系列、と俗に言われている。
となると、ここは当然、由綺、理奈、美咲、はるか、マナ、弥生、イヅミ、ノブコの誰かが選出されてしかるべきなのだ。だが、残念ながら彼女は『みさき』であって『美咲』でない。
「……耕一さん、誰に向かって説明しているんですか?」
「みんなにだよ、みんな」
「……?」
軽く首を傾げる楓ちゃん。うっ、なんだか可愛いぞ。
「なんでここだとだめなの?」
『それは…』
――すっ。
『おおっと、ここで審判長、手を挙げたぁ! お白砂の裁きが申し渡されます!!』
『この背中のさくらを見忘れたとは、言わせねえぜ?』
なんだそれは? 某山の金さんか?
『審判長!! 背中のさくらとケロちゃんが素敵です!!』
……をひ。
『……裁きを申し渡す。司会の橋本、打ち首、獄門…余の者終生遠島を申しつける…ひったてえい!!』
「はっ!!」
『お、俺がなにをしたって言うんだあ!? し、審判長〜』
……一悶着あったようだが、結局みさき、という子はそのまま出場することになった。
彼は思えば不幸だ。ことリーフ二次小説で、橋本、矢島という名字を持った瞬間、真っ先に消される運命を背負ってしまう。むごい…。
そして、最後に食べ終わったみさきちゃんのために、10分のインターバルを措こうとしたようだけど…
「まだぜんぜんたりないよ〜」
と泣きそうになりながら審判長に懇願したため、すぐ決勝と相成った。
はっきり言って彼女が一番怖いが、他のメンバーも強すぎる。どちらにしても、楓ちゃん圧勝、ってことは無いな。
『では、決勝を行います。司会は急遽、私、藤井が担当いたします。あまりこういうのは経験無いですが、わがまま、影が薄い、史上最低、語りすぎ等々、言われたい放題なのを解消すべく…』
「うるせーぞ!!」
「早くはじめろぉ!!」
『……』
あ、泣きそうだ…。
「冬弥く〜ん!! がんばってぇ!!」
「冬弥君! 彼女も応援してるわよ! ここでがんばんなきゃ!」
うおっ!? あれは、森川 由綺と…眼鏡と帽子でわかりにくいが、声だと、緒方 理奈?!
あの野郎…、アイドルと仲が良い上、彼女が由綺ちゃんとは…許すまじ…。
――じいっ
…、はっ! か、楓ちゃん! 僕は君一筋さあ!!
――ぷいっ
ああ、楓ちゃあん……、でも、拗ねた顔も可愛い…。
――ぽっ
そこまで読んでいるのかあ!?
『…では、決勝戦を行います!』
あ、元気になった。まあ、当然か? それにしても現金なヤツ…。
『決勝戦の種目はこちらあ!! ……食い尽くせ! ウェディングケーキ一気食い!!』
――ををををををををっ!!
『煌びやかなデコレートに、豪華7段重ね! これでもか、という大量の生クリーム使用! そんじょそこらの結婚式場ではお目にかかれない、お料理研究会の自信作です!!』
う゛っ…こ、これは…、全長が余裕で1m超えてるぞ…大丈夫なのか、楓ちゃん!?
そう思い、楓ちゃんの様子を見ると…。
――ぽっ
なんで顔が赤いんだ??
「すっごーい! こんなにケーキが食べられて、しかもお金がもらえるなんてさいこーっ!」
「結婚式場のバイトでは食べるどころか近くにも寄れなかったけど…、今回は胸を張って食べられるのね………うれしい……あっ…涙が出ちゃった…」
「すみませえん」
『はい、なんですか?』
「見えないから、知り合いの人に切って貰ってから食べていい?」
『え?』
「わたし、目が見えないの。カレーは匂いで解ったけど…」
『えええ〜!?』
それでいてあのスピードなのか!? まともに闘えば、楓ちゃん勝ち目無いぞ…!
「ふふふ…」
楓ちゃん…なぜ、そんなに……。
あ、また泣けてきた…。
……。
あ、どうやら、さっき言ってた浩平君が壇上に上がっていく。
「浩平君、どんどん切っちゃって。カットは、…そうだなあ、うーんとね、30cm位ずつ上から切って、最後の土台を半分に切って、横にならべてね」
「わかった」
…う〜む、30cmって、非常識もいいところだが、彼女が言うと、なぜここまでしっくりくるんだろう…。
切り終わって、きいん、と皿の音をならす。
「先輩、実際、皿はないけど、ここがスタート、ケーキのはじっこだぞ」
「うん、わかったよ、浩平君」
『さあ、準備はいいですか!? では…』
「……」
「…よーし…がんばるっ!」
「…3万円…」
「おなかすいたあ…」
『位置についてえ、よーい……、スタート!!』
ばっ!
……見てはいけないものを見てしまったような気がする…。
楓ちゃんは、さっきから口以外一向に動いていないように見えるけど、ケーキだけがカスを残して消えていく…。
それとまったく正反対なのは隣の沙織ちゃんだ。豪快にナイフやフォークを使ってケーキを片っ端から口の大きさ限界のサイズに切って口に運んでいく。
その隣の理緒ちゃんは、上から順に梯子まで持ち出して食べている。
「あ、あら、あらららららあ〜」
――ずっでえーん!
あ、梯子が倒れた…。ケーキを顔面から…、ケーキが倒れなかっただけまだマシだけどもう……え!?
「もぐもぐ…しゃんみゃんへん…」
すげえ…あれでも食べてるぞ…。しかも早い…。
その隣のみさきちゃんは…?
「おいしーっ! でも、ケーキは太っちゃうからちゃんと運動しないとねっ」
……そのレベルなんですか、それ…?
あんなに喋っていて、しかも目が見えないのに、なんであそこまで早いんだろう…?
『1分が経過しました! しかし早い! もはや次元を超えたスピード! 全員、半分近くクリアしています!』
――うをををををををを〜〜!!!!!!!!!!
会場はすごい盛り上がりだ。
はっきりいって冷めていた司会者の藤井とかいうヤツも、ものすごくテンションが上がってきた。
「沙織ちゃん、がんばれえ!!」
「ねえちゃ〜ん!!」
「理緒ちゃん、みんな同じだ、これからが勝負だぞ!!」
「先輩! 優勝だあ!!」
「みんながんばってえ!!」
「す、すごいわ…、尽きることのない情熱はどこから来るの? どこかに眠っているのかな?」
「さくらが江戸を斬る!」
「橋本先輩〜!!」
い、いかん…負けるかあ!
俺だって大学生だ! このノリには付いていく義務がある!!
「楓ちゃん!! 負けるなあ!!」
(ありがとうございます。耕一さん、私、がんばります…)
な、なんだ? 心に直接響いてきた…? そんなこともできるのか? まるで電波…
(あっと、それ以上はストップして下さい。それを知っていることになったら、僕たちと知り合っていることになっちゃって、最初から書き直さなきゃならないですから)
沙織ちゃんの彼氏が、いきなり『なにか』で話しかけてきた。
あ、そうか…そういうことだよな…。『大人の事情』ってヤツか…。
沙織ちゃんが、彼氏の方を見ながらにこにこしているのも、ああやって応援しているんだな…、ぐらいにとどめておこう。
(………………………………………)
(祐君と二泊三日の旅行のために…)
(3万円のために……………………)
(なんだかわからないけど…………)
((((私、負けない!!!))))
四者四様、様々な思惑を胸に、眼前に広がる難関を突破していく。
すごい…。『オンナの戦い』が、こういう早食いでも発動されるとは…。
『ああっ!? 雛山 理緒選手の動きが止まったあ!!』
なにい!?
確かに止まっている…。どうしたんだ? 腹に入らなくなってしまったのか?
――ぴくぴく……
「おい!! 窒息してるんじゃないのかあ!?」
俺は思わず叫んだ。
まさかとは思うが、彼女は梯子から落ちてから顔をケーキに密着し続けて食べている。
危険と感知した係の人がとりあえずゆっくり引き下ろす。
すると…。
口いっぱいにスポンジケーキを入れ、鼻の穴に生クリームを吸い込んでしまい、チアノーゼを起こした彼女が…、いかん…これ以上の中継は彼女の人権が守れない……。
「理緒ちゃん!!」
「ねーちゃん!!」
さっきまで応援していた二人が会場に上がっていく。
(まず一人脱落ですね…、ふふっ…)
…楓ちゃん…、なぜ君はそこまで…。
『さあ、とんだハプニングがありましたが、決勝は続いています! 現在トップは、ええと、川…』
――すっ。
またあのさくら審判長が手を挙げた。
『は? なんですか審判長? さすがにフルネームは言ってはいけない? ここはあくまで葉っぱ系列だから?』
そうなんだよ藤井君! それは永遠に逆らえない! 境界線、というやつなんだ!!
『では…、4コースが僅差で一位のように見えます! 続いて…1コース! 2コースがちょっとペースが落ちてきました!!』
「ぐぐ…もう限界…」
「沙織ちゃん…」
「ああ…、やっぱりリーフファイトの季節が来るまで祐君とは一緒にいられないのね…」
――ばたっ。
『ああっと!! 新城沙織さん、ダウ〜〜〜ン!! もう立てそうにありません!!』
「沙織ちゃん!」
祐君が壇上に上って、沙織ちゃんをおぶって退場していった。
……かなり重そうに見えるが……。
――? ぎっと沙織ちゃんに睨まれたのは、気のせいか…?
それとも、こと恋愛にはものすごくはたらく「女の感」とはここまですごいのか…。
男には永遠のテーマだな…(??)
(これで二人目、っと…ふふっ…耕一さん…いま、左はじと私はどれくらい離れていますか?)
(え? えーと…、ああっ!)
『さあ、4コース、最後のケーキに取りかかりました!!』
(仕方ないわ…えいっ!)
いきなり懐から小さなカプセル(?)を取り出したかと思うとぴぃん、と指ではじく。
そのカプセルは、ぷすっ、とケーキに刺さった。
それが、もうすでに消えてしまった。彼女はすごい勢いで食べまくっている。とどまることを知らない。
「うっ…」
『??』
「うぅぅ…」
『ど、どうしたのか? いきなり4コース、ペースダウン!!』
「くっ…くす…くすくすくす…」
『??』
どうしたんだ? さっきのあれか? 楓ちゃん、何を仕込んだんだ?
(香奈子製薬の試薬品、麗しき電波の世界へ一瞬のうちにいざなう『ぱらっぱでんぱー』です)
なんじゃそりゃあああ!? 危なすぎるぞ!! どこから仕入れたんだあ!?
……でも、そういえば外見も何となく……あ、『大人の事情』だったな。
「くすくすくすくすくす…」
――はっ、いかん!
「せっく――」
『わああああああああああああああああああああああああああああっ!! た、退場してくださあい!!』
どこからともなく現れた黒子群が、一瞬のうちに彼女を連れ去っていく。
ナイスだぞ、藤井君! 危うく18禁の世界に踏み込むところだった…。
俺は心の中でぐっ、と親指を突き出していた。
……言っておくが、親指は挟んでないからな。
『も、申し訳ございません…、大変、お見苦しいことをお聞かせいたしました…』
(ふふふ、耕一さん、やりました!!)
ああ、楓ちゃん…、君は、とてつもなく、怖いよ…、もう、俺は、君には、絶対! 逆らえない…。
俺は、滝のような涙を止める努力もせずに、ただ、呆然と立ちつくした。
「楓ちゃん、どうして、あんなにがんばったんだい?」
賞金3万円と、いらないとおもう鶴来屋宿泊券を受け取った楓ちゃんに、俺は最初からずっと思っていた質問をぶつけてみた。
「……」
何も答えず、3万円の入った袋を持って、理緒ちゃんのところへ歩いていく。
「……はい」
どうにか息を吹き返した理緒ちゃんに、3万円の袋を差し出す。
「? なに?」
「私、これが欲しかった訳じゃないから、あげる…」
なにい?!
当人である理緒ちゃんもびっくりした顔をしたが、すぐ軽くかぶりを振った。
「………いい、いらない」
楓ちゃんも、ふるふる、と首を横に振った。
「……あなたじゃなくて、あなたのお母さんのためにあげる……」
「!」
「すみません…、こういう言い方しかできないので……」
「どうして…知っているの?」
楓ちゃんの表情がぎく、と曇った。(曇ったことが解るのは俺ぐらいしかいないだろうけど)
――まずいな。これで下手なことを言うと書き直しだぞ……(だれが?)。
「…ウラの情報で…」
まあ、無難な言い方だな。たぶんセーフだろう(ほんとか!?)。
「……(なにそれ…?)」
「とにかく…、有って困るものじゃないから…、はい…」
「あ、ありがとう…、じゃあ、もらっておくね…」
にっこり、と薄い笑み(楓ちゃんにとって、あれが微笑みの限界だということを俺は知っている)を漏らすとゆっくりと振り向き、沙織ちゃんの方に向かった。
「うーん……」
「沙織ちゃん……」
とりあえず横に寝かせて、右向きにさせている。
薬も飲めないほど腹が膨れているので、それくらいしかできないようだ。
「あの……」
「はい?」
「このチケット…あげます…」
祐君は当然びっくり顔になる。
「鶴来屋、ってわたしの自宅なので、あまり意味がないんです…」
「え〜〜っ☆ ホントにいいのぉ!?」
がばっと立ち上がる沙織ちゃんにびっくりしたご両人。傍目はいつもの楓ちゃんだけど。
「え、ええ。どうぞ…」
「やったあ! これで、祐君と二泊三日!!」
「え…?」
彼氏の方が赤くなっている…。このやろ…。
「ふっふ〜ん♪」
それに比べて、全身で歓びをあらわす彼女。…あれ?
――びりっ…びりびりびりびりびりっ…ぷちっ!
…あ…スカートが……。
「え? ええ?」
「あ…」
「きゃああああああ!! いやああああああああああああ!!! 見ないでええええ!!!」
「あ! 沙織ちゃん!」
ものすごい勢いでそこから離れる沙織ちゃんを、追っかける祐君。
うーん……青春だなあ(?)。
――一方そのころ、みさきちゃんと浩平君は……?
……くすくすくす……………××××、××××頂戴! 私の△△△△に入れてほしいの!! 浩平君!! ◇◇◇しよ!!
……わ〜〜〜っ! みさき先輩! 正気に戻ってくれええええええ!!
(作者注:みさきが書き込み禁止用語を言いまくっているので、文章を隠させていただきました。何卒ご了承下さいm(・・)m)
「改めて聞くけど、どうして楓ちゃんはこれに出たの? お金でも鶴来屋でもなければ、一体、なに?」
「……おなかが、すいたから……」
「え?」
これに出る前に、学園祭定番の、焼きそば、たこ焼き、うどん、そば、おでん、おしるこ、カレーライス、団子にかき氷……、かなり飲み喰いしながら回っていたはずでは…?? 俺は最初の焼きそばとたこ焼きでもう腹一杯だったが、楓ちゃんは相変わらずの無表情で食べ続けていた。しかし、まさか…。
「ふ、ふ〜ん…、あ、それならどうしてあんな危ない薬品を使ってまで優勝しようとしたの?」
「……『作戦』から『葉っぱ』へ、禁断の領域に踏み込んだ罪……」
「え?」
「……なんでもありません」
(でも、あんなにくすくす笑っていたにしても、明らかに勝負にこだわっていたんじゃないかなあ…?)
「……耕一さん」
「え?」
「深く詮索するのは…良くないことだと思います」
(心を読んでいるのは詮索っていわないのか?)
「……耕一さん」
「え?」
「……次に行きましょう」
「ええ??」
「……さっき、駅前に、ラーメン5人前食べたらタダ、ってところがあったんです…」
「………」
「……耕一さん、はい、ハンカチ……」
BGM:終わりそして始まり
(完)
――――あとがき――――
かとぱんです!!
これ、ひょっとしてヤバイんじゃ……??
特に楓ちゃん使用のぱらっぱでんぱーに侵されたみさき先輩……。
これいいんですか!? 李俊さん!!
でも、これ載っけていただけたら、OKってことだよな…。
どうなんだろう? 実は作者が一番ドキドキ(笑)。
文章的にイマイチでお約束が多いですが、今の俺の全力を持って書きました!!
一ヶ所でも笑っていただければ幸せ!!
出来れば感想(当然苦言近い意見もOK!)お願いします!
さすれば、俺も少しレベルが上がるかもしれないので…(^▽^;)
李俊コメント:面白けりゃOKです。(^o^;
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